他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

文字の大きさ
9 / 239
一章 孤児院卒業編

9話 恋敵じゃありません

しおりを挟む
 
 ──私が自分とマリアさんに、【再生の祈り】を使ってから、早いもので三日が経過した。
 このスキルのバフ効果は、ここで消えたので、持続時間が三日だと判明。
 自傷は怖くて出来ないから、効力の程はあんまり分かっていない。

 ただ、目に見えて、髪が艶々になっている。お肌に関しては、以前から子供らしい卵肌だったけど、こちらにも磨きが掛かったよ。
 髪もお肌も、日常生活を送っているだけで、少しずつダメージが蓄積されていく。
 それを克服出来ただけでも、私は大満足だ。

 シャンプー、リンス、トリートメント、化粧水を買うお金がないから、三十年後くらいが怖かったんだよね。
 今の私が着飾れば、お貴族様のご令嬢に、見えなくもないはず……。
 別に目指していないけど、大変気分がいい。

「アーシャ、なんだか綺麗になった? 前から綺麗だったけど、最近は凄いよ!」

「ありがとう、ルークス。貴方も素敵よ」

 フフフ、と大人の余裕が垣間見える笑みを浮かべて、私はルークスの賛辞に感謝した。素直な子供は可愛いね。
 そういえば、マリアさんに掛けた若返り効果だけど、こっちは目に見える変化がなかったよ。彼女は今日も、いつも通りのお婆ちゃんだ。
 一応、私は朝食の時間に、確認を取ってみる。

「マリアさん。最近になって、ちょっとだけ若返りましたか? 具体的には、この三日くらいで」

「ああ、やっぱり分かっちまうかい? 実はねぇ、三歳ほど若返ったんだよ。ったく、街の男どもにナンパされたら、どうしちまおうかねぇ……」

 マリアさんがニヤニヤして、頗るご機嫌になっている。
 彼女の言葉を信じるのであれば、一日で一歳分、若返ったのかな。
 これが親孝行になったのなら、私も嬉しい。……けど、三歳若返った程度で、ナンパはされないと思う。

 今日も今日とて、不味い食事をお腹に詰め込んでから、私はルークスとシュヴァインくんのために、庭に壁師匠を用意した。
 その後、スラ丸を引き連れて、孤児院の裏手に回る。

「──スラ丸。またダンジョンへ送り込むけど、異論はある?」

 私の問い掛けに対して、スラ丸は身体を左右に揺らす。どうやら、異論はないみたい。
 魔石は売れるらしいので、食べずに拾い集めておくよう命令して──いや、それはやめておこう。搾取し過ぎると、反逆されるかもだし。

「お金持ちになったら、また葡萄を食べさせてあげるから、頑張ってね」

「!!」

 スラ丸にご褒美の約束をしたら、俄然やる気になってくれた。
 葡萄一つでご機嫌が取れるのは、スライムに味覚を付与出来る私の強みだよ。
 腐肉の洞窟だと、スラ丸は怪我をしないと思うけど、折角なので【再生の祈り】を使って支援しておく。

 つい先ほど、壁師匠を立てたばっかりなので、魔力が大分減ってしまった。
 これ以上魔力を使うと眠ってしまうから、今日はのんびりして過ごそう。
 こうして、私が庭の木陰で休んでいると、あんまり喋ったことのない孤児仲間が話し掛けてくる。

「ちょっと、アーシャ! あんた……最近、あたしのシュヴァインに色目を使ってるでしょ!?」

 林檎のように赤い長髪と、橙色の瞳を持つ少女、フィオナちゃんだ。
 髪型はツインテールで、中々に険しい目付きをしている。

「大きな誤解だよ、フィオナちゃん。私はシュヴァインくんに恋愛感情なんて、欠片も抱いてないから」

「あんた、シュヴァインに魅力がないって言うの……ッ!? ぶっ飛ばすわよ!?」

「うわぁ……。これ、面倒臭いやつだ……」

「誰が面倒臭いですってぇ!? いいわっ、上等じゃない!! その喧嘩、買ってあげるわよっ!!」

 フィオナちゃんは私の肩を掴んで、ガクガクと身体を揺さぶってくる。ごめんね、つい口が滑っちゃった。
 シュヴァインくんと相思相愛な彼女には、彼が絶世の美少年に見えているらしい。
 私から見れば、シュヴァインくんは幼過ぎるし、太っちょだし、頼りないし、本当に守備範囲外なんだよ。

 素直にそう伝えたいけど、フィオナちゃんは自分の彼氏が低く見られるの、我慢出来ないみたい。
 だから、言葉選びに難儀してしまう。……あっ、閃いた!
 私はルークスのことが、好きってことにしておけば、角が立たないかも。

「フィオナちゃん、私にはルークスがいるんだよ。最近、私がシュヴァインくんと話す機会が多いのは、修行を見て欲しいって、お願いされたからなの」

「むっ、確かにルークスも、いい男よね……。でも、あんたがルークスをキープしつつ、シュヴァインも狙っている可能性が……」

「いやいやいやっ、ないよ!? 六歳でキープなんて発想が出てくるの、ちょっと怖いよ……!!」

 元々、フィオナちゃんは大きな商会の一人娘で、五歳までは英才教育を受けていたらしい。その分、マセて──いや、大人びているんだ。

 ちなみに、その商会は破産して、一家が離散。フィオナちゃんは一人、孤児院に捨てられたという事情がある。
 孤児院での生活を始めた頃は、見ていられないくらい意気消沈していたんだけどね。
 そんな彼女を励まして、元気にしたのが、何を隠そうシュヴァインくんだった。

「……ま、そうね。あんたにはルークスがいるから、シュヴァインは狙ってない。それ、信じてあげるわ」

「う、うん……。どうも……」

 フィオナちゃんは私の隣に座って、勝手にお喋りモードになったよ。

「あたしね、心配なの。シュヴァインはイケメンで性格もいいから、いつ悪い虫が付いても、不思議じゃないでしょ?」

「ソ、ソウダネ……」

 少なくとも、この孤児院でシュヴァインくんに懸想しているのは、フィオナちゃんだけだと思う。
 だから、そんなに心配しなくても、いいんじゃないかな……?
 と思ったけど、そう伝えると、また煩くなるんだろうなぁ。

「それでね、あたしはもっと、もっともっと、もーーーっと、綺麗になりたいの。そうしたら、シュヴァインが他の女に、見向きしなくなるはずだし。ね、分かるでしょ?」

「ウ、ウン……。ハイ、ワカリマス……」

「なら──教えなさいよッッッ!! あんたが髪も肌も綺麗にした方法っ、教えなさいよぉッ!!」

 フィオナちゃんが突然、鬼の如き形相で詰め寄ってきた。
 怖い、怖いよ。情緒不安定なの……?
 私は再び、ガクガクと揺さぶられながらも、なんとか彼女を落ち着かせる。

「お、落ち着いて! 条件次第っ、条件次第で教えるというか、フィオナちゃんにもやってあげるから……!!」

「条件ですってぇ!? お金ならないわよッ!?」

「私は無償で何かをするのが嫌なだけで、見返りを求めているの。別に、お金じゃなくてもいいよ」

「なら、何が欲しいのよ!? あたし、何も持ってないわ!!」

 フィオナちゃんは胸を張って、極貧のアピールをした。

「うーん……。それなら、身体で払って貰おうかな」

「はぁ!? あ、あんた、まさか、ソッチの人……!? この国は性的少数者に寛容だけど、あたしにソッチの趣味はないわよ……!?」

「うん、私にもないから安心して。そうじゃなくて、労働力になって貰おうかなって、思ったの」

 アクアヘイム王国は、性的少数者に寛容。そんな話、初めて聞いた。
 私には偏見とかないから、大変結構なことだと思う。

「つまり、あたしに何をさせたいの? 身体を売るつもりはないわよ?」

「子供に身売りさせるほど、私は鬼じゃないよ。とりあえず、何が出来るのか知りたいから、ステホを見せて貰える?」

「ええ、いいわよ。はいこれ」

 私はフィオナちゃんのステホを見せて貰って、彼女の職業とスキルを確かめた。

 フィオナ 火の魔法使い(1)
 スキル 【火炎弾】

「火の魔法使い……? これって、普通の魔法使いとは違うの?」

「フフン、そうよ! この職業は取得出来るスキルが、火属性の魔法に絞られるの!」

「へぇー、そんなのがあるんだね」

 私にはなかった選択肢だから、ちょっとだけ羨ましい。
 一芸に特化した魔法使いって、プロフェッショナルって感じで、格好いいよ。

 【火炎弾】というスキルは名前の通り、火炎の弾丸を放つ攻撃魔法だった。
 弾丸の大きさは、親指サイズから拳大まで、自分の意思で調整出来るみたい。
 壁師匠に撃ち込ませて、フィオナちゃんにも修行して貰った方がよさそう。

 将来的には、ルークス、シュヴァインくん、フィオナちゃんの三人で、冒険者パーティーを組んで貰いたい。どうせみんな、冒険者を目指すだろうから。
 私は街に残って、支援スキルを掛けたり、従魔を貸し出したりして、上前を撥ねながら生きていくんだ。あくまでも、予定だけど。

「──それで、あたしはどんな仕事をすればいいの?」

「えっと、私は魔物使いだから、テイムを手伝って欲しいかも」

「テイムぅ? それ、難しい仕事ね……。あたし、魔物と戦ったことなんてないわよ」

「別に、今すぐじゃなくていいよ。壁師匠を貸してあげるから、十分に修行して強くなってからで」

 私の依頼を引き受けてくれるなら、髪の艶とお肌の潤いを先払いしよう。
 フィオナちゃんは壁師匠がなんなのか、全く分かっていなかったので、その辺りを軽く説明した。
 すると、二つ返事で、この依頼を引き受けてくれたよ。

「分かったわ! そういうことなら、引き受けてあげる!! だから早くっ、あたしに艶と潤いを頂戴!!」

「一応、先に言っておくけど、フィオナちゃんには艶も潤いも足りているから、劇的な変化はないと思うよ?」

「あたしは少しでも綺麗になれるならっ、努力は惜しまないの!! いつまでも、シュヴァインに相応しい女でいたいからねっ!!」

 シュヴァインくん、本当に愛されているなぁ……。
 微笑ましくもあり、胸焼けもしてしまう。ご馳走様でした。
 私はフィオナちゃんに【再生の祈り】を使って、魔力を空っぽにすることで不貞寝した。
 純愛モノは、独身アラサーの胸を苛むよ。

 ちなみに、フィオナちゃんの修行は非常にシンプルだ。
 攻撃魔法を只管、壁師匠に向かってぶっ放すだけだからね。
 魔法使いにも体力は必要だと思うから、走り込みもして貰いたいけど、そっちには消極的。運動は好きじゃないんだって。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...