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戦う理由
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陣営地に戻る途中、向こうから辺りを見回しながらやってくるラエリウスの姿を見つけた。ラエリウスと目が合った。友人であり従順な従僕でもあるラエリウスは安堵の表情を浮かべ、こちらに駆け寄ってきた。プブリウスは自分を探しに来てくれた彼を見て、
「もしかしたらラエリウスは、私なんかよりもっと心を痛めているのかもしれない」
と、心の中で呟いて思わず目を閉じた。自分のことばかりで周りへの気遣いを失念していたことに、深く反省したのだ。ラエリウスの先祖はリグリア人で、元々はこの地域に住むガリア人であった。ローマ市民であるラエリウスはガリア人ではないが、ここで死んでいった多くのガリア人を、プブリウスよりもより身近な存在に感じているのは間違いなかった。
プブリウスは親友にかける言葉が見つからず、彼と無言で対面した。しかし、こういうときに親友とはよいもので、二人の間に言葉はなくとも、お互いの気持ちを察することはできた。二人は無言のまま連れだって歩き始めた。
陣営地に戻ると、すぐに伯父が心配そうな顔で寄ってきた。
「おお、戻ったか。ラエリウス、よくぞ無事に連れ戻してくれた。礼を言うぞ。プブリウスは何も気にすることはないぞ。誰だって初陣では気持ちが混乱するものだ。わしはお前のことを何も心配しておらん。ただ、お前の父はそうではない。自分の息子のことは案外わからないもので、不安なものだよ。気持ちの整理がまだつかんかもしれんが、できるだけ早く父に会いに行くことだ。父と少し話をしてきなさい。伯父はそれが良策だと思う」
伯父に言われるまでもなかった。取り乱したことを素直に謝り、もう大丈夫だと父を安心させなければならなかった。自分が執政官である父の負担になれば、それはここにいるローマ軍全員の負担になりかねない。聡明な父ならきっと、息子の未熟さをわかってくれるはずだ。
天幕に戻ったプブリウスは父と二人きりになって向かい合った。父の口調は優しかった。
「息子よ。何も恥じることはない。お前は昔から感受性が強く、人の痛みのわかる子であった。多くの死が待ち受ける戦争を恐れる気持ちは人として当然に持っておかなければならん。我々は何も好んで戦争をするわけではない。ただ、戦争では非情に徹しなければならないことがあることも覚えておかなければならない。お前は私の誇りだ。立派に成長してほしいと願っている」
プブリウスは頷いた。
「息子よ。人が自分の命を投げ出すのは、それぞれに理由があるというものだ。例えばカルタゴ兵だが、将官以外は全て傭兵で彼らは奴隷ではない。カルタゴ兵は自分の生活の糧を得るためにハンニバルに従い、自分の意思でカルタゴ兵になったのだ。命を投げ出すように強制されているわけではない。自分の意思で命を投げ出したのだ。それからガリア人だが、彼らも自分や家族の生活のためにカルタゴ軍を襲ったのだ。彼らの死やその家族の死は、やはり彼らに責任があると私は思う。それから我がローマ軍だが、我々も同様に自分たちや家族の安全と平和のためにやはり命を投げ出して戦っている。皆戦う理由は同じようなものだ。何が正しくて何が間違いかはわからないが、私は仲間の命を一番大切に考えたい。お前は賢いから、父が何を言っているのかわかるな」
プブリウスは黙って頷く。父の言葉は飾り気がなく、プブリウスの心に素直に沁み渡った。
ロダヌス川を挟んでさらに三日行程の距離を行くカルタゴ軍に、重装歩兵を引き連れて追いつくことは不可能である。ローマ軍はカルタゴ軍が渡河のために築いた陣営地周辺で詳細な情報を集めた後、再びマッシリアに戻った。
「もしかしたらラエリウスは、私なんかよりもっと心を痛めているのかもしれない」
と、心の中で呟いて思わず目を閉じた。自分のことばかりで周りへの気遣いを失念していたことに、深く反省したのだ。ラエリウスの先祖はリグリア人で、元々はこの地域に住むガリア人であった。ローマ市民であるラエリウスはガリア人ではないが、ここで死んでいった多くのガリア人を、プブリウスよりもより身近な存在に感じているのは間違いなかった。
プブリウスは親友にかける言葉が見つからず、彼と無言で対面した。しかし、こういうときに親友とはよいもので、二人の間に言葉はなくとも、お互いの気持ちを察することはできた。二人は無言のまま連れだって歩き始めた。
陣営地に戻ると、すぐに伯父が心配そうな顔で寄ってきた。
「おお、戻ったか。ラエリウス、よくぞ無事に連れ戻してくれた。礼を言うぞ。プブリウスは何も気にすることはないぞ。誰だって初陣では気持ちが混乱するものだ。わしはお前のことを何も心配しておらん。ただ、お前の父はそうではない。自分の息子のことは案外わからないもので、不安なものだよ。気持ちの整理がまだつかんかもしれんが、できるだけ早く父に会いに行くことだ。父と少し話をしてきなさい。伯父はそれが良策だと思う」
伯父に言われるまでもなかった。取り乱したことを素直に謝り、もう大丈夫だと父を安心させなければならなかった。自分が執政官である父の負担になれば、それはここにいるローマ軍全員の負担になりかねない。聡明な父ならきっと、息子の未熟さをわかってくれるはずだ。
天幕に戻ったプブリウスは父と二人きりになって向かい合った。父の口調は優しかった。
「息子よ。何も恥じることはない。お前は昔から感受性が強く、人の痛みのわかる子であった。多くの死が待ち受ける戦争を恐れる気持ちは人として当然に持っておかなければならん。我々は何も好んで戦争をするわけではない。ただ、戦争では非情に徹しなければならないことがあることも覚えておかなければならない。お前は私の誇りだ。立派に成長してほしいと願っている」
プブリウスは頷いた。
「息子よ。人が自分の命を投げ出すのは、それぞれに理由があるというものだ。例えばカルタゴ兵だが、将官以外は全て傭兵で彼らは奴隷ではない。カルタゴ兵は自分の生活の糧を得るためにハンニバルに従い、自分の意思でカルタゴ兵になったのだ。命を投げ出すように強制されているわけではない。自分の意思で命を投げ出したのだ。それからガリア人だが、彼らも自分や家族の生活のためにカルタゴ軍を襲ったのだ。彼らの死やその家族の死は、やはり彼らに責任があると私は思う。それから我がローマ軍だが、我々も同様に自分たちや家族の安全と平和のためにやはり命を投げ出して戦っている。皆戦う理由は同じようなものだ。何が正しくて何が間違いかはわからないが、私は仲間の命を一番大切に考えたい。お前は賢いから、父が何を言っているのかわかるな」
プブリウスは黙って頷く。父の言葉は飾り気がなく、プブリウスの心に素直に沁み渡った。
ロダヌス川を挟んでさらに三日行程の距離を行くカルタゴ軍に、重装歩兵を引き連れて追いつくことは不可能である。ローマ軍はカルタゴ軍が渡河のために築いた陣営地周辺で詳細な情報を集めた後、再びマッシリアに戻った。
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