【神とも魔神とも呼ばれた男】

初心TARO

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第3章 孤独の先に

第112話 魔獣ビャクレン

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 ポーチが光るのを見て、マサンがその中を確認しようとした時、目の前に白くぬっペリとした人の形をした魔獣が出現した。
 彼女を追いかけて来た、古の魔獣ビャクレンである。
 目鼻がない顔の中で、口だけが笑っている。
 
 不気味な、その姿を見ていると、吸い込まれてしまうような錯覚を覚える。
 マサンは、血が出るほどに唇を噛みしめ、不安な心を打ち消した。

 しばらくすると、ビャクレンは口を閉じ、プルプルと震え始めた。
 次第に、身体がウネウネと脈打ち、その触手が、先ほどの幼い少女の姿に変化している。


「お姉さん、私を助けて …」

 相手が魔獣と知りながらも、マサンの心は揺れた。
 何らかの方法で、精神に入り込み作用しているようだ。
 おまけに、毒の影響で身体の痺れもある。

 危機感を覚えたマサンは、飛び下がり距離をとるとともに、剣を取り出そうとポーチに手をかけた。

 その刹那、ポーチから光る物が飛び出して、イーシャの姿をしたイースの頭上に静止した。
 光の正体は、ここで採取した水晶体で、空中で輝いている。
 その異様な光景に、何が起こるのか気になったが、目の前の敵を見ると、それどころではない。

 マサンは、ビャクレンに向かって、長剣を構えた。


シャーッ!!!

 ウネウネとしながら、少女の身体から無数の触手が伸びてくる。
 その異様な光景は、不気味でしかない。

 無数の触手は、物凄いスピードでマサンの身体を貫こうとした。


ザシュ


 マサンは、体を捌いて回避すると同時に、剣で触手を斬り払った。
 彼女は、魔道書を熟知しており、そこに書かれていたビャクレンのことを把握している。
 ビャクレンは、知的レベルが極めて高く、その行動は戦略的である。
 また、魔獣でありながら、あらゆる魔法を駆使する。
 他に恐ろしい性質として、相手の魔力を吸収し自分のものとすることができた。
 ビャクレンは、古の世界で魔王に敗れ、強力な結界により封印されたという。
 それが、なぜ出現したのか?
 大いなる謎であった。
 
 マサンは、ビャクレンを改めて見た。
 剣による切断箇所は、瞬時に回復し、新しい触手が生えてウネウネと動いている。

 相変わらず、目鼻がない顔の中で口だけが笑っていた。
 マサンは、目を逸らした。
 あの口が、人の心を惑わすように思えたからだ。
 

「あの触手は、斬っても意味がない。 奴には、魔力吸収能力があるから強い魔法は使えない。 それなら …」

 マサンは、小さく呟くと魔杖を高く掲げた。


ビューン


 白い光が触手を飛び越え、ビャクレンの身体を包み込んだ。
 強力な多重結界である。
 それを一気に萎ませて潰そうとした。
 ビャクレンを閉じ込めた結界は、小さくなりながら空中に静止している。

 マサンは、しばらくの間、その様子を注意深く観察していた。

 
ピシンッ!!!


 結界から、無数の鋭利なトゲが飛び出して、辺りの物を突き刺した。
 当然、マサンのところにも襲ってきたが、彼女はそれを長剣で薙ぎ払った。


 ボムッ!!!


 結界が、鈍い音とともに破裂した。


「やはりダメか …」

 マサンは落胆した。
 また、身体の痺れのせいか、いつものような戦闘モードに入れない。

 ビャクレンを見ると、白くぬっペリとした姿に戻っており、唯一ある口がへの字に歪んでいる。
 そして、その口がゆっくりと開いた。


「おまえが、我の封印を解いたのか?」

 ビャクレンは攻撃を中断し、マサンに問いかけてきた。


「私ではない。 反対に聞くが、なぜ、封印されていたのだ?」

 マサンは、魔道書によりビャクレンに関する知識はあったが、敢えて聞いてみた。


「ドグラマグラに全てを封じられ、眠らされていたのだ」

「ドグラマグラとは?」


「魔王に決まっておろう」

 ビャクレンの話を聞いて、マサンは興味深そうに目を輝かせた。

 魔王は、魔道書により多くのことを書き記したが、自らのことは秘匿とした。
 だから、マサンは魔王の名前を知らなかった。


「我が目覚めたということは、魔王は死んだのか?」

 ビャクレンの声が 弾んだ。
 目がないため表情を伺えないが、嬉しそうである。


「いちいち五月蝿いぞ、ビャクレン!」


「おまえは、なぜ、我の名を知っている? 魔族には見えないが …。 さては、神の眷属なのか?」


「この私が、神の眷属に見えるのか? 見る目がないぞ!」

 マサンは、大袈裟に笑った。


「生意気な奴よ …。 そうか、分かったぞ! 魔族が人に化けておるのだな!」

 ビャクレンの口が、より大きく開いた。


「私は人だよ! 魔獣の分際で生意気な奴だ!」

 マサンは、ビャクレンを、わざと挑発した。


「我に向かって魔獣の分際だと? おまえは …。 その強さで人と申すのか? それに …。 虫けらに我の名を知る術はないはず …。 ヒャハハ、これは面白い!」

 ビャクレンは、口角を上げて笑った。


「お喋りな魔獣だな! その口を捻り潰すぞ!」

 マサンが、悪態をついたその時である。
 背後に、一瞬だが、物凄い殺気を感じた。
 ビャクレンも感じたようで、その方向を見ている。


「これは驚いた …。 強い神の気配を感じるぞ。 ムハハハハハ!」

 ビャクレンの口が裏返るほどに開くと、薔薇の棘のような無数の牙が見えた。しかも、その牙がウネウネと動いている。
 

 マサンとビャクレンが注目する先には、美しい女性が全裸で立っていた。
 その表情は、どこか虚ろげだ。


「イーシャの姿だが? あれは、イースなのか?」

 マサンは、思わず呟いた。
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