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四章 流水海域攻略編
108話 功労者
しおりを挟む──私とローズはポーションを国に納品しながら、竪琴の練習に精を出す日々を続けた。
ポロン、ポロン。二人とも初心者だったけど、結構様になってきたよ。
図書館で見つけた練習用の本が、そこそこ役に立っている。
テンポの速い演奏は無理だけど、ゆったりした演奏ならきちんと弾けるんだ。
「はにゃあ……。この音、眠くなるにゃあ……」
相も変わらず、商品棚には何もない。私とローズは暇を持て余して、ミケと従魔たちを裏庭に集め、演奏会を開いている。
時刻は正午、天気は晴れ。ミケはゴマちゃんを枕にしながら、お昼寝してしまった。
私たちの演奏の途中で寝るなんて、けしからん! なんて、別に思わないよ。
睡眠を妨害しない程度には、演奏が上手くなった証拠だからね。
「スキルの効果も、しっかりと出るようになったのじゃ。一先ず、これくらいでよいかの?」
「そうだね。後は趣味の範疇で、たまに練習しておこう」
ローズが満足げにポロンと一音鳴らしたので、私もポロンと一音鳴らす。
こうして、演奏会が終わり──しばらく経ってから、街全体が騒めき始めた。
何事なのか確かめるために、私が表に出ると、市民たちが挙って大通りに向かっていたよ。
切羽詰まっている様子じゃないから、問題が発生した訳ではなさそう。
「ローズとミケは、お留守番をお願いね。私は様子を見てくるから」
「よく分からんが、気を付けるのじゃぞ」
「うん。スラ丸、ティラ、ブロ丸。行くよ」
テツ丸はシュヴァインくんに貸し出しているから、私は残りの護衛を引き連れて、大通りへと向かった。
──大通りでは、数千人の兵士が列をなして、整然と歩いている。
高い練度と統率力が一目で分かるほど、兵士たちの進行には淀みがない。
彼らの防具は青みのある鋼の鎧か、これまた青みのあるローブで統一されており、全ての兵士からベテラン冒険者並みの気迫が感じられた。
この気迫通りの実力が備わっているなら、全員が戦闘職でレベル30越えという、とんでもない兵団かもしれない。
ところどころに、旗を掲げている兵士たちの姿が見える。
その旗は青地に白い糸で、祈りを捧げる聖女の意匠が施されていた。
これは、アクアヘイム王国を象徴する旗だよ。
この国旗を掲げることが許されるのは、王族が率いている軍勢だけだ。
「そっか、遂に始まるんだね……」
独り言を呟いた私は、この兵団の目的を察した。
十中八九、流水海域の裏ボスに挑むんだと思う。
国がポーションを集めている理由って、裏ボスを討伐するためだったはず……。ということは、そろそろ強制依頼が終わるのかな。
「あ、そういえば……裏ボス攻略って、第二王子様が指揮を執るんだっけ……?」
私は興味本位で、王子様を探してみた。
すると、それらしき人物がすぐに見つかったよ。
一人だけ、一際目立つ馬車に乗っている。誰よりも豪奢な服を着ているから、あの人以外に考えられない。
彼は二十代後半くらいの男性で、細身かつ長身。肌は色白で、膝裏まで真っ直ぐに伸びている髪は亜麻色だった。
顔の右半分は、お洒落な仮面で覆い隠しており、露出している左半分は、ハッと息を呑むほど眉目秀麗だよ。
瞳の色はやや色素が薄い亜麻色で、目付きはとても理知的だ。
民衆に微笑みを向けている様子からは、善良そうな雰囲気がひしひしと感じられる。
そんな王子様が乗っている馬車の傍には、バリィさんの姿があった。
彼は金級冒険者の結界師で、私が大いにお世話になった人だね。
今のバリィさんは、暗めの青色を基調とした式典用っぽい衣服を着て、周囲の警戒をしている。
私と目が合ったときに、一瞬だけ笑みを向けてくれたので、私も微笑み返しておいた。お仕事、頑張ってください。
「──さて、問題がある訳じゃなさそうだし、戻ろっか」
私は従魔たちに一声掛けてから、お店へと戻った。
すると、商品がない店内で、ローズがお客さんを相手にしていたよ。
「アーシャよ! お客様なのじゃ!! 妾は急用を思い出したからっ、後は任せたのじゃぞ!!」
私が帰宅するや否や、ローズは即座に身を翻して、裏庭へと逃げてしまった。
お客さんって、怖い怖いお役人さんだから、仕方ないね。
「ええっと……? 私、悪いことはしていないと思いますけど……納品の催促でしょうか……?」
「違う。本日は国からの依頼の完了を伝えるべく、訪れた次第だ。店主、貴方の貢献度が、この街で最も高かったため、ツヴァイス殿下が直々に褒美を渡したいとのことだ。今すぐに、侯爵家の屋敷へと向かって貰う」
強制依頼が、終わった!! しかもっ、貢献度一位!!
お役人さんの報告を聞いた瞬間、私は諸手を挙げて喜んだ。
この依頼、納品中はお金を貰えなかったから、全然稼げなかったんだよね。これでようやく、お店を再開して稼げる。
それに、ご褒美も貰えるから、楽しみだなぁ……。私の大きな献身に見合う、物凄い褒賞が用意されているに違いない。
「ツヴァイス殿下という方が、第二王子様ですか?」
「そうだ。お優しくて寛大な方だが、くれぐれも無礼がないように」
第一王子は良い噂を聞かないけど、お役人さん曰く、第二王子はまともな人らしい。バリィさんも気に入っているみたいだから、針鼠みたいな警戒心は必要なさそう。
「了解です。……ところで、ご褒美って何が貰えるんでしょう?」
「分からない。だが、そう悪いものではないだろう」
褒賞という名の厄介事だけは、絶対に勘弁して貰いたい。
『裏ボス攻略に参加する栄誉を与える!』とか……。うわぁ、最悪な想像しちゃった。
私は少しテンションを下げて、スラ丸、ティラ、ブロ丸を引き連れ、お店を出る。
そして、お役人さんと一緒に、侯爵家のお屋敷へと向かったよ。
お役人さんは屋敷の門番に事情を説明して、私の身柄を預けると、そのまま足早に去っていく。これ以上は付き合ってくれないみたい。
私の身柄は門番からメイドさんに横流しされて、テキパキと身嗜みのチェックを受けた。
「そ、そんなっ、瑕疵一つない……!? 悔しいですが、手を加えるところが見当たりませんね……。これが若さ……いやっ、幾らなんでも、それだけではないはず……!! び、美容品は何を使っているんですか!?」
私の身体を隅々まで確認したメイドさんが、慄きながらそんなことを尋ねてきた。
私の髪や肌が綺麗なのは、スキルのおかげなんだけど、【再生の祈り】に関しては明かしたくない。
……あ、そうだ。ドラゴンポーションを水で薄めて、美容液として販売しようかな。
希釈すれば、欠損部位が再生するほどの効力はなくなる。でも、髪やお肌くらいなら、綺麗になるよね。
ちなみに、赤色の下級と中級ポーションには、美容効果がない。
傷は治るけど、使えば使うほど老化が進むという、とんでもない落とし穴があるんだ。
下級、中級は細胞分裂を促して傷を治すだけで、細胞そのものが再生する訳じゃないって、私は解釈している。
ドラゴンポーションは細胞そのものが再生するから、美容効果があるはずだよ。
治験を受けた犯罪者の欠損部位が、見事に再生したんだけど、その犯罪者は全然老化していなかった。だから、私の考えは合っていると思う。
「私のお店の新商品を使っているんです。宜しければ、お買い求めください」
「分かりました、同僚たちと必ず伺います。……では、話を戻しまして、ツヴァイス殿下と対面した際は──」
メイドさんに商品を宣伝してから、私はカーテシーなる挨拶を教えて貰って、いよいよ王子様に会いに行く。
従魔たちは別室でお留守番だよ。流石にティラも、このときばかりは影の中から出しておいた。
──このお屋敷の中でも、際立って大きな部屋の扉。
その前には数人の騎士が立っていて、彼らは私を一瞥した後、小さく扉をノックする。
「殿下、功労者が到着しました」
「どうぞ、入れてください」
王子様の声は、とても涼しげで優しそうだった。
許可が出たので、騎士が静かに扉を開けて、私に入室するよう促す。
私は深呼吸を一つ挟んでから、ぎこちない動作で歩き出し、王子様の目の前でカーテシーを披露したよ。
背筋を伸ばしたまま、スカートを軽く摘まんで片方の足を後ろに下げ、もう片方の足の膝を軽く曲げる。
これが、上流階級の淑女の挨拶なんだって。
「ようこそ、アーシャさん。堅苦しいのは抜きで構いませんよ。座ってください」
「は、はひっ、失礼します……!!」
王子様は椅子に座っていて、私はテーブルを挟んだ対面に座らせて貰った。
この部屋にいるのは、私と王子様、それからバリィさんだけだ。
ガチガチに緊張している私を見て、王子様の後ろに控えているバリィさんが、声を抑えながら苦笑しているよ。
「では、まずはワタシの自己紹介から。初めまして、ツヴァイス=アクアヘイムです」
「は、初めまして! 私はアーシャです!」
「ワタシの後ろにいるのが、バリィ=ウォーカー。彼はワタシの友人兼護衛なので、気にしないでください」
「わ、分かりました。はい……」
私とバリィさんが、初対面みたいな紹介の仕方だね。
バリィさんはツヴァイス殿下に、私と知り合いであることを教えていないのかな? となると、私がゲートスライムの情報をリークしたことも、知られていないとか……?
……いや、いやいや、ゲートスライムの重要性を考えれば、そんな訳がない。
素行が悪い人に握られて良い情報じゃないし、ある程度は私のことを調べたか、現在進行形で調べている最中かもしれない。
バリィさんが口を割らなくても、彼の交友関係を徹底的に調べれば、スライムをテイムしている私に行き着くと思う。
うーん……。まぁ、なんにしても、私は真っ当な言動を心掛けるしかないよね。
自己紹介も終わったことだし、早くご褒美を貰って帰りたい。けど、ツヴァイス殿下は世間話というか、情報収集を行うみたい。
「アーシャさんが納品してくれた下級ポーションは、数も品質も群を抜いていました。何かコツがあるのですか?」
「数に関しては、魔物使いのスキル【魔力共有】を持っているので……。質に関しては、愛情の賜物かと……」
「ほぉ、なるほど。アルラウネに魔力と愛情を与えていた、と……。愛情というものが、ワタシには分かりませんが……それにしても数が多すぎる。【魔力共有】だけでは、ないのでしょう?」
「前々から、在庫を溜め込んでいたので……」
王子様に敬称を付けられるとは思わなかったから、やや面を食らいながらも、私はツヴァイス殿下の質問に嘘偽りなく答えていく。ただし、真実を全て打ち明ける訳じゃない。
彼は横暴な人には見えないけど、善人だと盲信するのもどうかと思うし、程々の距離感を保ちたいんだ。
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