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第2章 水の研究者、魔族と戦う
第54話 水の研究者 vs 水の魔族
しおりを挟む「お、俺の目がおかしくなっちまったのか? 水魔法使いが、雷魔法使いを倒しちまった……。これ、夢じゃねーよな」
「だから言ったニャ。ウチのトールは最強だってニャ」
ミーナが褒めてくれて嬉しい。でも今はそんなことより、さっきの戦闘音を聞いた他の奴らがここへ向かってきている。すぐに逃げなきゃいけない。
「ふたりとも、逃げますよー!」
「に、逃げるったって、ここの出入り口は一か所しか──」
「水よ、分離して 浸透し 揺れ動け」
雷魔法使いの血を使って地下牢の床に水を浸透させ、それを震わせた。特定の場所だけ震わせたことにより、石床の一部が崩落する。
「え、えぇぇぇぇええええ!? ゆ、床が、抜けやがった」
「ここ、下水道の間上なんです。少し匂いますが、ここから逃げます」
頑張ればこの屋敷にいる全員を倒せなくはないけど、命を奪おうと襲ってきてもない奴らを一方的に殺してしまうのも気が引ける。だから下水道を通って逃げることにした。嗅覚の良いミーナには申し訳ない。
と思っていたら、彼女はいつの間にか布で口と鼻を覆っていた。“行けるニャ”と言わんばかりにOKのハンドサインを見せてくる。
「で、でも、すぐ追いつかれるんじゃねーか? 下水は魔導都市全域に張り巡らされてるもんじゃねぇ。いくつかの貴族の屋敷を繋いで外界に流れるほぼ一本道だぞ」
「水よ、障壁となれ」
厚さ3メートルくらいの水の壁で地下牢まで続く通路を塞いだ。
「これで時間が稼げるでしょう。この地下牢までこれなければ、下水から逃げたってのもしばらくは気付かれないはず」
「こ、これだけの水量を……。お前さん相当規格外な魔法使いだな」
「あと、雑菌いっぱいの下水道を通るので、身体に傷があるとヤバいです。だからこれを飲んでください」
「なんだこれ、治療薬の一種か? こんな綺麗なもん、見たことねーが」
そう言いながらもガロンヌさんは俺が渡した小瓶の中身を飲み切ってくれた。
「恩人の指示だから中身も聞かずに飲んだが、なんだったん──って、おぉぉぉおおお! なんじゃこりゃ!? 傷が、全部消えたぞ! あと身体が軽い!!」
「世界樹から貰ったエリクサーです。上級治療薬だと傷が完全に消えるまでに時間がかかるので」
「エリクサー!? お、俺なんかのために、そんな貴重なものを」
俺の杖を作ってもらう大切な職人さんですからね。このくらいのことはしますよ。エリクサーは世界樹に頼めば、またくれるだろうし。ガロンヌさんに恩を売っておけば、頑張って良いもの作ってくれるだろうって打算もある。
「敵が何人か俺の水に触れ始めています。そろそろ逃げますよ!」
──***──
その後、俺たちは無事に貴族の屋敷から逃げ出した。
そして騒ぎが大きくなる前に水と氷魔法の応用で宙に浮かび、城壁を超えて魔導都市から脱出することに成功した。
「まさかこの俺が空を飛べるとは。貴重な体験をさせてもらった」
「馬まで飛ばしちゃうとは思わなかったニャ」
荷物も移動用の馬も。すべてを飛ばして一気に脱出していた。
「俺とミーナをここまで連れて来てくれた優秀なこの子たちを置いていくわけにはいかないからね」
ここまでは良かった。
かなり魔力を消費して逃げたが、水魔法は音も光も発生させない。目視できる位置にいなければ膨大な魔力が放出されていても、遠くからではまず気付かれない。だからヒトにはバレずに逃げることができた。
──そう。
ヒトにはバレなかった。
「先ほどの強力な魔力反応。お前たちか?」
馬を走らせ逃げる俺たちの前に、ひとりの男が立ちふさがった。
彼の額には青く綺麗な角が生えている。瞳と髪は青みがかっていて、耳はエルフと人族の中間ぐらいの長さに尖がっていた。
魔力量は今の俺より多い。
コイツ、魔族だ。
「トール。こいつなんかヤバい気がするニャ」
「な、なんだ? 震えが止まらねぇ」
ミーナも目の前の男が只者ではないと気付いた様子。ガロンヌさんは魔族が放つ殺気を含んだ魔力にあてられたようで、俺の背後で身体を小刻みに震わせていた。
「ミーナ、ガロンヌさんを守って」
馬から降り、前に出る。
「……お前、魔法使いだな。人族にしては魔力量が多いが」
「貴方は魔族ですね?」
「確かに俺は魔族だ。しかしお前、どうして俺たちのことを知っている?」
「ま、魔族!?」
「これが、魔族かニャ」
背後のふたりの声には恐怖と絶望が混じっていた。
「別の魔族に会ったことがあるんですよ」
「ほぅ。俺と別の魔族に会ったのに、どうしてお前は生きている? ヒトを殺さず見逃すような変わり者、俺が知る限るいないぞ」
見逃してもらったわけじゃないからな。魔族を倒して、俺は今ここにいる。
「お前に興味が湧いた。お前の名は? どんな魔族に会った?」
「トールと言います。俺が会ったのは、雷を使う魔族さんでした」
もしかしたらコイツがヒトと友好的なタイプの変わり者の魔族かもしれないという可能性を信じて、丁寧に答えておいた。
でも何かが地雷だったようだ。
「雷の……。では、まさかお前が?」
魔族から発せられる殺気が強くなる。
「雷を使う魔族はゼオルのみ。奴が遭遇した人族を見逃すなど絶対にない! そして奴は消滅した。俺は嫌いな奴だったが……。それでも、同胞を殺した者は許さん! 貴様、異世界から来た勇者だな!?」
「ち、違います!」
俺は勇者ではないです。
異世界から来たけども。
巻き込まれただけです!
なんて言い訳が通用する感じではなかった。
「貴様が勇者でなくとも構わん。それだけの魔力量。ゼオルと遭遇して生きていること。このふたつだけで、俺がお前を殺す理由になる。水よ!」
魔族の周囲に大量の水が集まってきた。
コイツ、水魔法が使える魔族か!
「これだけの水量を扱える水魔法を見るのは初めてか? これが我ら、魔族の力だ! さぁ、恐怖せよ!!」
魔族はすごく良い笑顔だった。俺が驚いているのを見て、喜んでいる様子。
でも俺はこの魔族が小物に思えた。魔力量は確かに多いが、言動からしてこいつが弱いんじゃないかと思い始めていた。
なんとなくだけど、魔族が集めた水を奪えるんじゃないか。そう思ってしまった。
試してみよう。
魔力を放出し、魔族が集めた水を覆う。そしてその水から魔族の魔力を追いやるイメージで、俺の魔力を侵透させる。
……よし、いけそうだ。
「水よ、舞え」
魔族の周囲に滞空していた水がこちらに飛んできて、俺の周囲をふわふわと旋回し始めた。
「えっ」
何が起きたのか、理解できない様子の魔族。
俺は他人が魔法で集めた水でも奪えるってことが分かった。
「あ、えっ。なんで? なんで俺の水が? えっ?」
魔族が集めてくれた水は、これまで俺が操作してきたどんな水より俺の意志が反映されていた。とてもスムーズに動かすことができる。
いいな、この水。
もっと欲しい。
「あなたが集めてくれた水。もらっちゃいました」
「ふ、ふざけるな! 人族がそんなこと、できるわけないだろうが!!」
そう言われましても……。
出来ちゃったからなぁ。
「何かの間違いだ! 俺の魔法が人族に盗られるはずがない!! 水よ!」
先ほどより多くの水が集まってきた。
おぉ、ラッキー!!
再び魔族の水を俺の魔力で覆い、その制御権を奪い取る。
「水よ、舞え!」
大量の水が俺の方に移動してきた。
「わ、わたすかぁぁぁあああ!!」
一部の水に全力で魔力を流して、俺に盗られまいと必死に抵抗している水の魔族。
俺としてはこれだけ大量に水をもらったので、もう満足している。
こいつが集めた水は、今後も大切に使わせてもらおう。
「水よ、回れ」
「かひゅ──」
水の輪っかを出現させ、魔族の首の周りで超高速回転させる。俺に盗られまいと水を魔力で引っ張ることに躍起になっていた魔族は、避ける間もなく首を切断された。
首を失った魔族の身体が膝から崩れ落ち、地面に倒れそうになる。しかしその身体は地面に着く前に真っ白な灰になって消えてしまった。
まさか、1回で死んだのか?
雷の魔族は窒息死させたあと、身体を切り刻み続けて3日後に身体が消滅したと世界樹から報告を受けていた。消え方は世界樹に聞いたのと同じだったので、倒せたのは間違いないだろう。
小物っぽかったので、生き返れる残機がなかったのかもな。
なんにせよ、13体出現するとされている魔族のうち、2体目を倒すことができた。
「……え。魔族を、倒せちゃったのかニャ?」
「う、うそだろ、おい」
ガロンヌさんはともかく、ミーナには俺が魔族を倒すところを見せられて良かったと思う。これで俺に魔族を倒す力があると証明できた。
「弱い魔族で良かったです。さぁ、先に進みましょう──って、なんだあれ?」
魔族がきえた場所。
そこに綺麗な青い角が落ちていた。
魔族の額に生えていたやつだ。
ゲームとかだと、こーゆーのってレアアイテムになるんだよな。
「水魔族の角ゲットだぜ!!」
雷魔族の角も残ってたりするのかな? あとで世界樹に確認しておこう。
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