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三章 スライム騒動編
100話 ノワール
しおりを挟むギルドマスターと銀級冒険者たちが、黒マントの一団と戦っている最中、カマーマさんと巨漢ゾンビの戦いは熾烈を極めていた。
巨漢ゾンビも拳で戦うタイプらしく、カマーマさんと互角に殴り合えるだけの強さを持っている。
秒間数十発という拳の応酬で、しかも一発一発がスキルを使っているかのような威力だ。
打撃音が大気をビリビリと振動させて、風圧で周囲の人が吹き飛びそうだよ。
下手に介入すると、足手纏いになってしまう。
誰もがそう思える異次元な戦闘なのに、黒マントの一人が後方から魔法を放ち、巨漢ゾンビの背中に命中させた。
それは、闇を凝縮したようなビームで、アグリービショップが同じスキルを使っていたと思う。
フレンドリーファイアかと思ったけど、命中した直後に巨漢ゾンビの身体が一回り大きくなって、パワーアップした。
まさかの支援スキルみたい。でも、その後でカマーマさんにも当てようとしたから、純粋な支援スキルという訳ではなさそう。
多分だけど、ゾンビには強化、生きている人には悪い効果があるんだろうね。
「あはぁん!! 面倒なことっ、してくれるわねん!!」
カマーマさんも筋肉を隆起させたけど、巨漢ゾンビほど大きくはなっていない。
巨漢ゾンビは黙々と連打を叩き込み、上回った筋力の分だけ、カマーマさんにダメージを蓄積させていく。
ただ、彼女には私が【再生の祈り】を使っていたから、即死さえしなければ、なんの問題もない。
巨漢ゾンビは死体故か、息切れとは無縁みたいだ。
カマーマさんの体力は無限ではないけど、肉弾戦に特化した職業だから非常に多い。私の【光球】を懐に入れているし、これは長期戦になりそう……。
ここで、巨漢ゾンビを支援している黒マントが、不満げに口を開く。
「……計算が狂いましたね。壊門のカマーマ、想定外の治癒能力を持っています」
その声は、以前に聞いたノワールさんの声と同じ……だと思う。
鮮明に記憶している訳じゃないから、断言は出来ないよ。
顔を隠しているフードを取って確認したい。そう思って注視していると、
「アーシャっ、後ろが不味そうよ!?」
フィオナちゃんに声を掛けられて、私はすぐに後方の様子を確かめた。
「あれって、スケルトン……?」
後方で行われているのは、冒険者集団とゾンビ集団の戦い──だったはずなのに、スケルトン集団まで加わっている。
スケルトンは動く人間の骸骨で、ゾンビよりもやや強い程度の魔物だよ。
どこから現れたのかと疑問に思ったけど、冒険者が倒したゾンビから腐肉が剥がれ落ちて、スケルトンとして復活しているんだ。
これで実質、敵の数は千匹から二千匹になった。
先程までは冒険者側が優勢だったのに、徐々に追い詰められている。
「負傷者を内側に入れて回復させろ!! 前衛は持ち応えてくれ!!」
「ポーションが足りないぞ!! クソっ、最近は市場に出回ってないから……っ」
「こっちはもう持ちませんよ!! 誰か代わってくださいッ!!」
「うちのパーティーは魔力切れだ!! 矢も尽きちまった!!」
冒険者たちの指示と報告が飛び交って、切羽詰まっている様子がひしひしと伝わってきた。
どうしようって、迷っている場合じゃない。
私は【光球】+【再生の祈り】を使った複合技、女神球を頭上に飛ばす。
デフォルメされた女神アーシャが入っている光の球は、照らし出した全ての対象に再生効果を齎した。
重軽傷を負っていた冒険者たちが、瞬く間に回復して、ぽかんとしながら頭上を見上げる。けど、すぐにハッとなって戦闘を再開してくれた。
ゾンビとスケルトンまで、回復させてしまうかもしれない。そう危惧していたけど、そっちには効果がなかったよ。
でも、黒マントたちは回復してしまったから、全部が味方の有利に働いた訳じゃない。戦場って難しいね。
「ちょっと……!! それ、使ってよかったの……!?」
「使わないと負けちゃうし、仕方ないよ……」
フィオナちゃんが耳打ちしてきたから、私も耳打ちで返した。
部位欠損すら一瞬で治すスキルは、不特定多数に知られると面倒事を招き寄せる。そんなの嫌だから、公衆の面前では使いたくなかったけど、自分と仲間たちの命には換えられない。
幸い、誰も私に注目していなかったから、誰が使ったスキルなのか、みんな分かっていないはず……。
「仕切り直しだ!! 気合いを入れろッ!!」
「「「おおーーーっ!!」」」
ギルドマスターの号令に、冒険者たちが気炎を揚げて応えた。
ゾンビとスケルトンが回復しない分だけ、冒険者側が有利になっていく。
しばらくして、巨漢ゾンビ以外のゾンビとスケルトンが一掃されたから、私は女神球を消した。
黒マントたちとの戦いは互角くらいだったけど、後方の冒険者集団がこちらに合流してくれたので、形勢が一気に傾く。
私たちは黒マントの前衛を圧殺して、そのまま後衛に狙いを定めた。
すると、巨漢ゾンビがカマーマさんから距離を取り、ノワールさんと思しき人物を守る立ち位置に就いたよ。
カマーマさんはその人を指差して、ニヤリとしながら問い掛ける。
「これはもう、あちきたちの勝ちかしらん? そっちの黒マントちゃんも、そうは思わない?」
「…………」
「なんで黙っちゃうのよん!? アナタがそっちのリーダーでしょぉ!? 立ち位置を見ればバレバレなのよん!!」
「はぁ……。肯定しましょう。確かに当方が、この一団のリーダーです」
彼女は溜息を吐いて、観念したようにフードを取り払った。
黒い肌にスキンヘッド、それから瞳が白くて、両耳がない。耳の付け根には、元々あったものを切り落とした古傷がある。
……あれ? 女神球の光を浴びていたのに、古傷がある?
他の黒マントたちは、フードで顔を隠している状態でも、再生効果の恩恵を得ていたんだけど……まぁ、この疑問は一旦置いておこう。
なんにしても、彼女は間違いなく、闇商人のノワールさんだ。
まさか、敵として現れるなんて、思ってもみなかったよ。
「見ない顔だわぁ……。クマちゃんはどうかしらん?」
カマーマさんに『クマちゃん』と呼ばれたギルドマスターは、渋面を作りながら首を捻る。
「確か……つい最近、貴族になった奴じゃないか……?」
「肯定します。当方は王国北部の新興貴族、ノワール=ノースデッド。国王陛下より、女男爵の地位を賜りました」
「そうか、俺の記憶違いじゃなかったか……」
刺客がお貴族様だと判明して、冒険者たちがどよめく。
冒険者集団と黒マントの一団の戦いは、一時休戦だよ。双方は距離を取って睨み合いながら、カマーマさん、ギルドマスター、ノワールさんの話し合いの行方を見守った。
「はぁッ!? ど、どうして貴族が、あちきの首を狙うのよん!? まさかっ、王様から依頼されたとか、言わないわよねん!?」
カマーマさんに問い詰められて、ノワールさんは悪びれもせずに、淡々と事情を説明する。
「そのまさかです。国王陛下はオカマ罪で、貴方を罰すると仰られました。国家反逆罪と並ぶ重罪なので、死刑です」
「オカマ罪ぃ!? な、なによそれぇ!? あちきっ、そんなの聞いたことないわよん!?」
「そうでしょうね。今のは当方の冗談です」
ノワールさんの言葉を聞いて、カマーマさんの表情が目まぐるしく変化し、長い沈黙が横たわる。
その後、彼女は憤怒の形相で声を荒げたよ。
「こ、このメスガキぃ……ッ!! オカマ舐めてんのかゴラァッ!!」
「小粋な冗談で場を和ませようという、当方の配慮でしたが……滑りましたか」
「ええもうっ、ダダ滑りよん!! さっさと事情を話すか、あちきに殴り殺されるか、選んで頂戴っ!!」
「では、前者を選びます。まず、依頼人はいません。当方が保険のために、貴方の首を求めたのです。当方が貰った領地は、王国北部の更に北方、ダークガルド帝国に近い場所だったもので」
ダークガルド帝国とは、この大陸の中央に位置する強大な国家だよ。
大陸に覇を唱えているから、他の全ての国と敵対関係にある。アクアヘイム王国も例外じゃない。
私たちが暮らしている王国は、大陸の南側に位置しているから、王国北部が帝国南部と隣接しているんだ。
ノワールさんは、コレクタースライムの情報を王国に齎したことで、王様から爵位と領地を貰ったらしい。
けど、その領地は誰も欲しがらない場所だった。何せ、戦禍を被りやすい場所だからね。体よく押し付けられたってことかな。
カマーマさんは聞き出した情報を纏めて、自分の認識が正しいか確かめる。
「──つまり、こういうこと? 帝国に攻められたとき、あちきの首を手土産にして、寝返ろうとしたのかしらん?」
「はい、そうなります」
ここでも悪びれることなく、ノワールさんは素直に頷いた。
カマーマさんは額に青筋を浮かべながら、大胸筋をピクピクさせているよ。
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