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二章 子供たちの冒険編
36話 スイミィの依頼
しおりを挟む──私はスイミィちゃんに、詳しい話を聞いてみた。
どうやら、彼女が身に付けている髪飾りは、『気儘なペンギンの髪飾り』という名前のマジックアイテムらしい。
効果はフィオナちゃんが装備している耳飾りと同じで、他にも同種の首飾りが存在するのだとか。
髪飾り、耳飾り、首飾り。この三点セットを同時に装備すると、仲間ペンギンを自分の好きなタイミングで呼び出せる効果に変化する。
スイミィちゃんはそのセット効果がお目当てで、耳飾りと首飾りを探し求めているみたい。
これらは流水海域で発見される青銅の宝箱から、稀に入手出来るという話だけど、市場を探しても全然見つからないそうだ。
宝箱そのものが滅多に見つからないし、その中身は多岐に亘るから、三点セットを揃えるのは非常に難しそう。
「それで、ミミックに作って貰おうと思ったんだね」
「……そう。あなた、ミミックをテイムするって、言ってた」
この子は私の独り言を耳にして、これ幸いと頼み込んできた訳だ。
自分よりも年下の子供のお願いだから、聞き入れてあげたいけど、やっぱり安請け合いは出来ない。
「私がミミックをテイム出来るのって、いつになるか分からないよ? それに、ミミックが作れるお宝は、ランダムみたいだから……」
「……大丈夫。スイ、夢で見た。……あなたが、首飾り、ミミックから出すの」
「ゆ、夢で見たって言われても……」
もしかして、この子は不思議ちゃんかな?
私が心の中で、ちょっと失礼な疑問を抱いていると、スイミィちゃんは説明を補足してくれた。
「……スイのスキル、【予知夢】で見た」
【予知夢】はその名前の通り、夢の中で体験したことが、現実で起きるというスキル。要するに、未来予知だね。
スイミィちゃんは夢の中で、気儘なペンギンの首飾りをミミックから取り出す私の隣に、ワクワクしながら立っていたんだって。
夢と現実の私を比べると、容姿や身長に差異がなかったから、私は近々ミミックをテイムすることが決まっているみたい。
「なるほど……。でも、うーん……どうだろう……」
私は腕を組みながら、なんとも言えない表情で首を傾げてしまう。
私のスキル【再生の祈り】には、若返りという特殊効果が付いているから、未来の私がそれを使った可能性もあるんだよね。
そう考えると、ミミックをテイムするのがいつになるのか、見通しが立たなくなる。
この特殊効果に関しては、誰にも言うつもりがないから、スイミィちゃんに説明出来ないし、どうしたものか……。
「──スイミィ、こんなところで何をしているんだ? 勝手にワタシの傍から離れるなと、言っただろう」
私が悩んでいると、焦りを滲ませた少年の声が耳に届いた。そちらに目を向けると、老執事を引き連れている正装のニュート様の姿があったよ。
「……兄さま、助けて」
「──ッ!?」
スイミィちゃんの口から、驚くべき言葉が飛び出して、私は思わずギョッとしちゃった。この子、まさかニュート様の妹なの?
だとすれば……なんてこった、お貴族様だよ。ファミリーネームを名乗らなかったから、大きな商会のご令嬢とか、大司教の娘とか、そういう立場なのかと思っていた。
というか、スイミィちゃん……。私の聞き間違いじゃなかったら、ニュート様に助けを求めなかった? それじゃあまるで、私が悪者みたいにならない?
「貴様ッ!! 今すぐスイミィから離れろッ!!」
「坊ちゃま! 微力ながらっ、この爺も加勢しますぞ!!」
ニュート様が冷気を纏っている細剣を腰から引き抜いて、私に突き付けてきた。
老執事は魔力を漲らせながら、私に向かって片手を突き出し、なんらかの魔法を使おうとしている。
あっという間に、私の命は風前の灯火だよ。
「ご、誤解です……!! 大きな誤解が生まれています……!!」
私は弁解しようとしたけど、聞く耳を持たないと言わんばかりに、ニュート様と老執事が殺気立つ。
こんな滅茶苦茶なことがあっていいの? 私が平民で、この人たちが貴族だから? 貴族なら何をしても許されるの……?
ああもうっ、泣きそうなんだけど……!!
私が瞳に涙を湛えながら憤慨していると、スイミィちゃんが救いの手を差し伸べてくれた。……まぁ、この状況を作った張本人だけどね、この子。
「……兄さま、ちがう。この人のこと、助けてあげて」
「なんだと……? 意味が分からん、どういうことだ?」
「……ミミックのテイム。手助け、必要」
「いや、本当にどういうことなんだ? 貴様、スイミィに何を吹き込んだ?」
ニュート様は一旦武器を収めてくれたけど、私に厳しい目を向けたまま詰問してくる。
「ふ、吹き込むだなんて、滅相もありません……。ただ、首飾りを作って欲しいと、頼まれただけで──」
私はありのまま、スイミィちゃんとのやり取りを包み隠さずに伝えた。
ニュート様は全て事実であることをスイミィちゃんに確認してから、意外にも私に対して軽く頭を下げる。
「事情は理解した。非礼を詫びよう。すまなかった」
「坊ちゃま!? 侯爵家の嫡男であられる御身が!! こんな小娘に頭を下げるなどっ!!」
「爺、よせ。ワタシに恥を掻かせるな」
老執事は物凄く不満そうだけど、ニュート様の言葉を聞いて口を噤む。
遺恨にならないなら、私としてはなんでもいい。でもこれ、なんて返事をすればいいんだろう? 許しますって言うのは、上から目線みたいで危ないよね。
「ええっと、お気になさらず……?」
「そうか。……それで、ワタシは貴様を無機物遺跡に連れて行けばいいんだな?」
「い、いえ、それは……恐れ多いと言いますか……」
「貴様のためではなく、スイミィのためだ。それに、ワタシもそろそろ、違う狩場を見てみたいと思っていた」
こうして、あれよあれよという間に、私のテイムをニュート様が手伝ってくれることになった。彼がくるなら、護衛の騎士たちも同行してくれると思う。
正直、私はダンジョンよりも、貴族の方が怖いんだよね。民主主義国家で生まれ育った前世の記憶があるから、封建社会の寵児とは相容れないものがある。
お断りしたいけど、それが許される雰囲気じゃない。
私のためじゃなくて、スイミィちゃん──いや、スイミィ様のためだって、明言されちゃったし。
今まで忘れていたけど、ニュート様と同じく、スイミィ様にも最上位の敬称を付けないとね。
「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます……」
「ああ、そうしろ。ところで、貴様の名前は?」
「申し遅れました、私はアーシャです。冒険者ギルドの近くで、商店を営んでおります」
「ほぅ、面白いな。その歳で自分の店を持っているのか?」
怪しい人間ではないことを少しでもアピールしたくて、余計なことを言ってしまったかも……。ニュート様は私に興味を持ったみたいで、眼鏡の奥の怜悧な瞳を細めている。
「小さいお店ですけど、はい。持っています」
「ふむ、親の教育方針と言ったところか……。ワタシほどではないにしろ、貴様も苦労しているのだな」
私は孤児だよ。というか、自分の方が苦労していると言っているのが、少しムカっとした。生まれながらの特権階級にも、それはそれで苦労があるんだろうけど、孤児ほどじゃないでしょ。
贅沢な暮らし、高価な衣服、強そうな武器、頼もしい護衛。これらを帳消しにするような苦労って、ちょっと想像出来ない。
それと、今日初めて出会ったと言わんばかりの態度だけど、ニュート様は職業選択の儀式があった日に、教会の前で私のことを視界に納めていたはず……。
小汚くて見窄らしい姿だった私のことなんて、憶えていませんか、そうですか。
ムカつきポイントが貯まってきたから、もう利用するだけしてやろうという気持ちになってくる。
「ニュート様、無機物遺跡へ向かうのはいつですか?」
「スイミィのためを思えば、早いに越したことはない。明日の早朝、貴様のもとに迎えを寄こす。ダンジョン探索に相応しい装いをしておけ」
私の質問に答えたニュート様は、そう言い残して踵を返した。
スイミィ様がトコトコと彼の後を追い掛けて、服の裾を引っ張る。
「……兄さま、スイも行く。……ダンジョン、行きたい」
「駄目に決まっているだろう。まだ職業選択の儀式が済んでいない上に、お前はすぐ迷子になる。ダンジョンになど、連れて行けるものか」
「……スイ、迷子ちがう」
スイミィ様は占い師みたいな職業を選んだのかと思ったけど、年齢的に儀式はまだだったみたい。
であれば、【予知夢】は先天性スキルかもしれないね。
ニュート様たちが立ち去ってから、私は先天性スキルのことを調べるべく、本を探してみた。私も持っているから、結構気になるんだ。
本棚が綺麗に整頓されているので、すぐに見つかったけど──役に立ちそうな情報なんて、記載されていない。ただ、目に付く一文があったよ。
『祝福と呪いは表裏一体。先天性スキルとは、神の恩寵であり、また試練でもある。これは決して、切り離すことが出来ない』
この本の著者が調べた限りだと、先天性スキルには例外なく、何かしらのデメリットがあったらしい。
これが確かなら、スイミィ様の【予知夢】にも、呪われた側面があるのだろう。
表情筋が死んでいるのは、そこに原因があったりするのかも……。まぁ、私が気にしても、仕方ない話だけどね。
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