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第3章 水の研究者、勇者を還す
第69話 強者の噂
しおりを挟むエルフの王国ミスティナスで魔族を倒した2週間後。
「やぁ、マスター。おひさー」
俺たちは人族の王国サハルの冒険者ギルドまでやってきていた。
目的は高校生たち、勇者一行の情報収集。
「トールさん、お久しぶりです。今日来られたのは、勇者様たちの件ですね」
「うん。なにか進展あった?」
「残念ですが、まだ有力なモノはありません」
「そっか」
サハル以外でも情報を確認しているが、未だに勇者の情報は無い。魔族や強力な魔物が現れたって話しも聞いてない。
「ただ、ファーラムという人族の王国にて、ゴールドの冒険者を一蹴した4人の新人がいるという噂を耳にしました」
「……へぇ。その4人の人相とか分かる? 男女の人数とか」
「申し訳ありません。あくまで噂程度ですので、それ以上の情報はありません。冒険者を送り込んで、もう少し詳しく調べさせましょうか? ここからは非常に遠いので、時間はかなりかかってしまいますが」
「いや、それはいい。どのみち他に情報が無いんだ。俺たちが直接行ってみる」
「次の目的地が決まったニャ」
「あぁ。行こう、ファーラムへ」
そこへ向かう途中に別の手がかりがあるかもしれない。今のところ、2度も襲撃があったミスティナスにまた魔族が来る可能性があるが、世界樹に召喚してもらえばいつでも戻ってこれる。
もちろん、逃げた興行師のことも忘れてない。
新しい魔法をたくさん開発しているが、あいつにどれを使おうか試案する日々を送っていた。一撃で殺してしまうのは絶対に避けたい。できるだけ興行師に苦しんでもらいたい。その点、水魔法は長くヒトを苦しめるのは適してると思う。
ただなぁ……。
あの興行師の顔を見たら、最大出力で攻撃しないって自信が無い。
我慢しなきゃいけないって分かってるのに、何度脳内シミュレーションしても俺はあいつを見た瞬間に首を斬り落としている。
くそっ、興行師が何回殺しても大丈夫な身体にでもなってくれればいいのに。そうすれば開発した水魔法を全部使ってやることができる。
使える魔法が増える度、そんな荒唐無稽な妄想をする回数も増えた。
「トール、またボーっとしてるニャ」
「あ、ごめん。出発の準備しようか」
「はいニャ」
魔導都市ラケイルまで進んで以降、新たな国には行っていなかった。
やっぱり情報収集の手を拡げるには、自分たちで行ってみないとな。
──***──
それから2日後。
「シャルロビさん、ガロンヌさん。お世話になりました」
「ウチの鎧の調整、ありがとニャ!」
旅支度を整え、最後にシャルロビさんの魔道具屋を訪ねた。ガロンヌさんは魔導都市ラケイルから逃げて拠点がなくなってしまったので、今は師匠であるシャルロビさんの工房に部屋を作って、そこで暮らしている。
「そうか、行くのか」
「トールさん、ミーナさん。お元気で。もし杖や鎧に不具合があれば、いつでも戻って来てください。また完璧な状態にしてみせます」
「ありがとうございます。なにかあればよろしくお願いしますね」
「おぉ、そうじゃ。忘れるところじゃった。トールさん、これを持っていきなさい」
シャルロビさんから魔具を受け取った。
ガラスの小瓶の周りに木の細工が取り付けられている。
「これは何ですか?」
「ミーナさんの鎧に組み込んだ魔法無効化《マジックキャンセラー》機能じゃが、もしガロンヌ以外にも同じような魔具を作った輩がいた場合、トールさんは戦う術を失う。これはそんな状況を打破するための魔具じゃ」
えっ、それって、つまり。
「魔法無効化を、無効化するための魔具ってことですか!?」
「そうじゃ。中の小瓶を割れば魔力を拡散させて魔法を無力化する魔具の効果を打ち消すことができる」
「し、師匠? いったい、いつの間にそんなものを……。はっ! ま、まさか先月、俺に魔法無効化魔具を渡せと言ったのはコレのために!?」
「お前の新魔具を見て血が滾ってしまった。すまんな、ガロンヌ。原形があれば、その仕組みを把握して効果を消すことは容易い」
「いや、容易いって……。もし他人に魔具を盗られても、トールさんたち以外には使えぬように魔力の波長を登録する仕組み。そして構造を把握されないようにするための偽造構造もあるのですが」
「すべて解析済みじゃよ」
俺の杖を作る時はもう歳だからと謙遜していたものの、シャルロビさんはやっぱり天才魔具師だったみたいだ。
「な、なんと」
「ちなみにコレは3つ作ってある。いざという時に使いなさい」
そう言いながら、シャルロビさんが腰に装備するホルスターを渡してくれた。魔具を入れる部分が3つ、それ以外にも小物を収納できるようになっている。
これまでボロボロの麻袋に色々アイテムを詰めて旅をしてきたけど、このホルスターがあればよく使うモノを簡単に取り出せるようになる。
「これは凄く助かります。ありがとうございます!」
「ウチのぶんは?」
「もちろんあるぞ。ミーナさんの方にも魔法無効化を防ぐ魔具をひとつ入れておる」
ミーナもシャルロビさんからホルスターをもらった。
「わーい! ありがとニャ」
それは俺のより小ぶりで、近接戦闘を主とする彼女の身体の動きの邪魔にならないよう設計されていた。非常に良く考えて創り込まれた装備だ。
「鎧の性能はガロンヌに勝てぬ。しかし、こうしたヒトがつかいやすい形状を考案して形にすることならまだ負けぬよ」
「さすが俺の師匠ですね。トールさん。俺の師匠、凄いでしょう」
自分の魔具を打ち消す魔具を作られたけど、ガロンヌさんは嬉しそうだった。
良い師弟関係ですね。
「それじゃ、ばいばいニャ!」
「うむ。達者でな」
「色々ありがとうございました。では、行ってきます」
目的地はファーラム。
かなりこの地方に長く滞在してしまった。でもそのおかげで準備は完璧に整った。
さぁ、勇者一行や魔族、それから興行師を探す旅の再開だ。
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