他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

文字の大きさ
211 / 239
七章 新生活の始まり

208話 バロメッツ

しおりを挟む
 
 ──私たちは三十分ほど歩いて、轟々と降り注ぐ滝がある場所へと到着した。
 周りには緑が生い茂っており、マイナスイオンが溢れているように感じられる。
 滝の裏手には洞窟があって、下へ下へと続く螺旋階段が伸びていたよ。

「ぬおおおおおおっ!! た、滝の裏にダンジョン!! 浪漫なのだ……ッ!!」

 リヒトくんが我先にと、階段を駆け下りようとしたけど、ペンペンが彼を持ち上げて制止させる。
 ここで、ミケがチラっと私を見遣り、やや緊張感を滲ませながら口を開いた。

「ご主人、どうやって探索するのかにゃあ……? このまま、みゃーが先頭……?」

「うーん……。スラ丸の分身を先頭にしよっか。その後ろから前衛のペンペン、遊撃のミケ、後衛の私、スイミィちゃん、リヒトくんで。スラ丸、ティラ、ブロ丸は後衛の護衛かな」

 目や耳、それに勘もいいから、ミケには斥候の才能があるんだけど……未知のダンジョンで、先頭を歩く自信はないみたい。
 そんな訳で、陣形を変更した。それから、全員に私の支援スキルを掛け直しておく。
 ペンペンはスイミィちゃんの支援スキル、【流水皮膜】も掛けて貰ったよ。

 【流水皮膜】は体表に薄っすらと流水を纏って、軽い攻撃を受け流してくれるんだ。
 持続時間はあんまり長くないから、基本的には前衛に使うだけで、スイミィちゃんの魔力を温存する。

「……準備、出来た。……ペンペン、がんばれ」

「ピィ……!!」

 スイミィちゃんが熱の籠った声援を送ると、ペンペンは力強く頷いて階段を下り始めた。
 みんなで後に続き──途中、私は疲れてきたので、ブロ丸を椅子の形状にして座ることにした。
 ブロ丸は私を乗せた状態で、全く揺れることなく動いてくれる。

「……姉さま、スイも。……スイも、乗りたい」

 スイミィちゃんもブロ丸に乗りたがっているので、私の隣に座らせてあげた。
 お互いに、スラ丸の中から飲み物やおやつを取り出して、快適な移動が始まったよ。
 こうして、螺旋階段を下り切ったところで──リヒトくんが、物凄く微妙そうな顔をこちらに向けてくる。

「ぬぅ……。自分の足で歩くのが、冒険の醍醐味だと思うのだ……。後ろで椅子に座って、おやつまで食べられると、冒険らしさが激減してしまうのだぞ」

「……これ、楽ちん。……リッくんも、座る?」

「リヒトは駄目にゃ! そしてっ、みゃーが座るのにゃあ!! ここは、みゃーのハーレム指定席にゃんだよ!!」

 スイミィちゃんがリヒトくんを手招きしたけど、ミケが即座に割って入った。
 そして、ミケは私とスイミィちゃんの膝の上に、我が物顔で身体を寝転ばせて、だらしない表情でセクハラをする。
 太腿に頬擦りしたり、お尻を触ってきたり……。この子、最近は罠を作って活躍しているから、調子に乗っているのかも。

「……ミケ、ダメ」

 スイミィちゃんがミケの尻尾を掴み、毛を逆立てるように擦った。

「はにゃあっ!? そ、それはやめるのにゃ……っ!! ゾワゾワして、力が抜けちゃうのにゃあ……!!」

 ミケは悲鳴を上げながら脱力して、そのまま地面の上に転げ落ちた。
 尻尾にそんな弱点があるなんて、私は知らなかったよ。


 ──さて、ここからは、本格的なダンジョン探索が始まるので、気を引き締めよう。
 私たちが洞窟を抜けると、断崖絶壁に囲まれた夜の森に、足を踏み入れることになった。
 ダンジョンの外は昼間なんだけど、ダンジョンの中は夜間になっている。時間帯が固定されている階層っぽいね。

 天井には、精巧な星空が映し出されており、天の川が流れている。
 月は出ていないけど、五メートル先までなら視認出来る程度には明るい。
 私は【光球】を浮かべて、視界を広げながら、スラ丸の分身を先行させた。

 【光輪】と【感覚共有】を併用して、スラ丸の視界を覗き見していると──早速、三匹の羊の姿を発見。目が虚ろで不気味な、例の羊だよ。

「羊がいたけど、誰が倒す?」

「……ミケ、やって。……スイのお肉、むだにしちゃ、ダメ」

 私が問い掛けると、スイミィちゃんはミケを指名した。
 魔法使い二人の攻撃だと、羊がボロボロになっちゃうからね。
 ミケの弓矢で額を撃ち抜くのが、最も綺麗にお肉がとれる方法なんだ。

「任せろにゃ! 狩りが上手いオスは、モテるのにゃあ!」

 ミケは姿勢を低くしながら駆け出して、羊を見つけると木の上に登り、素早く弓矢を構えた。
 そして──連続で放たれた三本の矢は、それぞれが羊の額に命中し、見事に狩りを成功させたよ。

「本体の植物の魔物が、近くにいるはずなんだけど……」

 私がきょろきょろと、周囲を見回していると、ミケが獲物をリヒトくんに見せびらかして、勝ち誇った笑みを浮かべる。

「にゃはははははっ!! リヒトっ、これがハイレベルにゃオスの戦果だにゃあ!! 雑魚オスのおみゃーには、真似出来にゃいでしょ!? ざーこ! ざーこ!」

「ぐぬぬ……っ!! わ、我だって剣を使えば、羊くらい綺麗に狩れるのだ!! アーシャっ、次の羊は我がやるのだぞ!!」

「うんうん、分かった分かった。それよりも、魔物を探してよ」

 森の中だから、植物系の魔物は見つけ難い。
 しかも、お目当ての魔物は羊を生み出すだけで、強さは小動物と大差がないっぽい。
 そのため、スキル【気配感知】を持っているティラが、魔物と小動物の気配を区別出来ていないんだ。

 みんなにも手伝って貰い、注意深く周囲に視線を巡らせていると──スイミィちゃんが、私の服の袖を指先で摘まんできた。

「……姉さま、見つけた。……多分、アレがそう」

 彼女が指を差す先には、鬱蒼とした草むらがある。ジッと目を凝らすと、その中にトウモロコシの茎みたいな魔物を発見した。
 その子は根元を曲げて、静かに隠れ潜んでいるよ。

 ステホで撮影してみると、『バロメッツ』という名前の魔物だと分かった。
 持っているスキルは【羊生成】で、これを使って羊を実らせていたんだ。
 子羊から成熟した羊まで、調整して実らせることが出来るみたい。

「スラ丸、ちょっと近付いてみて」

「!!」

 私の指示に従って、スラ丸がバロメッツに接近していく。
 すると、バロメッツは茎の身体をブンブンと振り回して、拙い攻撃を仕掛けてきた。
 そして、スラ丸のぷにぷにボディに呆気なく弾かれ、この世の終わりみたいに落ち込んでしまう。

「……姉さま。スイのはんばーぐ、いじめたら、メッ」

「いや、虐めてるつもりは……まぁ、強さの分析なんて必要ないかな……。それじゃあ、テイムするね」

 スイミィちゃんに、メッと怒られてしまったので、私はスラ丸を呼び戻した。
 それから、意識を集中させて、目には見えない繋がりをバロメッツに伸ばす。

 ……自分はただの植物だと、必死に誤魔化そうとしている様子が伝わってきた。
 今更、その主張は無理があるよ。スラ丸に近付かれて、動いちゃったでしょ。

「…………ほほぅ、私を無視するつもり? スラ丸、軽く体当たりして」

 バロメッツが無視を決め込んでいるので、私は再びスラ丸を嗾けた。今度は軽く体当たりもさせたよ。
 これだけで、バロメッツは心が折れたらしく、私に服従した。

「……姉さま、テイムした? ……スイのはんばーぐ、テイムした?」

「うんっ、出来たよ! 名前は……羊、シープ、ラム肉……。よしっ、決めた! キミの名前は、今日からラム! よろしくね!」

 私が命名すると、ラムは茎を折り曲げて、丁寧にお辞儀してきた。
 この子はスラ丸の【転移門】で、一足先に家の庭に送り届けて、グレープの隣に植えておく。仲良くしてね。

 スキル【草花生成】や【果実生成】みたいに、【羊生成】が私の【耕起】と噛み合うのか、ちょっと気になる。
 品質が向上するのか、あるいは魔物化するのか……。後者の場合、野菜の魔物より強くなりそうだし、村に滞在している間は控えておこうかな。

 負ける気は全くしないけど、万が一にも逃げ出して村に迷惑を掛けたら、申し訳ないからね。
 考えが纏まったところで、私たちは引き続き、ダンジョンの探索を続行する。

「──あっ、また見つけた。ドロップアイテムが気になるし、今度は普通に倒してみよっか」

「我がやるっ!! 我の魔人の雷が、獲物を求めて疼いているのだ!!」

 再びバロメッツと遭遇したので、リヒトくんが剣を使って羊を屠殺。
 それから、過剰な威力の【雷撃】を放ち、バロメッツを消し炭にした。

 死体が残らないような倒し方をすると、即座にドロップアイテムに置き換わる。
 バロメッツのドロップアイテムは、少量の羊のお肉と、小粒の土の魔石。それから、レアドロップの魔物メダルも手に入った。

 裏ボスに挑むつもりは皆無だけど、幸先はいいね。
 魔物メダルをステホで撮影すると、『欲望の坩堝』というダンジョンの裏ボスに、挑むための代物だと判明した。

「なるほど……。このダンジョンの名前は、欲望の坩堝だって。第一階層のテーマは、食欲かな」

 羊は無職の子供たちでも、囲めば簡単に狩れる。バロメッツの攻撃は大したことがないし、村人たちにとっては、有難いダンジョンだと思う。
 盗賊に村が滅ぼされて、難民になった人たち。彼らを集めて、このダンジョンで羊狩りをして貰えば、穏便に共存出来るかもしれない。

「にゃにゃっ、欲望と言えば!! 色欲っ、情欲っ、性欲だにゃあ!! このダンジョンには、エッチにゃ魔物がいるに違いにゃいよ!! ご主人っ、もっと奥まで探索するのにゃ!!」

 私は至極真面目なことを考えているのに、ミケは馬鹿げたことしか考えていない。
 まぁ、これくらいお馬鹿な子がいると、気が楽になることもあるし、別にいいけどね。

「とりあえず、第一階層を徹底的に探索するよ。バロメッツ以外にも、魔物がいるかもしれないから、気を引き締めてね」

 戦闘職以外の人でも、余裕を持って羊狩りが出来るという、確証が欲しい。
 強い魔物や危ない罠が、存在しなければいいんだけど……。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

処理中です...