【神とも魔神とも呼ばれた男】

初心TARO

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第3章 孤独の先に

第111話 深い暗闇の中で

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 深い暗闇の中、紫色のおぼろげな光が、俺を包み込んでいる。
 確かに自分ではあるが、違う何かに生まれ変わりつつあるような、不思議な感覚を覚えていた。
 それは、身体の中から込み上げ、血が沸騰するような、今までに経験したことがない、全てを超越するような、圧倒的な存在に思えた。

 しかし、それは、まだ覚醒しておらず、産まれたばかりの赤子のように制御できない。

 俺は、そのまま動けずに、同じ場所に立ち尽くしていた。
 
 
 そういえば …。

 薄れる意識の中で思い出していた。
 こうなる前に、自分は、間違いなくイースであったことを …。


 ビクトリアを斬った時から、何かが変わった気がする …。
 この手に残る嫌な感触と、耳に残る鈍い音が生々しい。
 封印したはずの、彼女との楽しかった思い出が、湯水のように沸きあがり、なぜ、こんな気持ちにさせるのか、自分でも理解できなかった。


 しかしながら …。

 ベアスが話しかけてきたようだが、彼と何を話したのか思い出せない。

 ビクトリアへの恨みや贖罪の意識さえも、時間とともに、急速に薄れつつあった。
 今は、彼女の亡骸が何処かに消え失せたことさえ、どうでもよくなっていた。
 
 何が、俺の心を変化させているのか?
 

 今なら、それが分かる。

 この空間の中の何かが、俺を変化させているのだ。
 この変化は、俺の思考さえも制御する。

 だから、何もかもがどうでもよくなった。
 それは、ベルナ王国で生きる意味を失い、タント王国へ逃れた時に、倒れ伏した状態に似ている。

 はるか彼方から懐かしい声が聞こえてくる。
 とても安心できる声だ。
 その声は、目が眩むような光に包まれて、心の中に押し寄せてくる。

 それを聞いていると、喜怒哀楽が消失し、心地よい脱力感が大きくなるように思えた。

 その声は、愛する者を守れなかったことを悔いていた。
 とても懐かしい声であったが、誰なのか分からない。

 俺は、次第に、その声に支配されつつあった。


◇◇◇


 その頃、マサンは深い闇の中を、駆け抜けていた。


「なんだ、これは?」

 神々しく異質な波動が強くなって行くに従い、次第にポーチの中の何かが強く反応をはじめた。
 普段であればポーチの中を確認するのだが、今回は、急いでいたため放置した。

 異質な波動が強くなるに従い、二人の女性が閉じ込められた、結晶体があった大空間に近づいて行く。
 そんな中、突然、桁外れに強い魔力の波動が出現した。
 それは、人でも魔族でもない。  
 間違いなく、魔獣が発するものであった。


「こんな魔力を持つ魔獣が存在するのか? ホロブレス級の大きさだぞ …。 この魔獣を回避して、先に進めるだろうか?」

 マサンは呟いた後に、苦悶の表情を浮かべた。
 しかし、その不安とは裏腹に、まるで彼女を獲物とするかのように、大きな波動が近づいてくる。

 マサンは、魔杖を取り出して掲げ、空中に魔法陣を出現させた。
 それと同時に、自分を強い結界で包んだ。

 マサンが待ち構えていると、突然、目の前に一人の幼い少女が現れた。
 この少女からは、魔力を感じられない。
 こんな場所に少女がいるのは、あり得ないことなのだが、なぜか、何かに魅いられているかのように、マサンは注意を怠った。
 
 
「どうしたの?」

 マサンが心配して尋ねると、少女は縋るような目で見つめ返してくる。
 

「長い間、一人きりで暗いお部屋から出られなかったの …」

 マサンは、少女の話を聞いて、酷く心を痛めた。
 孤児であったマサンは、不遇な境遇の少女を放っておけなかった。
 マサンは、抱きしめようと両手を広げ、結界を外した。

 少女がマサンに近づこうとした、その時である。

 少女の目が赤く光を放った。
 その直後、マサンの胸に強い痛みが走り、血が飛び散った。
 ごく細い棘のような物で突き刺したのだ。
 
 マサンは、一瞬で飛び下がり、ポーチからポーションを取り出して、一気に飲み干した。
 一応、傷は塞がったが、内部が痺れている。


「毒のようだ」
 
 マサンは、苦悶の表情を浮かべ、前方を見た。

 そこには少女の姿はなく、白い触手のような、ウネウネとした物が動いており、その先には大きな魔力を感じる本体がいた。


「すっかり、奴の術中にはまってしまった。 傷は癒えたが毒が抜けるのに時間がかかる。 それでも、殺るしかない …」

 マサンは、魔杖を掲げ無数の光の矢を出現させ、先に潜む魔獣に向けて放った。
 大きな爆発音がして辺りの岩盤が崩れると、白くぬっペリとした人の形をした魔獣が出現した。
 顔に目鼻がなく、口だけが笑っている。


「あれは、古の魔獣ビャクレンだ。 ホロブレスの時もそうだが、なぜ、突然、現れるんだ? 毒が回っている状態で勝てる相手ではない。 移動魔法で逃げるしかない …」

 マサンが魔方陣を足元に出現させると、その姿が一瞬で消えた。


「置いて行かないで!」

 魔獣の口が開き、少女の声がすると、その姿も消え去った。

 マサンは、必死で逃げた。
 そして、大規模な地下空間に辿り着いた。

「ビャクレンは、魔獣といっても極めて知的レベルが高く、魔法を駆使する」

 マサンは、歯を喰い縛った。
 毒がまわり痺れが激しくなる中、ビャクレンが追ってくる気配を感じていた。

 絶望感に苛まれる中、ふと、遠くを見ると、紫色のオーラを纏う一人の若い女性を見つけた。
 水晶体を採取した場所に、立ち尽くしていたのだ。
 
「あれは、イーシャだが …。 イースが魔法のマントで女になっているのか? でも、なぜか異質な波動を感じる …」

 腑に落ちない点はあったが、イースに会えて嬉しかった。
 しかしながら、古の魔獣が近づいていることに対し、マサンは焦りを感じていた。

 その時である。
 ポーチの中の、何かが強く光を放った。
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