他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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五章 スレイプニル戦役

159話 決起

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 帝国軍が行っているソルガルーダ討伐作戦。
 それに参加して欲しいと言われても、頭の中が真っ白になって、言葉が上手く出てこない。
 私がそんな状態に陥っていると、カマーマさんが口を挟んできた。

「殿下。それって……あちきにも、同じことを頼みたいのかしらん?」

「ええ、その通りです。バリィ、カマーマさん、アーシャさん。この三人で、ルチア=ダークガルドのもとへ行き、ソルガルーダの討伐に寄与。その後、確実にドラゴンの魔石を破壊して貰いたい」

 静観していては、ルチア様との同盟関係に罅が入る。
 彼女は帝国南部に戻って来たけど、アインスの邪魔がなければ、帝都に攻め込んでいた。
 それは、彼女が率いている帝国軍の動きから、ハッキリと分かったので、ツヴァイス殿下は同盟を維持したいんだって。

 本当は彼自身が、援軍として帝国へ向かいたいとか……。
 でも、アインスが内乱を起こす可能性があるので、ツヴァイス殿下は王国に残らざるを得ない。

「あの、ライトン侯爵の助力は、貰えないんですか……?」

「ブヒィ!? わ、吾輩は王国南部の纏め役で、ツヴァイス殿下の軍勢に必要不可欠な人材だ! 誠に口惜しいがッ、殿下のお傍を離れることは出来ん!!」

 私の質問に対して、ライトン侯爵はブルブルと頬の贅肉を震わせながら、全力で首を左右に振った。
 ……ソルガルーダ、延いてはドラゴンを怖がっているとか、そういうことじゃないんだよね?

 まぁ、ライトン侯爵が動けない事情は、理解したよ。
 ここで、バリィさんが挑戦的な笑みを浮かべながら、最初に参加を表明する。

「俺は参加するぞ。ドラゴン特効の結界もあるし、なんとかなるだろ」

 ドラゴンの魔石を破壊しないと、帝国軍に回収されて、再利用される恐れがある。
 それこそ、アクアヘイム王国に対して、テロ行為を仕掛けてくるかもしれない。
 そんな最悪の事態が想定される状況で、根が優しいバリィさんは、絶対に断らないと思っていたよ。

「あちきは疑問なんだけど……たった三人を派遣した程度で、ルチアとかいうメスガキちゃんの心証は、よくなるのかしらん?」

「カマーマのおっさん、相手は帝国の皇女だからな……? メスガキ呼ばわりは、流石にあんまりだろ……」

 バリィさんがカマーマさんの発言を咎めたけど、ツヴァイス殿下は然して気にせず、自分の考えを話す。

「カマーマさんの懸念は尤もですが、ワタシは問題ないと確信しています。貴方たち三人は、それぞれ能力の方向性こそ違えど、等しく英雄と呼ばれるだけの力を持っていますから」

 殿下の言葉を聞いて、バリィさんとカマーマさんは、満更でもなさそうな表情を浮かべたよ。
 『どうして私まで?』なんて、惚けたことは聞かない。裏ボス攻略で活躍しちゃったから、これは仕方がないと思う。
 最強の矛のカマーマさん、最強の盾のバリィさん。
 そして、私にはヒーラーとしての活躍が期待されている。

 ……正直、断りたい。物凄く断りたい。
 でも、ソルガルーダの中にドラゴンがいるなら、いつの日かローズとスイミィ様が、確実に狙われてしまう。
 あの二人はドラゴンの一部だった力を持っているから、ドラゴンはそれを取り戻そうとするんだ。

 やっぱり、ドラゴンは生かしておけない。私とは関係ない場所で、討伐されてくれたら最高だけど、それは高望みが過ぎるよね……。
 私が独力で倒すことは不可能だから、帝国軍を支援して彼らに倒して貰うというのは、理に適っている。

 ああ、でも──

「ツヴァイス殿下……。ソルガルーダを上手く討伐出来たとしても、私が帝国軍に狙われたり、しませんか……? 私の回復魔法って、自分で言うのもアレですけど、かなり強力なので……」

「ないとは言い切れません。一応、気休めに、こんなものを用意しましたが……」

 ツヴァイス殿下は誤魔化すことなく、きちんと不安要素があることを認めてくれた。
 その上で、懐から取り出した仮面を差し出してくる。

 それは、猫の顔を模した白い仮面で、金の細工が施されている代物だよ。
 上流階級の仮面舞踏会みたいな場所で、使われていそうなイメージがある。
 ステホで調べてみるよう促されたので、パシャっと撮影。

 『移り気な貴婦人の仮面』──これを装備していると、他人の印象に残り難くなる。
 どうやら、今の私にお誂え向きなマジックアイテムみたい。
 ただ、コソコソと浮気をするための道具っぽくて、ちょっと嫌かも。

「ええっと、これを貸して貰えるんですか?」

「いえ、貸すのではなく、差し上げます。それと、少ないかもしれませんが、報酬を先払いでご用意しました」

 ツヴァイス殿下はそう言って、お金が入っている袋を三つ、テーブルの上に置いた。
 一人当たり、白金貨百枚らしい。眩暈がするほどの大金だけど、それくらいのリスクがあるってことだよね……。

「あちきは引き受けてあげるわよん! 侵攻には手を貸さないって、決めていたけど、魔物の討伐なら本業だからねん!」

 カマーマさんも参加を表明したので、後は私が答えるだけ。
 ギュッと拳を握り締めて、勇気を振り絞り、一歩前に出る。

「──わ、私もっ、引き受けます! バリィさん、カマーマさん、万が一のときは私を連れて、逃げてください!」

「ああ、心得た。相棒は必ず、俺の結界師としての矜持に誓って、無事に連れて帰ろう」

「あちきも、乙女心に誓ってあげるわよん! メスガキちゃんがいないと、あちきの美肌も泣いちゃうし!」

 二人から心強い返事を貰えて、私の肩は少しだけ軽くなった。
 こうして、私たち三人は決戦に臨むべく、帝国南部へと向かう。
 スラ丸七号をあっちに置いてきたから、移動は一瞬だよ。

 私が今回のお供に選んだ従魔は、スラ丸七号とティラだけ。
 職業は今のまま、魔物使いと観測者でいいかな。

 装備しているマジックアイテムは、白色のブラウス、濃紺色のスカート、編み上げのロングブーツ、猫の顔を模した仮面。
 五つまで装備出来るから、枠が一つ余っている。何が必要になるか分からないので、余らせておこう。

 私はスキル【感覚共有】を使って、全ての従魔たちに私の聴覚を共有させて、私の言葉を届ける。

「みんな、聞いて。魔力が空っぽになるまで、借りるかもしれないから、【光球】の光を浴びながら待機してて」

 私の声色と指示の内容から、大事に巻き込まれていることが、従魔たちに伝わったと思う。
 目に見えない繋がりを通じて、みんなが私を心配してくれる気持ちが、確かに伝わってきたよ。……大丈夫、必ず生きて帰るからね。



 ──スラ丸一号と七号の間に繋いだ【転移門】を跨いで、私たちは帝国南部にある森の中へと足を踏み入れた。
 この場所は、冬の夜とは思えないほどの、真夏日みたいな猛暑に包まれている。

「暑いな……。森が燃えている訳じゃなさそうだが、空が明るいぞ」

「これは森の外を見るのが、おっかないわねん……」

 バリィさんの言う通り、夜なのに空が明るい。とは言え、日中のような明るさではなく、炎に照らされているような明るさだよ。
 十中八九、ソルガルーダのスキル【天地陽光】が原因だろうね。
 この辺りは攻撃範囲に入っていないけど、光と熱の影響が及んでいるんだ。

 私たちはバリィさんの結界に乗って、森の上空まで移動する。
 そうして、見えてきたのは──帝国南部のあちこちに、光熱の柱が降り注いでいる光景だった。

 地平線の彼方に見える分も含めると、光熱の柱は三十本を超えている。
 一本一本の柱が、街一つと周辺の村々を焼いたと考えると、夥しい数の犠牲者が出ているはず……。こんなことが、許されるの?

 アインスの首を差し出しても、帝国と王国の関係は、修復出来ない気がしてしまう。

「まずは皇女様と、合流しないといけないわよねぇ? どこにいるのかしらん?」

「ソルガルーダの対策本部は、首都スレイプニルにあるって話だが……首都はどっちだ?」

 カマーマさんとバリィさんの視線が、私とスラ丸に向けられた。

「私には分かりませんけど……スラ丸、憶えてる?」

「!!」

 スラ丸は南西の方角に、びよーんと身体を伸ばす。どうやら、あっちに首都があるらしい。
 それを二人に伝えると、カマーマさんだけが結界の外に出たよ。
 そして、彼女は結界の側面に、背中をピタっと張り付かせる。進行方向とは、真逆を向いているんだけど──

「ええっと、何をするつもりですか?」

「シャチと戦ったときに、相棒のおかげで複合技のコツを掴めた。だから、俺も一人で使えるようになったんだ」

「おおー、よかったですね。……それで?」

「【移動結界】+【対物結界】の複合技と、カマーマのおっさん。この二つが揃うと、面白い移動方法が出来る」

 私はシャチとの戦いで、自分のスキルとバリィさんのスキルを複合させるという、結構凄い技を成功させた。
 そのおかげで、バリィさんは単独でも、複合技を使えるようになったらしい。
 彼が言ったスキルの組み合わせだと、自由に動かせて物理防御力が高いという、強力な複合結界になる。

 私はなんとなく、バリィさんとカマーマさんが、やろうとしていることを察してしまった。……多分、カマーマさんをエンジンにして、高速飛行するんだろうね。

「あちきの複合技も、イクわよんッ!! 【十連打】+【烈風掌】──ッ!!」

 カマーマさんは結界に背中をくっ付けたまま、十連続の衝撃波を放った。
 王国最強の拳闘士である彼女の衝撃波は、一発一発が凄まじい推進力を生み出す。
 ただの【移動結界】だと、カマーマさんの背中が結界を突き破っていたかもしれない。けど、複合結界だから、強度に問題はない。

 これを繰り返した結果、私たちが見ている風景は矢のように流れて──あっという間に、首都スレイプニルが見えてきた。ここはまだ、無事だったみたい。
 それと、進行方向の先に、二匹の大怪獣の姿も見える。そいつらが、途轍もない激戦を繰り広げているので、周辺の地形が変わっているよ。

 片方はソルガルーダで、もう片方は半人半馬の魔物、ケンタウロスだった。
 後者の体長は二百五十メートルくらいで、六脚馬の下半身は、火、水、土、風、光、闇のエンペラーホースが、合体したような形をしている。
 一本一本の脚が、それぞれ違う属性の馬のものなんだ。

 そして、超巨大な人間の上半身は、何もかもが馬並みの男、ロバート=スレイプニル辺境伯のものだった。
 馬の下半身と融合している彼の上半身は、鋼のような肉体を惜しみなく曝け出しているよ。

「えぇぇ……っ!? あ、アレはなんですか!? ロバートさんって、魔物だったんですか!?」

「いや、あれはスレイプニル家が保有する血統スキル、【人馬一体】によるものだな……」

 血統スキルなんて初めて聞いたけど、血族に受け継がれるスキルなんだろうね。
 バリィさん曰く、【人馬一体】とは、自分と愛馬の肉体を融合させるスキルらしい。
 何もかもが馬並みって、ロバートさんは自己紹介していたけど……まさか、馬そのものになるなんて……。

 彼は『ヒヒイイィィィンッ!!』と嘶きながら、ソルガルーダを殴り付けたり、後ろ蹴りをかましたり、各種エンペラーホースが使えるスキルをぶっ放したりしている。
 ソルガルーダも負けじと、直径が三十メートルもある【爆炎球】や、大きさが一メートルほどの【炎刃鳥】を無数に連発して、滅茶苦茶な攻撃を繰り出しているよ。

「あぁんっ!! ロバートってば、なんてイイオトコなのかしらん……ッ!! あちきっ、ムラムラして来ちゃったわぁ!! バリィちゃん!! このまま突っ込むわよおおおおおおおおおおおんッ!!」

「はぁっ!? まずは皇女に話を──」

 ロバートさんの雄姿を見て、カマーマさんが大興奮してしまった。
 彼女は暴走して、複合技を連続でぶっ放し、バリィさんが慌てて複合結界を三重に展開する。

 こうして、急加速した私たちは、ソルガルーダの目玉の一つに激突したよ。
 
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