他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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一章 孤児院卒業編

11話 決闘

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 ──夜空に浮かぶ二つの満月。それらに見守られながら、ルークスとトールは孤児院の庭で対峙する。
 二人は武器を持たず、どちらかが気絶するか、降参するまで戦うって、約束したよ。

 マリアさんは止めようか迷っていたけど、今回は黙って見守るみたい。
 彼女の職業は僧侶で、回復系のスキルを持っているから、こういう無茶を許容することは少なくない。

 特に男の子は、孤児院を卒業すれば否が応でも、荒事に関わる機会が多くなる。
 そのため、痛みに慣れておくことは大切だって、考えている節があるんだ。
 私を含めた孤児仲間たちは、見物人になって声援を送り始めた。

「ルークス! 頑張って!!」

「トールなんかに負けるんじゃないわよ!! シュヴァインの仇を討ちなさい!!」

「ふぃ、フィオナちゃん……。ボク、無事なんだけど……」

 私、フィオナちゃん、シュヴァインくんを筆頭に、やっぱりルークスを応援する子が多い。けど、拳で語るタイプの男の子たちは、トールを応援している。

「トール兄ぃ!! 負けないでくれ!!」

「ルークスなんていつも通り、けちょんけちょんにしちゃえーーーっ!!」

 外野が喧しい中で、ルークスはトールから視線を外さないまま、私に話し掛けてくる。

「アーシャ、勝負を始める合図、お願いしてもいい?」

「えっ、私でいいの……? それなら手を叩くけど……」

 ちらりとトールを見遣ると、彼は無言で軽く頷いた。
 私はルークスの味方だけど、開始の合図に小細工を挟む余地はないから、問題ないって判断したのかな。

 ……まぁ、小細工なんて必要ないよ。
 壁師匠で鍛えたルークスが、負けるとは思えないからね。
 あんまり気負うことなく、パン! と私が手を叩いた瞬間、

「ウオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッ!!」

 トールが大音量の雄叫びを上げた。大気がビリビリと震えて、外野は恐慌状態に陥る。
 こんなの、普通の人間の声帯から出せる音じゃない。恐らく、スキルによるものだ。
 私が腰を抜かしている最中、トールは拳を振り被って、ルークスに肉薄した。

「大きな声だけど、全然怖くないよ」

 ルークスは冷静さを保ったまま、最小限の足捌きでトールの拳を避けていく。
 職業レベルを上げている二人の喧嘩は、普通の子供の喧嘩とは一線を画していた。
 トールの拳は唸りを上げて、大気を引き裂いているし、ルークスの足捌きは目で追うのが疲れるほど素早い。

「チッ、ちょこまかと逃げてンじゃねェぞ!! 臆病者がッ!!」

「逃げてるんじゃない。避けてるんだ! それに──反撃も出来るッ!!」

 回避に徹していたルークスが、トールの大振りの一撃に合わせて、見事なカウンターを決めた。
 しかし、頬を殴られたトールは獰猛な笑みを浮かべて、怯まずに肩から突進する。

 体当たりを受けたルークスは、大きく地面を転がった。
 すぐに立ち上がって、体勢を立て直したけど……表情が歪んでいるので、どこか痛めたのかもしれない。

 戦士であるトールの強みは、筋力と体力。
 暗殺者であるルークスの強みは、敏捷性と器用さ。
 お互いに一発ずつ攻撃を当てた場合、有利になるのは戦士の方だと思う。

「オイオイっ、テメェの拳は随分と軽いなァ!! 多少はやるようになったみてェだが、やっぱ俺様の方が上なンだよッ!!」

「くっ、この……っ!!」

 トールが予想以上に強い。レベルはルークスの方が、上だと思うのに……いや、見通しが甘かったんだ。
 素手での戦いは、暗殺者が不利なルールだと、私は今更になって気が付いたよ。

 こんなことなら、ルークスに【再生の祈り】を使っておくべきだった。
 歯噛みしている私を他所に、ルークスは再び回避に専念して、なんとかトールの猛攻を凌ぐ。
 先程よりも、明らかに動きが鈍いので、足を痛めているっぽい。

「ね、ねぇ、もう止めた方が、いいんじゃないの……? このままだと、怪我じゃ済まなくなるわよ……?」

 フィオナちゃんがおずおずと、全員に言い聞かせるように提案した。
 トールは誰がどう見ても、頭に血が上っているから、このままだとやり過ぎると思ったのかな。

「ぼ、ボクが止めてくるよ……!! フィオナちゃんっ、もしも無事に戻れたら、ボクと……その……」

「こ、こんなときに何よ!? 言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさいよ……!!」

「あのっ、そのっ、て、手を繋いで……月でも、一緒に……見ない……?」

「一緒に、お月見……? ふ、ふぅん……。別に、いいけど……?」

 私は思わず、愕然とした。もう一度言う。愕然とした!!
 目の前で、孤児仲間が激闘を繰り広げているのに、シュヴァインくんとフィオナちゃんが、口から砂糖を吐きそうなほど、甘ったるい雰囲気を作っちゃったよ。

 私の独身アラサー魂が、悲鳴を上げている。
 ……それにしても、お月見デートって渋いね、シュヴァインくん。
 まさかとは思うけど、自分がお団子みたいな体型だから、

『ボクが今夜の月見団子だよ! フィオナちゃん、食べて!』

 ──とか、言い出さないよね? 駄目だよ、そういうのは大人になってからじゃないと。
 私が心の中で邪推していると、シュヴァインくんが【挑発】を使うべく前に出た。
 しかし、このタイミングでルークスの動きに、大きな変化があったので、一旦様子を見守る。

 ルークスは後ろ手に持った石を背中に隠したまま、手首の力だけで高々と放り投げて、【潜伏】で気配を消したんだ。
 猛攻に夢中で視野が狭まっていたトールには、ルークスが投げた石は見えていない。

「な──ッ!? ルークス!! テメェっ、どこに消えやがった!?」

 トールは目の前でルークスが消えたことに戸惑い、額から冷や汗を垂らして周囲を警戒する。
 戦闘中に、こんな消え方をされたら、堪ったものじゃないよね。
 激しい動きをするとバレるから、ルークスはあんまり動いていないはずだけど、その仕組みを知らないトールは迂闊に動けない。

「あ……っ」

 ルークスが投げた石。その行方を追っていた私は、それがトールの背後に落ちたことで、思わず声を漏らしてしまった。
 トールは石が落ちた音に釣られて、咄嗟に振り向いたけど──当然、誰もいない。

 ここで姿を現したルークスが、背を向けているトールに裸締めを行った。自分の腕を使って、相手の首を締め付ける技だよ。
 ルークスが蹴っても殴っても、トールにはあんまり効かないけど、首を絞められたら流石に堪らない。

「て、テメェ……っ、放せェ……ッ!!」

「死んでも放すもんか……ッ!! オレのっ、勝ちだ……ッ!!」

 トールの方が筋力があるとは言え、ルークスは自分の全体重を利用しているから、そう簡単には振り解けない。これは、勝負ありだね。


 ──決闘の後、マリアさんが【治癒掌】というスキルを使って、ルークスとトールの怪我を治してくれた。
 このスキルには、手で触れた相手の怪我や病気を治す効果がある。
 重度の症状は治せないみたいだけど、みんなが頻繁にお世話になっているよ。

 気を失っていたトールが、むくりと起き上がったとき、負けを認められずに暴れるのではないかと、私は不安になった。
 でも、杞憂だったらしい。彼は凶悪な形相を浮かべながらも、負けを認めてくれたんだ。

「ああクソっ!! 負けちまった!! ルークス……ッ、テメェは俺様に、何をさせてェンだ!?」

「簡単なことだよ。まず、孤児院のみんなと仲良くすること」

「あァ゛!? この俺様にィ、雑魚どもと馴れ合えってかッ!?」

「馴れ合えとは言わないけど、いじめるのは駄目だよ。オレたちは、仲間なんだから」

 ルークスが真っ直ぐな目で、静かにそう諭すと、トールは盛大に目尻を吊り上げた。
 なんかもう、吊り上がりすぎて、左右の目尻が額でくっ付きそうになっている。
 それから、彼は犬歯を剥き出しにしながら、孤児仲間の方を見回した。

 みんなが『ひぃっ』と悲鳴を上げて、大きく後退る。
 私は大丈夫だよ。スキルが使われていないなら、トールはそんなに怖くない。

「…………チッ、わーったよ!! 少なくとも、手は出さねェ!! それでいいンだろォがッ!!」

「うん、それでいい! 後はオレたちと一緒に、修行しよう!」

「はァ!? テメェの修行って、庭でやってるヤツだろ……!? あれで強くなれンのかよ……」

「大丈夫! あの修行のおかげで、オレはトールに勝てたんだから、絶対に強くなれるよ!」

 ルークスが勝手に話を進めているけど、私が主導している修行にトールを交ぜるなら、私の許可を取って貰いたい。
 慈善活動じゃないんだから、見返りもなく面倒を見たりしないよ。
 私がジトっとルークスを見つめていると、トールが不貞腐れながらも要求を呑んだ。

「修行のおかげか……。しゃーねェなァ……。いいぜ、一緒に修行してやる。ただしッ、今日の借りは必ず返すからなァ!!」

「いいよ! 模擬戦はオレも大事だと思うから、いつでも受けて立つ!」

「模擬戦じゃねェぞッ!! 男の誇りを賭けた決闘だッ!!」

 男の子二人で、バチバチに盛り上がった後、ルークスがトールを引き連れて、私のところにやって来た。

「アーシャっ、そんな訳でトールの修行も、一緒にお願い!」

「う、うーん……。まぁ、いいけど……トール、いつか私のお願いも聞いてね? 約束だよ?」

「チッ……!! あァ、まァ、忘れてなかったらな……」

 トールは面白くなさそうに舌打ちしたけど、私がジッと目を合わせると、頬を赤くしてそっぽを向いた。
 この様子を見る限り、私との約束は忘れないんじゃないかな。
 それこそ、十年後とかでも覚えているような、重たいタイプかもしれない。
 とりあえず、修行の面倒を見るに当たって、私はトールのステホを見せて貰う。


 トール 戦士(7)
 スキル 【鬨の声】


 ルークスとの決闘で、トールが開幕に上げた雄叫び。
 あれは、戦士の職業スキル【鬨の声】だったみたい。敵を怯ませて、味方の士気を高める効果があるんだって。
 ルークス、トール、シュヴァインくん、フィオナちゃん。この四人で冒険者パーティーを組めば、孤児院を卒業した後でも、安定した収入を得られそうだね。
 
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