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一章 孤児院卒業編
13話 二度目の帰還
しおりを挟むスラ丸が私の魔力を湯水のように使ったので、私はぐっすりと眠ってしまった。
夢の中で、暗闇に浮かぶ道の上に立つ。これは、スラ丸を進化させたときと同様の光景だけど、今回は一本道だよ。
道の手前に立てられている看板には、『分裂』と書いてある。
「進化先が見当たらないから、ここがスラ丸の成長限界……?」
進化条件を満たしていないだけ、という可能性もあるけど……なんにしても、コレクタースライムが増えるなら、分裂させるのも悪くはない。
私の魔物使いのレベルは13なので、使役出来る従魔の数も増えている。
これならスラ丸を分裂させても、まだまだ従魔の枠に余裕があるんだ。
「よしっ、分裂させよう。スラ丸、行っておいで」
私が決断するのと同時に、足元にスラ丸が現れて、目の前の道を転がって行った。
その背中を見送りながら、私の意識は緩やかに浮上して──孤児院の庭にある木陰で、静かに目を覚ます。
少し前までは、魔力が空っぽになったら、半日も眠る羽目になっていた。
でも、今は【光球】による魔力の自動回復があるので、二時間もしない内に起きられる。
まだ正午になったばかりの時間帯で、空が明るい。ルークスたちは相も変わらず、修行の真っ最中だよ。
「あっ、スラ丸が増えてる……!!」
スラ丸は既に帰還しており、私の左右に一匹ずつ寄り添っていた。
新しい方は『スラ丸二号』と名付けよう。最初のスラ丸は一号だね。
二号は元気だけど、一号は核にダメージを負っている。
そこそこ大きな罅が入っているので、今にも死んでしまいそうなほどの重症っぽい。
多分、ゾンビかゾンビリーダーに、殴る蹴るの暴行を加えられたんだと思う。
ダンジョンに三日以上潜っていたから、再生状態のバフ効果は切れていた。
「スラ丸……。こんな状態で、頑張って逃げてたんだね……。核に入ったダメージ、私のスキルで治せればいいんだけど……」
私は不安になりながらも、真摯な気持ちで【再生の祈り】を使った。
宙に現れた暫定女神が、スラ丸に優しい光を浴びせる。
すると、瞬く間に罅が塞がり、核は瑕疵一つない状態まで再生した。
「!!」
「どう致しまして。スラ丸が無事でよかったよ」
スラ丸は身体を縦に伸縮させて、感謝の意を示した。
この子に声帯はないけど、ボディーランゲージで多少は言いたいことが分かる。
とりあえず、【再生の祈り】を使うと現れる女神に、『暫定』と付けるのはもうやめようかな。
スラ丸を治してくれたので、立派な女神様だよ。
大人になった私の姿をしているから、今後は『女神アーシャ』とでも呼ばせて貰おう。
──さて、スラ丸の怪我も治ったことだし、今回のダンジョン探索を振り返ろう。
腐肉の洞窟に生息する魔物の分布は、第一階層がゾンビ、第二階層がゾンビとゾンビリーダー、第三階層がゴーストだった。
スラ丸にとって危険なのが第二階層で、美味しい狩場なのが第三階層になる。
これは、どうしたものか……。
行きと帰りに、ゾンビリーダーと遭遇する危険性を考えたら、第三階層へ向かわせるのは怖い。
私はスラ丸に、すっかりと愛着が湧いてしまったんだ。
モフモフが至高だと思うけど、ぷにぷにもいいよね。
「うーん……。スラ丸、しばらくは第一階層を探索する?」
「!?」
ゾンビから落ちる魔石は極小なので、ゴーストを倒していたときほどの成長は見込めない。
お宝も第一階層のものは微妙だろうし、本当にそれでいいのかと、スラ丸が問い掛けてきた……気がする。
「いいんだよ、スラ丸。お宝よりも、キミの命の方が大切だからね」
「!!」
スラ丸は照れたように、身を捩っている。二号も一緒に。
……あれ? 二匹もいるし、一匹だけなら犠牲を覚悟して、第三階層へ向かわせてもいいのかな?
…………いや、いやいやっ、やめておこう。命を粗末に扱っちゃいけないよ。
私の手元には貴重品が増えていくので、スラ丸一号には私の道具袋になって貰おう。
これで、ダンジョンの探索要員は二号だけになる。
「今後の方針が決まったところで、今回の成果を確認しよっか」
私がスラ丸にお宝を催促すると、まずは黄金のメダルを一枚だけ手渡された。
ステホで撮影して調べてみると、物議を醸しそうなアイテムだと判明する。
『魔物メダル』──シスターゴーストが落とした希少なメダル。聖女の墓標で落ちる全種類の魔物メダルを集めると、聖女の墓標の裏ボスに挑める。
この説明で、まず引っ掛かるのは、『聖女の墓標』という部分。
一般的に、腐肉の洞窟と呼ばれていたダンジョンは、正式名が違ったらしい。
それから、『シスターゴースト』とは、第三階層に生息しているゴーストの正式名っぽい。
修道女の幽霊みたいだから、そんな名前なんだろうね。
それと、ダンジョンに裏ボスが存在することなんて、私は初めて知ったよ。
裏があるなら、表もあると思う。危険な香りがプンプンするので、挑みたいとは思わないし、魔物メダルを集める必要はないかな……。
あっ、でも、裏ボスがゾンビとかゴーストだったら、聖水を大量に溜めておけば、簡単に倒せるかもしれない。一応、頭の片隅にメモしておこう。
「スラ丸、次のお宝を出して」
私が再び催促すると、スラ丸は一本の瓶を差し出してきた。
中身は薄い赤色の液体だよ。これも、ステホで調べてみよう。
『下級ポーション』──軽度の傷を治す回復薬。とても苦い。
ポーションと言えば、ファンタジー世界の定番アイテムというイメージがある。
けど、私は初めて実物を見た。マリアさんの職業が僧侶だから、孤児院では使う機会がないんだよね。
一般家庭では、何本か常備されているらしい。
私には【再生の祈り】があるので、使う機会はないと思う。
「はい、次」
スラ丸が次に差し出してきたのは、小粒の白い魔石が埋まっている銀の指輪だった。
魔石の中には、見覚えのない文字が浮かんでいる。これも、ステホで撮影。
『光る延長の指輪』──装備すると、スキル【光球】の持続時間が二倍になる。魔力の消耗量は変化しない。
現時点で三日間も持続するし、そもそも夜になったら、光は邪魔だから消すんだよね……。
ああでも、スラ丸二号に【光球】を付けるって考えたら、悪くないかな。
三日以上のダンジョン探索を行う際に、とても役立つはずだよ。
魔力を自動回復させて、どんどんゾンビ狩りをして貰いたい。そんな訳で、この指輪は私が装備しよう。
「──と思ったけど、サイズが大き過ぎるかも」
右手の小指に嵌めたかったのに、ブカブカで簡単に落ちそう。
困ったな、と悩んだのも束の間。指輪が急に縮んで、違和感なく私の小指にフィットしたよ。
ステホで調べたときは、そんな機能があるなんて、書いてなかったけど……マジックアイテムであれば、これが当たり前とか……?
「まぁ、細かいことはスルーで」
今までは、お洒落とは無縁の生活を送っていたので、指輪一つで気分が高揚する。
宝石の指輪ほど美しくはないけど、孤児には過ぎた代物かもしれない。
上機嫌で鼻歌を口遊む私に、スラ丸が次のお宝を差し出してきた。
それは、小粒の白い魔石が埋まっている銀の指輪だ。
「……あれっ、二個目!?」
自分の小指に嵌めた指輪と見比べても、差異は見当たらない。
しかし、ステホで撮影してみると、違いが分かった。
『光る延長の指輪』──装備すると、スキル【破壊光線】の照射時間が二倍になる。魔力の消耗量は変化しない。
さっきと同じ名前のアイテムだけど、強化されるスキルが違う。スキル名からして、物凄く強そうだよ……。
このスキルは十中八九、私とは無縁の攻撃魔法だね。【他力本願】のデメリットが恨めしい。
「これ、高く売れるといいなぁ……。売れたら果物を買ってあげるからね、スラ丸」
スラ丸は私の口約束を聞いて、大喜びで飛び跳ねた。
今回のダンジョン探索の成果は、以上の四つ。十二分だね。
お宝の確認が終わったところで、修行を頑張っていたシュヴァインくんが、こちらに歩いてくる。
「あ、あの……師匠、何やってるの……?」
「スラ丸の冒険の成果を確認していたんだよ。この子をダンジョンへ送り込んでいるの、言ってなかったっけ?」
「えっ!? き、聞いてなかった……!! スラ丸って、凄いんだ……」
「そうなの、とっても凄いの」
私がシュヴァインくんにスラ丸を自慢していると、ルークス、トール、フィオナちゃんも、休憩のためにやって来た。
トールは目を眇めてスラ丸を睨み付け、開口一番に愚痴を零す。
「チッ、スライム如きがダンジョン探索してンのに、俺様たちはいつまで修行止まりなンだ?」
「修行止まりって、あんたまさかっ、もうダンジョンに潜りたいの!? 冗談でしょ!?」
フィオナちゃんがシュヴァインくんの背後に隠れながら、向こう見ずなトールを小馬鹿にした。
トールは恐ろしい形相でフィオナちゃんを睨み付け、地面に自分の拳を叩き付ける。
「冗談じゃねェよッ!! 俺様の力がありゃァ、魔物の十や二十は、楽勝でブッ殺せるだろォがッ!!」
ズドン、と大きな音がして、局所的に地面が震えた。とんでもない筋力だ。
六歳児なんて怖くないと、私は思っていたけど……こんなに筋力が増しているトールは、普通に怖い。
フィオナちゃんを見習って、私もルークスの背中に隠れよう。
「んー……。オレも早く、ダンジョン探索したいけど、装備が整ってないと厳しいよ」
ルークスはトールの暴力に動じることなく、真っ直ぐな眼差しで自分の意見を言った。
マリアさん曰く、仮にルークスたちがダンジョンへ潜るなら、レベル的には流水海域の第二階層までが、適正の狩場になるらしい。
ただし、装備的には第一階層ですら難しいとか……。
魔物を倒すだけなら、私がルークスにプレゼントした渇きの短剣と、フィオナちゃんの攻撃魔法。それから、トールの筋力で事足りる。
でも、流水海域はとにかく寒いので、防寒具が必要不可欠なんだって。
お金を稼ぐために装備が必要だけど、装備を買うためにお金が必要だなんて、世知辛い世の中だよ。
ここで、フィオナちゃんが私に質問する。
「ねぇ、アーシャ。孤児院を卒業した子たちって、どうやって稼ぐのよ? 必要最低限の装備すら買えないなら、冒険者は無理よね?」
「ダンジョン探索だけが、冒険者の仕事じゃないよ。私もそんなに詳しくないけど、荷物運びとか、ネズミ捕りとか、落とし物を探したりとか。子供向けの依頼もあるって、マリアさんが言ってた」
フィオナちゃんは私が例に挙げた仕事を聞いて、訝しげな表情を浮かべた。
流石は元商人の娘、この話の違和感に気付いたみたい。
「それ、生活費を稼ぐだけで、精一杯になりそうね……。装備を買い揃えるなんて、いつまで経っても無理じゃない……?」
「う、うん……。だからその、言い難いんだけど……大半の孤児は自分自身を担保にして、奴隷商人からお金を借りるんだって……」
私が齎した情報に、みんなが顔を顰めた。
気持ちは分かるよ。私たちが生きていくのって、やっぱり大変だよね。
シュヴァインくんはフィオナちゃんの手を握り締めながら、いつになくキリッとした表情で、私に訴え掛けてくる。
「し、師匠……っ!! ぼ、ボクはともかく、フィオナちゃんを担保になんて出来ないよ……っ!!」
「うーん……。それじゃあ、私のお宝が売れたら、みんなの装備を買ってあげるよ」
私がそう伝えると、シュヴァインくん、フィオナちゃん、ルークスの順にお礼を言ってきた。
「師匠……!! ありがとう……!!」
「流石はアーシャね! 話が分かるじゃない!!」
「アーシャっ、ありがとう! でも、本当にいいの? オレ、貰ってばっかりだけど……」
私はルークスの柔らかい髪を撫でながら、慈母のような表情を意識して、優しく微笑み掛ける。
「いいのいいの。いつか、恩返しすることを忘れなければ、今は甘えてくれていいんだよ」
……ところで、トールだけは私にお礼を言わないんだけど、どういうこと?
私が物言いたげな視線を向けると、トールは舌打ちしてそっぽを向いた。
「チッ、どうせ貸しなンだろ? 借りは百倍にして、必ず返す!! だから、礼は言わねェ……」
本当に百倍の恩返しをしてくれるなら、文句は一切ない。期待してるからね。
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