上 下
4 / 39
第1章(序章)絶望の果て

第3話 除け者

しおりを挟む
 嘲笑が聞こえる中、俺はやっとの思いで立ち上がった。
 整列した子ども達の顔ぶれを見ると、俺より小さい子もいれば、大きい子もいる。女子は2割くらいで男子が多い。

 右側の列の中程に、ベアスを見つけ目で合図したが、彼はわざと違う方向を見た。どうやら、俺と目を合わせたくないようだ。


「イースといいます。 国境の村から来ました。 10歳です。 今日から騎士の修練の仲間に加わります。 よろしくお願いします」

 何とか、挨拶ができた。


「もっと大きな声を出せんのか? まあ良い、これで鼻を拭いて左端の最後列に着け!」

 渡された布切れを顔に当てると、血がベットリと付いた。
 緊張し過ぎて、鼻血が出ている事にさえ気が付かなかった。

 すごすごと列に加わると、男子も女子も、クスクスと笑っている。
 惨めで、恥ずかしくなった。


「再開だ! はじめ!」


「セヤー、セヤー、セヤー」

 教官の号令のもと、皆は再び剣を突き始めた。だが、俺にはその剣もない。

 何をしたら良いか分からず、剣も持たずに、只々、皆の動作を真似た。
 教官から指示がなかったから、それしかできなかった。

 剣も持たずに、しかも皆と違う衣装で、さぞかし間抜けに見えただろう。
 村から期待されて送り出されただけに、自分の不甲斐なさに涙が溢れた。


 この動作は、延々と2時間も続いた。
 やっと終わり、教官から解散の指示があった頃には、辺りが薄暗くなっていた。

 大勢いた子ども達は、蜘蛛の子を散らすように、どこかへ行ってしまった。
 ベアスを探したが、すでにいない。


「イース、私と来い!」

 教官の1人が俺に声をかけてきた。俺は、そのまま後をついて行く。

 長い廊下をいくつも曲がると、小さな部屋があった。教官と俺は、そこに入った。


「初日から遅刻とは、気が緩んでいるのか?」


「ここへ来るまでに迷ってしまい、時間が掛かりました」


「もしかして、建物の外に出たのか?」


「はい。 外に出て、変な門に入ったら、出られなくなりました。 そこで、知らない女の子に助けられました」


「これからは、建物の中間出口から、絶対に外に出ちゃいかん。 おまえが迷ったのは、魔法教官や上位の魔法修習生が使う門だ。 その少女は、魔法修習生だろうが、見つけてもらったのは運が良かったぞ。 でなきゃ死んでた。 まあ、年間、2~3人は出られなくなって消えている」

 教官の話は、ビクトリアという少女の言った事と同じだった。
 本当に、運が良かったのだ。


「教官は、入った事あるんですか?」


「ある。 中に入ると道があったろ」


「はい。 どこまでも続く細い道が一本ありました」


「先に進むと道が増えていくんだ。 私は5本まで行ったが、それ以上行くと、この私でも出られん。 あれは、魔法使い以外入ってはならんのだ。 だから、我々騎士は、惑わされないように眼力を鍛える必要がある」

 教官は、諭すように語った。

 俺を放り投げた教官と違い、この人は優しそうだ。少し安心した。


 その後、ムート騎士修練場の説明を受けた。
 俺が入るのは、初等クラスで7歳~17歳までがいる。
 50名程度のクラスが5つあり、俺は実力が最下位のEクラスに配置された。年齢に関係なく、強くなれば最高のAクラスまで上がれる。
 さらに上に、天才や神童を対象としたSクラスがあるが、今は、該当者がいないとの事であった。

 15歳になった時点でCクラス以下の場合は、高等クラスに進めず、雑兵として軍隊に入れられる。
 つまり、騎士になれない。

 俺を助けてくれた少女を思い出し、魔法使い養成所の事も尋ねたが、仕組みは騎士養成所と同じだと言われた。
 また、素質を見誤った場合、中途で魔法使い養成所に移る者もいるそうで、また、その逆もあるとの事だった。


「これから、服と剣を貸与する。 それに、食堂と浴場、就寝場を案内するが、一度で覚えるように! 建物は大きく複雑な作りだから、特に田舎から来た修習生は迷うようだ。 ここは厳しい修練場だ。 修習生が消えても探す者はいない。 また、修習生の中で争いがあっても仲裁はしない。 だから、負けないように、早く強くなりなさい。 それと、唯一禁止されている事がある。 おまえは、まだ子どもだから心配ないが、女子を妊娠させた場合、相思相愛であっても男が罪に問われ重罪となる。 覚えておきなさい」


「はい」

 返事はしたが、教官の話を聞いて不安で堪らなくなった。
 また、最後の妊娠の話だが、どうしたら子どもができるのか分からず、ピンと来なかった。


 その後、各部屋に案内され、自分の持ち物を就寝場においた。


「おい! 新入りの癖に、そこに道具を置いちゃダメだろ! 一番端の隅に置きな!」

 背後から、声がした。

 振り向くと、俺より少し背が低い、目つきの悪い少年が立っていた。


「すみません、初めてで分からなくて …」

 謝って荷物を移動しようとした、その時である。


「おまえが、教官に放り投げられた時は傑作だったよな! おまけに、鼻血まで出してよ! 運動神経が鈍そうだが、そんなんで騎士になれるのか?」

 少年は、悪意タップリの目で俺を睨みつけた。


「これから、頑張ります。 よろしくお願いします」


「誰が、よろしくするかよ!」

 次の瞬間、相手は手のひらを俺の肩に当てた。俺は、不思議な力で押され尻もちをついた。


「足腰が弱え~な! よろしくって言うんなら、これから鍛えてやろう! そうだ、そこで屈伸を千回やりな!」


「何で、そんなこと …」


「つべこべ言わずにやれ!」

 今度は、不思議な力で背中を押された。
 すると、息ができなくなりしゃがみ込んでしまった。


「早く、やれ!」

 逆らっても勝てそうにない。理不尽だが、従うしかなかった。


「おい、カザフ。 何してんだ?」

 他の仲間が集まってきたようだ。俺を見て、薄ら笑いを浮かべている。
 

(とても敵わない)

 俺は、震えながら屈伸を始めた。


「何回やったか分かるように、声を出して最初からやれ!」

 カザフが、命令した。


「1回、2回、3回 … 53回、54回、55回 …」


「体が細くて、見るからに弱々しいな!」


「顔も女見てえだな。 もし女なら、俺の好みだ」


「ひん剥いて、確認するか?」


「なんか、興奮してきた」


「ワハハハ」


 連中は面白がって、俺をバカにした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

職業選択の自由なんてありません

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:2,044pt お気に入り:6

鈍い男子を振り向かせたい女子

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:852pt お気に入り:5

推理小説にポリコレとコンプライアンスを重視しろって言われても

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:1,363pt お気に入り:3

カフェへの依頼

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:468pt お気に入り:11

遺体続出(多分) ss集

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:340pt お気に入り:2

無能のフリした皇子は自由気ままに生きる〜魔力付与出来るのは俺だけのようだ〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,025pt お気に入り:1,100

処理中です...