【神とも魔神とも呼ばれた男】

初心TARO

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第3章 孤独の先に

第90話 パウエルの指令

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 マサンは、結晶体をマジマジと見た。限りなく透き通る透明の中に、まるで生きているかのような姿で2人の女性が立っている。

 年配の女性は、恍惚とした表情で微笑んでおり、その前に立つ若い女性は、後方を守るかのように手を広げ、美しい顔を怒りで歪め、前方を睨んでいた。
 
 マサンは、周囲を注意深く確認した。
 岩盤が溶けている状況を考えると、超高温の風炎が一体の岩盤を吹き飛ばしたようで、その結果、大空間ができあがったと思われる。
 不思議な事に、透明の結晶体は、全くもって無傷だった。


「高魔力による、極大魔法の攻撃があったようだ。 それにしても、この風炎に耐えうる結晶体とは …。 ありえない材質だ。 しかも2人は、なぜ、この中にいるんだ?」

 驚きを声にした後、マサンは、ポーチから2本の長剣を取り出すと、無表情で素振りを始めた。
 一方から炎が、もう一方からは冷気が、激しく吹き出している。

 気合いをいれて精神統一した後、2本の剣を上段に構え、結晶体の上部を目掛け渾身の力をもって斬りつけた。


ドドッガキーンン!!!!!


 魔石鉱山全体が振動し、その揺れは遥か離れたベルナの国都へも伝わった。

 しかし、渾身の一撃にも関わらず、剣が弾かれる感触があったため、マサンは素早く飛び下がった。
 手元を見ると、冷気を吹き出す剣が見事に折れていた。


「なんという硬さだ! この剣が折れるなんて、あり得ない …」
 
 大地を揺るがすほどの威力で、斬りつけたにも関わらず、結晶体にはキズひとつなかった。

 マサンは、驚愕の表情を浮かべ、ポーチから違う剣を取り出した。そして、再び、結晶体に近づいた。
 今度は、結晶体ではなく、その下の岩盤を狙って斬りつけた。


「良し、これで切り離せる」

 マサンが強く蹴り飛ばすと、結晶体が横倒しになった。


「非常に興味深い物だ。 持ち帰って調べよう」

 そう言うと、マサンはポーチの口を近づけ、結晶体を収納した。


◇◇◇


 マサンが造った亜空間でのこと。
 ベスタフが、通信用の小さな水晶の中に光が輝いている事に気付いた。
 彼は、イースからの連絡と思い水晶を操作した。


「イースか? そっちはどうだ?」

 しかし、相手はイースではなかった。
 そして、思いがけない人からの連絡で、再び、驚いた。


「あっ、マサン殿ではないですか?」


「ベスタフなのか? なんで、そこにいるんだ? それはそうと、イースとメディアはどうした?」


「メディアは、狩りに出てるんだよ。 いろいろあって、俺は、マサン殿が造った亜空間で、彼女と暮らしているんだ。 それで、イースはアモーン商会を介して、傭兵としてサイヤ国軍に派兵されてる」


「アモーン商会って、あの得たいの知れない女が社長の会社か? アモーンは魔族って噂があるが、あの怪しいアモーン商会か?」


「そうです。 あのアモーン商会なんです …」


「なんで、そんな事になってる? そもそもだが、兄弟子のワムの所に行ったんじゃなかったのか?」


「それが …。 ワムから逃げて来たんです」


「何だそりゃ?」

 マサンは、訳が分からず呆れたような声を出した。

 そこで、ベスタフは、これまでの経緯をマサンに全て説明した。
 彼女は、とんでもない状況を聞いて、かなり驚いていた。

 また、マサンも別れてからの経緯をベスタフに伝えると、こちらも、かなり驚かれた。

 イースは、マサンとやり取りができる水晶を亜空間に置いて行ったため、直接連絡ができなかった。
 それで、マサンは、これまでの経緯をベスタフからイースに伝えてもらう事にした。


◇◇◇


 俺は、マサンが無事だと聞いて、心底嬉しかった。
 彼女に直接連絡できる水晶がなくて、亜空間のベスタフ達からの経由となったが、それでも安心感が得られた。
 マサンによると、アモーン商会は一筋縄に行かない怪しい組織だという。それで、アモーンと繋がっているパウエルには、決して気を許すなと言われた。
 だから、メディアがベルナのベネディクト王を隷属できることは、明かさなかった。

 傭兵としての生活が厳しい分、俺は、何かにつけて水晶を覗くようになっていた。
 そんな事を繰り返していたせいか、いつしか、周囲から怪しまれ、目を付けられるようになってしまった。

 そんな中、俺はパウエルに呼ばれた。
 彼とは、初日に会って以来だ。
 自分は、パウエルの親衛隊に配属されているため、彼が絶対の存在となる。
 普段は、隊長のヒュウガの指示で動いていたが、今日は、絶対の存在に直接呼ばれた。

 絶対の存在といっても、俺にとってパウエルは主君でもなんでもない。
 ベスタフが呪い虫を飲まされた弱みがある事や、ベルナ王国を倒すという共通の目的があるから、結びついているだけだ。


 俺は、垂直の岩山を登り、洞窟の奥にあるパウエルの部屋に入った。
 隊長のヒュウガも居らず、一対一である。


「イース、我が隊の居心地はどうかね? 困った事はないか?」


「いえ、特に問題はありません」

 俺が答えると、パウエルは口許を少し緩めた。


「私の親衛隊に配属された者には、様々なミッションが待ち受けている。 それだけに、私が認める実力者でないと務まらない。 君に使命を与えたいが良いか?」


「断るつもりはありません。 どのような使命ですか?」


「3傑の一人である、ビクトリア将軍の暗殺だ。 この使命を果たせたら、ベスタフとやらの10億シーブルの借金を、私が肩代わりしよう」

 パウエルは、表情を変えず、事も無げに言い放った。
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