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第3章 孤独の先に
第84話 ダンジョンの最下層にて
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魔族の女性は、マサンの顔を穴が空くほど見つめた。
「なんだ! 人の顔をジロジロと見て。 魔族以外の生物を見た事がないのか? 人がそんなに珍しいか?」
マサンは、ここが何処かも分からず、しかも人ではなく魔族に出会ってしまい、物凄く苛立っていた。
「それにしても、似ているが …。 そなたは、ミレーヌ様なのか?」
魔族の女性が泣きそうなので、マサンは不思議な顔をした。
「ミレーヌって誰だよ? あたしゃ魔族じゃないぞ! 見りゃ分かるだろ」
「そうだな、ミレーヌ様のはずは無いか …。 そなたは、名前は、なんと申す?」
魔族の女性は、マサンをマジマジト見た。
「人に名前を尋ねる時は、自分から名乗るものだ。 失礼な奴だな、まったく!」
マサンは、魔族の女性に悪態をついたが、相手は怒る様子はなかった。
彼女は、良く見ると、可愛い少女のような顔立ちをしている。
頭の角と背中の翼が無ければ、多くの男性に言い寄られる事だろう。
もっとも、魔族の中で、モテモテなのかも知れないが …。
マサンがそんな事を考えていると、当の女性は、呆れたような顔をした。
「度胸があるのは褒めてやるが、それは無謀というものだ。 そなたは高魔力のようだが、我には敵わないぞ」
魔族の女性が、口を開いた直後の事である。
スシューン
言い終わらないうちに、マサンの剣が、相手の喉元付近に、鮮やかな光の弧を描いた。
惜しくも皮一枚でかわされたが、その剣撃は凄まじく、森の木々を次々に切断し、なぎ倒して行った。
会心の一撃だったにも関わらず、あっさりとかわされた事に、マサンは少し驚いた。
「ほほう、これは凄い! 剣を高次元で操れるのか …」
魔族の女性は、感心した様子で、なぎ倒された木々を見て言った。
シュンッ シュンッ シュンッ
マサンは体勢を立て直すと、今度は、足元から剣を回転させながら、何度も斬り上げた。
魔族の女性は、とんぼ返りをしながら後方に飛び下がってかわした。
「まったく、ワクワクする!」
マサンの目が輝いている。
完全にスイッチが入ったようだ。
今度は、上段から剣を振り下げると、その先端から強い光が放たれた。
「何をする!」
魔族の女性は叫んだ後、背中の翼を大きく羽ばたかせると、光が闇に吸い込まれるように消滅した。
「チッ、ダメか。 ならば …」
マサンが、剣を上げて振りかかろうとすると、魔族の女性は大きく飛び下がった。
「待て! 今の段階では、そなたと闘うつもりはないのだ。 とにかく落ち着け!」
「闘わないのか?」
マサンは、少し拍子抜けしたように声を発した。
あまりに好戦的すぎて、マサンが悪者に見えてしまう。
「いづれは戦うが、今は違う。 それより、聞きたい事があるのだ」
「いづれって? まあ、良いか …。 聞きたい事とは何だ?」
「魔王が造った魔道具を、そなたは、なぜ持っている?」
「あっ、これの事か?」
マサンは、魔法のマントをヒラヒラと掲げた。
「それだ! いったい、どこで手に入れたんだ。 事の仔細を申せ」
魔族の女性は、強い口調で心に刺さるように声を発した。
よほど、知りたいようだ。
「わかった。 教えてやるが、その前に、ここが何処か言え!」
相手の興奮したようすを見て、マサンは交換条件にできると考えた。
「本当に、何処か分からないのか?」
「ああ、分からないから聞いている。 それから、名前も名乗れ!」
「私は、魔王の直属配下、タルガと申す。 此処は、ダンジョンの最下層だ」
「最下層と言うと、地下543階層なのか?」
「そうだ。 人で到達したのはジャームだけと思っていたが …。 なぜ、最下層が地下543階層だという事を知ってる?」
「そのジャームから、ダンジョンの最下層の話を聞いたのさ。 おまえが、私の事をジャームの弟子と言ったのを、忘れたのか?」
「魔王が造った魔道具を、ジャームが持ち去ったから …。 それを持っている、そなたを、弟子と思ったのさ」
「ああ、その通り。 私は、ジャームの弟子のマサンだ。 何か、文句があるか!」
「師匠のジャームは、今、どうしている?」
けんか腰のマサンに対し、タルガは冷静だった。
「ジャームは、6年も前に亡くなった。 それより、私を地上に戻せるか。 敵対する女に、ここへ飛ばされたんだ」
「違うぞ。 空間に魔王の雰囲気を感じたので、それを、我が、たぐり寄せたのだ」
「ここまで、飛ばされた訳じゃなかったのか?」
「ここまで飛ばせる人など、存在しないさ。 それにしても、最初に飛ばした相手の混乱した思念を感じたが …。 そなたが相手では、無理もないか」
タルガは、面白そうに笑った。
「何を笑っている。 私を、ここへ誘導したなら、地上に戻せるだろ。 痛い目を見たくなかったら、直ぐに地上へ送れ!」
「弱いくせに、口だけは達者な奴よ。 そのマントを返せば、送ってやろう。 どうだ?」
「このマントは、魔族には効かないようだから返してやる。 だから、私を地上へ戻せ」
「地上、地上と、しつこい奴よ …」
タルガが、片足で強く地面を蹴った瞬間、大きな地響きが起こった。
咄嗟に、飛び下がったマサンが着地すると、なぜか暗闇の岩場に立っていた。
眼下には、街の灯りが見える。
「あのタルガっていう女、私を何処に飛ばしたんだ? あっ、いつの間に …」
手元を見ると、魔法のマントが消えている。
マサンは、口角を上げて笑った。
「なんだ! 人の顔をジロジロと見て。 魔族以外の生物を見た事がないのか? 人がそんなに珍しいか?」
マサンは、ここが何処かも分からず、しかも人ではなく魔族に出会ってしまい、物凄く苛立っていた。
「それにしても、似ているが …。 そなたは、ミレーヌ様なのか?」
魔族の女性が泣きそうなので、マサンは不思議な顔をした。
「ミレーヌって誰だよ? あたしゃ魔族じゃないぞ! 見りゃ分かるだろ」
「そうだな、ミレーヌ様のはずは無いか …。 そなたは、名前は、なんと申す?」
魔族の女性は、マサンをマジマジト見た。
「人に名前を尋ねる時は、自分から名乗るものだ。 失礼な奴だな、まったく!」
マサンは、魔族の女性に悪態をついたが、相手は怒る様子はなかった。
彼女は、良く見ると、可愛い少女のような顔立ちをしている。
頭の角と背中の翼が無ければ、多くの男性に言い寄られる事だろう。
もっとも、魔族の中で、モテモテなのかも知れないが …。
マサンがそんな事を考えていると、当の女性は、呆れたような顔をした。
「度胸があるのは褒めてやるが、それは無謀というものだ。 そなたは高魔力のようだが、我には敵わないぞ」
魔族の女性が、口を開いた直後の事である。
スシューン
言い終わらないうちに、マサンの剣が、相手の喉元付近に、鮮やかな光の弧を描いた。
惜しくも皮一枚でかわされたが、その剣撃は凄まじく、森の木々を次々に切断し、なぎ倒して行った。
会心の一撃だったにも関わらず、あっさりとかわされた事に、マサンは少し驚いた。
「ほほう、これは凄い! 剣を高次元で操れるのか …」
魔族の女性は、感心した様子で、なぎ倒された木々を見て言った。
シュンッ シュンッ シュンッ
マサンは体勢を立て直すと、今度は、足元から剣を回転させながら、何度も斬り上げた。
魔族の女性は、とんぼ返りをしながら後方に飛び下がってかわした。
「まったく、ワクワクする!」
マサンの目が輝いている。
完全にスイッチが入ったようだ。
今度は、上段から剣を振り下げると、その先端から強い光が放たれた。
「何をする!」
魔族の女性は叫んだ後、背中の翼を大きく羽ばたかせると、光が闇に吸い込まれるように消滅した。
「チッ、ダメか。 ならば …」
マサンが、剣を上げて振りかかろうとすると、魔族の女性は大きく飛び下がった。
「待て! 今の段階では、そなたと闘うつもりはないのだ。 とにかく落ち着け!」
「闘わないのか?」
マサンは、少し拍子抜けしたように声を発した。
あまりに好戦的すぎて、マサンが悪者に見えてしまう。
「いづれは戦うが、今は違う。 それより、聞きたい事があるのだ」
「いづれって? まあ、良いか …。 聞きたい事とは何だ?」
「魔王が造った魔道具を、そなたは、なぜ持っている?」
「あっ、これの事か?」
マサンは、魔法のマントをヒラヒラと掲げた。
「それだ! いったい、どこで手に入れたんだ。 事の仔細を申せ」
魔族の女性は、強い口調で心に刺さるように声を発した。
よほど、知りたいようだ。
「わかった。 教えてやるが、その前に、ここが何処か言え!」
相手の興奮したようすを見て、マサンは交換条件にできると考えた。
「本当に、何処か分からないのか?」
「ああ、分からないから聞いている。 それから、名前も名乗れ!」
「私は、魔王の直属配下、タルガと申す。 此処は、ダンジョンの最下層だ」
「最下層と言うと、地下543階層なのか?」
「そうだ。 人で到達したのはジャームだけと思っていたが …。 なぜ、最下層が地下543階層だという事を知ってる?」
「そのジャームから、ダンジョンの最下層の話を聞いたのさ。 おまえが、私の事をジャームの弟子と言ったのを、忘れたのか?」
「魔王が造った魔道具を、ジャームが持ち去ったから …。 それを持っている、そなたを、弟子と思ったのさ」
「ああ、その通り。 私は、ジャームの弟子のマサンだ。 何か、文句があるか!」
「師匠のジャームは、今、どうしている?」
けんか腰のマサンに対し、タルガは冷静だった。
「ジャームは、6年も前に亡くなった。 それより、私を地上に戻せるか。 敵対する女に、ここへ飛ばされたんだ」
「違うぞ。 空間に魔王の雰囲気を感じたので、それを、我が、たぐり寄せたのだ」
「ここまで、飛ばされた訳じゃなかったのか?」
「ここまで飛ばせる人など、存在しないさ。 それにしても、最初に飛ばした相手の混乱した思念を感じたが …。 そなたが相手では、無理もないか」
タルガは、面白そうに笑った。
「何を笑っている。 私を、ここへ誘導したなら、地上に戻せるだろ。 痛い目を見たくなかったら、直ぐに地上へ送れ!」
「弱いくせに、口だけは達者な奴よ。 そのマントを返せば、送ってやろう。 どうだ?」
「このマントは、魔族には効かないようだから返してやる。 だから、私を地上へ戻せ」
「地上、地上と、しつこい奴よ …」
タルガが、片足で強く地面を蹴った瞬間、大きな地響きが起こった。
咄嗟に、飛び下がったマサンが着地すると、なぜか暗闇の岩場に立っていた。
眼下には、街の灯りが見える。
「あのタルガっていう女、私を何処に飛ばしたんだ? あっ、いつの間に …」
手元を見ると、魔法のマントが消えている。
マサンは、口角を上げて笑った。
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