他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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七章 新生活の始まり

221話 反乱

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 役人の命令に従って、兵士たちが村の子供を手に掛けるべく迫る。

「野郎……ッ!! 俺様のシマで、舐めた真似してンじゃねェぞッ!!」

 トールは額に青筋を浮かべながら、鋼の鎚をぶん投げようとした。
 しかし、その前に【冷水連弾】と【雷撃】が、兵士たちを襲う。

「「「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」

 連続で飛来する水の弾が、兵士たちの身体を拉げさせた。
 前衛職と思しき人たちは、防御力が高いから即死はしなかったけど、水で濡れた身体に【雷撃】が直撃して、止めを刺される。

「なぁ──ッ!? げ、下手人は誰だあああああああああああッ!?」

 役人は発狂して、魔法が飛んできた方を睨み付けた。
 そこには、畑に隠れていた人物──リヒトくんとスイミィちゃんの姿があったよ。
 二人とも、初めて人間を手に掛けたから、顔色を青くしている。

「リヒト兄ちゃん! スイミィ姉ちゃん!」

 ポテトくんを筆頭に、子供たちがパッと表情を明るくして、リヒトくんとスイミィちゃんに駆け寄った。

「み、皆の者……っ!! もう安心するのだ!! 我が魂の封印は解き放たれた!! 今の我は、雷鳴の勇者なのだぞ!!」

 リヒトくんは子供たちを守りたい一心で、やや声を上擦らせながら、兵士たちの前に立ち塞がった。
 そんな立派な勇者様の後ろで、子供たちが口々にツッコミを入れる。

「リヒト兄ちゃん、昨日は『稲妻の魔人』って言ってたー!」

「一昨日は、『紫電の魔王』じゃなかったっけ?」

「その前は、『裁きの雷を司るアクアヘイムの王子』だったよなー」

「いろいろあって、おぼえられなーい!」

 中二病のリヒトくんは、キャラ設定がブレブレだね。二つ名の響きが格好よければ、なんでも構わないんだと思う。
 なんとも締まらない背後の声に、リヒトくんはガクっと肩を落とす。
 そんな彼を励ますように、スイミィちゃんが背中をポンポンと叩いた。

「……リッくん、かっこいい。……スイも、がんばる」

「スイミィ……!! 我の味方は、其方だけなのだ!!」

 二人とも、初めての殺人という大きな山場を乗り越えて、気を持ち直すことが出来たみたい。
 今までの盗賊退治で、人死には何度も見てきたはずだから、ある程度の慣れはあったんだろうね。

「クソ餓鬼いいいぃぃいッ!! お前たちっ、何をやっている!! 早く殺──」

 役人が声を荒げて、再び兵士たちに命令しようとした瞬間、彼の頭にサクッと矢が突き刺さった。
 今度の下手人は、ペンペンの背中に乗って登場したミケだ。
 彼は高笑いしながら、スキル【強弓】で兵士たちを狙い撃つ。
 ペンペンもスキル【挑発】を使って、子供たちに敵視が向かないようにしてくれた。

「にゃはははははっ!! おみゃーらだけに、良い恰好はさせにゃいよ!! ちびっ子のメスたち!! 守ってやるから、みゃーに惚れるのにゃあ!!」

「「「ミケにゃん! ペンペン! ありがとー!!」」」

 幼女たちの感謝の声が、一斉に上がった。
 ミケとペンペンはビジュアルが可愛いので、幼女たちに人気があるんだ。

「や、ヤラーレル様が殺られてしまった! どうする!?」

「くっ、こんな餓鬼どもに負けたとあっては、我らがルーザー子爵に殺されてしまうぞ!?」

 役人を守っていた兵士たちは、動揺しながらも攻勢に出る。

 ちなみに、ルーザー子爵というのが、この辺りの領主だよ。
 スラ丸の調べでは、四十代後半の男性で、文武に秀でた才能はなく、貴族としてのプライドだけが肥大化している人物みたい。
 先代の領主はまだマシだったらしいけど、先の帝国との戦争で、討ち死にしてしまったんだ。

 ルーザー子爵家は、二百人くらいの常備兵を抱えているのに、自分の本拠地である小さな街しか守らず、盗賊に全く対処していない。
 農民は鼠のように、放っておいても勝手に増えると思っているタイプかな。

 そんな貴族だから、村の移転の件をどう報告するか、村長さんは散々悩んでいた。
 けど、この分だと、もう悩む必要はなさそう。敵対が確定してしまったからね。
 とりあえず、今は兵士たちを始末しよう。トールが既に動き出しているので、私も覚悟を決めた。

「ウオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ──ッ!!」

 スキル【鬨の声】を使いながら、トールは敵兵に向かって突撃する。
 敵兵は例外なく怯んだので、全員がトールよりも格下。つまり、レベル30以下ということになる。

「ティラ、一人も逃がさないで。退路を断とう」

「ワフっ!!」

 私の命令に従って、ティラが敵兵の後方へと移動した。
 その間に、トールはスキル【強打】を使い、鋼の鎚を二倍の大きさにして、敵兵の一人を頭から叩き潰す。

「ぬおおおおおおおおっ!! 兄貴っ!! 待っていたのだ!!」

「おうッ、テメェもまだまだ殺れンだろ!? 一人残らず、ブッ殺すぜェ!!」

 リヒトくんはトールの登場に、キラキラと瞳を輝かせた。
 これは、ポテトくんたちも同じだよ。やっぱり、分かりやすい強者と言えば、彼らが真っ先に思い浮かべるのはトールなんだ。

 この後、私たちは敵兵の集団を終始圧倒した。
 私はローズとグレープも召喚して、敵の魔物使いに格の違いを見せつける。
 村人たちも石を投げたり、ナスの水鉄砲を使ったりして、遠くから敵兵を攻撃してくれたよ。

 数人の兵士が逃げ出したけど、ティラが迅速に屠り、生存を許さない。
 チェイスウルフのティラは体力お化けで、スキル【気配感知】と【加速】を持っている。そんな魔物から、レベル30以下の兵士たちが逃げることは難しい。
 先天性スキルやマジックアイテムによって、例外が発生する場合もあるけど……今回は、恙なく始末出来た。


 ──いつの間にか、私も殺生に慣れてしまったみたい。
 嫌だな、とは当然のように感じる。でも、それ以上に、『敵対するなら殺るぞ!!』という気持ちが大きい。

 私の平穏を脅かす人たちも、色々な物語を辿って生きている。
 それは、サウスモニカの街を襲撃したドラーゴの過去を覗き見して、よく理解出来た。
 でも、自分の物語があるのは、私だって同じなんだ。大切な人たちとか、将来の夢とか、過去の誓いとか、譲れないものが沢山ある。

 だから、敵がどんな物語の主人公でも、必ず勝つよ。
 私がそう決意していると、トールが敵兵の全滅を確認して、獰猛な笑みを浮かべながら一同を見回す。

「野郎どもォ!! 俺様たちの大勝利だッ!! 勝鬨を上げやがれェッ!!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」

 村人たちも巻き込んで、私たちは勝利の味を嚙み締めた。
 体制側に楯突いた訳だけど、敵兵の生き残りは皆無。
 これなら、私たちが殺ったのか、それとも盗賊に殺られたのか、ルーザー子爵には分からないはず……。

 ただ、審問官が送られてきた場合、この反乱は呆気なく露見してしまう。
 あるいは、そんな手間を掛けずとも、盆地の村の仕業だと決め打ちされるかもしれない。
 こうなったら、ルーザー子爵と戦う準備が必要だね。

 あちらの常備兵は二百人だけど、近隣の貴族から兵士を借りたり、冒険者を雇ったりして、戦力が倍以上に膨らむと予想しよう。
 盆地の村を守るには、力が必要だけど……お年寄りと子供たちだけだと、戦力不足も甚だしい。

「さて、どうしたものかな……」

 大人数を養うための食糧と、暮らすための土地ならある。
 私の壁師匠を使えば、人を鍛えることも出来る。
 武器は野菜の魔物のドロップアイテムしかないので、かなり心許ないけど……いや、聖女の箱庭に階層を追加して、ゾンビファーザーを召喚すれば解決するかも。

 ゾンビファーザーとは、聖女の墓標の第五階層に出現した魔物で、大量のゾンビを召喚する統率個体だよ。
 召喚されたゾンビたちの中に、武具を落とす個体がいるから、それを集めればいい。
 階層の追加と召喚用のエネルギーは、箱庭内に村人を出入りさせれば、溜まっていくと思う。

 ……もういっそ、村人を箱庭に移住させて、この地から逃げ出すという手もある。
 ただ、私が死ぬと、箱庭は崩壊してしまうんだ。私とみんなの命を紐付けするのは、ちょっと躊躇われるよね。
 これは最後の手段として、頭の片隅に置いておこう。

「やっぱり、戦うなら人手が足りないなぁ……」

 私が頭を悩ませていると、シュヴァインくん、フィオナちゃん、ニュート、テツ丸が、山から下りてきた。
 彼らの後ろには、三百人くらいの老若男女が、ゾロゾロと付いて来ている。

「あんたたちっ、これってどういうこと!? どっかの兵士が死んでるじゃない!!」

 この場の惨状を目の当たりにして、フィオナちゃんは目を見開きながら狼狽した。
 まぁ、狼狽しているのは、私も同じだよ。

「どういうことって、そっちこそ……後ろの人たち、どうしたの?」

「ああ、この人たちは難民よ。山の中で、木の根っこを齧っていたから、一先ず連れてきたわ」

 フィオナちゃん曰く、彼女たちが村でのんびりしているときに、スラ丸三号の分身が山で難民を発見したらしい。
 最初は盗賊かと思って、フィオナちゃんたちは現地に急行した。
 しかし、難民の集団は暴れる元気もないほど弱っていたので、敵対はしなかった。

 難民の代表者に、もう少し詳しい事情を聞いてみる。
 すると、彼らは近隣の村に住んでいた人たちで、徴税によって食糧を殆ど奪われたと判明した。
 食べ物を探し求めて山に入ったけど、あんまり見つからなかったとか……。
 難民は一様に瘦せ細っており、悲壮感たっぷりな表情を浮かべている。彼らの中には、子供や妊婦さんもいるし、同情を禁じ得ない。

「アーシャ、すまない。なんの相談もなく連れて来てしまった。ダンジョンで羊狩りをすれば、養えるはずだが……どうだ?」

「あ、うん。全然大丈夫だよ」

 ニュートにおずおずと問い掛けられて、私はすんなりと首を縦に振った。
 本当に都合よく、人手が増えてしまった。聞くところによると、探し求めていた大工さんもいるって。
 私たちに、運が味方して──ああいや、違うか。これは、ルーザー子爵の因果応報なんだ。
 彼が農民から搾り取ったから、そのツケが反乱という形で返ってくる。

 ……この流れに逆らわず、行けるところまで行くべきか、今一度よく考えよう。
 ルーザー子爵は小物っぽいけど、寄り親に上位の貴族がいるだろうし、伯爵、侯爵、王族と連戦が始まったら、絶対に勝てない。
 落としどころがなければ、この流れに乗るのは自殺行為だよね。
 
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