ヘンテコ魔法使いの非日常

KEFY

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変態のトリックスター 編

スピードスター&トリックスター その①

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 音速のパンツ強盗から、パンツを盗られた——。
 全く親和性のないワードの組み合わせに、状況の理解さえ追いつかないのだが、一つだけわかることがあった。
 それは、人間を超える力をもった人間が、この街にまた現れた、ということを示していた。

「……えーっと、あのー……強盗なんですよね?」
 異様な沈黙をゲツが破った。リランが彼の方を向いた。
「コソ泥とか、盗撮とかじゃなくて……歩いている女の子から、ぶんどっていったってことですよね?」
「どうもそうらしいですよ、ゲツ君」
 リランは真面目な顔で答える。

「歩いている女の子に後ろから猛スピードで近付き、スカートの中に手を伸ばし、パンツをぶんどっていく、っていうことらしいです」
 リランはラインのトーク欄を見ながら答えた。また、彼女はこう続けた。

「驚くべきはそのスピードで、嘘や誇張なしで、で奪い去っていくらしいんです。この学生さんも被害者ですが、車が隣を通り抜けていく事と同じくらい自然で、マジシャンの瞬間移動のように一瞬の出来事だったようです」
 
 呆れた顔をしていたアギハが、ここで口を開いた。
「魔法使いであることは、もうほぼ間違いないだろうな」
 さらに顔を歪ませながら、アギハは続けた。
「あと、その犯人はクソ変態野郎ってこともわかったな。マジでキモいヤバい奴だってことが……」
 アギハは本気で気持ち悪がっている。その奪ったパンツを、一体何に使っているのかを想像してしまったからだ。
「ですね、この犯人には……私たちは近寄りたくないですね……」
 リランは眉間にシワを寄せながら言った。



----------



「犯人は10番通りを歩く、スカートを履いた女性をターゲットにしています。そのため、犯人をおびき出すには……」
「私達が囮になるのか」
「そうですね、それしかないでしょう」

 三人は作戦本部を出て、10番通りへと向かっていた。
「正直こんなの気乗りしませんが、これしかないでしょう。なので……」
 女性陣2人は、後方のエナジードリンクを手に持って歩く少年を見た。
「出てきたらそいつをすぐにとっ捕まえてくださいね」
「う……わ、わかりました……」
 ゲツはおずおずと頷いた。


 しばらく歩いて、10番通りに到着した。時刻は午後3時、まだまだ暑く日差しが照りつけている。
 道幅が広く、殺風景な一直線が続いていた。
「ここで強盗があったのか……スリとかって、もっと入り組んだ住宅街とか、人でごった返した街中とかでやるもんじゃなかったっけ?」
 ゲツの言葉に、アギハが返した。
「あえてここでやっているのは、何か理由があるんだろう。犯人が持つ魔法に関連する理由がな」

 この10番通りは、駅が遠く、バスも走っておらず、通りの住人は歩道などを歩きたがらないため、ここらはあまり人が歩いていない。しかし、車の量はそこそこあるので、完全に人気がない、という感じではない。



「一体どうやって盗っているんんだろうな」
 通りを歩き始めて、しばらくしてアギハはリランに話しかけた。
「肩にかけたバックや頭にかぶる帽子なら、よくあるスクーターなんかでパッと取っていくことができるだろうって思うけど」
 リランはアギハの顔を見て答えた。
「私にもわかりませんね。下着の上には上着がありますから、どうやってもそこまで手が届きませんし、そもそも履いているものをどうやって盗むのかっていう話ですよ」
「そうだよなぁ……」
 そう言って黙って考え始めたアギハに、リランが声をかけた。

「私が思うに、この犯人の『ガジェット』は、足に付いているものだと思います」
 アギハは考えるのをやめ、リランの方を見た。
「足?」
 リランに向かってアギハはこう言った。
「ガジェットって、魔法を使うと出てくる『魔法の本体』みたいなもんでしょ?なんでそれが足なのよ?」
「そうです。この事件は——」
 リランは続けた。

「パンツを奪った方法については、正直私達では想像するのが非常に難しいです。なので、私達が考えるべき事は、奪った方法ではなく、奪うまでの行動、奪ったあとの行動ではないでしょうか」
「……なんでそれを考えると、足にガジェットがくっついているって考えられるの?」
 アギハはリランに質問した。リランが答える。
「音もせず近づく、というところが引っかかってまして」
 リランは前をちらっと見た。10番通りはそこそこの長さがあるので、一回通りを抜けるのには時間がかかる。

「これは足に何かないとできない事だと思うのです。靴下を履くと足音が若干小さくなる事と同じように、静音性の高い……何か靴のようなガジェットではないか、と見ています」
 リランはまだ続ける。
「それですばやく近づいていき、魔法を使ってパンツを手に入れた後、すばやく去る、というプロセスで、犯行をしているのではないでしょうか」
 それを聞いてアギハは「なるほど」と頷いた。

「でも、そんな犯罪で使いまくれる能力なのに、何で犯人は下着ドロなんかに使っているんだろうな」
「それは犯人が変態だからでしょう……知りませんが」






「……もうダメじゃないっすかぁ?」
 全身を鱗に覆われた少年は、前を歩く2人に言った。
「もう4時間経つんですよ~、もう7時ですよ……。俺は帰って、速くイベントがやりたいですよ~……」
「お前な……お前ほんとに….」
 アギハは何か言いかけたが、リランがそれに被せて言ってきた。

「……うん、実は私もそうしようと思ってました」
「えっ!?」
 アギハはリランの方をバッと見て言った。
「おい、いいのかよ?」
「いいでしょう、もう。私も疲れました……」

「いいのかよ?」
 アギハは不満な様子だ。
「このままじゃ、被害が広がってしまうぞ!」
 リランがアギハを見て答えた。
「私に連絡をくれた女の子がパンツを奪われた時刻は、午後5時あたりなんです。下校中に襲われたんですね」
「いや、でもまだここにいるべきだ!」
 アギハはまだ食い下がっている。

「……アギハ、私達は……この10番通りを何往復しましたか?」
「え?」
「確か6往復ぐらいしたんじゃないかな?」
 ゲツが答えた。アギハがゲツの方を。
「そうです。なので……」

「今は私達の方が不審者ですね」







「私はまだ諦めてないぞ……」
 リランとゲツは先に帰ってしまったが、アギハはまだ10番通りを往復していた。
(人の持つものを盗みまくれる能力ってのは危険だ……人間の害になる!)
 アギハは周囲を睨みつけながら歩いていた。
(ぜっっったい見つけて……)
 アギハは後方を見た。人影はない。
(……懲らしめてやる!)



----------



「ようやく1人になったな……マフラー少女が……」
 物陰に隠れて、その少女には見えない位置にいる少年が呟いた。
「ふぅひひひひ……君たちが僕を探していたのは知ってるよ……僕はずっと見てたからね……」
 少年は吐息と混ざりあった笑い声を出した。
「“設定”も練ることができたんだ……素晴らしく良い“設定”が……出来上がったんだ……」
 少年は手に持っているB6のノートを開いて言った。そのノートにはびっしりと文字が敷き詰められている。

 少年は10番通りに出て、少女の方を凝視した。
「準備はできた……あとは実行だけ……ふぅぅはぁ、ああ……」
 そう言って少年は小さくジャンプした。彼の足の裏に、が出現した。
「楽しみだ……楽しみで仕方がない!」
 足に出現した車輪から、樹脂製のような素材が足を覆っていく。
 やがてその樹脂は、ヒザ下までせり上がって止まった。


 少年は姿勢を低くし、腕を地面につけた。さながら陸上のスターティングポーズのようだったが、足の靴がそのポーズには全くのミスマッチであった。

「いくぞ!」

 少年は標的に向かって、より力強くロケットスタートを切った。




続く
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