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第十七話 SIDE:ティアラ
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どうしてそんな冷めた目で私を見るんだろう?
どうしてあの時みたいに優しく笑ってくれないのかしら?
どうしてそんなに私を煙たがるの?
入学してから「どうして?」ばかりが増えていったけど、まさか黒髪に青い瞳のあの人が、ライト様ではなかったなんて。
傷のない右肩と私を助けた事など覚えていない、運命の相手ではないとはっきり言われて目が覚めた。
「じゃあ、あなたは誰なの?」
地面に向かって呟く私の脳裏には、一年前デフェル領で起きたあの日の記憶が蘇るーーー。
「ティアラッ!」
領主であり王国騎士団の団長の父デフェル子爵が大声で私を呼ぶ声がした。
国境付近ではあるけれど、父の率いる王国騎士団の活躍でデフェル領は平和な日々を送っていた。
そんなデフェル領で私を叫び呼ぶ父の声は異質で、何かが起きているんだという事がすぐにわかった。
「どうしたのですか お父様?」
私の部屋にノックをすることもなく入室してきたのは、いつもにこやかにしているお父様ではなく血相を変え青白い顔をしたお父様だった。
「今すぐ逃げろ。賊だっ!」
賊ですって!?
他国からの侵略ではないと知り一安心したものの、私達の命に危険が迫っていることに変わりはなかった。
深い森に囲まれたデフェル領ではたまにこういった賊が攻め込んでくるのだった。
反貴族の破落戸の集まりで、お父様も手を焼いていた。でも、屋敷にまで入られるのは今回が初めてだった。
お父様に続いて入ってきたのはお父様の部下である何人もの王国騎士団の騎士達。
廊下の外には、キィンキィンと剣と剣のぶつかり合う音がする。
逃げろと言われても、どうしたらいいのか分からず慌てていると、黒髪に青い瞳の私と同い歳くらいの若い騎士が私の部屋に入室してきた。
「ケビン!屋敷内の賊は取り敢えず全て片付けた。今のうちに家族を連れて逃げろ。僕達はもう一度屋敷内を見てくる」
敵の返り血を浴びたのだろうか、全身の所々に赤黒い物が付いている。
若いのに王国騎士団団長のお父様を呼び捨てにするこの人は一体誰なのだろう?
私の疑問の答えはお父様からすぐに聞くことができた。
「ですがライト殿下は!?」
ライト殿下?第二王子の!?
私は震える体で何とか立っているのがやっとだというのに、目の前の彼はとても堂々としていた。
「僕は平気だ。早く外へ、安全な場所へ逃げろっ」
そう言って私と父を見送り、ライト殿下は何人かの騎士達と共に逆方向へ走って行った。
屋敷を出て少し走った森の中にデフェル子爵家の小さな隠れ家がある。
「ここを動くんじゃないぞ。ライト殿下を見に行ってくる」
私は父にそう言われ、静かに息を殺して縮こまっているしかなかった。
どのくらいの時間が過ぎたのかも、今 外で何が起きているのかも分からなかった。
緊張で眠気もこなくて、窓越しに見える月を見上げたその時だった。
ガシャンッと窓に何かが当たりガラスが砕けて私の足元にバラバラと散らばった。
「ひっ」と声が出たのと同時に、ドアノブをカチャカチャと揺らす音がした。
鍵が掛かっているから開かないドアノブが次第に大きな音で揺らされていく。
怖くて怖くて私は更に体を小さくして息を潜めた。
ガチャガチャ、ガチャガチャガチャ・・・・・。
「・・・・・・」
少しの間、無音の時間が流れた。
諦めて去っていったのかしら?
外にいるのが敵か味方かも分からないのは本当に不安で、何とか今の状況が知りたいと思って割れたガラス窓から外をそっと見たその時だった。
「みぃつけたぁ」
その声に私はゾッとした。
ヌッと割れたガラス窓に現れたのは目だけが見える頭をすっぽり隠した真っ黒のマスクと真っ黒の服を着た男だった。
賊だっ!
「生け捕ってたくさん領主から金を巻き上げるかぁ?それとも一気に殺すかぁ?なぁ、お前はどっちがいい?」
「・・・・・・どっちもお断りよっ」
これでも王国騎士団団長の娘よ。
いざとなれば自分の命なんて捨てられるわっ。
ドレスの下の足首に隠し持っていたナイフをスッと抜き取り目の前の賊に刃先を向けた。
「なら 死ね!!」
その手に大きな鎌を持ち、品のない声でギャハハと笑いながら賊が私に向かってくる。
敵の持つ大鎌と私の小さなナイフでは到底相手には敵わない。
でも、自害するにはこのナイフで十分だった。
私は敵に向けたナイフをグルっと自分に向け直して自らの心臓めがけて振り下ろした。
「おや、いい目をしてるね 君」
あと数センチで私の心臓に到達するはずのそのナイフがピタッと止まった。
私の手を見知らぬ誰かが掴んでいたのだ。
見ると、賊の大鎌を右肩に受けて私の前に盾になるように立ちはだかる人がいた。
「だっ、誰だテメェっ・・・・・・」
「もうすぐこの世から消える君に自己紹介する必要ってある?」
その人は黒い髪と青い瞳で鼻から下を布で隠していたけど、王国騎士団の制服を着ていた。
大鎌を受けた際に傷を負った制服の肩部分が赤く色づいている。
「で、殿下?怪我を・・・・・・」
「え?私のこと知ってるの?」
だってさっきお会いしたばかりだもの。
でも、さっき会ったときよりなんだか物腰が柔らかいし背も少し大きい気がするけど、気にせいよね。
「そんな事より、血がっ」
右肩の制服が破れて傷が見える。そこまで深くはないようだけど、早く治療をしないと最悪の場合破傷風になってしまうわ。
「・・・・・・おい、コラァ。テメェ 何ヒーロー気取ってんだぁ。ぶっ殺すぞっ!」
忘れてた。賊がいたんだった。
慌てて身構えると、殿下が「も~、煩いなぁ」と言って見事な剣捌きで賊を一撃した。
あっという間の事に私はあ然とする。
この人、強い。
「ふー、やれやれ。こいつが最後の賊だからこれで一安心だよ」
「あのっ。助けていただきありがとうございます」
「・・・・・・」
「あの、何か?」
「いや。可愛いなと思って」
「・・・・・・んなっ」
殿下がピッと剣を薙ぎ払って賊の血を吹き飛ばし鞘に剣を納める。
「してよ。手当」
殿下が右肩を私に向けてそう言った。
ガラスの破片が床一面に散らばる小屋で、薬箱を取り出し応急処置をする。
幸い出血も少なかったけど、大鎌で切られた傷跡は残ると思う。
「すみません。傷が残るかと思われます」
「大丈夫。君が私を見つける目印だと思えばいい」
「ですが・・・・・・」
「責任、取ってくれるの?」
「え?」
「私はどうやら君を気に入った様だ。自分の死を目前にあの堂々たる態度。この出会いは運命なのかもしれない」
暫くの間私と殿下は見つめ合っていた。
運・・・ 命?
「運命」と言うその言葉に私の顔はかぁっと赤くなった。
殿下は目元しか見えないけれどその表情からは好意的なものを感じた。
「君の名前は?」
「ティアラです。ティアラ・デフェル!」
「・・・ラッ。ティアラーーッ!」
遠くからお父様の私を呼ぶ声が聞こえた。
「デフェル子爵の声だね。私は行くよ。ではまた 愛しい人。必ず君を迎えに来るから」
殿下はそう言って小屋を出て行った。
それからすぐお父様が来て私の無事を確認すると屋敷まで運んでくれた。
後日、賊を討伐したライト殿下は父に変わり王国騎士団の団長に任命され父は副団長となったーーー。
「・・・・・・吊り橋効果」
現実に戻った私は、無意識にそう呟いていた。
命の掛かった場面で私達が感じた運命は疑似的なものだったんだわ。
それを本気で運命だと信じて、成績の悪かった私はライト様がアカデミーに入学すると聞いてから寝る間も惜しんで勉強して・・・・・・。
一人で勝手に運命だと盛り上がっていたんだ。
惨めだなぁ・・・ 、私。
夕暮れ時の休日のアカデミーが人気のない静かな場所で良かった。
こんな姿誰にも見られたくないもの。
・・・・・・失恋、しちゃった。
なんだか急に寒くなって身震いを一つした時、肩に何か柔らかい物が置かれたのを感じた。
「・・・・・・?」
「4月と言っても夜は寒いですよ」
あたりが暗くなっていたのと、街頭の明かりの少ない場所だったから相手の顔は見えなくて、髪の色が金色なのが月明かりでわかるくらいだった。
不思議と大きな体格の見知らぬ男の人なのに、怖さは感じなかった。
それどころか声を掛けられてとても心が温かく、何故か懐かしさを感じた。
「・・・・・・あ、ありがとうございます」
「こんな夜更けにこんな場所でレディが何を?」
失恋でショックを受けてまして、なんて言えなくて「あはは」と笑って誤魔化すことにした。
レディだなんて平民の使う言葉じゃないから、きっと彼は貴族ね。
もしかしてアカデミーの学生かしら?
「何か言えない事情ですか?」
「ん、まあそんなところです」
そっと肩に手をあてると掛けられていた物がとても質のいいブランケットだった事を知った。
「あ!これ、お返しします・・・・・・って、あれ?」
一瞬ブランケットの方に視線を反らしたその間に男性の姿は消えていた。
いなくなった男性をキョロキョロと辺りを見回して確認するけど誰もいなかった。
パキッと小枝が折れる音がして振り向くとそこにいたのは・・・・・・。
「ジョハン卿?」
懐中電灯を持ってにこにこしながらジョハン卿が近づいてくる。
「いやぁ~、こんなところで会うなんて奇遇ですね。僕ちょっとアカデミーに忘れ物を取りに来てたんです、はははっ」
あっけらかんと言うジョハン卿を見て私は慌てて駆け寄った。
「あのっ。金色の髪で大柄な男性とすれ違いませんでしたか?さっきまでここにいたんですけど急にいなくなったんです」
「大柄な男性?金色の髪?残念ながら見てません」
キョトンとした顔でジョハン卿が答えた。
その答えに私はショックを隠せなかった。
「・・・・・・そうですか」
ガックリと肩を落としていた私にジョハン卿が優しく語りかけてくる。
「デフェル子爵令嬢。こんなところでお会いするのも何かの縁でしょう。お家まで送りましょうか?」
こんな夜ですもの、送ってもらうほうが安心よね。
でも、馬車で二人きりだと悪い噂が立ってジョハン卿に迷惑がかからないかしら。
「ご安心を。僕は他の馬車で行きますので」
カチャッと開いた馬車の中には誰もいなく、ジョハン卿にエスコートを受けて乗車し家路に着いた。
どうしてあの時みたいに優しく笑ってくれないのかしら?
どうしてそんなに私を煙たがるの?
入学してから「どうして?」ばかりが増えていったけど、まさか黒髪に青い瞳のあの人が、ライト様ではなかったなんて。
傷のない右肩と私を助けた事など覚えていない、運命の相手ではないとはっきり言われて目が覚めた。
「じゃあ、あなたは誰なの?」
地面に向かって呟く私の脳裏には、一年前デフェル領で起きたあの日の記憶が蘇るーーー。
「ティアラッ!」
領主であり王国騎士団の団長の父デフェル子爵が大声で私を呼ぶ声がした。
国境付近ではあるけれど、父の率いる王国騎士団の活躍でデフェル領は平和な日々を送っていた。
そんなデフェル領で私を叫び呼ぶ父の声は異質で、何かが起きているんだという事がすぐにわかった。
「どうしたのですか お父様?」
私の部屋にノックをすることもなく入室してきたのは、いつもにこやかにしているお父様ではなく血相を変え青白い顔をしたお父様だった。
「今すぐ逃げろ。賊だっ!」
賊ですって!?
他国からの侵略ではないと知り一安心したものの、私達の命に危険が迫っていることに変わりはなかった。
深い森に囲まれたデフェル領ではたまにこういった賊が攻め込んでくるのだった。
反貴族の破落戸の集まりで、お父様も手を焼いていた。でも、屋敷にまで入られるのは今回が初めてだった。
お父様に続いて入ってきたのはお父様の部下である何人もの王国騎士団の騎士達。
廊下の外には、キィンキィンと剣と剣のぶつかり合う音がする。
逃げろと言われても、どうしたらいいのか分からず慌てていると、黒髪に青い瞳の私と同い歳くらいの若い騎士が私の部屋に入室してきた。
「ケビン!屋敷内の賊は取り敢えず全て片付けた。今のうちに家族を連れて逃げろ。僕達はもう一度屋敷内を見てくる」
敵の返り血を浴びたのだろうか、全身の所々に赤黒い物が付いている。
若いのに王国騎士団団長のお父様を呼び捨てにするこの人は一体誰なのだろう?
私の疑問の答えはお父様からすぐに聞くことができた。
「ですがライト殿下は!?」
ライト殿下?第二王子の!?
私は震える体で何とか立っているのがやっとだというのに、目の前の彼はとても堂々としていた。
「僕は平気だ。早く外へ、安全な場所へ逃げろっ」
そう言って私と父を見送り、ライト殿下は何人かの騎士達と共に逆方向へ走って行った。
屋敷を出て少し走った森の中にデフェル子爵家の小さな隠れ家がある。
「ここを動くんじゃないぞ。ライト殿下を見に行ってくる」
私は父にそう言われ、静かに息を殺して縮こまっているしかなかった。
どのくらいの時間が過ぎたのかも、今 外で何が起きているのかも分からなかった。
緊張で眠気もこなくて、窓越しに見える月を見上げたその時だった。
ガシャンッと窓に何かが当たりガラスが砕けて私の足元にバラバラと散らばった。
「ひっ」と声が出たのと同時に、ドアノブをカチャカチャと揺らす音がした。
鍵が掛かっているから開かないドアノブが次第に大きな音で揺らされていく。
怖くて怖くて私は更に体を小さくして息を潜めた。
ガチャガチャ、ガチャガチャガチャ・・・・・。
「・・・・・・」
少しの間、無音の時間が流れた。
諦めて去っていったのかしら?
外にいるのが敵か味方かも分からないのは本当に不安で、何とか今の状況が知りたいと思って割れたガラス窓から外をそっと見たその時だった。
「みぃつけたぁ」
その声に私はゾッとした。
ヌッと割れたガラス窓に現れたのは目だけが見える頭をすっぽり隠した真っ黒のマスクと真っ黒の服を着た男だった。
賊だっ!
「生け捕ってたくさん領主から金を巻き上げるかぁ?それとも一気に殺すかぁ?なぁ、お前はどっちがいい?」
「・・・・・・どっちもお断りよっ」
これでも王国騎士団団長の娘よ。
いざとなれば自分の命なんて捨てられるわっ。
ドレスの下の足首に隠し持っていたナイフをスッと抜き取り目の前の賊に刃先を向けた。
「なら 死ね!!」
その手に大きな鎌を持ち、品のない声でギャハハと笑いながら賊が私に向かってくる。
敵の持つ大鎌と私の小さなナイフでは到底相手には敵わない。
でも、自害するにはこのナイフで十分だった。
私は敵に向けたナイフをグルっと自分に向け直して自らの心臓めがけて振り下ろした。
「おや、いい目をしてるね 君」
あと数センチで私の心臓に到達するはずのそのナイフがピタッと止まった。
私の手を見知らぬ誰かが掴んでいたのだ。
見ると、賊の大鎌を右肩に受けて私の前に盾になるように立ちはだかる人がいた。
「だっ、誰だテメェっ・・・・・・」
「もうすぐこの世から消える君に自己紹介する必要ってある?」
その人は黒い髪と青い瞳で鼻から下を布で隠していたけど、王国騎士団の制服を着ていた。
大鎌を受けた際に傷を負った制服の肩部分が赤く色づいている。
「で、殿下?怪我を・・・・・・」
「え?私のこと知ってるの?」
だってさっきお会いしたばかりだもの。
でも、さっき会ったときよりなんだか物腰が柔らかいし背も少し大きい気がするけど、気にせいよね。
「そんな事より、血がっ」
右肩の制服が破れて傷が見える。そこまで深くはないようだけど、早く治療をしないと最悪の場合破傷風になってしまうわ。
「・・・・・・おい、コラァ。テメェ 何ヒーロー気取ってんだぁ。ぶっ殺すぞっ!」
忘れてた。賊がいたんだった。
慌てて身構えると、殿下が「も~、煩いなぁ」と言って見事な剣捌きで賊を一撃した。
あっという間の事に私はあ然とする。
この人、強い。
「ふー、やれやれ。こいつが最後の賊だからこれで一安心だよ」
「あのっ。助けていただきありがとうございます」
「・・・・・・」
「あの、何か?」
「いや。可愛いなと思って」
「・・・・・・んなっ」
殿下がピッと剣を薙ぎ払って賊の血を吹き飛ばし鞘に剣を納める。
「してよ。手当」
殿下が右肩を私に向けてそう言った。
ガラスの破片が床一面に散らばる小屋で、薬箱を取り出し応急処置をする。
幸い出血も少なかったけど、大鎌で切られた傷跡は残ると思う。
「すみません。傷が残るかと思われます」
「大丈夫。君が私を見つける目印だと思えばいい」
「ですが・・・・・・」
「責任、取ってくれるの?」
「え?」
「私はどうやら君を気に入った様だ。自分の死を目前にあの堂々たる態度。この出会いは運命なのかもしれない」
暫くの間私と殿下は見つめ合っていた。
運・・・ 命?
「運命」と言うその言葉に私の顔はかぁっと赤くなった。
殿下は目元しか見えないけれどその表情からは好意的なものを感じた。
「君の名前は?」
「ティアラです。ティアラ・デフェル!」
「・・・ラッ。ティアラーーッ!」
遠くからお父様の私を呼ぶ声が聞こえた。
「デフェル子爵の声だね。私は行くよ。ではまた 愛しい人。必ず君を迎えに来るから」
殿下はそう言って小屋を出て行った。
それからすぐお父様が来て私の無事を確認すると屋敷まで運んでくれた。
後日、賊を討伐したライト殿下は父に変わり王国騎士団の団長に任命され父は副団長となったーーー。
「・・・・・・吊り橋効果」
現実に戻った私は、無意識にそう呟いていた。
命の掛かった場面で私達が感じた運命は疑似的なものだったんだわ。
それを本気で運命だと信じて、成績の悪かった私はライト様がアカデミーに入学すると聞いてから寝る間も惜しんで勉強して・・・・・・。
一人で勝手に運命だと盛り上がっていたんだ。
惨めだなぁ・・・ 、私。
夕暮れ時の休日のアカデミーが人気のない静かな場所で良かった。
こんな姿誰にも見られたくないもの。
・・・・・・失恋、しちゃった。
なんだか急に寒くなって身震いを一つした時、肩に何か柔らかい物が置かれたのを感じた。
「・・・・・・?」
「4月と言っても夜は寒いですよ」
あたりが暗くなっていたのと、街頭の明かりの少ない場所だったから相手の顔は見えなくて、髪の色が金色なのが月明かりでわかるくらいだった。
不思議と大きな体格の見知らぬ男の人なのに、怖さは感じなかった。
それどころか声を掛けられてとても心が温かく、何故か懐かしさを感じた。
「・・・・・・あ、ありがとうございます」
「こんな夜更けにこんな場所でレディが何を?」
失恋でショックを受けてまして、なんて言えなくて「あはは」と笑って誤魔化すことにした。
レディだなんて平民の使う言葉じゃないから、きっと彼は貴族ね。
もしかしてアカデミーの学生かしら?
「何か言えない事情ですか?」
「ん、まあそんなところです」
そっと肩に手をあてると掛けられていた物がとても質のいいブランケットだった事を知った。
「あ!これ、お返しします・・・・・・って、あれ?」
一瞬ブランケットの方に視線を反らしたその間に男性の姿は消えていた。
いなくなった男性をキョロキョロと辺りを見回して確認するけど誰もいなかった。
パキッと小枝が折れる音がして振り向くとそこにいたのは・・・・・・。
「ジョハン卿?」
懐中電灯を持ってにこにこしながらジョハン卿が近づいてくる。
「いやぁ~、こんなところで会うなんて奇遇ですね。僕ちょっとアカデミーに忘れ物を取りに来てたんです、はははっ」
あっけらかんと言うジョハン卿を見て私は慌てて駆け寄った。
「あのっ。金色の髪で大柄な男性とすれ違いませんでしたか?さっきまでここにいたんですけど急にいなくなったんです」
「大柄な男性?金色の髪?残念ながら見てません」
キョトンとした顔でジョハン卿が答えた。
その答えに私はショックを隠せなかった。
「・・・・・・そうですか」
ガックリと肩を落としていた私にジョハン卿が優しく語りかけてくる。
「デフェル子爵令嬢。こんなところでお会いするのも何かの縁でしょう。お家まで送りましょうか?」
こんな夜ですもの、送ってもらうほうが安心よね。
でも、馬車で二人きりだと悪い噂が立ってジョハン卿に迷惑がかからないかしら。
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