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第2章の1 新天地

第21話 隣国の魔道士

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 俺は、木々が生い茂る森の中に横たわっていた。あの世にしては現実的な風景で、少し違和感を覚えたが、死後の世界とは、案外こんなものかと思った。


「イタッ!」

 身体を動かしたら、左肩に激痛が走る。どうやら俺は、死んでなかったようだ。

 改めて周りを見回したが、誰もいない。でも、誰かに運ばれて来たのは確かだ。

 しばらく考えていたが、身体の疲れもあり、いつしか眠っていた。


 次に目が覚めた時は、辺りがすっかり暗くなっていた。
 近くに、木々を燃やし何かを焼いている老人がいた。
 辺り一面、肉の焼ける匂いが漂っている。


「あのう」

 呼びかけたが、反応が無い。


「あのう!」

 次に、叫ぶような大声で呼びかけた。
 今度は気がついたのか、老人はこちらを見た。しかし …。
 俺は、その顔を見て驚愕した。

 くり抜かれた目の所にある2つの孔。下顎が潰れた口、まるでドクロのような顔だ。
 それは夜景と相まって、不気味で恐ろしさを醸し出す。
 恐らくは、罪を犯して拷問にでもあったのだろう。

 俺は怖くなり逃げ出したかったが、身体が動かない。このままだと食われてしまうのではないかと恐れた。
 俺には、まだ生への執着があるようだ。


(目が覚めたのか?)

 音はしないのに、男性の声が聞こえた。


「なんだ?」

 幻聴かと思った。


(助けてやったんだ。 返事くらいしたらどうだ?)

 声はしないが、俺の前にいる老人の意思が心に入ってくる。
 これまで経験した事がない不思議な感覚だ。

 老人を見ると、ドクロのような顔が笑っているようだ。それは、恐怖でしかなかった。

 老人は、俺に近づいてきた。
 そして俺の前に座ると、焼きたての肉を俺の口にあてた。


ハムッ

 意思とは裏腹に、口が勝手に開き、一瞬で食べてしまった。空腹が限界を超えていた。


(まだあるから、慌てて食わんで良い。 それより、おまえの名前は? どこから来たんだ?)


「イースと言います。 ベルナ王国から来ました …」

 音を発しない老人からの問いかけに声をだして答えてしまったが、かなり違和感がある。


(ベルナ王国は豊かだと聞いたが、なぜ国境を渡ったんだ?)


「皆に裏切られて、国を捨てたんです」

 音を発しない老人の声は、心に深く響いてくる。そのせいか、ムートで起こった辛い出来事を全て話してしまった。老人は同情するでもなく、淡々と聞いていた。
 初対面の人に対し自分の恥になる事を言えたのが、自分でも不思議だった。


 その後、俺は、老人の暮らす小屋に運ばれた。左肩のキズは結構深く化膿しており、身体が動かなかった。
 老人は、そんな俺に近づき、懐から小瓶を取り出すと、おもむろに傷口の患部に中身を注いだ。すると、白い煙とともに緑色の液体がかかり、焼かれるような激しい痛みが走った。


「ギャー」

 俺は、痛みに耐えられず、叫んだ後、気を失ってしまった。


 しかし、不思議な事が起こった。

 翌朝に目が覚めると、痛みが消え、傷口が塞がり、普通に歩けるようになっていた。

 俺は、大いに驚き感謝した。

 老人は、見た目は怖いが、心根は優しいようだ。名前を聞いたらジャームと名乗った。しかし、目をくり抜かれ下顎を潰された理由は教えてくれなかった。よほど辛い目にあったのか、触れてはいけない過去のようだ。

 彼は明らかに常人とは違った。目が見えないのに普通に歩けたり、心の中に入り込んで意思を伝えたり、緑色の液体で傷を治したりするところを見ると、魔法使いなのだと思う。
 隣国であるタント王国に、魔法使いは居ないと聞いていたが、どうやら間違っていたようだ。


「ジャームは、魔法使いなんですか?」
 

(そう畏るな、普通に話せ。 そうだな …。 魔法使いのようなものだ。 でも、こちらでは魔道士と呼んでいる。 人数は多くない。 ちなみに騎士も、こちらでは剣士と呼んでる。 剣士の人数は、それなりに多い。 ところでイースは騎士の修練をしていたと言ったが、おまえの適正は魔術だぞ。 なぜ、魔法使いを志さなかった?)


「ムートに入ると、魔法教官が、その者の適正を見極めるんだ。 魔力は少ないが陽気が多いと言われ、騎士に振り分けられた。 俺の魔力は多かったの?」


(量ではない。 瞬発力が優れているんだ。 量や強さは修行の中でレベルアップできるが、天性の瞬発力は難しい。 だから、適性があると言った。 最も、ベルナ王国とでは、修行のやり方や基準が違うのかも知れんがな)


「魔力の瞬発力って? イメージが湧かないけど、どういう意味なんだ?」


(例えば、魔力を一点に集中させると密度が濃くなり、少ない魔力でも強力となる。 そこに瞬発力が加わると、力はさらに強くなる。 これは魔力に限った話では無い。 陽気を扱えるなら、あの木を切って見なさい)

 ジャームは、前方の大木を指差した。


「さすがに、あれは無理だよ。 それに切れたとしても、大木が倒れて、ジャームの小屋が潰されてしまう」


(小屋なんて気にするな。 この剣をやる)

 そういうと、ジャームは1本の剣を俺に渡した。この剣は非常に軽く模造刀のように見える。


「この剣は、真剣なのか?」


(もちろんだ。 この剣は、陽気や魔力を通すための工夫がされている。 力任せだと、直ぐに折れてしまうぞ)


「自信がないよ。 剣を折ったらどうしよう?」


(そんな心配は要らん。 思う通りにやって見なさい)

 俺は、ジャームに言われ、剣を中断に構え、そして発勁しながら、剣を振った。


パキッ

 剣は見事に折れてしまった。

 ジャームに怒られるかとビクビクして彼を見たら、ドクロが不気味に笑っているように見えた。
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