他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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三章 スライム騒動編

69話 喧嘩

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 トールとニュート様が喧嘩をすることになったけど、殺し合いは絶対に駄目だって私は言い含めた。
 当然、ルークスもそこまでさせるつもりはなくて、健全なルールを設けようとする。

「武器なし、スキルありの模擬戦で、致命傷を与えるのは禁止。どうかな?」

「ワタシは魔法使いだ。スキルありなら、断然こちらが有利だな。野良犬、どんなハンデが欲しいのか言ってみろ」

「いらねェよ、クソ眼鏡。さっさと始めようぜ」

 私たちは、冒険者ギルドの地下にある練習場へと移動した。
 その開けた場所で、ニュート様とトールが対峙する。
 審判員は私、ルークス、フィオナちゃん、シュヴァインくんの四人だよ。

 一応、私は公平な立場から二人のステホを見せて貰って、危険過ぎるスキルがないか確認を取った。
 私のスキル【再生の祈り】で治らないような、後遺症を与えるスキルがあると、かなり不味いからね。

 トール 戦士(14)
 スキル 【鬨の声】【剛力】

 トールのレベルは以前に確認したときより、それなりに上がっていた。それでも、新しいスキルは取得していない。
 【鬨の声】は敵を怯ませて味方を鼓舞するスキルで、【剛力】は常に自分の筋力が上昇するスキルだよ。
 これなら、意図して相手の命を奪おうとしない限り、問題はないと思う。

 ニュート 氷の魔法使い(16)
 スキル 【氷塊弾】【氷壁】

 ニュート様は普通の魔法使いじゃなくて、氷の魔法使い。これは氷属性の魔法に特化している職業だね。
 レベルはトールよりも高いけど、魔法使いはレベルが上がっても魔力が増えるだけで、身体能力は変わらない。
 このレベル差があっても、接近戦になったらトールに軍配が上がると思う。

 【氷塊弾】は拳大の氷の塊を飛ばすスキルで、【氷壁】は縦横三メートル、厚さ五十センチくらいの氷の壁を出すスキルだよ。
 どちらも魔力を消耗するスキルだから、魔法って呼ぶ人が多い。
 これらも意図して相手の命を奪おうとしない限り、問題はなさそう。トールは身体が丈夫だから、尚更ね。

 ちなみに、私の支援スキルがあるとフェアじゃないから、喧嘩が終わるまでは使わないよ。

「それじゃあ、この銀貨が地面に落ちたら、始める感じで……」

 本当は止めるべきなんだろうなぁ、と思いながらも、私は銀貨を指で弾いた。

 張り詰めた空気の中、くるくると回る銀貨が地面に落ちて──

「ウオオオオオオオオオオオオォォォォォッ!!」

 トールが【鬨の声】を使った雄叫びを上げながら、真正面から突っ込んでいく。

「くっ……!! 負け犬の遠吠えでも、練習しているのか!?」

 ニュート様は少し怯んだけど、持ち前の自尊心が後退することを良しとせず、すぐに【氷塊弾】で応戦する。
 トールは歩みを止めることなく、拳一つでこれを打ち砕いた。

「この程度の攻撃で、俺様は止められねェよッ!! 負け犬になるのはテメェだぜッ!!」

「戯け!! 猪突猛進な馬鹿への対処法ならっ、学んでいるぞ!!」

 ニュート様は立て続けに【氷塊弾】を撃っていくけど、その悉くがトールの拳によって砕かれてしまう。
 でも、砕けるのと同時に冷気が散るから、この魔法には相手の体温を下げる効果もあるんだ。
 夏場とは言え、長期戦になればトールが不利かもしれない。彼自身もそう感じたみたいで、少しだけ表情に焦りが滲んだけど、ニュート様に肉迫することには成功した。

「歯ァ食いしばれやッ!! クソ眼鏡ェ!!」

 トールは走った勢いを乗せて、大振りの拳を突き出す。
 ニュート様は冷静に、その拳を紙一重で避けながら、トールの腕を絡めとった。
 そして、相手の勢いを利用することで、高々と投げ飛ばしたよ。

 私は詳しくないけど、柔道みたいな技に見える。背負い投げ、だったかな。
 ニュート様は数多くの実力者たちに、手厚い指導をして貰える立場にあったから、こういう技術を習得しているのも納得だね。

「なによあいつ!? 本当にあたしと同じ魔法使いなの!?」

「さ、流石はお義兄さん……!! ボクっ、応援してます……!!」

 驚愕しているフィオナちゃんの横で、シュヴァインくんがニュート様に媚びを売った。
 ニュート様は見るからにイラっとしながらも、宙を舞っているトールに対して、ここぞとばかりに【氷塊弾】を浴びせる。

「凍り付けッ!! 野良犬ッ!!」

「チッ、クソがァ!! 負けてたまるかよォッ!!」

 トールは筋力に物を言わせて、雑な大振りをすることが多いけど、決して不器用な訳じゃない。空中でも器用に身を捩って拳を振り回し、【氷塊弾】に対処していく。
 ただ、完璧とはいかなくて、顔面に直撃コースで飛来する一発を殴り損ねた。

 私は痛ましい光景を予想して、思わず目を逸らす。……少し経っても、ルークスたちは止めに入らない。
 勝負が続行しているから、恐る恐る視線を戻してみた。すると、無事に着地していたトールが、咥えている氷塊を噛み砕いたよ。

 どうやら、顔面に飛来した【氷塊弾】を口で受け止めたらしい。

「氷が食いたいのなら、胃袋がはち切れるまで食わせてやる……ッ!! 有難く思えっ、野良犬ッ!!」

「上等だぜッ!! やれるもンならやってみやがれッ!!」

 トールが再び駆け出して、ニュート様は【氷塊弾】で応戦した。
 ここまでは先ほどの再現だけど、肉迫したトールは大振りをやめて、小刻みなジャブでニュート様を殴ろうとする。
 戦士の高い攻撃力と、魔法使いの低い防御力。この二つを加味すると、小技でも十分に大きなダメージを与えられると思う。

「ワタシには、もう一つスキルがあるぞ!! 貴様に砕けるか!?」

 ニュート様は自分の足元から【氷壁】を出現させて、その上に乗ることでトールの拳を回避したよ。

「ぶち抜く──ぜェッ!!」

 筋力自慢のトールでも、【氷壁】を一撃で砕くことは出来なかった。それどころか、拳が傷ついて逆にダメージを受けている。
 でも、躊躇いなく大振りに切り替えて、二度、三度と連続で殴り付け、【氷壁】を壊すことに成功した。

 これで後は、落ちてくるニュート様を殴り付ければ、トールの勝ち──かと思ったけど、頭上から降ってくるのは【氷壁】だった。
 横向きに寝かせてある状態で、四枚重ね。その上にはニュート様が乗っているから、総重量は中々のものだろうね。
 彼は最初の【氷壁】でトールの拳を回避した後、跳躍して空中に【氷壁】を生成し、この攻撃に繋げたんだ。

 魔法使いと言えば、後方から魔法を撃ちまくる固定砲台が一般的だけど、その例はニュート様に当て嵌まらない。
 私も【土壁】というスキルを持っているけど、それを利用してスタイリッシュなことをするなんて、絶対に無理だよ。

 ちなみに、壁系の魔法は地面からにょきっと生やすか、空中に生成するか、二通りの出し方がある。
 【土壁】の場合、土の地面から生やす以外の方法だと、魔力を多めに消耗して、生成速度が低下する。特に空中での生成だと、それが顕著なんだ。
 重力に抗うことなく落ちるけど、生成速度が遅いから敵を潰すことは難しい。そんな訳で、空中に出すメリットは殆どない。

 【氷壁】の場合、生成する場所が地面でも空中でも、消耗する魔力は変化しない。ただし、周囲の温度が低ければ、消耗する魔力が減って、生成速度は上がる。周囲の温度が高いと、それが逆になるみたい。
 【氷塊弾】が砕ける度に冷気が散って、周囲の温度を下げていたから、それがニュート様を有利にしているね。

「おおーっ、凄い凄い! やっぱり、仲間になって欲しいなぁ」

 ルークスが呑気に手を叩いて、ニュート様を称賛している。
 トールが負けちゃいそうだけど、それでいいの?

「負ァけェるゥかあああああああアアアァァァァァ──ッ!!」 

「狂犬め……っ、往生際が悪いぞッ!! このまま潰れてしまえッ!!」
 
 トールは【氷壁】を両手で受け止めて踏ん張ったけど、流石に投げ飛ばすようなことは出来なかった。
 メキメキと、彼の全身から骨が軋んでいるような音がする。
 これはもう、止めに入るべきだ。そう判断して、私が『勝負あり!』って叫ぼうとしたら、ルークスに遮られた。

「アーシャ、まだ止めないで。思う存分やらせてあげないと、トールは納得しないから」

「えっ、で、でも、このままじゃ……」

 トールの命が危ない。そう忠告しようとしたところで、フィオナちゃんが声援なのか野次なのか分からない言葉を飛ばす。

「トールっ!! このままだとアーシャのファーストキスがっ、ニュートに奪われちゃうわよ!!」

「な──ッ、ンだそりゃァ……ッ!? 聞いてねェぞッ!?」

 トールが驚いているけど、私も驚いている。初耳だからね。
 一体何を言い出すんだと、フィオナちゃんに非難の目を向けると、『ここは任せて!』と言わんばかりにウィンクを返された。

「この決闘っ、勝者にはアーシャのファーストキスが捧げられるわ!! たった今っ、決まったのよ!!」

「いや、あの──」

 私は了承していない。そう文句を言おうとしたら、その前にトールの闘志が膨れ上がって、彼の身体が一回り大きくなった気がした。
 トールは己の限界を超えて、身体のあちこちに内出血の痕を滲ませ、雄叫びと共に【氷壁】を投げ飛ばす。
 そして、空中に放り出されたニュート様へと肉迫し、渾身の左ストレートを叩き込んだ。

 ニュート様は咄嗟に両腕を交差させて防御したけど、魔法使いの細腕が耐えられるほど、戦士の一撃は軽くない。
 彼の両腕はへし折られて、そのまま殴り飛ばされる。そして、練習場の壁に激突した。

「ぜェ……っ、はァ……っ、どう、だ……ッ!? 俺様の一撃はよォ……ッ!!」

 トールは身の丈に合わない力を振り絞ったみたいで、満身創痍になっているよ。これ以上は歩くことすら難しそう。

「くっ……!! そんなに、アーシャの唇を守りたいのか……!? ならば、これからは野良犬ではなく、番犬と呼んでやる……!!」

 ニュート様はフラフラと立ち上がったけど、こちらも当たり前のように満身創痍だ。両腕が折れて動かないし、頭からは血を流している。
 駄目だ、これ以上は見ていられない。私が駆け出そうとしたら、またしてもルークスに止められた。

「まだだよ。まだ、もう少しだけ……。二人とも、キラキラしているから……」

「もう少しって、二人とも動けないでしょ!? こんなの子供の喧嘩の範疇を越えちゃってるよ!」

 自分が攻撃された訳じゃないのに、二人の痛みを想像して泣きそうになる。
 私はルークスの制止を振り切って、まずはトールのもとに駆け寄った。すると、

「…………もういい、分かった。ワタシの負けだ。住処もパーティーも、他を探す」

 ニュート様が戦意を萎ませて、肩の力を抜きながら降参したよ。
 トールは納得がいかない様子で、目尻を吊り上げながら彼に問い掛ける。

「待てよ……ッ!! 俺様はもう、一歩も動けねェ……。テメェはそこから、魔法を使えンだろ……!?」

「百発の魔法を撃ち込まれても、貴様は倒れない。そういう目をしているぞ」

「ったりめェだ!! 百どころか、千でも万でも倒れねェよッ!!」

「フッ……。ならば、降参だ」

 ニュート様は小さな笑みを零して、満足げに自らの敗北を受け入れた。
 気に食わない野良犬だと思っていた相手が、称賛に値する実力者だった。彼にそう思わせるくらい、トールが健闘したってことかな。
 
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