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第53話 聖水量産
しおりを挟む「聖水を作るために宿を確保しています」
「えっ!?」
「もしかして貴女は、聖水の作り方を知っているのか?」
フリーダの言葉でルークスが察した。当然彼も聖水の作り方を知らないが、セリシアが聖水を作る時はいつも宿に泊まっている時だというのは気づいていた。
「私はこれでも世界有数の大商人です。聖水の作り方くらい把握しております」
本当のことを言うと、フリーダの情報網をもってしても聖水の作り方は知ることはできなかった。それだけ聖水の製法は厳重に秘匿されていたのだ。大精霊シルフが家族になったから知ることができた。
「もちろんそれを他言するつもりはございませんので、ご安心ください」
「あ、ありがとうございます」
セリシアが礼を言うが、フリーダ的には礼を言われる筋合いなどない。情報を隠すのが自分たちのためになるから当然のことだった。聖水の作り方を独占できれば、今後も商材としての聖水を手に入れられる。そして何よりケイトが支援したいと言っている勇者パーティーの邪魔になるようなことをフリーダがするはずない。
「見た所他の皆様はだいぶお疲れの様子。聖女様に作業していただく所とは別になりますが、高級宿を確保しております。本日はそちらでゆっくりとお休みください」
「ありがたい申し出だが、セリシアが頑張っているのに俺たちだけ休むなんてできない」
「ルークスさん、私は大丈夫です! 聖水を作るのって、時間さえかければそんなに大変じゃありません。それに前回の戦闘で私はほとんどお役に立てませんでした。だからここで頑張りたいんです」
すべてがフリーダの思い通りに進んでいた。
彼女と勇者パーティーがいるのは獣人の街。街の規模としては比較的大きく、人族が泊まれる高級宿なども存在する。ここにくる直前、勇者パーティーはダークウルフという魔物の群れと戦闘していた。その戦闘はセリシアが補助魔法や回復魔法を使うことなく終了していた。久しぶりの快勝だった。セリシアがたいして仕事もしなかったということを除けば、特に問題ない戦闘だったのだ。
元より勇者のためになることであれば努力を惜しまないセリシアが、直近の戦闘で自らの役目を果たせなかったことを気にしていた。そんなところに現れた女商人は、聖女である自分にしか果たせない仕事をくれた。セリシアが頑張ろうと思うような状況になっていた。
それすらもフリーダの思惑通り。
先の戦闘で聖女が活躍できなかったのは、フリーダの指示でケイトがこっそり戦闘に参加していたからだ。ケイトは収納魔法の千里眼で勇者パーティーが魔物と戦闘する様子を見ながら、聖女が回復魔法を使わなくて良いように遠隔でサポートしていた。
収納魔法で魔物の攻撃を逸らし、収納魔法で魔物に隙を作り、収納魔法でまだ息のある魔物に止めを刺した。
勇者パーティーに在籍していた時、ケイトは戦闘の渦中に身を置きながら全く同じことを行っていた。遠隔とは言え、第三者視点から戦闘の全体像を見ながらサポートすることなど彼には造作もない。
全てがなるべくしてなっている。
この計画を立てたのはフリーダだ。
交渉役としてケイトがいたときは、どれだけ準備してもここまで思い通りに交渉が進むことはなかった。若干の張り合いのなさにフリーダが少し気を落とすが、計画が全て上手くいけば夫も褒めてくれるだろうと思いなおした。
「それではセリシア様、私について来てください」
「はい!」
──***──
「す、すごい……」
これまで泊ったことのない高級宿の内装に、セリシアが息を漏らして見惚れていた。
「ここには三日間、宿泊可能です」
「三日も!?」
「えぇ。ちなみに私たちが必要とする量の聖水を例えば一日で作っていただけたら、残りの二日間は何の仕事もせず、こちらでお休みいただいて構いません。勇者様たちがお泊りの宿もここと近いクオリティの宿となっておりますので、そちらに移動していただいても大丈夫ですよ」
かつて受けたことのない好待遇に、聖女は思わず頬を緩ませた。しかしすぐに気を引き締める。これだけ良い条件で自分を迎えてくれるのであれば、きっと必要とされる聖水の量がとんでもなく多いのだろう。セリシアはそう考えた。
「私、頑張ります! 作らなきゃいけない聖水って、どれくらいですか?」
「あちらにあるお風呂五杯分ほどいただきたいのですが……。魔力的に可能ですか? 必要でしたら高品質の魔力回復薬もございます」
フリーダが部屋の奥にある浴槽を指さした。
十人ほどは入れそうな大浴槽。そこには人が浸かるのに適温なお湯が並々と入れられている。
「さすがに五杯は、厳しいですよね」
「五回分だけで良いんですか?」
「……え?」
予想外の回答にフリーダが動揺する。
「あれくらいの量を五回だけなら、夕飯までには終わっちゃいますよ」
聖女セリシアは、小さな泉くらいの水量を僅か数時間で聖水にしてみせるほどの強力な聖魔力の持ち主だった。
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