他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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四章 流水海域攻略編

120話 おかわり

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 ──ハッと目が覚めると、私は現実世界でも、ティラの背中の上に乗っていた。
 進化したティラは体長が四メートルくらいになっていて、モフモフで黒い体毛の所々に、濃いめの青い筋が入っているよ。
 どんなスキルを取得したのか、とっても気になるけど、ステホで調べている余裕はない。

 どうやら、私が意識を失っていたのは、ほんの一瞬の出来事だったみたい。
 【再生の祈り】のおかげで、左腕は既に完治している。問題があるとすれば、未だに弾幕に曝されていることだけど、

「ティラっ、やるよ!!」

「ワンっ!!」

 氷の舞台の残骸が、無数に宙を舞っている。ティラはそれを足場にしながら移動して、弾幕を器用に避け始めた。
 進化したことで身体は大きくなったけど、明らかに敏捷性が増している。
 それと、一瞬で風景が切り替わることがあるから、スキル【加速】を取得しているっぽい。

 私のスキル【風纏脚】もあるし、足場がなくならない限りは、弾幕を回避し続けることが出来そうだよ。
 問題は、足場も弾幕に曝されているから、次々と粉々になっていくことだね。
 ティラはまだ、宙を踏みしめて移動するのが得意じゃないので、このままだと不味い。

「スラ丸っ、ペンを出して!!」

 私はリュックの中に手を突っ込んで、スラ丸から硝子のペンを受け取った。
 これを使って、空中のあちこちに魔法陣を描き殴っていく。これは、ティラを召喚するためのものだ。
 速筆+拡大の効果があるから、ティラが弾幕の隙間を見つけて速度を緩めたときに、辛うじて描くことが出来たよ。

 ──合計で十二の魔法陣を描き終えた頃には、いよいよ足場がなくなっていた。
 私は全身の力を抜いて、ティラに身を委ねる。ここから先は、全て任せるしかない。

 ティラは弾幕を見切りながら、器用に私の身体を口先で咥えて、ぽーんと投げ飛ばした。生きた心地がしないけど、もうどうにでもなれ。
 私の身体が向かう先には魔法陣があって、ティラはそこから召喚されることで先回りする。
 そして、見事に私をキャッチしてくれたよ。

 私が使うスキル【従魔召喚】には、召喚直後の従魔の能力を短時間だけ上げてくれるという、特殊効果が追加されているんだ。これによって、ティラが更に素早くなった。
 自由落下が始まると、ティラは私を別の魔法陣がある場所まで投げ飛ばして、再び召喚されることで先回りし、きちんと私をキャッチする。

 この繰り返しによって、私たちは弾幕を避けながら空中に留まるという、曲芸染みた荒業を披露した。
 これはティラが凄いだけで、私はされるがままだね。お手玉に使われる玉の気分を味わっているよ。
 
 こんな状況だからこそ、努めて冷静に戦況を観察してみる。
 軍団は半壊状態で、生存者は弾幕の範囲外に逃れ、海を泳いでいた。
 カマーマさんとツヴァイス殿下も、逃げ延びることが出来たみたい。私もそっち側に逃げたいけど、足場がないから難しい。

 バリィさんの姿を探してみると、彼はライトン侯爵と一緒に、弾幕の中で身動きが取れなくなっていた。
 七重の【対魔結界】で、なんとか持ち堪えているけど、【移動結界】に切り替える余裕は全くなさそう。
 まぁ、ライトン侯爵を助けられたのなら、一先ずはよかった。

「「「…………」」」

 みんな、私とティラがやっていることを凝視して、あんぐりと口を開けている。
 自分でも信じ難いことをやっている自覚はあるけど、今は驚いている場合じゃないよ。早いところ、現状を打開するための手段を考えて貰いたい。

 切実にそう願っていると、シャチが海底から浮上してきた。多分、息継ぎのタイミングだと思う。魔物でも、シャチだから肺呼吸なんだ。
 シャチは頭部を三割ほど失っていて、巨大な脳味噌の一部が剥き出しになっている。夥しい量の血を流しているから、死ぬのは時間の問題かもしれない。

「──ハッ!? ライトン侯爵!! もう一発ぶっ放せるか!?」

「ブヒィッ!? ま、魔力に余裕はあるが……っ、再び動きを止めて貰わねば、厳しいと言わざるを得ん……!!」

 我に返ったバリィさんの問い掛けに、ライトン侯爵はブルブルと頬の肉を揺らして、大きく頭を振った。
 シャチは明らかに、ライトン侯爵を最大の脅威として見定めているから、弾幕が常に彼へと向けられているんだ。
 そんな訳で、ツヴァイス殿下の上級魔法で麻痺させるところから、やり直して──と思ったけど、カマーマさんが動き出した。

「隙を見せたわねぇッ!! 満を持してっ、あちきの出番よん!!」

 彼女は宙を駆けて、弾幕の範囲外からシャチに肉薄し、ぐちゃぐちゃになっている頭部へと突っ込んだ。
 それから、剥き出しの脳味噌に対して、【強打】+【十連打】の複合技を連続で叩き込む。

 シャチは超音波みたいな悲鳴を上げながら、背中の砲身を滅茶苦茶に動かした。
 これで、狙いが付けられない状態となり、弾幕が薄くなったよ。
 バリィさんは透かさず、【移動結界】に切り替えて、私とティラを回収してからツヴァイス殿下と合流する。

「相棒っ、すまん!! 助けが遅れちまった!!」

 バリィさんに謝られたけど、こればっかりは仕方ないよ。
 助けるべき人の優先順位は、私よりもツヴァイス殿下とライトン侯爵の方が、遥かに上だからね。戦力的にも、立場的にも。

「いえっ、気にしないでください! それよりもっ、シャチの魔法を封じられないんですか!? そんな感じのことが出来る結界っ、ありましたよね!?」

「ああ、【消音結界】か……!! あれは魔力の消耗が激しいから、シャチを閉じ込められるような大きさには出来ないぞ!」

 起死回生の一手に、なるかと思ったんだけど……残念。強力な結界だから、相応に消耗するらしい。
 ここで一つ、殿下から私に要請があった。

「アーシャさん! 魔力に余裕があれば、【土壁】をお願いします! 海に浮かべて、足場を用意してください!」

「あっ、了解です! 任せてください!」

 地面がない場所で【土壁】を出すと、魔力の消耗が激しくなる。
 それでも、私は【魔力共有】を使って、店番をしている従魔たちから魔力を貰い、結構な数の【土壁】を浮かべることが出来た。

 生き残っている兵士たちが、そこに乗って体勢を立て直していく。
 とは言え、大半の兵士が散り散りになって、周辺を漂っているから、立て直せたのは全体の二割程度だよ。

 重軽傷者が多くて、死屍累々の惨状が広がっている。今こそ、女神球を使ってあげたいけど……それをすると、シャチまで回復しちゃうよね……。

「カマーマのおっさんが、このまま倒してくれると助かるが……」

「ええ、同意します。しかし、希望的観測に縋るのは愚策でしょう。ライトン侯爵、もう一働きしてください」

 バリィさんの期待をツヴァイス殿下が一蹴して、すぐに次の一手を打とうとする。

「ブヒヒッ、今すぐ逃げ出したいところですが、吾輩も腹を括りますぞ……!!」

 ライトン侯爵は小鹿みたいに足を震わせながらも、【破壊光線】を撃てる体勢を整えた。
 この間にも、カマーマさんが野太い雄叫びを上げながら、シャチの脳味噌を殴りまくっている。

「ゴオオオオオォォォラアアアアアアアアアアァァァァ──ッ!!」 

 脳味噌に負ったダメージがシャチの正気を失わせて、激しく身体を捩ったり、奇怪な悲鳴を上げたり、滅茶苦茶な方向に弾幕を飛ばしたりと、異常な行動を取らせているよ。
 シャチが海の中に潜っても、カマーマさんは必死に食らいついて、脳味噌に拳を叩き込み続けた。
 隙を見て、ツヴァイス殿下やライトン侯爵、それに兵士たちも、シャチに対して総攻撃を行い、頭部以外の場所にもダメージを蓄積させていく。

「出し惜しみするなッ!! ここで全てを使い切れッ!!」

 ツヴァイス殿下の号令に従って、みんなが全力の攻撃を繰り出し──その甲斐があって、シャチは遂に、生命活動を停止した。

「これがあああああああああッ!! オカマの拳よおおおおおおおおおん!!」

 仰向けに引っ繰り返って、海に沈んでいくシャチ。その腹部の上で、カマーマさんが勝利のマッスルポーズを取った。

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」」

 生き残っている兵士たちの大歓声が、青空を突き抜けるように響き渡ったよ。
 折角だから、私もこれに便乗させて貰う。うおー!
 バリィさん、ツヴァイス殿下、ライトン侯爵も、ホッと胸を撫で下ろして、お互いの健闘を称え合った。
 それから、ツヴァイス殿下が自分のローブの中に私を隠して、こっそりと耳打ちしてくる。

「アーシャさん、女神球をお願いします。可能な限り、広範囲を照らしてください」

「わ、分かりました……!!」

 私はツヴァイス殿下のローブの中に、幾つかの女神球を残して、一足先に外へ出た。
 そして、殿下は周囲の注目を浴びていないことを確かめた後、ローブの内側から女神球を解き放つ。

「これは、ワタシが持っていた秘蔵のマジックアイテムだ!! 案ずるな!! 害を及ぼすことはない!!」

 ツヴァイス殿下の言葉を聞いて、兵士たちはぽかんとしながら、上空へ昇っていく女神球を見つめた。
 彼らが女神球の神々しい光に照らし出されると、ありとあらゆる怪我が瞬く間に治り、欠損部位まで再生したよ。これだけで、千人以上の兵士の命を救ったかもしれない。

 『ツヴァイス殿下っ、万歳!!』と、あちこちから歓声が上がり、私たちは再び大歓声に包まれた。
 事前に話し合っていた通り、私の功績じゃなくて殿下の功績になったけど、惜しむ気持ちは全然湧いてこない。

「ふぃー……。疲れたなぁ……」

 私は自前の【土壁】の上で寝転び、全身を弛緩させた。
 目を瞑り、みんなの歓声に耳を傾けながら、心地よい微睡に浸っていると──


 一つ、また一つと、歓声の数が減っていく。


 そうして、どういう訳か、あっという間に静寂が訪れた。

「クゥン……。クゥン……」

 ティラが酷く怯えながら、喉を鳴らしている。
 生きることを諦めず、あの弾幕にも勇敢に立ち向かったティラが、身体を震わせているんだ。
 嫌な予感に駆り立てられて、私の頭の中で警鐘が鳴り始めた。
 心臓の鼓動が激しくなって、冷や汗が止まらなくなる。

 状況を確認するのが、物凄く怖い……。それでも、確認しない訳にはいかないから、私は目を開けて、自分の足で立ち上がった。

 バリィさんが、東を向いている。

 カマーマさんが、西を向いている。

 ライトン侯爵が、南を向いている。

 ツヴァイス殿下が、北を向いている。

「は、はは……。そんな……嘘、だよね……?」

 私が周辺を見渡して、目撃してしまった光景は、この場にいる全員の死を確信させるのに、十分すぎるものだった。

 東の海域から、三匹。

 西の海域から、三匹。

 南の海域から、三匹。

 北の海域から、三匹。

 『海上航行決戦兵器・シャチ』──合計十二匹が、こちらへと向かってくる。
 
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