異世界は都合よくまわらない!

采火

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ファウルダース侯爵家結婚編

華やぐ夜会2

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 王城の内装はお城って感じだった。それ以上は私の語彙力がなくなった。
 例えるなら、シンデレラや美女と野獣、眠れる森の美女の映画で見るような、謁見室とダンスホールが一つとなったような場所が会場だった。
 本当にお姫様の世界で、気後れしてしまう。
 しかも入場したら一番最初に王様に挨拶しないといけないと言われてしまえば、私のキャパもいっぱいいっぱい。
 なんとか粗相をしないで王様に挨拶をすれば、ようやく一つ目の難所をクリアした開放感でふらついてしまった。

「大丈夫かい?」
「なんとか……。まさか、話しかけられるとは思わなかった」
「陛下は気さくな方だからなー」

 この国では真っ黒な髪に真っ黒な目って珍しいらしくて、王様直々にお言葉を頂いてしまった。
 そのせいで余計に私は緊張を強いられたんだけど。
 仮にも貴族だからか、王様から声をかけられたっていうのにアンリは飄々としてる。でも私は知ってるからね、婚約の報告した時にはちょっぴり表情が硬かったのを。さすがのアンリも王様に人生の一大事を報告するのは緊張したらしい。

 二人で壁際に寄ると、アンリが休憩用に置かれたカウチに座らせてくれた。

「飲み物いる?」
「欲しいかも」
「あいよ」

 アンリが近くを見渡して、どこかに歩いていく。
 その銀色の頭を追いかけていれば、アンリがボーイさんらしき人に声をかけた。
 トレイの上の飲み物を指さして、何事かを聞いてる。何を話してるんだろう?
 さすがに会話が聞こえる距離でもなく、その上何人もの人が視界を横切っていくから、どんなやりとりが交わされてるのかいまいち分かんない。
 ぼんやりとアンリを見ていれば、ふと私の目の前で足を止める人がいた。

「こんばんは、レディ」

 びくっと体が揺れた。
 一瞬だけ体が強ばったけど、私はつとめて平静を装う。

「ビュスコー子爵様」
「どうかグレンとお呼びください、ユカ嬢」

 この人も貴族だから当然夜会には出席してることを、今の今まで思い至らなかった自分が憎い。
 相変わらずハンサムな面立ちをしているビュスコー子爵……もといグレン様は、頬をゆるめると簡単な挨拶を交わしてくれた。

「まだ夜会は始まったばかりですよ。壁の花になるのは早すぎるのではありませんか?」
「そうでしょうか。このような場所は初めてなので、気後れしてしまっていて」
「それはそれは。退屈を持て余しているのでしたら、私がお相手してさしあげましょうか。こう見えて、ダンスは得意なのですよ」
「いえ……」

 まさかダンスに誘われるとは思ってなかった。
 どうしよう。私、踊れないんだけどな。
 一応ミリッツァ様からはダンスのレッスンも受けさせられたけれど、所詮は付け焼き刃で合格点には程遠かった。アンリならともかく、グレン様の足をヒールで踏み抜いちゃいけないでしょ。
 これは普通に断っても大丈夫なのかな。でもダミアン様のお知り合いだし、断るのは角が立つ?
 どう答えるのがベストか分からなくて、あいまいに微笑んでいれば。

「グレン殿?」
「おや、アンリ様」

 アンリがグラスを片手に戻ってくる。
 ほっと一息つくと、私を一瞥したアンリがグレン様と向き直った。

「ご無沙汰してます。お元気でしたか」
「ええ、変わりなく。アンリ様こそお元気そうで何よりです」

 知り合いのような軽い挨拶に、私は驚いた。

「アンリ、知り合いなの?」
「グレン殿は兄上のご友人なんだよ。だから知ってる。というかむしろユカの方が……って、ああ。そっか。宿泊地に子爵領が入ってたな」

 一人で納得したような顔をするアンリに、グレン様が不思議そうな顔をした。

「アンリ様こそ、ユカ嬢とお知り合いで?」
「ユカは僕の婚約者だ。シリル兄上から聞いていない?」
「なんと」

 グレン様が天を仰いだ。
 その上で、長々と息をつく。
 予想よりも大仰なオーバーリアクションに目を丸くしていれば、至極残念そうな顔でグレン様が私を見た。

「とても残念です。そうとは知らず、ファーストダンスを誘ってしまいました」
「な……っ」

 アンリがぎょっとしてこっちを見た。それからずずいと私に顔を近づける。

「ユカ、まさか受けていないよね?」
「えっ、なに」
「僕というものがありながら、ファーストダンスをグレン殿としようなんて、考えてないよね」

 アンリの目が剣呑すぎて、私は思わず背を反らしておののいてしまった。

「ちょっと、近い……」
「ユカ」
「まだ返事してないよ。受けるべきかどうか、分からなかったから」

 あんまりにも切羽詰まった様子で詰め寄ってくるものだから、私はびっくりする。
 気軽にイエスと言わなくて良かった。

「ファーストダンスって何? 踊るのにもルールがあるの?」
「そうだよ。基本的に一番最初に踊るのは家族か婚約者だ。ファーストダンスを誘うってのは婚約の申込みや婚約者候補への立候補って見られる場合がある」
「婚約の申込み……」

 思わずグレン様を見てしまった。
 視線が合ったその人は爽やかな笑顔で笑いかけてくる。

「もしかしたら一目惚れだったのかもしれません。一目見た時から、貴女へのとめどない興味と関心が惹かれてしまいましたから。ですが婚約者がいるのであれば、ましてやそれが親友の弟君であるのなら、私は引くしかありませんね」
「グレン様」
「何より貴女の表情が柔らかい。これを見ていて横恋慕できるほど、私は図太くありませんよ」

 そう軽口を叩くと、グレン様は黙礼して去って行く。人の集まるところへと向かって行ったグレン様の背中を追いかけていると、黒髪の紳士に声をかけられたところで視界が遮られた。
 遮ったのはもちろんアンリだ。
 持っていたグラスをずいっと渡されたので、大人しく受け取る。

「まったく油断も隙もないないな。うちのお姫様は」
「なんで拗ねてるの」
「拗ねてないし」

 いや絶対に拗ねてるでしょ。私の隣に座ってくれたのに、目を合わせてくれないもの。

「グレン様はちょっと物珍しかっただけだよ。そんな言うほど、本気じゃないって」
「どうだか」
「それにダンスに誘われはしたけど、結局私は断ってたと思う。あんまり知らない人と密着するのは、なんか嫌」

 グレン様とはたった数日前に少しだけお世話になっただけの間柄。それも私個人との繋がりはなくて、そのうち忘れられていくだけの関係だったはず。
 そんな人と密着してダンスを踊るなんて、ハードルが高すぎる。
 たぶん身体が持たない。かっこいいけど、男らしい体格や顔つきは未だに苦手意識があった。また発作を起こさないとも限らない。

 なんかこうして考えてみると、アンリと出会えたのって本当に奇跡だったのかもしれない。
 本人に言ったら拗ねるだろうから言わないけれど、男らしさってそんなには感じなくて、でもたまに男の子なんだって思うときはあって、私はそれを受け入れられる。
 それってすごく、大きなことだと思う。

 そんなことを思いながらグラスに口づければ、アンリがようやく私の方へと視線を向けてくれた。

「じゃあ、僕とダンスを踊ってくれるかい?」
「今日は無理。まだ全然ダンス覚えれてないから」
「うまくリードするからさ」
「やめてよ。恥かかせないで」

 ぽんぽんっと言葉のキャッチボール。
 ホールの中央でくるくると風車のようにドレスの裾をなびかせて踊る人たちを見ながら、踊る、踊らないの押し問答をする。
 そんな私とアンリの落とし所は。

「練習付き合って。そうしたら、次の夜会には一緒に踊ってあげるから」
「マジで?」
「もちろん」

 アンリの表情が輝く。
 私の好きなお日様の笑顔に、結局私はほだされちゃう。

「約束だ」
「約束だよ」

 小指をからめたおまじない。
 ドレスを着ても、こんなおまじないをしてしまう私は、やっぱり子供なのかもしれない。
 年相応になりたいと思っても、なかなか難しいものなんだなって思った。

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