59 / 239
二章 子供たちの冒険編
59話 ソウルイーター
しおりを挟む「──ブロ丸っ!! あれを奪って!!」
マンティスからドラゴンの魔石を奪い取るべく、私は大声でブロ丸に指示を出した。けど、一歩遅かったよ。
マンティスが布袋ごと、魔石を丸呑みにしてしまったんだ。すると、その身体が爆発的に膨張して、姿形が急速に変化していく。
まずは二メートルほど大きくなって、外殻が真っ赤に染まり、鎌の表面に揺れる炎のような模様が浮かんだ。誰がどう見ても、これは進化だ。
一段階進化した程度なら、対処は簡単そうだけど、そこで止まる様子はない。
今度は三メートルほど大きくなって、外殻が赤黒く染まり、腕の数が四本になった。
立て続けに、今度は五メートルほど大きくなって、外殻が真っ黒に染まり、腕の数が六本になった。この時点で、そこらの民家よりも大きくなったので、すぐに騎士団の人たちが発見する。
「ヤバい……ッ!! モーブっ、ジミィ!! お前らは若様とお嬢様を避難させろッ!! 他はあの魔物に対処するぞッ!! 急げぇッ!!」
鬼神の如き強さを持つガルムさんが、緊迫感のある声で騎士団に号令を下した。
一斉に駆け出す彼らが到着する前に、カマキリの魔物はまだまだ進化を続ける。
身体が更に大きくなって、外殻に赤い亀裂が走り、腕の数が八本になった。
身体が更に大きくなって、全ての腕に備わっている鎌の形状が凶悪になり、頭部からは捻じれた真っ赤な角が生えてきた。
身体が更に大きくなって、大きくなって、大きくなって──最終的に、その大きさは三百メートル、腕の数は十六本という、途轍もない大怪獣のカマキリに至ってしまう。
外殻は死と絶望を想起させるようにドス黒く、全身に走っている亀裂からは、赫灼の炎が漏れ出していた。
その身体は心臓みたいに、ドクン、ドクン、と脈打って、外殻の内側に詰まっている膨大なエネルギーが、今にも爆発しそうに見える。
私は震える手でステホを取り出し、その魔物を撮影してみた。
判明した名前は『ソウルイーター』で、持っているスキルは九つもある。
【烈斬】【火炎斬】【飛斬】【堅牢】【鎌鼬】
【斬鉄剣】【天翔け】【二の太刀】【魂魄刈り】
スキルの詳細を確認している余裕なんてない。でも、恐ろしく強い魔物だと、誰もが確信したよ。
「な、何よあれ……。街中に現れていい魔物じゃ……ない、わよね……?」
フィオナちゃんが腰を抜かして、その場にぺたんと座り込んだ。
こんなときにフォローするはずのシュヴァインくんは、ソウルイーターの威容を見つめながら硬直している。
「……みんな、逃げよう。今のオレたちじゃ、何も出来ない」
「チッ、今に見てろ……!! 俺様は、あンな魔物でもブッ殺せるくらい、強くなってみせるぜ……ッ!!」
ルークスとトールは自分の無力さを痛感して、悔しそうに拳を握り締めながら、撤退することを選んだ。
正直、私はホッとしたよ。ルークスはまだしも、トールなんてあんな魔物にですら、戦いを挑みそうな怖さがあるからね。
「おい、貴様らはどうする? ワタシたちと共に避難するか、それとも別々に逃げるか、好きな方を選べ」
「是非ご一緒させて貰うわ! あたしたちに、安全な逃げ場なんてないもの!」
ニュート様の問い掛けに、フィオナちゃんが一も二もなく即答した。
ここで、スイミィ様が顔に影を落としながら、暗い声で待ったを掛ける。
「……みんな、ダメ。……スイから、離れて」
「あっ、まさか……スイミィ様は、あの魔物に……?」
否定して欲しいと願いながら、私はスイミィ様にそう尋ねた。
彼女はいつも以上に顔から表情を消して、こくりと小さく頷く。
「……そう。スイ、あれに殺される。……そういう夢、見た」
黒いカマキリだとは聞いていたけど、あの大きさは余りにも予想外だよ。
ルークスたちはスイミィ様の先天性スキルのことを知らないから、一様に怪訝そうな表情を浮かべている。
他人のスキルのことだし、私の口から事情を説明する訳にはいかない。どうしようかと考えていると、ニュート様がみんなを急かした。
「とりあえず、ここから離れるのが先だ。移動しながら事情を話してやるから、そのまま同行を続けるか、あるいは別れるか、好きな方を選べ」
こうして、私たちはソウルイーターに背を向けながら、侯爵家のお屋敷へと向かう。当たり前だけど、ブロ丸は呼び戻した。あの場に残しても、この子に出来ることはないからね。
モーブさんがスイミィ様を抱きかかえて先頭を走り、ジミィさんが最後尾で後方を警戒してくれている。
ソウルイーターが追い掛けてくる気配は、今のところ感じられない。
道中、ニュート様から諸々の事情を聞いたルークスたちは、このままスイミィ様と一緒に行動していると、ソウルイーターに襲われる危険性があることを知った。
ルークスが仲間たちの顔を見回して、心底困った様子で口を開く。
「──事情は分かったけど、どうしようか?」
「どうって、言われてもね……。あたしたちが同行しても、ソウルイーターに襲われたら、何も出来ないと思うわよ……?」
フィオナちゃんはスイミィ様に同情的な目を向けたけど、それでも彼女と別れたがっている。
これを薄情だと責めることは出来ない。ソウルイーターの威容を間近で見たら、戦おうなんて到底思えないんだ。
「俺様は逃げたくねェが、出来ることがあるとも思えねェな……。まァ、殺るってンなら付き合うぜ?」
トールはみんなに判断を委ねてから、だんまりを決め込んだよ。
誰よりも負けん気が強いトールですら、前のめりにはなれないみたい。
さて、シュヴァインくんはどうしたいのかな?
私が視線を向けて、意志を示すように促すと、彼は誰よりも怯えながら──しかし、誰よりも力強い眼差しで、スイミィ様と目を合わせる。
「ぼ、ボクは……っ、助けたいよ……!! だからっ、キミと一緒に行く!! ボクに出来ることなんて、何もないかもしれないけどっ、未来のことなんて!! 全部『かも』だからっ!! 出来ることだって、あるかもしれないんだ!!」
シュヴァインくんが過去最大の男気を見せて、揺るぎない決意を表明した。
彼の実力なんて、騎士団の末端の人間にすら遠く及ばない。その程度の力しかないのに……運命を変えられる人って、こういう人なんじゃないかと思えてくる。
「オレよりもシュヴァインの方が、冒険者らしい冒険者だね……。うんっ、行こう! 先の見えない未来に、冒険だ!!」
「シュヴァインが前に進ンで、俺様が後ろに下がるなンざ……ッ、天地が引っ繰り返ってもあり得ねェ!! 進むンなら俺様が先頭だぜッ!!」
シュヴァインくんの男気に当てられて、ルークスとトールが覚悟を完了させちゃった。
スイミィ様は小首を傾げて、おずおずとシュヴァインくんに尋ねる。
「……どうして? どうして、スイのこと、助けてくれる?」
「えっと、助けたいって、思ったから……。ただ、それだけなんだ……」
彼は純粋な気持ちを吐露して、気恥ずかしそうに頬を掻く。
その眩しい姿を見て、私はちょっとだけ意地悪な質問をしたくなった。
もしも、スイミィ様が美少女じゃなくて、小太りなオジサンだったら、そんな風に助けたいって思ったのかな?
……いや、しないけどね。こんな質問。
「シュヴァインってば、本当に優しいわね! あたしをこれ以上惚れさせて、どうする気なのよ!?」
「ふぃ、フィオナちゃん……!! ご、ごめん、勝手に決めちゃって……。ボク、フィオナちゃんには、安全な場所に逃げて欲しくて……」
「ばかっ、シュヴァインの後ろ以上に安全な場所なんて、この世のどこにあるって言うのよ!? きちんとあたしも守りなさいよねっ!!」
フィオナちゃんはシュヴァインくんの背中をバシバシ叩いて、にやにやしながら激励した。これで、みんなが同行することになったね。
スイミィ様は私に顔を向けて、口元を微かに綻ばせながら、一筋の涙を零す。
「……姉さま。スイ、困った。……みんな、良い人」
「みんな良い人で、何が困ったんですか?」
「……良い人、死んで欲しくない。……スイ、一人で死にたい」
ああ、困った。そんなこと言われると、私も困っちゃったよ。
シュヴァインくんもスイミィ様も、自分の命より他人の命を大事にするんだもの。
こんなに胸が締め付けられること、前世の分も含めて、今までの人生で一度もなかった。
いつだって自分が一番大切で、薄っぺらな偽善しか持っていない私にとって、この子たちは直視出来ないほど眩しい存在だ。
──頭の中で、『このままでいいの?』と自問してしまう。
私は弱い。けど、ルークスたちとは違って、現時点で明確に出来ることがある。
ガルムさんを筆頭に、騎士団の人たちに支援スキルを掛けて回れば、間違いなく大きな助けになるよね。
ずっと隠していた【再生の祈り】を大々的に使えば、スイミィ様の死の運命を覆せるかもしれない。
ただし、そんなことをすれば、後になって無数の厄介事が私に降り掛かると思う。
「ああ、困った……。本当に、困ったなぁ……」
人助けなんて、自分を不幸にしてまで、やるようなことじゃない。
余裕のある人が、自己満足の範疇でやる。それが健全な人助けなんだ。
私は自分自身にそう言い聞かせて、心に宿った熱を冷まそうとした。けど、
「私っ、行ってきます……!! 騎士団の人たちのところに!!」
気付いたときには踵を返して、自ずと口が動いていたよ。
121
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる