クリスタルの夢

RIKO

文字の大きさ
3 / 42
第2話 夜空に生まれた月の種

2.逃げたお月さま

しおりを挟む
 お姉ちゃんが、ガスレンジに火をつけると、フライパンの中で、ボコボコと、水のにたつ音がきこえてきました。
 ナツキは、その様子をじっと、見ていましたが、そのうち、お月さまが、かわいそうになってしまいました。

 だって、もし、ナツキがお月さまだったら……流れ星やほうき星、そんな楽しい仲間たちの元から、あっという間に、さらわれて、フライパンで焼かれてしまうなんて、それって、とてもひどいことです。 
 焼かれてしまった、お月さまは泣くでしょう。ナツキは悲しくてたまらなくなってしまいました。

「ダメッ! お姉ちゃん、お月さまを焼いちゃ!」

 でも、もう遅いのです。お月さまは、焼けあがった後でした。

「お月さまを焼いてって、いったのは、ナッちゃんでしょ。さぁ、こんがり焼けたお月さまを見せてあげる……あららっ?」

 夜空いっぱいに広がった、重苦しい雲のすきまから、雨がこぼれだしたのは、その時でした。やがて、それは長くて強い水の束になって、大空からいっせいに落ちてきました。すると、お姉ちゃんの態度までが変わってしまったのです。

「ナッちゃん、お月さまが焼けるのに、もう一日くらいかかるみたい。お月さまって大きいから」

 お姉ちゃんはそういうと、お月さまの入ったフライパンをガスレンジの下に、そそくさと、かたづけてしまいました。
 そして、夜がふかまるとともに、雨はしだいに、強さをましてゆくのでした。

「お月さまをとられちゃって、きっと、お空が泣いてるんだ……」

 この日は、ナツキまでが、泣きたい気分の夜でした。

 *  *

 次の日は、とてもいいお天気になりました。
 ナツキは、焼けたお月さまを早く見たくて、見たくてたまりません。けれども、お姉ちゃんは、日が暮れても、なかなか、学校からもどって来ません。

「ええいっ、先に見ちゃえ」

 ナツキが、フライパンをガスレンジの下から、引っ張り出して、フタをとってみると……

「あっ、ないっ!?」

 なかったのです。昨日、たしかに、お姉ちゃんが焼いたはずのお月さまが、影も形も。
 その時、

「ナツキっ、ダメじゃないのっ!」

 お姉ちゃんが、台所にとびこんできました。

「あ~あ、お月さまが空へ逃げちゃった。今日、ナツキと二人で、お味見しようと思っていたのに」

 窓の外を指した、お姉ちゃんの人差し指の向こうには、ピカピカの明るいお月さまが、輝いていました。

「じゃあ、お月さまは、空へ帰れたんだ」

 ナツキは、うれしくなってしまいましたが、お姉ちゃんは、うすら笑いを浮かべていいました。

「でも、あのお月さまは、おいしく焼けた後だから、お星さまたちに食べられちゃうかもね」

「え……、お星さまは、そんなことしないよ」

「お星さまにもね、食いしん坊な星がいるのよ。しし座とか、大ぐま座とか」

 また、不安がナツキの心に広がってゆきました。それにしても、お姉ちゃんは意地悪です。にやりと笑うお姉ちゃんは、本当の魔女みたいだと、ナツキは思うのでした。

 


   ~3. お姉ちゃんとお月さま ~ に続く

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

たったひとつの願いごと

りおん雑貨店
絵本
銀河のはてで、世界を見守っている少年がおりました。 その少年が幸せにならないと、世界は冬のままでした。 少年たちのことが大好きないきものたちの、たったひとつの願いごと。 それは…

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@1/9新刊発売
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

処理中です...