勇者召喚に巻き込まれた水の研究者。言葉が通じず奴隷にされても、水魔法を極めて無双する

木塚麻弥

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第3章 水の研究者、勇者を還す

第85話 逃げる村人たち

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にぃちゃん。僕ら、これからどこに行くの?」

 馬車の荷台に揺られながら、少年が兄に尋ねた。周りの大人たちはみんな表情が暗く、絶望や不安といった感情が少年にも伝わってくる。そのせいで状況が良く分かっていない彼も不安になってしまう。

「王都に行くみたい」

「なんで? 来週は収穫祭でしょ? なんで村から出なきゃいけないの?」

「魔物の群れが近づいてきてるって噂があったんだ。俺だって収穫祭は楽しみにしてたけど、たくさんの魔物が来たらとーちゃんたちでも俺らを守れない。だからこうやってみんなで逃げるの」

 この兄弟の両親は魔法が使えたため、村の自衛組織で働いていた。

 逃げているのは彼らだけではない。

 近隣の村からも多くの人々が逃げ出し、まとまって移動している。人数が多くなれば魔物に発見されやすくなってしまうという問題がある反面、集団でいた方が戦力を集中して守りやすいという利点がある。

 少年たちや老人を乗せた十数台の荷馬車。その後ろに健康な高年男性や女性。それらをどこからの攻撃でも守れるよう、若い男たちが全体を取り囲むような布陣となっている。


「とーちゃんたち、大丈夫だよね? 怪我したりしないよね?」

「大丈夫。かーちゃんの火魔法が強いのは知ってるだろ。それにとーちゃんは周辺の村でも一番の魔法剣士じゃないか!」

 彼らの両親が守りの中心となり、人々はファーラム王都まで移動していた。

 
 人族の王国であるファーラムは大陸の北東にあり、エルフの王国ミスティナスからは最も距離が離れている。

 その国の王都に向かって、魔王ネザフが率いる魔族たちが魔物を集めながら進軍していた。戦力とするための魔物を集めているため、その進軍速度はまだ遅かったが、集結した魔物の数は10万を超えていた。

 魔族は魔界から配下の魔物を召喚することもできる。そうした召喚をしていない現段階で、既に10万以上の魔物が集まっているのだ。

 ミスティナスに3体の魔族が集結したことですら、この世界の歴史上最悪の事態。しかし今回は、それを凌駕する規模の危機がファーラムに迫っていた。

 そんな状況にもかかわらず魔物から逃げて王都を目指す人々は、自分たちが死地へ向かっているなど思いもしない。


「僕たち、おっきな街まで行くんだよね?」

「そう。王都って言うのは、王様の住んでる街なんだ。そこに、とーちゃんのお兄さんがいるんだって」

「とーちゃんの、にぃちゃん? その人、とーちゃんみたいに強いのかな!?」

「すっごく強いらしい。街を守る壁も頑丈で大きい。だからそこまで逃げれば安全だって。そこに行くまでは、にーちゃんがお前を守ってやる。だから心配すんな」

「うん!」

 兄の力強い言葉で、少年から不安が消えた。

 いつだって兄の言う通りにしていればなんとかなってきたのだから。

 きっと今回も大丈夫。
 少年はそう信じていた。
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