他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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一章 孤児院卒業編

8話 大きな進歩

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 【再生の祈り】──これは、肉体の損傷を継続的に治してくれるスキルだった。
 ゲーム風に言うなら、再生状態のバフ効果を付与するスキルだね。

 これも【他力本願】の影響で、特殊効果が追加されている。
 それは、まさかの若返り……。権力者に知られたら、飼い殺しにされちゃうよ。
 六歳児の私が若返ると不味いから、特殊効果を切った状態で、試しに使ってみよう。

「誰に祈ればいいのか、分からないけど……お願いします。再生状態のバフ効果、私にください」

 私は地面に膝を突いて、両手を組みながら祈りを捧げた。
 すると、二十代前半になった私の姿を思わせる何者かが、純白の羽衣を纏って宙に現れたよ。
 神々しい後光が差しているので、なんだか女神っぽい。

 暫定女神が、私の頭に手を翳すと、優しい光が降り注いだ。
 そして、一言も喋らずに、彼女はスーッと消えてしまう。

「アーシャ! 今のって、誰だったの!? アーシャのお姉さん!? とっても綺麗な人だったね! ピカーってしてたから、女神様かな!?」

 修行をしていたルークスが、こちらに駆け寄ってきて、好奇心いっぱいに質問してくる。

「今のはただの、スキル演出……。ごめん、ちょっと眠いから、質問はまた後で……」

 私は抗い難い睡魔に襲われて、呆気なく意識を手放した。
 これが、魔力切れの弊害なんだって、感覚的に理解出来たよ。


 ──微睡に沈んでいくと、スラ丸との見えない繋がりに引っ張られた。
 そうして、私の意識は、暗闇の中に浮かぶ道の上に誘われる。
 その道は四本に分岐しており、それぞれの手前に一枚ずつ、看板が立てられているよ。

 左から順番に、『分裂』『ミートスライム』『カーススライム』『コレクタースライム』って、書いてある。

「これは……あっ、もしかして、スラ丸の進化先……!? 分裂は進化せずに、クリアスライムのまま、数が増えるとか……?」

 この分岐は私が選べるみたいだけど、各選択肢の詳細が分からないと、判断するのが難しい。
 詳細を知りたい。そう願うと、私の手元にステホが現れた。
 やや戸惑ったものの、これで『分裂』の看板を撮影してみると、この選択肢の詳細が判明したよ。

 予想通り、この道を選ぶとクリアスライムのまま、スラ丸が分裂するみたい。
 分裂させると、強さが半減したスラ丸が、二匹になる。この場合、私が使役出来る従魔の枠も、しっかりと二匹分潰されてしまうんだ。

 ……まぁ、分裂は真っ先に、候補から外そう。
 クリアスライムを増やしたいなら、野生の子をテイムすればいいからね。
 私は立て続けに、他の三枚の看板も撮影した。

 『ミートスライム』──粘液と生肉を足して二で割ったような、美味しい身体を持つスライムで、お肉を沢山食べると現れる進化先。腐ったお肉ばっかり食べていると、腐肉のスライムになる。
 この魔物は臭そうだから、やめておこう。スラ丸が食べていたのって、腐肉の洞窟の床とか壁だから……。

 『カーススライム』──体内に呪いを蓄えたスライムで、闇の魔石を沢山食べると現れる進化先。
 闇の魔石って、ゴーストが消滅した際に落とす、真っ黒な魔石のことだよね。
 この進化先は戦闘力が高くなりそうだから、一考の余地があるけど……私まで呪われないか、ちょっと心配になる。

 『コレクタースライム』──体内に多くの物を収納出来るスライムで、マジックアイテムを三個以上収集すると現れる進化先。
 聖なる杯、渇きの短剣、スキルオーブ。この三つが、マジックアイテムと呼ばれる代物だったんだ。
 スラ丸には今後も、腐肉の洞窟に潜って貰う予定なので、これが一番無難かな。
 クリアスライムのままだと、大きいお宝は回収出来ないけど、コレクタースライムならどうにかなりそう。

「よしっ、決めた! コレクタースライムにする!」

 私が決断すると、どこからともなくスラ丸が現れて、コレクタースライムへと進化する道を転がって行った。
 その後ろ姿を見送りながら、私の意識は徐々に浮上していく。


 ──中途半端な時間に寝てしまったので、起床したのは深夜だった。
 きちんと布団の中で寝ていたから、ルークスが運んでくれたんだと思う。
 私を含めた孤児仲間が、みんなで寝ている場所は、孤児院の二階にある大部屋だよ。起きているのは私だけで、辺りは静まり返っている。

「あ、そういえば、スラ丸は……?」

 視線を軽く巡らせると、スラ丸が私の枕元に居座っている姿を発見した。
 進化しているはずだけど、身体は小さくなったね。街中にいるクリアスライムと、あんまり見た目が変わらない。
 違いと言えば、核になっている魔石が一回り大きくて、若干灰色っぽい半透明になっていること。前は白くて微かに発光していたんだけど、今は全く光っていない。
 前までのスラ丸の魔石は、光属性っぽかったから、これは無属性の魔石かも。

 ステホでスラ丸を撮影してみると、きちんと『コレクタースライム』という種族名が表示された。
 持っているスキルは【浄化】と【収納】の二つ。
 前者はクリアスライムから引き継いだスキルだけど、威力が上がっている。
 以前までは、手のひらを綺麗にするのがやっとだったのに、今では全身を綺麗にして貰えるよ。

 後者が進化してから取得したスキルで、これを使うと異空間にものを仕舞うことが出来る。所謂、アイテムボックスというやつだね。
 異空間の中は時間が止まっていて、生物は入らない。広さは現状だと、高さ、幅、奥行きがそれぞれ十メートルくらい。スラ丸の成長と共に、広くなるんだと思う。
 ちなみに、人間であれば、商人が取得出来る可能性のあるスキルの中で、【収納】は一番の大当たりだと言われている。

「これは運気が上がってきたかも……!! そうだ、スラ丸。お宝発見のご褒美があるんだよ」

「!?」

 私は【感覚共有】を使うことで、スラ丸に味覚と嗅覚を付与する。
 そして、ポケットから若干干乾びている葡萄を取り出し、スラ丸のぷにぷにボディに押し当てた。

 スラ丸は体内に葡萄を取り込むと──初めての甘味に感極まって、プルプル震えながら蕩けちゃったよ。
 よしよし、じっくりと味わってね。

「さて、もう眠くないし、どうしようかな……」

 私は小声で独り言を漏らし、窓の外に浮かんでいる満月を見上げた。
 月は二つ。青い月と、赤い月だ。これを見る度に、ここが異世界なのだと強く実感して、深い郷愁に駆られてしまう。

 ……お父さんとお母さん、元気にしているかな?
 前世の私は一から十まで、親不孝な娘だった。働かなかったし、孫の顔も見せてあげられなかったし、親より先に死んじゃったし……。
 今世では親がいないから、またもや親孝行とは無縁の人生になりそうで、ほろりと涙が零れる。

 ……あ、でも、マリアさんが私の育ての親なんだよね。生みの親に拘らなければ、親孝行は出来そうだ。
 私は子供部屋をこっそりと抜け出して、マリアさんが寝ている部屋へと向かう。

「マリアさーん、寝てますかー……? うん、寝てるね。では早速……」

 寝ているマリアさんに、こっそりと【再生の祈り】を使う。
 今度は特殊効果をオンにした状態で。さぁ、若返れ!
 私の魔力がごっそりと抜けて、暫定女神の大人アーシャが現れ、マリアさんに優しい光を浴びせる。

「──ん、んん? なんだい、もうお迎えが来ちまったのかい……。あたしゃまだ、ピチピチの六十代だってのに……」

 ぼんやりと目を覚ましたマリアさんが、私のスキルの演出を見て、妙な勘違いをしてしまった。まだ死なないので、安心してください。
 お仕事を終えた暫定女神が消えて、マリアさんは再び眠りに就く──かと思いきや、カッと目を見開いて飛び起きた。

「い、今のはなんだい!? 夢!?」

「わっ、び、びっくりしたぁ……!!」

「あん? アーシャ……? こんな時間に何してんだい?」

 マリアさんが私の存在に気が付いて、訝しげな眼差しを向けてきた。
 どうしよう、スキルのことを説明する? いやでも、若返り効果は厄ネタっぽいから、心配を掛けてしまうかも……。うん、やめておこう。
 ただ、なんの用事もないというのは不自然なので、適当な話題を捻り出した。

「えーっと、どうしても気になることがあって、眠れなくて……あの、スキルを後天的に取得出来る方法って、職業レベルを上げること以外で、ありますか?」

「ハァ……? 呆れたねぇ。スキルを三つも持っているのに、まだ欲しいのかい? まったく、欲張りな子だよ……」

「い、いやっ、そういう訳では……」

「まぁ、方法ならあるにはあるよ。スキルオーブを使えばいいさね」

 スキルオーブの存在は、一般的に知られているらしい。私が知りたいのは、その価値だ。

「それって、どれくらいの価値がありますか?」

「青天井だよ。極稀に、ダンジョンで見つかるんだけどねぇ……。この街のダンジョンから、最後にスキルオーブが出たのは、もう何年も前のことさ」

 供給は少ないけど、需要なら幾らでもある。だからこその青天井。
 数年前に発見されたスキルオーブには、【冷水連弾】という攻撃魔法が内包されており、それはオークションに掛けられて、白金貨三十枚で売れたらしい。
 スキルの名前からして、冷たい水をいっぱい飛ばすのかな?

 白金貨は一枚で、金貨百枚分の価値がある。
 金貨一枚が日本円で、十万円相当だとして……白金貨一枚、一千万円……それが三十枚だから……三億円!?
 凄い、宝くじの一等だよ。スラ丸がスキルオーブを見つけたの、本当に大金星だったね。
 
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