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第2章の2 新天地
第42話 幹部の処断
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ベルナ王国の、国都での事である。
軍司令部の参謀室に、ナーシャと数名の士官が呼ばれ、ダンジョンの街での失態を厳しく詰問されていた。
「士官を15名、聖兵を33名、計48名もの貴重な兵力を失っておいて、良く平気な顔でいられるな。 そもそも、魔道士のマサンを討ち取ろうなどと、おまえ達はバカなのか? 捨ておけば良かったのだ」
「お言葉ですが、ガーラ参謀 …。 ベルナ王国が、高名な魔道士のリクルートに失敗したとなると、不名誉な事実が世間に広まり、我が国の権威が失墜します。 だから、情報を知り得た3人の抹殺を考えたのです」
ナーシャは、必死に弁明した。
しかし、側に控える士官は、只々、下を向いているだけで何も言わない。
「ナーシャ司令官よ。 ダンジョンの街に軍支部を置く事を発案したのは、おまえだったな」
「はい」
「発案した理由を、今一度、申せ」
「それは …。 ギルドから力を奪い、その益を得て、我が国の収入源とするためです」
「そうだ。 では、シモン宰相が認めた理由は分かるか?」
「国の益になると、シモン宰相もお考えになったからです」
「そうだ。 それは、おまえを信頼しての事だった。 だが、それは完全に間違いだった。 普通、ありえないほど多くの士官を …。 ムートのAクラスに在籍した30名のエリート達だぞ! その半数を失うとは …。 無能な司令官という他にない。 来たるサイヤ王国との決戦に、どれほど重要な人材であったか分かっておるのか? そなたは、ムートの統括者でもあるから、エリート人材の育成がいかに難しいか分かっておろう!」
参謀に叱責され、ナーシャの顔から脂汗がこぼれ落ちた。
「ガーラ参謀 …。 お詫びする言葉もありません。 ですが、こうなったのには、他に理由があるのです」
「なんだ、その理由とは?」
ガーラは、興味を持ったのか目を輝かせた。
「マサンの、弟子の存在です。 奴は、マサンに匹敵する魔力と剣の力を持っておりました。 当方に、予想外の戦死者が出たのは、この男がいたからなんです。 しかも、この男と通じておる者が、我が配下の士官にいた …。 まさに、不測の事態ともいえる状況でした」
「どう言う事だ? スパイが居て、してやられたとでも言うのか?」
「はい。 ガーラ参謀に尋問していただくために、そのスパイを引き連れて参りました。 おい、中へ入れろ!」
ナーシャが叫ぶと、両手を後ろ手に縛られた男が、部屋の中に引き入れられた。殴られたのか、顔がかなり腫れ上がっていた。
「こやつは、最近、小隊長として赴任したベアスといいます。 戦闘中に、マサンの弟子に向かって、親し気に何かを叫んだのです。 この事は、仲間の士官数名が目撃しており、間違いありません。 しかし、何を聞いても黙ったまま言わず、しぶとい奴なんです」
ナーシャは、目を輝かせて、ガーラを見た。
それを受け、ガーラは、興味深そうにベアスを見やった。
「ベアスとやら。 先に言っておくが、私に嘘は通用せぬぞ」
そう言って、ガーラが鋭い視線でベアスを睨みつけると、彼は小刻みに震え出した。何か、強力な魔法をかけられたようだ。かなり苦しそうである。
「マサンの弟子とは知り合いなのか?」
「いえっ …。 あっー」
一言、返事して、苦しそうに叫んだ。
「だから、嘘は通用せんと言っただろ」
ガーラは、呆れたような顔でベアスを見ると、ニヤッとした。
「はい。 5年前にムートにいた男です」
傷みは無くなったようだが、疲れたのか肩で息をしている。
「詳しく話せ」
「彼は、イースという騎士修習生でした」
「なに! イースと言ったか。 まさか …。 その男は、サーナを孕ませて居なくなったと言われたイースなのか?」
ガーラは、嬉しそうにベアスの顔を見た。まるで、親しみを感じさせるような笑顔だった。
「はい」
「面白い! 続きは喋らなくて良いぞ。 私の質問にだけ答えよ。 良いな!」
「はい」
「イースと、これまで連絡を取っていたのか?」
「いえ」
「じゃあ、いつ会った。 会った時に何を思った?」
「今回の戦闘で、5年振りに会いました。 背が高くなっていたが、顔を見て、イースだと直ぐに分かりました。 懐かしくなって声をかけてしまったのです」
「そうか、奴は生きていたか …。 タント王国に逃れていたのか」
ガーラは、嬉しそうに笑みを浮かべた。何かを企んでいるような笑顔だった。
「でっ、マサンとの関係は分かるのか? イースが、なぜ、そこまで強くなったと思う」
「マサンとの関係は分かりません。 でも …。 ムートにいる時に、イースはBクラスにいました。 元々、強かったから、マサンの弟子になり、さらに強くなったんだと思います」
ベアスが話すと、ガーラは満足げな顔をして、周りを見やった。
「今までの聞き取りで、全て分かった。 では、裁定を下す。 ナーシャ司令官は、ムートの統括も含め全ての役職を解任する。 ベアスは罪に問わず、階級は小隊長のままとする。 また、ダンジョンの街の軍支部は解散とし、その兵ら全てを、私の配下とする。 一時的に、サイヤ王国との国境付近にある軍司令部での待機を命ずる。 そこに居る士官達、直ぐに準備せよ!」
「はっ」
ガーラが、ナーシャの横に控える士官達に命令すると、彼らは一斉に返事をした。
「待ってください。 私は将軍クラスの幹部です。 私の任を解くには、国王の承認が必要です」
ナーシャが、厳しい口調でガーラに詰め寄った。
「何を、世迷言を …。 現在、幹部の人事はシモン宰相の権限であり、軍に関しては参謀である私に一任されておる。 文句があるなら、国王に申し出れば良い! 但し、伯爵の身分も奪うぞ! おとなしく領地で暮らせ!」
「申し訳ありませんでした。 どうか、お許しください」
ナーシャは、震えながら謝った。
ここに、彼女の中枢権力からの脱落と都落ちが決定した。
側に控える士官たちに、笑みが浮かんだように見えた。
軍司令部の参謀室に、ナーシャと数名の士官が呼ばれ、ダンジョンの街での失態を厳しく詰問されていた。
「士官を15名、聖兵を33名、計48名もの貴重な兵力を失っておいて、良く平気な顔でいられるな。 そもそも、魔道士のマサンを討ち取ろうなどと、おまえ達はバカなのか? 捨ておけば良かったのだ」
「お言葉ですが、ガーラ参謀 …。 ベルナ王国が、高名な魔道士のリクルートに失敗したとなると、不名誉な事実が世間に広まり、我が国の権威が失墜します。 だから、情報を知り得た3人の抹殺を考えたのです」
ナーシャは、必死に弁明した。
しかし、側に控える士官は、只々、下を向いているだけで何も言わない。
「ナーシャ司令官よ。 ダンジョンの街に軍支部を置く事を発案したのは、おまえだったな」
「はい」
「発案した理由を、今一度、申せ」
「それは …。 ギルドから力を奪い、その益を得て、我が国の収入源とするためです」
「そうだ。 では、シモン宰相が認めた理由は分かるか?」
「国の益になると、シモン宰相もお考えになったからです」
「そうだ。 それは、おまえを信頼しての事だった。 だが、それは完全に間違いだった。 普通、ありえないほど多くの士官を …。 ムートのAクラスに在籍した30名のエリート達だぞ! その半数を失うとは …。 無能な司令官という他にない。 来たるサイヤ王国との決戦に、どれほど重要な人材であったか分かっておるのか? そなたは、ムートの統括者でもあるから、エリート人材の育成がいかに難しいか分かっておろう!」
参謀に叱責され、ナーシャの顔から脂汗がこぼれ落ちた。
「ガーラ参謀 …。 お詫びする言葉もありません。 ですが、こうなったのには、他に理由があるのです」
「なんだ、その理由とは?」
ガーラは、興味を持ったのか目を輝かせた。
「マサンの、弟子の存在です。 奴は、マサンに匹敵する魔力と剣の力を持っておりました。 当方に、予想外の戦死者が出たのは、この男がいたからなんです。 しかも、この男と通じておる者が、我が配下の士官にいた …。 まさに、不測の事態ともいえる状況でした」
「どう言う事だ? スパイが居て、してやられたとでも言うのか?」
「はい。 ガーラ参謀に尋問していただくために、そのスパイを引き連れて参りました。 おい、中へ入れろ!」
ナーシャが叫ぶと、両手を後ろ手に縛られた男が、部屋の中に引き入れられた。殴られたのか、顔がかなり腫れ上がっていた。
「こやつは、最近、小隊長として赴任したベアスといいます。 戦闘中に、マサンの弟子に向かって、親し気に何かを叫んだのです。 この事は、仲間の士官数名が目撃しており、間違いありません。 しかし、何を聞いても黙ったまま言わず、しぶとい奴なんです」
ナーシャは、目を輝かせて、ガーラを見た。
それを受け、ガーラは、興味深そうにベアスを見やった。
「ベアスとやら。 先に言っておくが、私に嘘は通用せぬぞ」
そう言って、ガーラが鋭い視線でベアスを睨みつけると、彼は小刻みに震え出した。何か、強力な魔法をかけられたようだ。かなり苦しそうである。
「マサンの弟子とは知り合いなのか?」
「いえっ …。 あっー」
一言、返事して、苦しそうに叫んだ。
「だから、嘘は通用せんと言っただろ」
ガーラは、呆れたような顔でベアスを見ると、ニヤッとした。
「はい。 5年前にムートにいた男です」
傷みは無くなったようだが、疲れたのか肩で息をしている。
「詳しく話せ」
「彼は、イースという騎士修習生でした」
「なに! イースと言ったか。 まさか …。 その男は、サーナを孕ませて居なくなったと言われたイースなのか?」
ガーラは、嬉しそうにベアスの顔を見た。まるで、親しみを感じさせるような笑顔だった。
「はい」
「面白い! 続きは喋らなくて良いぞ。 私の質問にだけ答えよ。 良いな!」
「はい」
「イースと、これまで連絡を取っていたのか?」
「いえ」
「じゃあ、いつ会った。 会った時に何を思った?」
「今回の戦闘で、5年振りに会いました。 背が高くなっていたが、顔を見て、イースだと直ぐに分かりました。 懐かしくなって声をかけてしまったのです」
「そうか、奴は生きていたか …。 タント王国に逃れていたのか」
ガーラは、嬉しそうに笑みを浮かべた。何かを企んでいるような笑顔だった。
「でっ、マサンとの関係は分かるのか? イースが、なぜ、そこまで強くなったと思う」
「マサンとの関係は分かりません。 でも …。 ムートにいる時に、イースはBクラスにいました。 元々、強かったから、マサンの弟子になり、さらに強くなったんだと思います」
ベアスが話すと、ガーラは満足げな顔をして、周りを見やった。
「今までの聞き取りで、全て分かった。 では、裁定を下す。 ナーシャ司令官は、ムートの統括も含め全ての役職を解任する。 ベアスは罪に問わず、階級は小隊長のままとする。 また、ダンジョンの街の軍支部は解散とし、その兵ら全てを、私の配下とする。 一時的に、サイヤ王国との国境付近にある軍司令部での待機を命ずる。 そこに居る士官達、直ぐに準備せよ!」
「はっ」
ガーラが、ナーシャの横に控える士官達に命令すると、彼らは一斉に返事をした。
「待ってください。 私は将軍クラスの幹部です。 私の任を解くには、国王の承認が必要です」
ナーシャが、厳しい口調でガーラに詰め寄った。
「何を、世迷言を …。 現在、幹部の人事はシモン宰相の権限であり、軍に関しては参謀である私に一任されておる。 文句があるなら、国王に申し出れば良い! 但し、伯爵の身分も奪うぞ! おとなしく領地で暮らせ!」
「申し訳ありませんでした。 どうか、お許しください」
ナーシャは、震えながら謝った。
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側に控える士官たちに、笑みが浮かんだように見えた。
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