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五章 スレイプニル戦役
140話 グレープの進化
しおりを挟む──ぐっすりと眠っている最中、私は夢を見た。
暗闇に浮かぶ二本の道の分岐点。その上に、私自身が立っている夢だよ。
この夢は、従魔の進化先を選ぶためのもの。なんと、今回はグレープが進化するらしい。
あの子はコツコツと、家庭菜園のファングトマトを狩り続けていたから、ようやく努力が報われるんだ。
それぞれの道の手前に、進化先を示す看板が立っているので、私はステホで撮影する。
『ランサートレント』──根っこによる刺突攻撃が得意な、樹木の魔物。数多の生物を根っこで屠ると、現れる進化先。
これは物理攻撃系のトレントだね。私が一番望んでいたグレープの進化先、だったんだけど……予定が変わるかもしれない。
『メイジトレント』──土属性の魔法攻撃が得意な、樹木の魔物。魔力が豊富な土壌で生きていると、現れる進化先。
こっちは魔法攻撃系らしい。この進化先に関しては、事前の調べで判明していなかった。
私にはスキル【魔力共有】があるから、魔法タイプの従魔とは相性が良い。
「うーん……。物理タイプと魔法タイプ、どっちにするべきか……」
私がグレープに求めている役割は、美味しい葡萄の生産と、我が家の庭を守ること。
どっちの進化先を選んでも、その役割は全う出来るはず……。
であれば、魔法タイプの方が魅力的かな。きっと、魔力が増えるだろうからね。
グレープは土属性の魔物なので、保有する魔力の大部分が土属性に染まっている。
この属性はローズと一緒で、それぞれの生産系スキル【果実生成】と【草花生成】に、プラスの影響を与えてくれるんだ。具体的に言えば、品質が向上する。
現在の私の職業が、魔物使いと光の魔法使いだから、私は土属性の魔力を供給してあげられなくなった。
そんな訳で、土属性の魔力の供給源が増えるのは、非常に有難い。
「──よしっ、決めた! グレープはメイジトレントにする!」
そう決意したところで、私の隣にグレープが現れたよ。……この子、地面に根を張っている魔物なんだけど、この道を進めるの?
ちょっと心配になった私を他所に、グレープは器用に根っこを動かして、ススス……と道を辿っていく。
どうやら、この子は歩ける魔物だったらしい。
グレープの背中を見送ってから、私の意識は徐々に浮上する。
──自室のベッドの上で、私は気持ちよく起床した。
思った以上に熟睡していたらしく、日を跨いで早朝になっている。
今日も寒そうだけど、雪は降っていない。窓の外には澄んだ快晴が広がっているよ。
早速、駆け足で裏庭へと向かって、グレープの様子を確認した。
進化前は一メートル程度の高さの苗木だったけど、今は三メートルくらいの若木に成長している。
冬なのに青々とした葉っぱが生い茂っているから、この世界で暮らしている人なら、一目で魔物だって分かるかな。
丁度、ファングトマトを収穫するタイミングだったみたいで、グレープはゆっさゆっさと枝葉を揺らした。
すると、家庭菜園に実っているファングトマトの真下から、長さ二メートルくらいの土の杭が、一本だけズボッと生えてきたよ。
それはファングトマトを貫いて、一撃で仕留めてしまう。
ステホでグレープを撮影してみると、今のは【土杭】というスキルだと判明した。これが、メイジトレントに進化してから取得したスキルなんだ。
「おおーっ、いいね! しっかりした攻撃魔法だね!」
私がグレープの幹を撫でて称賛すると、この子は気恥ずかしそうに枝葉を揺らした。
謙遜しているみたいなので、立派だよって褒めちぎりながら、いつもより多めに聖水を与える。
その後、【土杭】の硬さを確かめてみると、石と同程度だと分かった。根っこで攻撃するよりも強力だね。
「むぅ……。アーシャよ、朝から騒がしいのぅ……」
フェニックスの卵を抱き締めながら眠っていたローズが、寝惚け眼を擦りながら起床した。
私は彼女に、進化したグレープを自慢する。
「おはようっ、ローズ! 見てよこれ、グレープが進化したの!」
「ほぅ、ほほぉ……!! とっても目出度いのじゃ! これで、アーシャの従魔は一通り進化したかの?」
「タクミの進化がまだだけど、あっちは時間が掛かりそうだし……。そうだね、『一通り進化した』ってことにしようかな」
ブロンズミミックのタクミは、百種類のマジックアイテムを食べさせると、カオスミミックという魔物に進化する。
そうすれば、マジックアイテムの合成が出来るようになるんだけど、しばらくは先の話だよ。
「ふぅむ……。スラ丸とティラ以外の従魔も、二段階目の進化をさせて、よさそうなものじゃが……」
「うーん……。みんなの懐き度的に、私も大丈夫だとは思うけど……」
私のレベル不足で、進化した従魔が反抗期になるかもしれない。
チェイスウルフとか、明らかに私の実力に見合っていない魔物だし、ティラほど私に懐いていなかったら、間違いなく反抗期を迎えていたんだ。
ローズを筆頭に、他の従魔たちも私によく懐いている。とは言え、魔物使いの職業レベルが30になるまで、待った方が無難だろうね。
「流石に、妾が反抗期を迎えることは、ないと思うがのぅ……」
「いや、実はローズが一番危ないよ。ローズクイーンだった頃の血が、騒いじゃったらどうするの?」
「う、ううむ……。それを言われると、返す言葉が見つからないのじゃ……」
アルラウネ系統の強大な魔物、ローズクイーン。その転生体が、私の目の前にいるローズなんだ。
しかも、ドラゴンの力の一部まで持っているし、彼女ほど慎重に進化させないといけない従魔は、他にいない。
そんな訳で、当面は現状維持ということになった。
私とローズの話し合いが終わったところで、フィオナちゃんが元気よく登場する。
「アーシャっ、話は聞かせて貰ったわよ! レベル上げがしたいんですって!?」
「おはよう、フィオナちゃん。まぁ、したいと言えばしたいけど、別に急ぐ話じゃないよ?」
「なーに呑気なこと言ってんのよ! あたしたちと一緒にっ、ダンジョン探索するわよ!! 魔物を狩りまくって、レベルをガンガン上げるの!! あたしたちの冒険は、まだまだ始まったばっかりよ!!」
「えぇー……。私がダンジョン探索するのは、危ないから嫌だよ……」
従魔がどれだけ強くなっても、私の身体は貧弱な幼女のままだから、可能な限り危険は冒したくない。
魔物使いのレベル上げをするのであれば、私は安全圏でお昼寝でもしながら、従魔たちに頑張って貰いたいよ。
つらつらと、そんなことをフィオナちゃんに伝えると、
「ああもうっ、覇気が足りないわね!! そんな調子で生きていたら、立派な大人になれないわよ!? もっとキリッとしなさい! キリッと!!」
彼女は私の肩をガクガクと揺さぶって、捲し立てるようにお説教を始めた。
私には前世の記憶があるから、こう見えても魂はアラサーなんだ……。
それなのに、正真正銘の幼女であるフィオナちゃんに、お説教されるなんて……悲しい。悲しすぎる。
「うぅ……っ、フィオナちゃん、もう許して……」
「アーシャっ、これを見なさい!! あたしのレベルっ、もう24よ!!」
フィオナちゃんが自分のステホを取り出して、私に突き付けてきた。
彼女の申告通り、そこには24という数字が表示されている。
フィオナ 火の魔法使い(24)
スキル 【火炎弾】【爆炎球】【火炎槍】
ダンジョン探索を頑張っているから、順調にレベルが上がっているね。
来年の目標がレベル30だって言っていたけど、この調子なら余裕だと思う。
「凄いね、フィオナちゃん。ルークスたちも、同じくらいのレベルなの?」
「そうよ! このままだと、あんただけ置いてけぼりよ!! それでもいいの!?」
「べ、別にいいよ……。私、冒険者じゃないし……」
そう言いつつも、私は少しだけ寂しくなってしまった。
みんなが結成した冒険者パーティー、黎明の牙。
私も一応、その一員にして貰っている。補欠要員というか、幽霊部員みたいな扱いだけど、私だけレベルが低いと据わりが悪くなるかも……。
いやでも、それは魔物使いの話であって、魔法使い系の職業であれば話が違う。
魔法使いレベル30→土の魔法使いレベル26→光の魔法使いレベル1って感じで、こっちは順調そのものだよ。
──あっ、そういえば、光の魔法使いはレベルが上がっているかもしれない。
久しぶりに、私は自分のステータスを確かめてみた。
アーシャ 魔物使い(23) 光の魔法使い(16)
スキル 【他力本願】【感覚共有】【土壁】【再生の祈り】
【魔力共有】【光球】【微風】【風纏脚】
【従魔召喚】【耕起】【騎乗】【土塊兵】
【水の炉心】【光輪】
従魔 スラ丸×5 ティラノサウルス ローズ ブロ丸
タクミ ゴマちゃん グレープ テツ丸 ユラちゃん
魔物使いのレベルが、1だけ上がっていた。
みんなの冒険に、スラ丸三号とテツ丸を貸し出しているから、経験値のお零れを貰っているんだ。
それと、光の魔法使いのレベルが随分と上がっている。1→16だよ。
スキル【光球】による支援で、複数の冒険者の戦闘を手助けしているから、勝手にグングン上がっているんだ。
「あんた、スキルが多すぎない……? その数だけ見たら、物凄く強そうに見えるわね……」
横から私のステホを覗き込んだフィオナちゃんが、頬を引き攣らせながらそんなことを言った。
私はちょっと得意げになって、フフンと鼻を鳴らす。
「そうでしょう? 強そうでしょう? なんだかんだで、置いてけぼりにはされないんだよ」
スキルの数が十四って、自分でも凄いと思う。
職業を二つ選べるという特異性がなかったら、レベル1に戻ったときの弱体化が怖すぎて、転職を繰り返すことなんて出来なかった。
私は紛うことなき、異世界チート転生者なんだ。
「これを見せられたら、煩くは言えないわね……。それで、新スキルはどんな感じなの?」
「あ、確認してなかった。ええっと──」
光の魔法使いの職業スキル【光輪】は、対象の頭の上に光の輪っかを浮かべて、知力を上昇させる魔法だった。
試しに使ってみると、一秒間で四秒分の物事を考えられるようになったよ。
持続時間は三日間だから、かなり強力なバフ効果だね。
【他力本願】の影響で追加されている特殊効果は、並列思考が可能になるというもの。別々の物事を四つ同時に考えられる。
頭を酷使するから、知恵熱が出てしまうけど……【再生の祈り】を使っていれば、その症状は一瞬で治る。これなら使い放題だ。
フィオナちゃんに【光輪】をプレゼントすると、彼女はスローモーションで喋り始めた。
「なーんーかーこーれー、しゃーべーるーのーがー、おーそーくーなーるーわーねー」
なんかこれ、喋るのが遅くなるわね。って、そう言ったのかな?
「そーうーだーねー」
私が喋る速度も、明らかに遅くなっている。なにこれ?
折角なので、この現象を並列思考で解析──思考が増えても、全部私の頭だから、全然賢くなった気がしない。
それでも、すぐに答えを導き出せた。これは、喋るのが遅くなったんじゃなくて、思考速度が加速したことによる弊害だね。
頭の回転が四倍速になっても、呂律は四倍速になっていないんだ。
「ああもうっ!! 遅いっ!! イライラするわね!!」
フィオナちゃんはせっかちなので、思考速度が加速して間延びした世界は、我慢出来ないみたい。苛立ちながら光の輪っかを握り潰して、バフ効果を消しちゃった。
この輪っかの耐久度テストをしてみたけど、非力な私のデコピンでも砕け散ったから、前衛職が戦闘で活用するのは難しいかも……。
まぁ、こんな感じで、ちょっとした問題点が見つかったものの、【光輪】は大当たりと言って差し支えないスキルだと思う。
私は怠け者──もとい、のんびり屋だから、間延びした世界が苦にならない。
休日にこれを使えば、一日で四日分のスローライフを味わえるし、今後は頻繁に使っていこう。
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