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二話 扉
しおりを挟む私はポーカーフェイスだ。
以前、小学生の頃だった。同じクラスの中に口や目、癖などから感情を読み取ることが得意な友達がいた。
「優里ちゃんって、感情ないの?」
記憶の底にしまってあった言葉は中学三年生になってもう一度言われることで思い出すことになった。中学になっての二度目のその言葉は一回目の何倍も重いものだった。感情はもちろんある、でも、それを表現出来ないくらいの絶望にいた。
「そんなのあんた達には分かんないでしょ。」
吐き捨てるように小さい声で言った言葉は彼女等には届かない。
「本当に黙ってるばっかでキモいよね。」
「ねえ、ねえって。」
暗い記憶の整理を断ち切ったのは私を呼ぶ少し高めの二つの声だった。
悪い癖だ。最近は話しかけられることが無かったから人に話しかけられるという概念が薄れていて、ここ二日話しかけてもらえても毎回こうなってしまう。
顔を上げると二人の女子がいる。いじめには、無関係という関係で関わっていた二人。
「あ、ごめん、どうしたの?」
「今まで、何も出来なくてごめんね。これからは友達として話したりしてもいいかな…?」
すぐには答えられなかった。
意外と何とも関わらないのは簡単だ。
人間に関わらなければ問題が起こることもない。問題が起こらなければ悲しさや寂しさを覚えることもない。いじめはそんな場所を強制的に作る機械と同意義だ。”関わらない”世界の殻を破るのは自分だ。例え外からノックされても暖められても、最後に殻を破るのは自分。
そのノックが、たった今されている。
トントン、トントン。
私の心はノックの音で高鳴る。
心の中では決まっているのに、言葉に出すのが怖い。このままでは前と同じだ。
ふと、目が合ったのは尾海君。
その笑顔が私をドアの前まで押しやる。
「うん、ありがとう、こちらこそお願いします。」
「はは、なんで敬語なの!」
「そう、だよね、ははっ」
普通の笑い声に自分が混ざってることに涙がふと零れる。
「ちょ、泣くほど面白くないよ!」
「面白いんですー!」
「次移動だよね?行こっ!」
「うんっ!」
その日からの非日常はとめどなく流れていった。親からも最近元気ね、と言われるくらい明るくなった。
毎日が楽しくて、悩むものはテストや遅刻くらいになって、日常を日常と言える様になった。
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