ヘンテコ魔法使いの非日常

KEFY

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変態のトリックスター 編

スピードスター&トリックスター その④

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(後ろを向いている! 取れる!!)


「……!」


 ——背後で会話が聞こえ始めてから20秒ほど経っていたその時。

 ミズが左足のローラーだけを高速回転させ、その足を若干外に向けることで股を広げることができた。
 そして、それによって必然的に姿勢が低くなった。

 リランが気がついた時には、すでに強盗の手はリランの腰の真隣にあったのだ!


(速い……もう弾は間に合わないか!)

 アギハは銃口を向ける動作だけで、弾を撃つ時間がなくなってしまった。それほどの短時間であった。



 しかし——



「……ふふっ」



 ——もう銃を発砲する必要はなかった。



『『『ガコォン』』』


「いっ!?」


 とんでもない勢いで飛んできた手は、リランの腰に弾かれた。

(な……何だ!? 何が起こったんだ!?)



 この時のミズの左足は内側を向いていた。このまま下着を奪って、姿勢を直して2人から逃げようと思っていたのだ。
 考えられるミスのカバー方法も考えていたのだろうが、そもそも「奪えない」というのは、能力を過信していた彼にとって、完全に盲点であった。

(まさかこれが……この娘の……)



 ミスに気づいた、その一瞬。
 彼は頭に降ってくる肘に気がついていなかった。



「はっ!」



『『『バキィィィ』』』



 ミズの頭にリランの肘がクリーンヒットした。

「がっ……」




 骨と骨が打ち合ったとは思えない、鈍い音がなった。




----------




「……で、コイツの魔法ってのは『スカートとか人体とかをすり抜けて、下着だけを奪って去る』っていうヤツなんだな?」
 アギハがリランに聞いた。
「そうです。ちょうどアギハがパンツ盗られるとこを目撃したもんですから」
「お前見てたのかよ!」
「はい。柄までバッチリと!」

「いててて……あれ? この人、もうのびちゃってるじゃん」
 起き上がったゲツは、気絶して倒れている少年を見つけ言った。
「2人がやってくれたのかな……うーん、なんか不甲斐ないな~」

 女子2人で話していた横に、アゴを強打したゲツがやってきた。
「ああ、ゲツくん。アゴは大丈夫ですか?」
「うん……まぁ、思ってたよりは痛くない、ですかね……」
 アゴを人差し指でゆっくりなでながらそう言うと、リランがゲツの顔を覗き込んできた。
「どれどれ……あー腫れてますね、治しておきましょうか」
 リランはゲツのアゴを見て「これを貼っておきなさい」とどこからか取り出した、細長いものを差し出してきた。

「えっ?」
 それはバンソウコウだった。
「これただのバンソウコウじゃないですか!?」
 驚いたゲツに、リランは「ふふっ」と笑った。
「まあ確かにバンソウコウだけど、ただのバンソウコウじゃないですよ、それは」
「そうなんですか?」
「まあ貼ってみなさいな」
「うーん……?」

 言われるがままに、ゲツはバンソウコウをアゴの下部分に貼った。
「これでいいんですかね? 病院とか行かなくて大丈夫なんですか?」
「はい、大丈夫です。……って、ふふ、病院怖いんですか?」
 リランはニッコリと笑った。



「大丈夫ですかー? 起きてくださーい!」
 リランが少年の体を揺すって言った。
「あなたも然るべき報いを受けてもらいますよー」
 と言うと、少年はゆっくりと目をを開けた。
「……? あれ、なんだ、どうなってんだ……?」
「あ! やっと起きましたね」

「うっ……頭いってぇ……ん?」
 少年がズキンとした頭を押さえた時、髪の毛ではないモノが頭についているのを感じた。
「なんだこれ?」
「包帯ですよー。あなた相当デカいたんこぶできてますからね……まあ私が殴ったからですけど」
 そう言われて、少年は自分の頭を撫で回した。確かに、頭におかしなコブが出来ている。コブに触れるたび、ピリッっと痛むのを感じた。
「……この包帯は、あなたがやってくれたんですか?」
「はい! あ、この包帯は特別製でしてね~」


 少年は、リランの包帯の説明なぞ耳にも入っていなかった。
 彼の頭は、もう欲しいものは手に入らないのか、という失望で満たされていた。
(僕はまた……失った……)
 少年はここ数週間の非常に楽しかった日々を思い出していた。もうあの頃には戻れないのだろうか。もう欲しいものなど、なくなってしまうのだろうか……
(僕は……戻るのか……元の自分に……)
 また抑圧された生活に戻る——それは決められたことなのだろうか。
(そうなのかもな……これは、運命なのかも……)

「……おーい、なんか目がうつろになってますよ! 帰ってきてください!」
「……ん」
 少年は彼女にそう言われて、思考を一旦やめた。
 頭が痛いので、ゆっくり彼女の方に顔を向けた。
「何か、言いたい事でもあるんですか?」
 彼女が聞いてきた。
「……はい」
 少年は顔を彼女に向けていた顔を、上空に向けた。

「僕はずっと抑圧されてきました……厳しい両親に、欲しいものなんて買ってもらえなかったんです」
 少年は小さな声で続ける。
「でもこの靴……この力のおかげで、僕は解放されました。欲しいものが手に入るって」
 少年がだんだんと細くなっていく。
「でも……やはり、間違えてしまったんですね」
 そう言うと少年の口角だけが、少しつり上がった。

「抑圧された分、制御が効かなくなって……こんなことになって……僕は、どうすればいいのでしょうか」

 少年の顔は、諦めたような笑顔になっていた。

「じゃあ、新しい欲しいものを探しましょうか」
 リランは少年の目を、しっかりと見て答えた。
「新しい……欲しいもの?」
「そうです。私も手伝いますよ!」
 少年も彼女の目を見た。

「そんな……僕にはもうこれしか……」
 そう言いかけたその時。


「大丈夫です。あなたの欲しいものは、きっと見つかります!」


 彼女の優しい笑みが、彼の目に飛び込んできた。


「……」
「私もあなたと一緒に、考えますから! だからもうパンツ泥棒なんてやめましょうね」
「……」
「……ん、あれ? どうしたんですか?」

 少年は、前に受けた、ある懐かしい感覚を思い出した。

「いや……もう大丈夫です。僕は欲しいものを見つけました」
 少年は、先程の笑顔とは違う、スッキリとした顔で言った。

「え、何ですか? それって」
 リランが少し驚きながら、少年に聞いた。

「それは——」



「僕は、あなたが欲しいです」




 ——少年は、かつてない満足感に、心を洗われていた。救われた、とも感じた。

 元の生活に戻ることは、彼の運命ではなかったのだ。



「……えっ」




続く
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