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第1章(序章)絶望の果て
第1話 ある小国の夜
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2つの大国に挟まれるように、ベルナ王国という小さな国が存在した。
この小国には、強力な騎士や最強の魔法使いがおり、大国といえど簡単には手が出せなかった。
しかし、ある時、南の大国であるサイヤ王国に、得体の知れぬ魔道士が現れてから、ベルナ王国は強力な呪術にさらされるようになり、決して安泰とは言えなくなった。
このため、ベルナ王国のベネディクト王は、国の将来を憂い思い切った対抗策を考えた。
強力な騎士と最強の魔法使いを育成するための施設、ムートを開設したのだ。
この養成所には、各地から選抜された優秀な子ども達が、半ば強制的に引き入れられた。
ムートは、国が運営する非人道的な、超人養成機関だったのだ。
◇◇◇
そんな、ある日の夜、ベルナ王国の西方の空に、大きな火球が光り輝いた。
その光がとても美しいため、皆が、この幻想的な光景を食い入るように眺めた。
その最中、俺は産まれた。両親から名前をイースと名付けられた。
俺が産まれた時の火球が光り輝く様子を、母のアーナは、自慢話のように周囲に語っていた。
その影響を受けて、幼い妹のヤーナも真似をした。
「イースは、光の子どもなんだよ。 だから、凄いんだよ!」
俺のことを、特別な存在だと信じる者もいた。
そのせいか、10歳になると、資質を認められ、騎士と魔法使いのエリート養成所であるムートに選抜された。
俺の住む村では初めてのことであったため、村長をはじめ村人まで、皆が歓喜した。
とても名誉な事だった。
ムートに選抜されると、住み込みでの教育となるため、村に帰れるのは2年に1度程度となる。だから、小さな子どもにとっては、寂しくて泣きたくなるような辛い出来事であった。
家族と会えなくなると思うと悲しくなり、いつも泣いていた。そんな俺のことを、家族は優しく励ましてくれた。
そして、俺が招集される日が来た。
「イースは大切な宝だ。 愛する倅と離れるのは辛いが、ムートに入れるのは名誉なことだから、お国のために力を尽くせ!」
この時に、父の涙を初めて見た。それを見て、俺も我慢できず泣いてしまった。周りを見ると、母も、7歳の妹も泣いていた。
俺は、国のためというより、家族のために頑張ろうと誓った。偉くなれば、家族の生活を豊かにできる。
高名な、騎士や魔法使いになれば、貴族の称号だって与えられると聞いた。
「イース君。 これは、村人の気持ちだ。 騎士になるか魔法使いになるか分からないが、何かの役に立つかも知れない。 村人が少しずつお金を出し合って作ったものだ。 将来、偉くなっても村を忘れないでくれよ」
出発の時、村長から小刀をもらった。見ると、装飾を施した高価な物だった。
俺は感激し、また泣いてしまった。
◇◇◇
選抜された子ども達は、ムートまで1人で行かねばならない決まりがあった。
ベルナ王国は小さな国ではあるが、国都まで、子どもの足では1ヶ月ほどかかってしまう。だから、小銭と、乾パンを持たされた。
他に、ムートに入ることを記した証明書も渡された。これを見せれば宿代が免除される。宿屋に泊まった事がない俺は、少し嬉しくなってしまった。
両親からは、夜道を歩かないようにと厳しく言われた。人さらいに会ったり、道に迷ったりして、行方不明になる子どもが少なからずいたからだ。
だから、国都に行くだけとはいえ、小さな子どもにとっては、決して安全な旅ではなかった。
国都の子どもは7歳でムートに入るが、辺境の子どもは10歳とされたのは、養成所までの1人旅を考えての事なのかも知れない。
結局、ムートへ着くまでに1ヶ月半ほどかかってしまった。
到着すると同時に旅の疲れが出て、俺は、その場に倒れ込んだ。そして、3日間も寝込んでしまった。
体力が回復すると、俺はジームという高齢の魔法使いの家に預けられた。
そして、数日した朝、王宮に招かれた。
田舎者の俺にとっては、何もかもが珍しく興味深かった。
王宮は、見たこともないような立派な建物だったため、思わず見入ってしまった。
美しい彫刻を、時が過ぎるのも忘れ見ていると、いつの間にか、美しい女性が俺の前に立っていた。
しかし、口調は厳しい。
「そこになおれ!」
この命令口調の女性は、名をナーシャといった。
彼女が声を発すると、ジームが俺の背中を強く叩き、直立不動となるよう促した。
「ナーシャ様。 この子の霊力は人並みでしかないから、魔法使いは諦めた方が良いです。 但し、陽気が人並み以上にあるので、騎士で力を発揮するでしょう。 ギリギリ合格です」
ジームは、淡々と話した。
「そうか、分かった。 これ、イースとやら! この宮殿の隣に赤い屋根の大きな建物がある。 そこが、ムートの騎士修練所だ。 今から、そこへ向かえ」
「えっ、赤い屋根ですか?」
「私は何といった! まさか、聞いてなかったのか?」
ナーシャは、凄く不機嫌で怖い顔をした。
「いえ、直ぐに向かいます」
俺は一礼し、逃げるように騎士養成所に向かった。
外へ出ると、赤い屋根の建物は直ぐに見つかった。
中に入ると、多くの若者が剣を構え練習していた。皆、大人のような背丈であった。剣を振るうと不思議なことにオレンジ色の光が先端から出ている。
「あれは、何だろう?」
俺は、綺麗なオレンジ色の光を見ながら、首を傾げた。
その直後、背後から声が聞こえた。
「ここは、高等クラスだ。 俺たちは最奥の部屋だ!」
俺と同年代と思しき少年が、肩を叩き声をかけた。
「そうなのか? 俺はイースっていうんだ。 初めてここに来た」
「俺はベアスだ。 国都出身で、ムートには7歳の時からいる。 ここで3年目になる」
「7歳からいるのか?」
「ああ。 おまえは地方出身か?」
「辺境の村で選ばれた。 俺も君と同じ10歳なんだ」
「そうか、俺と同じか。 仲良くやろうぜ」
ベアスは、ニヤッと笑ったあと、先に走って行った。
彼の走りは早く、俺は全力で追いかけたが、追いつけず、やがて見失ってしまった。
この小国には、強力な騎士や最強の魔法使いがおり、大国といえど簡単には手が出せなかった。
しかし、ある時、南の大国であるサイヤ王国に、得体の知れぬ魔道士が現れてから、ベルナ王国は強力な呪術にさらされるようになり、決して安泰とは言えなくなった。
このため、ベルナ王国のベネディクト王は、国の将来を憂い思い切った対抗策を考えた。
強力な騎士と最強の魔法使いを育成するための施設、ムートを開設したのだ。
この養成所には、各地から選抜された優秀な子ども達が、半ば強制的に引き入れられた。
ムートは、国が運営する非人道的な、超人養成機関だったのだ。
◇◇◇
そんな、ある日の夜、ベルナ王国の西方の空に、大きな火球が光り輝いた。
その光がとても美しいため、皆が、この幻想的な光景を食い入るように眺めた。
その最中、俺は産まれた。両親から名前をイースと名付けられた。
俺が産まれた時の火球が光り輝く様子を、母のアーナは、自慢話のように周囲に語っていた。
その影響を受けて、幼い妹のヤーナも真似をした。
「イースは、光の子どもなんだよ。 だから、凄いんだよ!」
俺のことを、特別な存在だと信じる者もいた。
そのせいか、10歳になると、資質を認められ、騎士と魔法使いのエリート養成所であるムートに選抜された。
俺の住む村では初めてのことであったため、村長をはじめ村人まで、皆が歓喜した。
とても名誉な事だった。
ムートに選抜されると、住み込みでの教育となるため、村に帰れるのは2年に1度程度となる。だから、小さな子どもにとっては、寂しくて泣きたくなるような辛い出来事であった。
家族と会えなくなると思うと悲しくなり、いつも泣いていた。そんな俺のことを、家族は優しく励ましてくれた。
そして、俺が招集される日が来た。
「イースは大切な宝だ。 愛する倅と離れるのは辛いが、ムートに入れるのは名誉なことだから、お国のために力を尽くせ!」
この時に、父の涙を初めて見た。それを見て、俺も我慢できず泣いてしまった。周りを見ると、母も、7歳の妹も泣いていた。
俺は、国のためというより、家族のために頑張ろうと誓った。偉くなれば、家族の生活を豊かにできる。
高名な、騎士や魔法使いになれば、貴族の称号だって与えられると聞いた。
「イース君。 これは、村人の気持ちだ。 騎士になるか魔法使いになるか分からないが、何かの役に立つかも知れない。 村人が少しずつお金を出し合って作ったものだ。 将来、偉くなっても村を忘れないでくれよ」
出発の時、村長から小刀をもらった。見ると、装飾を施した高価な物だった。
俺は感激し、また泣いてしまった。
◇◇◇
選抜された子ども達は、ムートまで1人で行かねばならない決まりがあった。
ベルナ王国は小さな国ではあるが、国都まで、子どもの足では1ヶ月ほどかかってしまう。だから、小銭と、乾パンを持たされた。
他に、ムートに入ることを記した証明書も渡された。これを見せれば宿代が免除される。宿屋に泊まった事がない俺は、少し嬉しくなってしまった。
両親からは、夜道を歩かないようにと厳しく言われた。人さらいに会ったり、道に迷ったりして、行方不明になる子どもが少なからずいたからだ。
だから、国都に行くだけとはいえ、小さな子どもにとっては、決して安全な旅ではなかった。
国都の子どもは7歳でムートに入るが、辺境の子どもは10歳とされたのは、養成所までの1人旅を考えての事なのかも知れない。
結局、ムートへ着くまでに1ヶ月半ほどかかってしまった。
到着すると同時に旅の疲れが出て、俺は、その場に倒れ込んだ。そして、3日間も寝込んでしまった。
体力が回復すると、俺はジームという高齢の魔法使いの家に預けられた。
そして、数日した朝、王宮に招かれた。
田舎者の俺にとっては、何もかもが珍しく興味深かった。
王宮は、見たこともないような立派な建物だったため、思わず見入ってしまった。
美しい彫刻を、時が過ぎるのも忘れ見ていると、いつの間にか、美しい女性が俺の前に立っていた。
しかし、口調は厳しい。
「そこになおれ!」
この命令口調の女性は、名をナーシャといった。
彼女が声を発すると、ジームが俺の背中を強く叩き、直立不動となるよう促した。
「ナーシャ様。 この子の霊力は人並みでしかないから、魔法使いは諦めた方が良いです。 但し、陽気が人並み以上にあるので、騎士で力を発揮するでしょう。 ギリギリ合格です」
ジームは、淡々と話した。
「そうか、分かった。 これ、イースとやら! この宮殿の隣に赤い屋根の大きな建物がある。 そこが、ムートの騎士修練所だ。 今から、そこへ向かえ」
「えっ、赤い屋根ですか?」
「私は何といった! まさか、聞いてなかったのか?」
ナーシャは、凄く不機嫌で怖い顔をした。
「いえ、直ぐに向かいます」
俺は一礼し、逃げるように騎士養成所に向かった。
外へ出ると、赤い屋根の建物は直ぐに見つかった。
中に入ると、多くの若者が剣を構え練習していた。皆、大人のような背丈であった。剣を振るうと不思議なことにオレンジ色の光が先端から出ている。
「あれは、何だろう?」
俺は、綺麗なオレンジ色の光を見ながら、首を傾げた。
その直後、背後から声が聞こえた。
「ここは、高等クラスだ。 俺たちは最奥の部屋だ!」
俺と同年代と思しき少年が、肩を叩き声をかけた。
「そうなのか? 俺はイースっていうんだ。 初めてここに来た」
「俺はベアスだ。 国都出身で、ムートには7歳の時からいる。 ここで3年目になる」
「7歳からいるのか?」
「ああ。 おまえは地方出身か?」
「辺境の村で選ばれた。 俺も君と同じ10歳なんだ」
「そうか、俺と同じか。 仲良くやろうぜ」
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