ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林

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三章

13話 ミーコ

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 ──新種の家畜(魔物)を増やしたり、畑を大きくしたり、食糧の備蓄を増やしたりと、順風満帆な牧場生活をしていたある日の事。

 俺たちの牧場に、見慣れない獣人の少女がやって来た。……何故か、コカトリスのマックに咥えられて。

 マックとは、この牧場で最初に魔物化したコケッコーの名前だ。こいつは最終的に、体長が五メートル程もあるコカトリスに進化したので、ダンジョンに入ることが出来なくなり、最近は活躍の機会がめっきりと減っている。

「にゃああああああああっ!! 離せっ、離すのにゃあ!! みゃーを誰だと思っているのにゃ!?」

 夏が終わって、心地の良い秋の風が吹く中──。快晴の青空の下、牧草の上でのんびりしていた俺とルゥは、マックが咥えて来た騒がしい少女に目を向ける。

 そいつは濃紺色の髪と、澄んだ群青色の瞳を持っており、頭には豹らしき獣の耳が生えていた。首元まで伸びている髪には天然のパーマが掛かっており、猫っぽい瞳はアーモンドの形になっている。

 背丈はモモコと同じくらいで、細身の身体としなやかな四肢は、走ることに特化しているように見えた。……だが、臀部だけは大きいので、そこが重りになっていそうだ。

 そんな臀部から生えている豹らしき獣の尻尾は、髪や耳と同じ濃紺色で、豹は豹でも色艶が良い黒豹といった印象を受ける。俺は初めて見る種族だが、外見的特徴から察するに、この少女は豹獣人なのだろう。

 少女が着ている衣服は、若草色の民族衣装を軽めにアレンジしたもので、丈が非常に短いズボンを履いていた。獣っぽさは耳と尻尾だけで、特に毛深い訳でもなく、剥き出しの白い美脚が眩し──いや、脛から爪先が見るからに石になっている。

 コカトリスは触れたものを石化させる息を吐けるので、それにやられたのかもしれない。

「……ミーコ。おひさ、元気?」

「にゃあっ!? お、お前はっ、ルゥルゥ!? 最近狩場で見にゃいと思ったら、こんにゃところで何してるのにゃ!?」

 ルゥに『ミーコ』と呼ばれた少女は、ルゥの姿を見て驚きを露にした。ルゥを愛称で呼んでいないことから、友達ではないようだが、その口振りからは顔見知りであることが窺える。

 ……これは非常にどうでも良い疑問だが、豹の鳴き声は果たして『にゃあ』なのだろうか? 猫科の動物と言えど、豹は猛獣なので、可愛らしい鳴き声とは無縁に思えるが……。

「ルゥ、こいつと知り合いなのか?」

「……ん、知り合い。狩場、近かった」

 どうやら、豹獣人の縄張りは狼獣人の縄張りと隣接していたようで、ルゥとミーコは度々同じ獲物を狙って、揉めていたらしい。しかも、揉め事を解決するために、この二人は一騎打ちまでしたことがあるのだとか。

「ルゥと一騎打ちするなんて、凄まじい度胸だな……。当然、ルゥが勝ったんだろ?」

「違うのにゃッ!! みゃーは負けてにゃい!! 勝負は引き分けだったのにゃあ!!」

 俺が然も当たり前のように、ルゥが勝ったのだと決めつけると、未だにマックに咥えられているミーコは大声で否定した。

「マックに捕まるような奴が、ルゥと引き分けるなんて、一体何の冗談だ?」

 俺は胡乱な目をミーコに向けた後、確認の意味を込めてルゥを見遣る。すると、ルゥは何も間違っていないと言うように、小さく頷いてミーコの言葉を肯定した。

「……ミーコ、すごく速い。……ルゥ、逃げられた。……無念」

「そうにゃ!! みゃーの天職は【韋駄天】にゃんだからっ、足の速さはルゥルゥにも負けにゃいの!!」

 少し悔しげなルゥが口をへの字に曲げると、ミーコはフンスと鼻を鳴らして得意げに胸を張った。韋駄天という天職は聞いたことがないが、名前からして走ることに特化している天職なのだろう。

「なんだ、逃げ足が速いだけかよ……。まあ、ルゥが追い付けないほど足が速いって、それだけでも凄いとは思うけど……」

 逃げ回って引き分けたのに得意げな辺り、ミーコからは小物臭さが感じられる。

 ルゥとミーコが引き分けたという勝負に、俺が肩を竦めてケチを付けると、ミーコはじたばたと暴れながら俺に向かって吠えた。

「にゃあああああああっ!! みゃーにイチャモン付けようにゃんてっ、良い度胸にゃ!! 人間っ、みゃーと勝負しろにゃあ!!」

「嫌だよ、面倒くさい。……と言うか、逃げ足自慢の癖に、何でマックに捕まったんだ? 足が石化したのは見れば分かるけど、石化の息はそこまで広がるのが早い訳じゃないぞ」

 マックに限らず、コカトリスという魔物は鈍重なので、ルゥでも捕まえられない奴に石化の息を当てられるとは思えない。

「にゃ、にゃあ……っ、あの息に当たったら石化するにゃんて、知らにゃかったの……!! あんにゃのズルいっ!! 初見殺しにゃ!! 知ってたら絶対に避けてたのに!! みゃーは負けたにゃんて認めにゃいっ!! 再戦させろにゃあああああああっ!!」

「つまり、油断したのか……。これが生きるか死ぬかの勝負だったら、お前はマックに殺されているんだから、再戦にゃんてない! お前はもう、負けている!!」

 俺がビシッと指を突きつけて、ミーコに現実を直視させてやると、ミーコは余程悔しいのか、ポロポロと大粒の涙を零し始めた。

 石化の息は無色透明ではなく灰色の気体なので、そんなものが迫ってきたら距離を取れば良いのに……迂闊な奴め。この石化はコカトリスの涙で簡単に治せるが、その前にミーコが牧場へ侵入した目的を問い質そう。

 普通に尋ねて来ただけなら、マックが石化の息を吐くことはないので、ミーコは何かしらの悪さをしようとしていたはずだ。
 
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