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一章 孤児院卒業編
12話 みんなの成長
しおりを挟むルークスとトールの決闘が終わってから、早いもので十日が経過した。
トールは言葉遣いこそ乱暴なままだけど、いじめも喧嘩もしなくなっている。
その分のエネルギーを全て壁師匠にぶつけて、あっという間にルークスのレベルに追い付いたから、本当に大したものだよ。
つい先日、シュヴァインくんとフィオナちゃん、それから私の魔法使いの職業レベルも10になったので、みんな仲良く伸び悩むことになった。
ただし、私の場合はスラ丸がダンジョンで暴れているから、魔物使いのレベルは順調に上がっている。
アーシャ 魔物使い(13) 魔法使い(10)
スキル 【他力本願】【感覚共有】【土壁】【再生の祈り】
【魔力共有】【光球】
従魔 スラ丸(分裂可能)
私が新しく取得したスキルは、【光球】だった。
これは、周囲を照らす光の球を出す魔法だね。
宙に浮かんでいて、誰かを指定すると、その対象を追尾するようになる。
大きさは私の握り拳程度。攻撃力は皆無で、ゾンビやゴーストを祓うような力もない。
マリアさん曰く、これは魔法使いの外れスキルらしい。便利と言えば便利なんだけど、もっと良いスキルが他に色々あるって。
普通は残念に思うところだよ。でも、私には【他力本願】がある。
これによって、【光球】は光量と持続時間が増している上に、『光を当てている対象の、体力と魔力を自動回復させる』という、素晴らしい特殊効果が追加されていた。
ルークスたちに検証を手伝って貰ったところ、毎分の自動回復量は最大値の1%くらいだと判明。
複数の【光球】で一人を照らしても、特殊効果は重複しなかった。
レベルアップによって、魔力が少しだけ伸びる魔物使いと、大幅に伸びる魔法使い。
この二つの職業を選んだ私にとって、最大値の1%は大きい数値だね。
正直、周囲を照らすという本来の効果よりも、追加されている特殊効果の恩恵に与ることの方が、多いと思う。
一つだけ不満があるとすれば、光に当たると敵味方に関係なく、この恩恵を得られてしまうことかな。
……まぁ、【光球】を懐に仕舞えば、解決する問題だよ。その場合、周囲を照らすという効果が、完全に無駄になるけど。
「──ああもうっ、アーシャが余計なスキルを取得したから、修行する時間が増えちゃったじゃない!!」
レベルは伸び悩んでいるけど、それでも欠かさずにルークスたちは修行している。
その最中、フィオナちゃんが私の横に立って、プリプリしながら文句を言ってきた。
みんなに【光球】をあげたから、自動回復する分だけ沢山修行が出来るのに、何故だか不満があるみたい。
「ええっと、いいことだと思うけど……フィオナちゃん、何が不満なの?」
「何って、シュヴァインと二人きりで過ごす時間が、減っちゃったのよ!」
「あー……。ウン、ソウダネ、ゴメンネ……。溜まった苛立ちは私じゃなくて、壁師匠にぶつけてね」
「言われなくてもっ、そうするわ──よッ!!」
フィオナちゃんが頭上に両手を掲げると、直径五メートルくらいの炎の球が出現した。
それは、彼女が両手を振り下ろすのと同時に、放物線を描いて壁師匠へ向かい──着弾して、大爆発を巻き起こす。
熱波と火の粉が広がって、ルークスたちに飛び火しちゃったよ。
フィオナ 火の魔法使い(10)
スキル 【火炎弾】【爆炎球】
今のがフィオナちゃんの新スキル、【爆炎球】だよ。
私の新スキルと同じ球形だけど、私のとは違って立派な攻撃魔法。しかも、大当たりと言われる類の、範囲攻撃魔法だ。
一般的に、魔法使いに求められるのは殲滅力だって、マリアさんが言っていた。
フィオナちゃんは早くも、魔法使いとしての将来が約束されたね。
でも、そんな彼女は今、不満そうに頬を膨らませている。
「むー……。壁師匠ってば、また無傷ね……。あたしの魔法の威力、もしかして低いの……?」
「いやいやいや、威力が低いってことはないと思うよ。ルークスとトールが、余波で大慌てだし」
壁師匠はとっても硬い。今日までの修行で壁師匠に傷が付いたのは、ルークスのスキル【鎧通し】による攻撃だけだった。
「オイっ、馬鹿女!! テメェ、ふざけンじゃねェぞッ!! 俺様のケツに火ィ付けやがってッ!!」
「トール、落ち着いて。魔物に不意打ちされたときの修行だと思えば、むしろフィオナに感謝しないと」
「テメェは黙ってろ修行馬鹿がッ!! 一人で焼け死ねッ!!」
怒髪天を衝く。そんな状態になったトールをルークスが宥めたけど、大失敗。
トールの怒りの矛先がルークスに向いて、二人の模擬戦が始まった。
最近の二人の戦いは、トールが一方的に攻めるだけのものになっている。
素手での勝負だと、どうしてもルークスの攻撃力が足りないからね。
トール 戦士(10)
スキル 【鬨の声】【剛力】
トールの新しいスキルは、常に自分の筋力を二倍にする【剛力】だった。
彼の見た目は変わっていないけど、現時点で成人男性を上回る筋力がある。
このスキルが原因で、ルークスが首を絞めたり関節技を決めたりしても、力技で振り解かれてしまうんだ。
武器を使ったら、間違いなくルークスの方が強いから、トールにはあんまり調子に乗らないで貰いたい。
「ふ、二人とも、喧嘩はやめようよぉ……」
あわあわと狼狽えながらも、二人の喧嘩を仲裁しようとしているのは、心優しいシュヴァインくん。
彼にも火の粉が当たっていたのに、僅かな火傷すら負っていない。
騎士の防御力が、元々高いということもあるけど、これには他にも理由がある。
シュヴァイン 騎士(10)
スキル 【低燃費】【挑発】【炎熱耐性】
シュヴァインくんの新しいスキル【炎熱耐性】は、その名前の通り、炎熱に耐性がつくスキルだった。
これがあるから、フィオナちゃんのフレンドリーファイアも怖くない。
ただし、炎熱を無効化するんじゃなくて、耐性があるだけなので、限度というものがあるはずだよ。
【爆炎球】が直撃したら、流石に無傷とはいかないかも……。怖いから、試してないけどね。
「──さてと、私はスラ丸の様子でも見ようかな」
腐肉の洞窟の内部って、気持ち悪いからあんまり見たくない。
でも、スラ丸の様子が気になるので、暇なときは確認している。
私が目を瞑って【感覚共有】を使うと、スラ丸はゾンビから逃げている真っ最中だった。
……あれ? 腐肉の洞窟はスラ丸にとって、安全だったよね? 一体どういうこと?
必死に転がっているスラ丸を追い掛けているのは、百匹近くのゾンビの群れだ。
「ほ、本当にどういうこと!? スラ丸っ、何しちゃったの!?」
昨日まではゴーストを相手に、これでもかと無双していたので、いきなりこんな窮地に陥るとは思わなかった。
ゾンビたちの走り方は、陸上選手の全力疾走を彷彿とさせるもので、スラ丸よりもずっと速い。
スラ丸は先頭を走っているゾンビの足を【浄化】で消して、転倒させることで集団の足止めを行う。
そうやって時間を稼いでも、ゾンビたちは転倒した先頭集団を躊躇なく踏み潰して、我先にとスラ丸を猛追した。
スラ丸とゾンビたちは、息を呑むほどのデッドヒートを繰り広げている。
私は【魔力共有】を使って、自分の魔力をスラ丸に送り込んだ。これで、【浄化】を使える回数が増えるよね。
「お願いだから、逃げ切って……!!」
スラ丸が何度も、ゾンビたちの先頭集団を転倒させていると、黒い靄を纏っているゾンビが先頭に躍り出た。
そいつは他のゾンビたちとは違って、スラ丸を指差しながら口を動かしている。
『うあ゛!! うあ゛!! うあ゛!!』
追え、追え、追え、と言っているような気がするよ……。
明らかに知能を持っているゾンビで、他のゾンビたちはそいつに従って、スラ丸を追い掛けているみたい。
統率個体──言うなれば、ゾンビリーダーかな。
スラ丸がゾンビリーダーに【浄化】を使うと、腐肉が一瞬で灰になった。
しかし、骨だけになっても、奴は黒い靄を纏った状態で走っている。
二発目の【浄化】で骨も灰になって、黒い靄が霧散した。……けど、他のゾンビたちは、一度下された命令に従っているのか、まだまだスラ丸の猛追を続行する。
スラ丸が逃げ切るよりも先に、魔力が切れて追い付かれる。
そう確信したところで、私の脳裏には二つの選択肢が過った。
一つはこのまま見捨てること。もう一つは【魔力共有】に追加されている特殊効果で、私のスキルを共有させることだ。
一生に一度、それも一つしか設定出来ない共有スキルの枠。そこに【土壁】を入れれば、スラ丸はこの窮地から脱することが出来るかもしれない。
「まぁ、見捨てられないよね……」
私はすぐに、【土壁】をスラ丸と共有した。
早速、スラ丸がそれを使って、ゾンビたちの足止めをする。
私が使うと、磨き抜かれたような光沢を放つ【土壁】だけど……スラ丸が使った場合は、全然磨かれていない質感だった。
その壁は、ゾンビたちの突進で呆気なく崩れたので、私は思わず頭を抱えてしまう。
スラ丸は【他力本願】を持っていないから、あっちが本来の【土壁】の性能っぽい。
あるいは、スラ丸が弱っちいから、壁の性能が低いのかも。
「ぐすん……。ばいばい、スラ丸……。あの世でも、達者でね……」
私は泣きながら、スラ丸の最期を見届ける覚悟を決めた。
主人がそんな体たらくなのに、スラ丸はまだ諦めていない。
通路で【土壁】を二枚、三枚、四枚、五枚と次々に重ねて、ゾンビたちの猛追を食い止めることに成功したんだ。……スラ丸、賢いね。
この後、スラ丸は這う這うの体で、私のもとへ帰還した。
どうやら、スラ丸が襲われたのは第二階層だったみたい。
帰路の途中にある第一階層には、ゾンビリーダーなんていなかったから、奴は第二階層限定で出現する魔物かな。
前回の探索で、ゾンビリーダーと遭遇しなかったのは、運が良かっただけかも……。
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