夜明けの冒険譚

葉月

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第2章 魔王軍四天王 リベルタ

第十八話

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 それは、俺がまだあの村の孤児院にいた頃のことだった。



 今日は、とってもいい天気だ。お日さまがぽかぽかと照っている。
 おれは、孤児院の大きな庭の、森に近い隅で1人で座っていた。まあ、庭と言っても、ほとんど芝生で、所々に花が咲いているだけだけど。
 他の子供たちは、庭の真ん中でボールを蹴って遊んでいる。
 おれが1人でいる理由は単純だ。
 馴染めない。あいつらと同じにはなれない。
 ただ、それだけ。

 そのとき、おれは近づいてきた1匹の小さな動物に話しかける。

「はじめまして。どうした? まいごになったのか?」

 それは、丸いふわふわの体に、耳がぴこぴこしている、頭に角が生えたうさぎだった。
 この子からいやな気配はしないから安全だ、と確信して、おれはその子の頭をそっと撫でる。
 すると、うさぎは心地良さそうにしていた。
 しばらくしてから、おれの手をそっと離れ、ピョンピョンと跳ねて、森の中へ帰っていった。

「あっ、行っちゃった。」

 悲しい。もう少し、あのふわふわを触っていたかった。
 そうして、おれがしょんぼりとしていると、

  ヒソヒソ……

 向こうで遊んでいたはずの子供たちがおれのほうを見て何かを話している。
 その話に耳をすませてみる。

「なあ、またあいつ、魔物のことさわってたぞ。」
「えー、こわっ。意味わかんないじゃん。」
「ねー。あっ、こっち見てる。こわぁ。あっち行こ。」

 あぁ、またか。
 やっぱり、あいつらと馴染めない。
 さっきの子はどう見ても魔物じゃない。
 いやな気配、しょうき? はしなかったし、こっちを傷つけようともしていなかった。とっても大人しくて、いい子だというのに。
 いつしか、あの子供たちは、ボールを持って、遠くへ行ってしまった。
 いつものことだ。

「はぁ……。」

 それでも、自然と出てきたため息をこぼす。
 そして、おれは、近くに誰もいないことを確認してから柵を越えて森の中に入る。
 本当は危ないから入っちゃだめなんだけど……あそこにいても、楽しいことはない。それに、森の奥まで行かなければそこそこ安全なのだ。
 入ったところから少し歩くと、おれの秘密基地に着いた。いいや、基地じゃなくて遊び場って言ったほうが正しいのかな。
 そこには、おれが1人でその場にある材料だけで作ったブランコだったり、滑り台だったりがある。
 ここでいつもおれは、孤児院にある鐘が晩ご飯のために鳴るまで、1人で遊ぶんだ。
 べつにいいだろう。あの場所に居たって、1人で遊ばなければならないのは変わらない。それなら、こっちのほうがおもしろい。
 今日はなにをして遊ぼうかな。
 そう考えているときだった。

「うわああぁぁーー!」

 突然、どこかから叫び声が聞こえた。
 声が聞こえた方角に、走る。

 そこには、なぜか気が立っていて木をドスドスと叩くイノシシと、木にしがみついている少年がいた。
 少年は目の辺りに包帯を巻いていて、年はおれと同じくらいのようだ。
 必死に木の枝にしがみついているが、かなり怯えて動けていない。

 どうやって、助けようかと辺りを見回すと、ちょうどいいものがあった。
 おれはそれをできるだけ遠くまで急いで並べて、最後にイノシシにこっそりと当ててやる。
 それにイノシシが気づき、その、おれが転がした木の実にかぶりつく。
 そして、他にも近くに木の実があることに気づいたイノシシは次々とかぶりついていき、遠くまではなれていく。
 どうやら、おれが誘導したとおりに動いてくれたことにほっとする。怒りより食べ物! 食べ物で誘導作戦、成功である。
 おれはまだ木にしがみついているその子の下に行って言う。

「もうだいじょうぶだぞー!」
「えっ…あっ、ほんとだ。よかった……、って、うわぁ!?」
「えっ、おい!?」

 安心して、力が抜けたのだろう。
 枝から滑り落ちた彼は、そのまま下にいるおれのところまで落ちてくる。
 もちろん、おれが避けられるはずもなく。

「うわぁっ!? ……いってて。」
「うぅ……。えっ、あっ、ごめん! えっと、えっと…。」
「いたかったけど、だいじょうぶ…。だから、おちついて。」

 彼はおれが下敷きになっていることに気づいて、あわてて飛び退く。
 その後もずっとあわあわしていたので、おれが起き上がってなだめてやるとようやく落ち着いたようだった。

「うぅ、ごめんなさい。」
「いいって、気にしないで。それより、なんであんなことに?」
「それは…」

 彼の説明によると、こうだ。
 彼の父さんと母さんから森で遊んできていいと言われ、彼が落ちていた枝を振り回していると、ふとしたときに手から滑り落ちてそれがなんと、イノシシに当たってしまったらしい。
 そして、そのイノシシがこちらに振り返ったのを見て、怒っていると感じ、逃げている最中だったそうだ。

「へぇー。」
「もー、ほんとこわかったんだよ!」
「そうか、たいへんだったな。」
「うん、たいへんだった。」

 彼がしょんぼりとしているので、おれは思わず頭をなでる。
 すると、彼は心なしか嬉しそうだった。かわいい。

「おれ、あっちにある秘密基地であそぶとこだったんだけど、いっしょにあそぶ?」
「えっ! いいの!?」
「うん。ほら、行こ!」

 おれはそう言って、彼の手を引いて歩く。
 そういえば、包帯を見るに彼は目が見えないのでは? もう少しゆっくり歩くべきかな? そう思い、時々後ろに振り返って彼を見ても、彼は問題なく歩けているようだった。
 気になって、歩きながら聞く。

「なあ、そのほうたい、どうしたの?」
「あっ、えっと、これは……ぼく、目が見えないんだ。」
「そうなの?」
「あっ! でも、ぼくはまほうで周りが見えてるから、しんぱいしなくても大丈夫なんだよ。『シンガン』って、言うんだって。」
「へぇー、まほうってすごいな!」
「うん! 母さんがおしえてくれたんだ!」

 その後も、おれたちは互いのことを話し合った。
 彼の両親は魔法使いであること。おれは孤児院暮らしであること。最近あった楽しかったこと。怒られたこと。
 もちろん、秘密基地に着いた後も話題が尽きることはなかった。
 おれにとって誰かといっしょに遊ぶということが初めてだったので、新鮮でとても楽しかった。

 もっと遊びたいと思っても、楽しい時間は早く過ぎ去ってしまうもので。
 リンゴンと鐘が鳴っているのを聞いた。晩ご飯の合図だ。

「あっ、もうかえらなきゃ。」
「えっ! かえっちゃうの? ……まだあそびたいのに…。」
「おれもだよ。…うーん。」

 どうすれば、彼ともっと遊ぶことができるだろうか。
 口に手を当てて考え、ひらめく。

「そうだ! おれ、いつも昼ごはん食べたあとからここであそんでるから、またあそびにきてよ!」
「えっ、いいの!」
「もちろん!」
「やったぁ! あっ、でも、ぼく、たまにしか来れないかも…。」
「それでもいいよ。一人なのはいつものことだし。おれ、あたらしいあそびとかはなしとか考えて、まってるからさ。」
「ほんと!? やくそくだよ!」
「うん、やくそく。」

 彼の笑顔が花開く。
 さっきも思ったが、ほんとにかわいいなあ。
 おれの小指と彼の小指をあわせて、指切りをした。

「そういえば、おまえ、帰れるの?」
「えーと…たぶん大丈夫! ほうがく大体わかるし、父さんと母さんがさがしてくれてるから!」
「……ほんとに、だいじょうぶ?」
「たぶん!」

 少し心配ではあるが、おれも待っている人がいるので、彼と別れて、帰ったのだった。

 孤児院に帰ると、扉の前で先生が待っていた。
 他の子達はすでに中に入ったらしくもう庭にはいない。
 おれは、先生に抱きつく。

「もう、また森に行っていたのね。危ないから行ってはだめと何度も言って……あら、どうしたの? 何か良いことでもあった?」
「うん! ともだちができたんだ! おれとたぶん同い年の子。」
「そう、良かったわね。その子の名前は?」
「名前は……えっと…あっ!」

 名前、聞いてなかった!
 おれの様子で先生は察したらしく、微笑んでおれの頭を撫でていた。

 後日、約束通りに会えたので彼に名前を聞いてみると、彼はラルフと言うらしい。



 それから、おれは何度もラルフとあの場所で遊んだ。
 確かに、ラルフが言うようにたまにしか来れないらしく、多くても一週間に2回くらいだった。
 それでも、また遊べると待っている間もわくわくしたし、その分遊ぶのが倍以上に楽しかったと思う。
 たまにラルフの母親が直接秘密基地まで迎えに来ることがあって、その人から面白い話だったり、きれいな湖を見せてもらったりもするので、本当に退屈しなかった。

 そして今も、今日はラルフは来るのかな、何をして遊ぼうかな、と待っている最中だ。最中、なのだが…。

「さいきん、ラルフ、来ないなぁ……。」

 そう、もう以前ラルフが来てから2週間が経とうとしているのに、ラルフが来ない。
 倒木の上に座り、おれは足をぱたぱたさせる。
 ラルフに何かあったのかな。
 どうしようもない不安を持ちながらも、今日も晩御飯を知らせる鐘の音が聞こえたので仕方なく帰る。


 次の日、今日も森に入ろうとしていたとき、後ろからふと声をかけられて、振り返る。

「ねえ、また森に入ろうとしているの?」
「やめといたほうがいいぜ? 特に最近、こわいうわさがあるからさ。」
「あぁ、あれでしょ。ここより魔族の土地に近いとなりの村が魔族におそわれたって話。」
「そうそう。でも、その魔族、返りうちにあったらしいぞ。そのとき逃げた魔族が人間をうらんで、オマエを食べに来るかもな。」

 そう言って、おれを引き留めた彼らは嘲笑う。
 おれはそれを無視して、無言で森に入って、いつもの秘密基地へ向かう。
 無視したはずなのに、なぜか彼らの話がいつまでも忘れられなかった。






 あれから、数年が経った。
 結局、あの後、ラルフが秘密基地に来ることはなかった。
 何かあったのだろうという不安は、あのときよりも確信に変わっている。
 彼が元気だといいんだが。

 今日も俺は、あのときとは変わらず、あの場所でいつも通り過ごそうと考えながら、朝御飯を食べていた。
 すると、先生が子供たちみんなに向かって、話をする。

「今日は、冒険者の方々がこの孤児院に来ます。みなさん、いたずらとかしてはだめよ。」

 はーいと、大きな声で皆が返事をする。
 まあ、俺には関係のない話だろう。
 おそらく先生の言っていた冒険者と思われる知らない人達が来ていて、子供たちと遊んだり話したりしている。
 それを見ながらも、気にせず俺は、昼食の後に秘密基地へと向かった。


 今日もまた、1人で遊んでいた。
 もう慣れたが、やはり、1人で遊ぶのはあの頃よりも退屈だ。
 それでも、他にやることが無いからと、下を向いてブランコで軽く揺れていたときだった。

「おぉー、すごいな! これ、全部お前が作ったのか?」

 突然、知らない誰かの声がして、驚いて顔を上げる。
 そこには、若い短髪の男が立っていた。たぶん、今日孤児院に来た冒険者の一人だろう。

「……そうですけど、誰ですか?」
「えっ、あぁ、ごめんごめん。悪い人じゃないから、そう警戒しないでくれ。」
「それで警戒しなくなる人がいるとでも?」
「確かにそうだな!」

 そう言って、男は歯を見せて大きく笑う。
 この人の言葉を鵜呑みにするわけではないが、確かに悪い人ではなさそうだ。
 それでも、警戒は解いてやらない。なんか、この人は苦手だと直感が告げている。
 というか、ここまでどうやってきたんだ?
 俺が考えている内に、この人は話を進めていく。

「いろいろ話したいことがあるけど、まぁ、まずは自己紹介だ。俺はクリス。お前は?」
「……アルバです。」
「へぇー、アルバか。良い名前だな。」
「…どうも。」
「ところで、さっきから気になってるんだが……お前が今乗っているのはブランコってわかるが、あれは?」

 クリスさんが、秘密基地の他の場所を指差して言う。
 俺はそれに答えた。

「あれは、あそこから綱を持って空中で揺れて別の綱に渡りながら移動して、向こうまで渡るやつです。」
「…あれは?」
「あれは、小さい足場の上を飛んで渡りながら落ちないようにするやつです。」
「……あれは?」
「あれは……」

 と、クリスさんが指差すところの物を答えていく。
 やがて、クリスさんが膝から崩れ落ち両手をつく。

「マジか! この子、俺より運動できるじゃねぇか!? 俺、冒険者だよ? この子より年上だよ?」
「クリスさん……あなたのほうが体は大きいですよ。」
「フォローになってねぇし、関係ねぇな!?」

 クリスさんは大声で嘆いている。
 なんだろう。苦手だと思ったけど、案外面白いかも。これも直感である。
 そして、クリスさんは立ち上がって服についた土を払い、襟元を整えて、俺に言う。

「よし、決めた。お前、冒険者にならないか?」
「お断りします。」

 クリスさんが、ズコッとこける。

「なんでだよ。理由は? お兄さんが嫌だった?」
「……ここであなたの言う通り冒険者になるなら、あなたについていくことになるんですよね?」
「あぁ、そうだな。……えっ、ほんとにお兄さんが嫌だった?」
「…ここを離れないといけないんですよね?」
「そうなるな。」
「じゃあ、嫌です。」
「……ちなみに、なんで?」
「…待ってる人がいるんです。」

 そうして、俺はクリスさんにラルフについて話をした。
 小さいころに遊んだ親友がいること。彼にいつでもここで待ってると約束したこと。そして、長い間、彼がここに来ていないこと。
 クリスさんは、手を顎に当てて、真剣に聞いてくれていた。

「…なるほどな。」
「だから、ここを離れたくないんです。あの子が来るかもしれないから。」
「なるほど、お前の事情はわかった。だけどな……探しに行きたいとは思わなかったのか?」
「えっ?」
「だって、そうだろ? 突然友達がいなくなったら、誰だって気になってこっちから行くだろ?」

 俺のほうから、ラルフのほうに探しに……?
 考えたこともなかった。
 だって、ラルフとはここでしか会えないと思っていたから。
 でも、彼にだって帰る場所があったのだから、ここでなくとも世界のどこかで会う可能性はあるわけだ。
 当たり前の話なのに、どうして気づかなかったのか。
 それは、クリスさんに言われて自覚した探しに行きたいという欲求と反対側にいる思いのせいだろう。

「でも、俺がここに来なかったら、あいつとの約束を破ることに……。」
「ここ何年も来ないなんて、約束破られたも同然。あっちが破ってきたんだから、もういいだろ?」
「……でも。」
「もう、ここには来ないかもしれないぞ? それでもお前は、独りで待ち続けるのか?」

 クリスさんの言葉は正しいと思う。
 それでも、ここまで続けてきた日常を壊すには、……彼と遊んだこの場所を捨てるには、覚悟がいる。

「…………少し、考えさせてください。」
「わかった。」

 そうして、クリスさんは踵を返して孤児院のほうへ帰っていく。
 その前に、一度だけこちらを向き、俺に言う。

「俺たちは孤児院で今日の夕食を食べた後、出発することになっている。もし、俺についてくるなら、その前に……な?」

 そうして、再び足を進めたその背中を、見えなくなってもその方向をただ眺めていた。
 クリスさんは俺に告げた後は、一度も振り返らず、横を見ることもなく、ずっと前を向いていた。
 ……おれも前に進まなければ。



 俺は夕食を他の子供たちよりも、急いで食べて、席を立つ。
 食後すぐに動くのはあまり良くないとわかっていても、全力で走る。
 そして、孤児院の入り口で出発の準備をしている冒険者達を見つけた。側で、先生も手伝っている。
 そして…

「クリスさん!!」

 俺はクリスさんの服の裾を掴む。
 クリスさんはあまりに突然のことで、目を見開いている。
 俺はクリスさんの返事を待たずに言う。

「俺、ラルフを探しに行きたい! 待ってるだけじゃない。ちゃんとあいつに会って、何で来なくなったのか理由を知りたい!」

 俺の言葉に、再びクリスさんは驚いていた。

「……そうか。よし、わかった! 俺と一緒に行くか!」

 クリスさんは、俺の頭をわしわし撫でる。
 孤児院の先生も突然のことで驚いていたけど、それでも、俺の覚悟に納得してくれた。俺の旅立ちに、見送りをしてくれるらしい。
 俺は急いで俺の部屋に戻り必要な荷物をまとめて、クリスさんのところに戻る。
 出発する前にお世話になった孤児院と先生に感謝と別れを述べて、ラルフを探す冒険に出たのだった。






 それから、三年の月日が流れた。
 俺は、剣の技量がそこそこ身に付き、実戦にはある程度慣れた頃だった。
 クリスさんには、もう一人立ちしても大丈夫だろうと言われている。俺はまだ年齢的にぎりぎり子供だから、同行してもらっているけれど。
 もう、幼いときとは違い、人間と魔族について理解している。その上、戦争は俺にはどうすることもできないということも。
 そんな中、今日はクリスさんと一緒に魔物の討伐に来ていた。
 今回の討伐内容は、魔族との国境近くにある森に出現した熊の魔物の討伐だ。

 クリスさんと話しながら森を探索していると、ふと、クリスさんが言う。

「それにしても、お前は本当に成長したよなぁ。あんなに小さかったのに、大きくなって、…お兄さん、嬉しい!!」
「ありがとうございます。」
「おぅよ! …なあ、よかったのか? その大きくなった姿を故郷の先生達に見せなくて。ここ、故郷の近くだろ?」
「まあ、はい。魔物を倒すのが先でしょう?」

 それに、早くあいつのことを探したいから。
 言葉にはしていないが、クリスさんは察したみたいで呆れたようにため息をつく。

「…ったく、たまには息抜きも必要だぞ。」

 そう言って、クリスさんは俺の頭を撫でる。撫で方は昔から変わらない。
 正直に言うと、いつまでも子供扱いされているようで悔しい。

 そのとき、俺からして森の右奥の方から何かの音が聞こえる。
 クリスさんもそれに気づいたらしい。
 俺はクリスさんに言う。

「様子を見てきます。」
「あっ、おい!」

 ただそれだけを告げて、音の方へと走る。
 めったに人が入ることのない森なのだから、ここに住む動物か討伐対象の魔物の音のはずだ。
 しかし、それにしては大きく、ドスンと何かが落ちる音だった気がする。どういうことだ?

 考えながら走っていくと目的地に着く。それを見て俺は驚く。
 今回の討伐対象だろう熊が穴に落ちている。落とし穴だろう。
 それに加え、熊の体に矢が刺さっている。ということは、誰かが倒したのか?
 そのとき、上の方から声が聞こえた。

「やったー! 今日は熊鍋かな。」

 俺は咄嗟に上を見上げる。
 木の上に俺と同い年であろう青年が座っている後ろ姿が見えた。
 彼は木の上から飛び降りて、きれいに地面に着地する。そして、彼は熊に刺さった矢を手で引き抜く。
 そのとき、俺は彼がずっと目を閉じていることに気づいた。
 それに気づき、なぜか彼の姿にあいつが重なる。

「お前……。」

 ふと声が漏れる。
 それに気づいた彼が振り返った。

「えっ……。」

 そして、彼は口を開けて驚く。

「もしかして、アルバ?」

 俺を呼ぶその声に、幼い頃のあいつと今目の前にいる彼が一致する。

「まさか、ラルフか?」

 その再会は、偶然だった。





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