196 / 239
六章 聖女の墓標攻略編
194話 聖女の墓標
しおりを挟む私はスラ丸の中から硝子のペンを取り出して、宙に魔法陣を描き、五号を召喚した。
そして、スラ丸五号と二号の間に、【転移門】を繋いで貰って、聖女の墓標の第五階層へと直接足を踏み入れる。
この階層は、ユラちゃんの濃霧によって満たされているので、一寸先すら見通せない。けど、ユラちゃんが霧の中を把握出来るので、私のスキル【感覚共有】を使えば、なんの問題もないよ。
ユラちゃんが私を歓迎するように、霧状の身体を纏わり付かせて、スラ丸二号も擦り寄ってきた。
「ユラちゃん、スラ丸、ご苦労様。ありがとね」
私は二匹を労ってから、【従魔召喚】を使って手透きのスラ丸たちを呼び出す。
この場に集まったスラ丸は、一号、二号、五号、六号。
その他の従魔は、ティラ、ブロ丸、ユラちゃん。
この子たちと一緒に、第五階層の奥地へと向かう。
道中、足元にはゾンビたちのドロップアイテムが、大量に転がっていた。
ゾンビファーザーが召喚するゾンビたち。奴らのドロップアイテムは、色々とあるけど……目ぼしい代物は、鉄製の武具かな。
通常のドロップだと、なんの効果も付与されていない普通の武具。レアドロップだと、マジックアイテムの武具になる。
後者の武具に関しては、切れ味向上とか、自動修復とか、ランダムな効果が一つだけ付いているんだ。
今まではスラ丸二号が、【浄化】を使いながら一つずつ拾っていたけど、回収には時間が掛かる。その作業は切り上げて、攻略を優先しよう。
ちなみに、【浄化】を使わずに拾いまくれば、すぐに【収納】の空きスペースが埋まるはずだよ。
ただ、どの武具も汚れているので、そのまま拾うのは躊躇われる。呪われた装備も、混ざっているかもしれないし……。
ゾンビファーザーのドロップアイテムは、宝石があしらわれた冠と、ドス黒いオーラを垂れ流している権杖。後者がレアドロップだった。
どちらも未鑑定で、スラ丸に拾わせるつもりはない。
権杖は【浄化】を使っても、聖水を浴びせても、ドス黒いオーラが消えなかった。十中八九、とんでもない呪物だろうね。
冠は呪われているように見えないけど、ゾンビファーザーのドロップアイテムというだけで、拾う勇気が湧かないよ。
こうして、ドロップアイテムのことを考えていると──不意に、亡者の手が地面から飛び出して、私の足を掴んだ。
すぐに聖なる霧に触れて、亡者の手は強酸を浴びたように溶けていく。
「汚いなぁ……。もしかして、今のがゾンビファーザー?」
私がユラちゃんに問い掛けると、この子は触手を上下に動かして肯定した。
ダンジョン内の魔物は、倒しても倒しても、何度だって再出現する。
この階層では、再出現と同時に消滅するから、少しだけ憐れだね。
──しばらく歩いていると、白亜の石の台座が見えてきた。
そこには、五つの丸い窪みがあって、魔物メダルを嵌められるようになっている。
ゾンビ、ゾンビリーダー、シスターゴースト、アグリービショップ、ゾンビファーザー。それらの魔物メダルを一枚ずつ嵌めると、地面から巨大な白亜の門が出現した。
大きさは百メートル以上もあって、軍勢が通ることを想定しているみたいだよ。
黙って見守っていると、門が自動で開かれて、眩い光が向こう側から溢れ出した。
私は目の前に手を翳して、従魔たちと一緒に光の中へ足を踏み入れる。
──壁も、床も、天井も、目が眩むほどの純白だった。
そんな白亜の空間の中に、ぽつんと一匹、黒髪のゾンビが佇んでいる。
女性のゾンビで、金糸によって彩られた白い法衣を身に纏っているよ。
側頭部には、短剣と思しきモノが突き刺さっている。刃は見えないけど、赤黒くて禍々しい柄が見えているんだ。
このゾンビは身体が大きい訳でもないし、威圧感がある訳でもない。
お供のゾンビだっていないし、全然強くなさそう……。服装が襤褸だったら、第一階層に現れてもおかしくないような、普通のゾンビに見える。
目玉がない眼孔を私に向けているけど、その場に佇んでいるだけで、何もしてこない。
「こっちから攻撃するまで、戦闘にならないの……?」
だとすれば、有難いことだね。
私はステホを取り出して、目の前のゾンビを撮影することにした。
このタイミングで、自分のステホに罅が入っていることに気付く。しかも、その罅は徐々に広がっているよ。
これを生成した神聖結晶が、壊されてしまったらしいので、そのせいかもしれない。
とりあえず、問題なく撮影は出来たけど……いつ砕けても、おかしくなさそう。
『堕ちた聖女・ニラーシャ=アクアヘイム』──持っているスキルの数は、五つ。
【浄化】【再生の祈り】【信仰布武】【聖戦】【絶望の呪禍】
一つ目はスラ丸が持っているスキルで、二つ目は私が持っているスキルだった。
【信仰布武】は人々から集めた信仰の分だけ、自分の身体能力が上がるという、常時発動型のスキルだった。
アクアヘイム王国では、聖女信仰が根強いので、ニラーシャは物凄い身体能力を持っている可能性が高い。
【聖戦】は勇者を選定するスキルだけど、この場には対象になる存在が見当たらない。
【絶望の呪禍】は自分が抱く絶望の種類と大きさに応じて、効果が変化するスキルらしい。
王族に掛けられた老化の呪いの原因は、【絶望の呪禍】にありそう。
私は解呪出来るので、なんの問題もないかな。
裏ボスと言えば、シャチしか知らなかったけど、あれよりも随分と弱そうだ。
「……そういえば、ニラーシャって建国の聖女だっけ?」
私がスラ丸に確認を取ると、この子は身体を縦に伸縮させて肯定した。
以前、教会で聖女のことを調べたときに、その名前が出たんだよね。
建国の聖女がダンジョンの裏ボスだなんて、どんな経緯でそうなったのか、少し気になる。
「うーん……。まぁ、いいや。スラ丸、ユラちゃん、殺っちゃって」
私が命令すると、スラ丸たちが聖水を放射して、ユラちゃんが【冷水弾】と【霧雨】を連発した。
ユラちゃんが使う水属性のスキルは、【聖杯】によって聖なる力を宿す。
ニラーシャがどんな魔物でも、所詮はゾンビなんだから、これには耐えられないはず……。
早く片付けて、街から悪臭を取り除いて、それから──それから?
「……あれ? それから、私はどうすればいいの?」
私が首を傾げている間に、聖水を浴びたニラーシャが炎上した。
それは、普通の炎じゃなくて、熱が感じられない白い炎だよ。
水を掛けたのに燃えるなんて、不思議な現象だなぁ……と思っていると、ニラーシャは緩慢な動作で手を動かして、頭に突き刺さっている短剣の柄を握り締め、それを引き抜いた。
赤黒い血飛沫と共に、ゾッとするほど美しい銀色の刃が、私の目に映る。
それは、私が聖女の墓標で入手して、ルークスにプレゼントしたマジックアイテムと、同じ代物──『渇きの短剣』かもしれない。
「その武器で、貴方に何が出来るの?」
渇きの短剣の性能なら、知っているよ。突き刺した相手の血を吸って、刃の耐久度を回復させるだけだ。
便利だけど、大して強くない。そんな武器で、私のスキルを凌駕出来るとは思えない。
私はなんの感慨もなく、ニラーシャの観察を続けた。
すると、彼女の側頭部の傷口から、夥しい量の汚泥が溢れてきたよ。
見るからに、人体に収まる量じゃない。その汚泥は瞬く間に、白亜の空間を塗り潰していく。
汚泥に聖水を掛けると相殺出来るけど、汚泥が広がる速度の方が上だ。
「ブロ丸、足場になって浮かんで」
私の指示に従って、ブロ丸が四角形になり、私たちを乗せて宙に浮かぶ。
汚泥を回避しながら、ニラーシャに対して聖水を浴びせ続け──空間全体が、汚泥で塗り潰された直後、奴の口が静かに動く。
『そ れ を 寄 こ せ』
声はなかった。でも、何を言っているのか、分かってしまった。
脳味噌の奥底に汚い手を差し込まれて、大切な何かを握られたような、悍ましい感覚が私を襲う。
そして、ニラーシャの真っ暗な眼孔に、私の意識が吸い込まれて──その中には、聖女と謳われた一人の女性の、絶望が詰まっていた。
65
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる