【神とも魔神とも呼ばれた男】

初心TARO

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第3章 孤独の先に

第107話 エジプサン共和国にて

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 ところ変わり、最南端の大陸にある、エジプサン共和国でのことである。
 小さな港町の一角に白い3階建てのビルがあり、看板にはアモーン商会と書かれていた。

 口髭を生やした初老の男性が、看板を見つめている。
 そして、中に入ると、男性は当然のような顔をして、しかも高圧的に社長のアモーンを出せと大声で怒鳴った。

 あまりの声の迫力に、事務所内は騒然となった。
 しかし、どこにでも腕っぷしに自信のある者がいる。


「おいっ、ジジイ! 社長に会わせろとは何様のつもりだ。 ここは、素人の客はお断りなんだ。 それともギルドカードでもあるのか?」

 カウンターの近くに居た、ヒゲ面で身体のデカい男が、初老の男性に負けないほどの大声で言い返した。


「あっても、おまえのような虫けらに見せる理由はない!」


「何だとジジイ! まあ良い …。 さっさと帰りな!」

 ヒゲ面の男は、少し呆れた顔で初老の男性を見た。

 
「我は、おまえに用はない。 アモーンを出せと言っているのが分からんのか?」


「おい、ジジイ! 痛い目にあわす …」

 ヒゲ面の男が言い終わらない内に、彼は、突然、白目をむいて失神した。
 口から、ブクブクと泡をふいている。

 フロア内は、騒然となった。

 この騒ぎを見て、上役の者が駆けつけて来た。


「あっ、あなた様は …」

 初老の男性を見ると、上役の男の顔が見る見る青ざめていく。


「我を知っているのか?」


「いえ …」

 男の顔から、汗がしたたり落ちた。


「おまえは、このフロアの責任者か?」


「はい。 副社長のザブリンと申します。 直ぐに社長をお呼びしますので、しばらくの間、こちらでお待ちください」

 ザブリンは、初老の男性をカウンターの中に招き入れると、奥の部屋に通し、豪華なソファーに座るように促した。
 そして、足早にどこかに走り去った。


 3階まで一気に駆け上がったため、ザブリンは肩で息をしている。
 そして、社長室の前で立ち止まり、ドアをノックした。


「入れ」

 中から女性の声がした後、ザブリンはドアを開けて中に入った。 


「社長、大変です」


「ザブリン、血相を変えてどうした?」


「それが …」


「どうした、早く言え!」


「魔道士のワムが、社長に会わせろと言って来ております。 一階のソファーで待たせていますが、いかがいたしましょう?」


「エッ、ワムが来ただと? 私は外出して不在だと言え!」


「そのような嘘が通用する相手では …」


「バカ者、私は、これから直ぐに逃げる。 ここへは戻らないから、あとはザブリンに任せたぞ!」

 いつもの余裕はどこへやら、アモーンはかなり焦っているようだ。
 彼女は、ザブリンに言いつけた後、一人、奥にある別室に駆け込んだ。


「どうして、ここが分かったのだ? 落ち着け!」

 アモーンは、自分に言い聞かせた。怯えるような様子は、まるで別人のようだ。

 彼女は、窓の前に立って外を見た。
 大小の船が見え、のどかな港町の景色が広がっている。
 
 アモーンは、何やら呪文を唱え始めた。
 すると、不思議なことに、窓から見える景色が、港町から一変して深い森に変わった。


「おい! 客が来ているのに、どこへ行くつもりだ?」

 背後の声を聞き、アモーンの肩がビクッと跳ねた。
 いつの間にか、ワムが部屋の中に入っていた。

 アモーンは、バツが悪そうに後ろを振り返る。


「これは …。 魔道士のワム様。 サイヤ王国にいらっしゃるはずが、このような所にいらして、突然、どうされたのですか?」

 アモーンは、いつになく女性らしく可愛らしい声を出した。
 しかし、尖り帽子を深く被っているため、その表情は見えない。


「我は、サイヤ王国の役職を罷免されたぞ。 とぼけんでも、パウエルから連絡があっただろうが! ワハハハハ」

 ワムは、突然、大声で笑い出した。
 普通なら、場違いな雰囲気にドン引きするところだが、アモーンの様子は少し違っていた。
 尖がり帽子を深く被っていて表情は見えないが、身体が小刻みに震えており、どこか怯えているようだ。


「そなたとは …。 はて、何年振りだったかな?」

 ワムは、懐かしそうに少し目を細めた。 


「はい。 ワム様と最後にあったのは、娘が7歳の時ですから、かれこれ16年になりましょうか?」


「そうか、早いものだな。 して、そなたはパウエルと通じて何を企んでおる?」


「パウエルと通じてなど …。 私の心は、ワム様のものです」


「じゃあ、久しぶりに顔を見せよ」


「はい …」

 アモーンは、ワムに言われるままに、尖がり帽子を脱いで顔を晒した。

 髪は金色で長く、とても美しい顔立ちをしている。
 高圧的な態度から想像できないほどに、目は優し気で思わず引き込まれてしまうような美貌であった。
 そして、注目すべきは、頭頂部に一本の角がある。
 それは、明らかに魔族のしるしだった。 


「アモーンよ。 我は、そなたが心変わりしようと、他の者と一緒になろうと、どうでも良いのだ。 しかし、我を蔑ろにすることは許さぬぞ」

 そう言うと、ワムの目が赤く光った。


「ヒッ!」

 アモーンは、小さく悲鳴をあげた。


「図星か?」


「違います! 魔王直属幹部のタルガに粛清されようとしていた私を、ワム様は助けてくださりました。 それに、子種まで授けていただき、御恩はあれど裏切るなぞ、とんでもないことです。 どうか、私を信用してください」

 過去において、2人に何があったか分からないが、上下関係がハッキリしているようだ。
 アモーンは、縋るような目でワムを見つめた。
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