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貧乏王子の派遣4
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「ペルルノア、うちの騎士団から誰か連れて行くか?」
ファイウスの提案にペルルノアはきっぱり言った。
「それはだめだ。領地を護るための騎士団なのに、俺につき合わせるわけにはいかない。でもありがとう」
「本当のところ、ペルルノアはどう思ってるんだ? トウレイ国に行くことについて」
「悪くないと思ってる。領地も親族もない俺にはぴったりの役回りだろ?」
「唯一のアルファの王子なのに?」
「だからだよ。俺がいると皇太子争いの種になる。平和的に収めるためには俺を国外に出すのが一番いい方法だろ」
しかし継承権を持つペルルノアを領土争いする国には出せない。となると利害関係が薄い遠方の国になるが、そんな国へ行かせる理由もメリットも見当たらない。
トウレイ国はその条件をある意味、飛び越えてしまう国ではあった。
「それにしても幻の国だぞ」
「でも実在はしてる。セルリアが早馬を出してハベナリアで情報を集めさせてる」
ハベナリアの領主一族のセルリアは、貴族男子の習慣に従って王都の学院に入るために十歳で王宮にやってきてペルルノアの従者になったのだ。
「彼はハベナリア出身だったか。しかし陛下はどうしてトウレイ国なんかに興味を持ったんだ? ようやく周辺国との領土争いが落ち着きかけたところなのに」
ファイウスはため息をつきながらグラスを傾け、ペルルノアに持っていた瓶を渡した。ペルルノアは手酌でワインを注いで、ゆっくりと揺らした。
「俺が思うに、父は戦乱の世が好きなんだと思う」
「え?」
ファイウスは意外そうに目を瞬いた。男らしい顔は凛々しく、貴族の令嬢たちが騒ぐのも無理はない。
「いつもそうだろ? あの国と国境争いが終わったと思ったらこの国と紛争が始まる、それが収まったら次はその隣国。戦闘が終わっても数年でまた始まる。でもソブラリアが黙っていれば起こらなかった戦闘も多い」
「……言われてみれば、確かにそうだな」
「どれも規模が小さいから大きな被害がないとは言っても騎士団と領地の負担は大きい。幸いソブラリアは豊かな穀倉地帯に恵まれているし、賠償金を得るから国力は落ちないが、各国の王族を王宮内に留めているんだから外交手段でどうにかできる場合もあったと思うんだ」
ペルルノアの言葉を吟味していたファイウスは、小さく息を吐いた。
「そんなことは考えたことがなかった」
「ファイウスは戦闘に出てるからだよ。前線で戦う騎士は目の前の勝利を目指して作戦を立てるんだから、そんなことを考えていられない。現場に出ない俺が、地図を見て考察してるだけだ」
「ペルルノア、誰かに今の話をしたことは?」
「あるわけないだろ。騎士団に入ってない俺がこんなことを言ったら気を悪くする」
「まあな。でもそうだな、常に領土争いがあるのが当り前だと思っていたが、それを避けることもできるんだな」
「俺はそう思うよ。もっと平和的に他国とつき合うこともできるんじゃないかって」
ファイウスはしばらく黙って考えをめぐらせていた。グラスに残ったワインを飲み干し、ようやく口を開く。
「ジェルナの策なんて成功すると思うか?」
ファイウスは少し眉をひそめてペルルノアの顔を見つめた。
「ファイウス、俺はね、この作戦は失敗すると思ってる」
「失敗とは?」
「父が望むようにオメガの女王の番や愛人になるとか、それは無理だと思う」
だったら、と言いかけたファイウスを手で制してペルルノアは続けた。
「でももし女王に会えたら何らかの取引はできるんじゃないかって期待してる」
「取引ってどんな?」
「国交か交易か、まだわからないけど、人が出会えば何かしらの関係が生まれるだろ?」
ペルルノアは幻の国について漠然とした期待を持っている。
「そうか。だけど、気を抜くなよ。オメガなんて世間が言うほどいいもんじゃない。特に運命の番だとか言いだしたら気をつけろ」
ファイウスの目に暗い影が走った。
ファイウスの母は名門貴族の娘で、十五歳でオメガと判定され、その直後に侯爵家から申し込まれてアルファの長男と婚約し、成人後に結婚したが、ファイウスと弟を生んだのちに運命の番と出会ったのだ。
当然、結ばれない運命の番だが、相手のアルファは何と大胆にも正面から堂々と侯爵家に乗りこんで、侯爵夫人を譲り受けたいと直談判したのだ。侯爵家はそれを断り、その後、彼女は運命の番と駆け落ち同然に家を出た。
その顛末はまれにみるスキャンダルとして社交界を一気に駆け抜けた。
「世間はオメガを希少な種というが、単に淫乱で見境いないだけだ。たまたまアルファを生むことが多いだけで貴族たちはちやほやするが、俺から言わせれば劣等種だ」
ファイウスのオメガに対する嫌悪感は母親への反発から来ている。ペルルノアもオメガの母を持っていたが、立場も性格もまったく違うので黙ってうなずいた。
「悪い」
ペルルノアの母のことに気づいたファイウスが短く謝罪し、「構わない」とペルルノアも短く答えた。アルファとオメガのことは当事者にしかわからない。昔から言われていることだ。
「お前が王宮からいなくなるなんて、思ってもみなかった」
「俺もだよ。こんな事態で国を出ることになるとは予想外だったよ」
「とにかくペルルノア、無事に帰ってこいよ。お前がいない王宮はつまらない」
ファイウスはそう言ってバシバシとペルルノアの背中をたたいたのだった。
ファイウスの提案にペルルノアはきっぱり言った。
「それはだめだ。領地を護るための騎士団なのに、俺につき合わせるわけにはいかない。でもありがとう」
「本当のところ、ペルルノアはどう思ってるんだ? トウレイ国に行くことについて」
「悪くないと思ってる。領地も親族もない俺にはぴったりの役回りだろ?」
「唯一のアルファの王子なのに?」
「だからだよ。俺がいると皇太子争いの種になる。平和的に収めるためには俺を国外に出すのが一番いい方法だろ」
しかし継承権を持つペルルノアを領土争いする国には出せない。となると利害関係が薄い遠方の国になるが、そんな国へ行かせる理由もメリットも見当たらない。
トウレイ国はその条件をある意味、飛び越えてしまう国ではあった。
「それにしても幻の国だぞ」
「でも実在はしてる。セルリアが早馬を出してハベナリアで情報を集めさせてる」
ハベナリアの領主一族のセルリアは、貴族男子の習慣に従って王都の学院に入るために十歳で王宮にやってきてペルルノアの従者になったのだ。
「彼はハベナリア出身だったか。しかし陛下はどうしてトウレイ国なんかに興味を持ったんだ? ようやく周辺国との領土争いが落ち着きかけたところなのに」
ファイウスはため息をつきながらグラスを傾け、ペルルノアに持っていた瓶を渡した。ペルルノアは手酌でワインを注いで、ゆっくりと揺らした。
「俺が思うに、父は戦乱の世が好きなんだと思う」
「え?」
ファイウスは意外そうに目を瞬いた。男らしい顔は凛々しく、貴族の令嬢たちが騒ぐのも無理はない。
「いつもそうだろ? あの国と国境争いが終わったと思ったらこの国と紛争が始まる、それが収まったら次はその隣国。戦闘が終わっても数年でまた始まる。でもソブラリアが黙っていれば起こらなかった戦闘も多い」
「……言われてみれば、確かにそうだな」
「どれも規模が小さいから大きな被害がないとは言っても騎士団と領地の負担は大きい。幸いソブラリアは豊かな穀倉地帯に恵まれているし、賠償金を得るから国力は落ちないが、各国の王族を王宮内に留めているんだから外交手段でどうにかできる場合もあったと思うんだ」
ペルルノアの言葉を吟味していたファイウスは、小さく息を吐いた。
「そんなことは考えたことがなかった」
「ファイウスは戦闘に出てるからだよ。前線で戦う騎士は目の前の勝利を目指して作戦を立てるんだから、そんなことを考えていられない。現場に出ない俺が、地図を見て考察してるだけだ」
「ペルルノア、誰かに今の話をしたことは?」
「あるわけないだろ。騎士団に入ってない俺がこんなことを言ったら気を悪くする」
「まあな。でもそうだな、常に領土争いがあるのが当り前だと思っていたが、それを避けることもできるんだな」
「俺はそう思うよ。もっと平和的に他国とつき合うこともできるんじゃないかって」
ファイウスはしばらく黙って考えをめぐらせていた。グラスに残ったワインを飲み干し、ようやく口を開く。
「ジェルナの策なんて成功すると思うか?」
ファイウスは少し眉をひそめてペルルノアの顔を見つめた。
「ファイウス、俺はね、この作戦は失敗すると思ってる」
「失敗とは?」
「父が望むようにオメガの女王の番や愛人になるとか、それは無理だと思う」
だったら、と言いかけたファイウスを手で制してペルルノアは続けた。
「でももし女王に会えたら何らかの取引はできるんじゃないかって期待してる」
「取引ってどんな?」
「国交か交易か、まだわからないけど、人が出会えば何かしらの関係が生まれるだろ?」
ペルルノアは幻の国について漠然とした期待を持っている。
「そうか。だけど、気を抜くなよ。オメガなんて世間が言うほどいいもんじゃない。特に運命の番だとか言いだしたら気をつけろ」
ファイウスの目に暗い影が走った。
ファイウスの母は名門貴族の娘で、十五歳でオメガと判定され、その直後に侯爵家から申し込まれてアルファの長男と婚約し、成人後に結婚したが、ファイウスと弟を生んだのちに運命の番と出会ったのだ。
当然、結ばれない運命の番だが、相手のアルファは何と大胆にも正面から堂々と侯爵家に乗りこんで、侯爵夫人を譲り受けたいと直談判したのだ。侯爵家はそれを断り、その後、彼女は運命の番と駆け落ち同然に家を出た。
その顛末はまれにみるスキャンダルとして社交界を一気に駆け抜けた。
「世間はオメガを希少な種というが、単に淫乱で見境いないだけだ。たまたまアルファを生むことが多いだけで貴族たちはちやほやするが、俺から言わせれば劣等種だ」
ファイウスのオメガに対する嫌悪感は母親への反発から来ている。ペルルノアもオメガの母を持っていたが、立場も性格もまったく違うので黙ってうなずいた。
「悪い」
ペルルノアの母のことに気づいたファイウスが短く謝罪し、「構わない」とペルルノアも短く答えた。アルファとオメガのことは当事者にしかわからない。昔から言われていることだ。
「お前が王宮からいなくなるなんて、思ってもみなかった」
「俺もだよ。こんな事態で国を出ることになるとは予想外だったよ」
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ファイウスはそう言ってバシバシとペルルノアの背中をたたいたのだった。
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