ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林

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四章

11話 ルーミアとの対談 ②

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 ──ルーミアの付き人である三色メイドは、思った以上にしっかりと情報を集めていた。

 彼女たちの話によると、今現在、第一王子派と第二王子派の勢力は殆ど拮抗しているらしい。拮抗止まりなら、王位を継ぐのは順当に第一王子のホモーダだが……当然、第二王子のヨクバールが大人しくしているはずもなく、既に不穏な動きを見せている。

 なんと、ヨクバールは国王が死去する前日に、第二王子派の貴族たちと共に王城から姿を消したそうだ。奴は転移魔法も使えるので、足取りを追うのは難しく、その行方は誰も掴めていない。

 どこかで勢力を纏めて、新王となるホモーダを真正面から打ち破り、国の内外に己の力を見せつけて王位を簒奪する。それがヨクバールの腹積もりなのだと、有識者の間では実しやかに囁かれていた。

 それから、森人の長老、オールドという人物がヨクバールの側近として、余りにも不穏な動きをしていたことも、三色メイドから教えて貰った。

 何でも、オールドは両派閥の勢力が拮抗するよう、影ながら独自に動いていたそうだ。片一方の派閥のために動くのではなく、『拮抗させるため』という点が非常にきな臭い。

「ゼニス……。無理に同族を売れとは言わないから、言いたくなければ言わなくても良いんだが……オールド卿って、どんな人なんだ……?」

 俺は極力、圧力を掛けないように気を遣いながら、ゼニスにオールドのことを尋ねた。

 ゼニスは森人の里を出禁にされているが、それでも里に住む同族と縁を切った訳ではないので、悩ましげに眉を寄せる。

「うぅーん……。その質問に答える前に、アルスはんに一つ、お願いがあるんやけど……」

「お願い……? 俺に出来ることなら、可能な限り力になるぞ。……お金のことか?」

 ゼニスには王城まで運んで貰った恩があるので、交換条件みたいな言い方をしなくても、お願いの一つや二つは聞き入れるつもりだ。無論、あんまり無茶なお願いをされると困るが……。

「お金ちゃうわ。えっとな、ウチの家、アルスはんの牧場に置かせて貰いたいんや。……あっ、言うておくけど! これでウチがアルスはんのものになる訳やないで!? そこはほら、あの、白金貨八千八百枚で、買うて貰わんと……な?」

「ああ、それくらいなら全然構わないぞ。でも、どうして俺の牧場に家を置きたいんだ?」

 俺はゼニスを一人の人材として求めており、以前に『ゼニスが欲しい』と当人に直接伝えたことがある。そこで、ゼニスは商人らしく自分にも値段を付けて、白金貨九千八百枚を支払えば自分自身を俺に売ると約束してくれた。

 既に白金貨一千枚は支払っているものの、道程はまだまだ遠いので、ゼニスが牧場に住み着くのはしばらく先だと思っていたが……、何だか得をした気分だ。

 ちなみに、ゼニスは一人の女性として、自分が俺に求められていると勘違いしており、その誤解は未だに解けていない。

「森人の里には帰れへんから、他に安全な拠点が欲しかったんよ。魔物の活性化やら、今回の動乱やらで、しばらくは商いも控え目になるやろうし、その間はアルスはんの牧場で、のんびりしよかなーって、思ってな」

 なるほど、と頷いた俺は、牧場で暮らし始めるゼニスをなし崩し的に取り込んで、そのまま働かせてしまおうと心に決めた。白金貨八千八百枚も、踏み倒せれば最高だ。

 と、ここで、ルビーがゼニスを急かすように声を掛ける。

「ゼニスはこれで、森人の里から永久追放されても困りませんわね! それじゃあ、早速ですが、オールド卿の人物像を教えてくださいまし!」

「いやまぁ、確かに困らんけど、そこは明け透けに言わんといて……? えっと、それでオールドのおっちゃんやけど、あの人は人間種の風下に立つことを嫌う、典型的な森人至上主義者やな」

 俺は思わず、「うわぁ……」と声を漏らして頬を引き攣らせた。森人至上主義者が、何の裏もなく人間であるヨクバールの下に付いている訳がない。

 この辺りは既に、ルーミアが考察していたようで、俺たちに自分の考えを教えてくれる。 

「わしが思うに、森人の発言力を向上させるために、オールド卿とやらは暗躍しているんじゃろう」

 イデア王国で内紛を発生させて、人間の数を減らす。そうすれば相対的に、森人の発言力が高まるという寸法だ。第一王子派と第二王子派の勢力が拮抗していれば、その分だけ内紛は長引いて、オールドが望む結果に近付くことだろう。

 ただ、オールド自身が表向きはヨクバールに肩入れしている以上、最終的にはヨクバールが勝者になるような筋書きが、用意されているのかもしれない。

「あのおっちゃんなら、あり得る話やなぁ……。なんか、ごめんな。同じ森人として、申し訳なく思うわ……」

「いや、ゼニスが謝る必要はないだろ。どんな種族にだって、良い奴も居れば悪い奴も居る。人間、森人、獣人、それに魔族だって、それは例外じゃないはずだ」

 ゼニスが溜息交じりに謝罪したので、俺はそんなゼニスを庇いつつも、ついでにルーミアの好感度を稼ぎにいった。

 俺が盲目的に魔族を敵視していないことに驚いたのか、ルーミアは唖然としながら俺を見つめている。これは、好感触……か? 良く分からないが、俺は一旦話を区切るように、コホンと軽く咳払いを挟んでから、ルーミアと視線を合わせた。

「ルーミア嬢はこれから、どうするつもりですか?」

「え……? あ、ど、どうもこうも、公国を代表して来ている以上、王の葬儀には参列せねばならんのぅ……。それと、わしのコケちゃんをそろそろ、取り返したいところじゃな……」

 早く公国に帰りたいという様子が、ルーミアから透けて見える。しかし、我儘を言って無理やりにでも帰ろうとは、思っていないらしい。

 俺はルーミアにコケちゃんを手渡してから、この先の自分が取るべき行動について考える。

 父の葬儀に参列するのは当然として、ルーミアと二人きりで話し合いもしたい。

 ヨクバールが何時、王都に攻めてくるのか分からないが、流石に昨日の今日で、王都を攻め落とせるような軍勢を差し向けてくるとは思えない。だから、父を見送る時間も、ルーミアと話し合う時間も、十分にあるはずだ。

 ホモーダの王位継承については、適当に祝辞を送れば良いだろう。こちらから敵対するつもりはないし、俺の世評は『追放された残念王子』なので、危険視されて殺されるという可能性も薄いと見ている。……まあ、殺されそうになったら、ゼニスの転移魔法で逃げよう。

 それが終わったら、これまたゼニス頼みでイデア王国の各地に連れて行って貰い、そこで牧場の遠隔地を作ろうと思う。

 第一王子派と第二王子派が激突すれば、活性化している魔物に対処していた人員が減って、国土が更に荒れていくことは目に見えている。つまり、危惧していた大飢饉が目と鼻の先まで迫っているのだ。

 ──前々から決めていた通り、飢えに苦しむ民を助けよう。

 第十一の牧場魔法である牧場内転移を使って、食糧の備蓄を遠隔地に移動させ、そこから行商人たちに村々へ運んで貰えば、それなりの支援になる。行商人とのやり取りをメルに任せれば、俺の手が空くので、緑の手を使って農村の畑を豊かにしたり、新しい畑を用意することも出来る。

 ちなみに、遠隔地の牧場を作る方法は簡単だった。牧場魔法で牧草を生やして、そこで生活する家畜を用意すれば良い。たったこれだけで、その土地は『俺の牧場』という扱いになる。

 ただ、遠隔地の管理には手間が掛かる。牧草を定期的に生やしに行く必要があるし、何より野生の魔物が牧場内に居座ると、そこはもう俺の牧場という扱いではなくなってしまうので、防衛戦力が必要だった。

 野生の魔物を餌付け出来れば、色々な問題が解決するのだが、これは既に試しており、無理だったという結果が出ている。だから、遠隔地には自前の防衛戦力が求められる……が、下手に家畜の魔物を置くと、俺が魔王扱いされそうなので、中々に難しい。

 難民を沢山拾って遠隔地に住まわせ、彼らにコケッコーと畑、それから鉄を与えて防衛戦力にするのが、俺にとっての最良かもしれない。

 俺は自分に余裕がある分でだけ、人助けをしたいのであって、心身を削ってまで人助けをするつもりはない。俺が精力的に動いた分だけ、助かる人は増えると思うが……まあ、程々にやっていこう。
 
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