古代ローマの英雄スキピオの物語〜歴史上最高の戦術家カルタゴの名将ハンニバル対ローマ史上最強の男〜本物の歴史ロマンを実感して下さい

ピュテアス②

　話の詳細はこうだ。マッシリア商人の有力者であるピュテアスは、ローマ軍が入港するという情報をいち早く仕入れ、この機に何か大儲けできないかと考えた。ヒスパニアでカルタゴ軍とローマ軍が戦争を始めるということで、武具や馬、小麦などの軍需物資に目をつけるが、ローマ軍はマッシリア政府からそれらの軍需物資を購入するため、ピュテアスなどの一介の商人はローマ軍と直接取引することができず、マッシリア政府を通してしか取引ができなかった。しかし、これでは儲けが少なく、何とかローマ軍と直接取引ができないかと考えたと言うのだ。
「ローマ軍の情報を集めるうちに、この遠征に執政官の御子息が参加していることを知りました。しかも、今回の遠征が初めての軍役であり、マッシリアでの情報収集の任務が与えられたことまで。さすがに一商人ではローマ軍の執政官には面会できませんが、もし、その御子息に恩を売ることができれば、執政官との距離が随分縮まるのではないかと考えたわけです。さらに、長い目で見れば、執政官のその御子息は将来の執政官候補でもありますので、これは投資しておいて間違いないと考えたのです」
「それではピュテアスは、私たちを騙したということですか」
「いや、ラエリウス、それは違うよ。騙すというのは悪意があるが、ピュテアスにはそれがない。執政官の御子息ですかと近づいてくれば警戒されるのは当然だし、利益を追求する手段として私に恩を売っておくのは決して悪いことではない」
　プブリウスは白い歯を見せてピュテアスを安心させた。
「ピュテアスは本当のことを教えてくれたのだから、ある意味で正直者とも言えますね」
　ラエリウスも納得顔をマッシリア商人に向けた。
「でも、何でプブリウス様が執政官の御子息だとわかったのですか」
　とのラエリウスの問いかけに、
「何人かのローマ兵にお金を渡しました。あなたたちが早朝から漁港に向かったので探すのに少々苦労しましたが、執政官の御子息を見つけるのにそれほど苦労はありません。少しやり方が汚かったかもしれません。本当に申し訳ありませんでした」
　ピュテアスは平身低頭を崩さない。