ヘンテコ魔法使いの非日常

KEFY

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変態のトリックスター 編

スピードスター&トリックスター その③

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 加速する少年とゲツが衝突した。


「ぎいいぃぃぃぃ!!」
「むああああああ!!」


 かなりの速度だったので、ゲツは後ろにズルズルズルと滑っていく。しかし——


「ああああとまるぅぅぅぅ! くっそこのバケモンめ!離しやがれぇえ!!」

 前のめりの姿勢をキープしたまま、足を広げ、大きな力でその少年を押さえつける。

「な、なんてパワーなんだ……! 靴から煙が出てる!」
(フルスロットルなのに……この男マジでどうなってやがるんだ!)

 タイヤのスキール音のような音が、閑静な10番通りに響く。

 そしてその音が止まった時には、もう動いているものは誰もいなかった。



「お前が犯人か! パンツ強盗事件をやったのはお前だな!?」
 静止した少年の肩を掴んて自分から離しながら、ゲツは問いかけた。
「うおおお離せよ! こんのっ……びくともしねぇ!」
 少年はその問いかけを無視して、体を捻って脱出を試みている。
「あ、暴れんな! もう大人しくしてろよ!」
 少年がどんなに暴れても、ゲツが少年を離すことはなかった。

「ううううぅぅぅ、くっそおぉぉぉ……」
 少年の力が弱まり、悔しそうな声を出した。
「最高のものを見つけたのに……俺の……欲しいものが……」
 少年のその言葉に、ゲツはこう返した。
「いやもうパンツ集めなんてやめなよ! もっといい趣味あるって、絶対! ほら、それ返してやりな!」


 ゲツは普通の男子であるので、パンツ集めをするこの少年の気持ちがわからなかった。いや、わかる人の方が少ないだろう。

「……は?」

 しかし——この少年にとってそれとは、初めて『心から』欲しいと思ったものであったのだ。



##########



 この少年の名はミズという。年齢は16歳、ゲツたちとは違う学校へ通っている。

 少年の両親は非常に厳格であり、自分の息子に幼い頃から勉強することを強いてきた。
 その結果、彼は県内でも指折りの進学校へ入学できたのだが、同時に彼自身の感情を押し殺してしまうこととなった。

 彼は『欲』を厳しく制限されていた。彼が欲しいと思ったものは、勉強や文房具以外で、これまで一つも貰えた事がない。
 小遣いなども貰えないので、どこかの店で何かを買うなんてことはできない。
 祖父母からのお年玉は全て両親の管理する口座に振り込まれた。


 そんな彼に、ある『欲しい』と思えるものができた。
 それは女性の下着であった。

 またどうして女性の下着なのか、というのは、あまりここに書けたものではないので詳しくは言わないが——彼は何処かでその下着を目撃してしまったのだ。

 その目撃は、彼の中で様々な感覚が大爆発したのかのような衝撃を、抑圧されてきた少年に与えた。

 それは今までになく、少年を熱中させた。女子更衣室の中にあった下着を目に焼き付けることから始まり、それがだんだんとエスカレートしていった。
 ベランダに干してあるものを盗ったり、階段で姿勢を低くしながら歩いたり、などとしているうちに、それだけではもう飽きがきてしまった。

 彼はこのころから道を歩く一般の女性の尻を凝視して、下着のラインを見つけるような行為をしだした。それは『今履いているものが欲しい』という願望からくる行動だった。彼はまた、欲しいものが手に入らなくなった。

 彼はこれに激しく動揺した。人は再度抑圧された環境に入ると、解放された自分に戻りたいといった感情が最初の抑圧よりも増幅する。そのため、最初の時よりも苦しむ事になるのだ。

 彼はその抑圧に苦しんだ。どうしようもないこの欲求を必死に押さえ込んだ。彼には絶対にできない、いや彼でなくても、履いている下着を強奪することなんて、おおよそできるものではないだろう。
 やがて、彼は自分の中から下着に対する思いが、消え去っていくのを感じた。


 その時だった。

 彼の足に突如として靴が出現した。


 最初は驚いていたが、少年はこの靴の特性を理解した時、こう思った。

 ああ、僕はまた、欲しいものを手に入れられる、と。



##########



「これを……これを渡すものか! 僕の唯一の欲求であるこのパンツを返すと思うのか!!」
 下着ドロの少年——ミズは、自身の肩を掴んでいるゲツに向かって叫んだ。
「へっ!? え? どういうことだよ!?」
 ゲツはミズの言っていることがあまりよくわからない。ミズはそのゲツの言葉を無視して続ける。
「この力は僕の希望だ! 僕は欲しいものを、なんだって手に入れられる!」
「……?」
 ミズは片足を上げ、蹴り飛ばすような勢いでゲツの腹に車輪をくっつけた。
「お前なんかに、邪魔されたくないんだよぅあああぁ!!」
「ぅえあっ!?」

 車輪が勢いよく回り出した。
 ゲツの腹にあったその右足は、凄まじい速度で上昇し——

「ごふぅぅ!」

 ——ゲツの顎に直撃した!


 ゲツの頭が斜め後方に飛んでいき、それに伴って体も一緒にぶっ飛んでいく。

「……これは……マジで……ダメなやつ……」

 ミズが宙返りをして、蹴り上げた足を地面につけ着地した頃には、すでにゲツは地面に横たわっていた。



(ローラーの加速を使った蹴りだと……アイツは大丈夫か!?)
 アギハは一瞬そう考えたが、蹴りを放った少年がゆっくりと立ち上がったので、その思考は遮断された。
「動くな!」
 アギハは2人の気づかぬ間に、2人に接近していたのだ。

「……そういえば、あと1人、お仲間はいるんだよね……君の……スレンダーなお仲間が……」
「……」
 ミズはこちらを振り向かず喋っている。
「彼女も、来てくれるのかい……?」

 アギハは答えた。
「知るか。お前はここで——」
 アギハは語気を強めて言い放った。



「私に、何か用ですか?」


 そのスレンダーなお仲間は、いつの間にか彼女の隣に立っていた。
「……お前、いつの間に——」
「あなたは、私の下着も狙っているのですか?」
 アギハを無視してリランは質問した。

「……今、後ろにいるのが、その人で間違いないんだね?」
 ミズは落ち着いている。
「はい、そうです。あと私はちゃんと下着を履いていますよ」
「そう、そうか……いやよかった……」

「僕の設定をフルに活かせるんだ……これほど嬉しいことはないよ……」
 ミズはこちらを見ようとしない。
「それはよかったですね」

 リランはアギハの前に出た。
「でも私はあなたを止めに来たので、私のものをそう簡単に渡すわけにはいきませんね」

「……」
 ミズは沈黙した。

「……ここは私に任せておいて下さい」
 リランはミズに背を向け、アギハに囁いた。
「なぜ?」
「どうやって盗んでいるのかわかったからです。今からそれを間近で確認しようと思います」

 アギハは呆れた顔をした。
「わかった……どうせお前がパンツ取られるだけだし、いざとなったら——」
 銃の向きを変えながら言ったあと、アギハはこう続けた。
「でも前ぐらい向きなよ」



 銃口はリランの後ろから伸びてきた手に向けられていた。



続く
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