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センプローニウス
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センプローニウスはコルネリウスに対して見舞いの言葉も早々に打ち切り、
「カルタゴ軍など恐れるに足らず。この地で冬営などもってのほか。一気にけりをつけてやりましょう」
と、自信満々で笑みさえ浮かべて即時開戦を訴えた。執政官に選出され、勇んで出兵したもののまだ一戦もできずにイタリア半島を南から北へ縦断してきたセンプローニウスにとって、敵との一戦が何よりも疲労回復の妙薬であったに違いない。それにセンプローニウスは平民出身で、貴族出身のコルネリウスには少なからず対抗意識があった。コルネリウスは元老院からも民衆からも評価が高く、その彼が敗れた相手を自分が討ちたいと思うのは自然なことであったのだ。ここでの戦いはセンプローニウスにとって、自分の地位や名誉を得るまたとない機会であったということだ。だが、コルネリウスはすでに城塞化が完了したこの地での冬営をあくまで主張した。
「季節は冬、何もこの時期にこちらから戦端を開くことはなかろう。カルタゴ軍の騎兵戦力はローマ軍のそれをはるかに上回る。来年の春に兵力を増強させ、万全の体勢であたるのが良策というもの。情報が一方的に不足しているのもこちらにとっては不利。この地をしっかりと守りながら、敵の動向を見極めるのがよかろう」
センプローニウスは年長者であり、自分よりも経験豊かなもう一人の執政官の意見を尊重せざるを得なかったが、毎日のようにコルネリウスの元を訪ねては即時開戦を訴え続けた。
「冬営などしていられるか。私に何の戦果もあげずにローマに帰れというのか」
と、センプローニウスは口にこそ出さなかったが、その振る舞いは日を追うごとに不満の色を濃くしていった。春が来れば執政官の任期が終わる。戦場での働きほど名声を高めるものはない。ローマ最高の官職にまで昇りついたセンプローニウスが、ここでさらなる実績を積み増したいと考えるのは無理もないことで、このまま冬営に入れば何のために執政官に立候補したのかわからなくなってしまう。
そんなセンプローニウスをあざ笑うように白昼堂々とカルタゴ軍がトレビア川の西岸に現れた。カルタゴ軍はトレビア川を挟んでいるもののローマ陣営地からわずか七・五キロほどしかない場所に陣営地を築いていた。この挑発的な態度に、
「イタリア半島の盟主である我々はいつから腰ぬけになったのか。敵がすぐ目の前にいるのですぞ、即刻討つべし」
と、センプローニウスを筆頭に即時開戦を主張する積極派はさらに声を張り上げた。さらに、宿営地に閉じこもっているローマ軍を尻目にカルタゴ軍は周辺の集落を略奪し続けたため、慎重派の声はだんだんと小さくなり、今やローマ陣営は積極派一色となりつつあった。
ローマ軍の士気が高い。今ならカルタゴ軍に勝てるのではないか。父と考えを共にするプブリウスでさえも、そんな気がしてきた。ティキヌスでの敗戦を帳消しにするような勝利を得られれば、ガリア人の動向にも大きな影響を与えられる。センプローニウス殿の言うように、ローマ軍の主戦力は重装歩兵である。ローマ軍の重装歩兵は世界最強であり、騎兵戦では太刀打ちできなかったかもしれないが……。日増しに高まる開戦への機運を、プブリウスも感じずにはいられなかった。
「カルタゴ軍など恐れるに足らず。この地で冬営などもってのほか。一気にけりをつけてやりましょう」
と、自信満々で笑みさえ浮かべて即時開戦を訴えた。執政官に選出され、勇んで出兵したもののまだ一戦もできずにイタリア半島を南から北へ縦断してきたセンプローニウスにとって、敵との一戦が何よりも疲労回復の妙薬であったに違いない。それにセンプローニウスは平民出身で、貴族出身のコルネリウスには少なからず対抗意識があった。コルネリウスは元老院からも民衆からも評価が高く、その彼が敗れた相手を自分が討ちたいと思うのは自然なことであったのだ。ここでの戦いはセンプローニウスにとって、自分の地位や名誉を得るまたとない機会であったということだ。だが、コルネリウスはすでに城塞化が完了したこの地での冬営をあくまで主張した。
「季節は冬、何もこの時期にこちらから戦端を開くことはなかろう。カルタゴ軍の騎兵戦力はローマ軍のそれをはるかに上回る。来年の春に兵力を増強させ、万全の体勢であたるのが良策というもの。情報が一方的に不足しているのもこちらにとっては不利。この地をしっかりと守りながら、敵の動向を見極めるのがよかろう」
センプローニウスは年長者であり、自分よりも経験豊かなもう一人の執政官の意見を尊重せざるを得なかったが、毎日のようにコルネリウスの元を訪ねては即時開戦を訴え続けた。
「冬営などしていられるか。私に何の戦果もあげずにローマに帰れというのか」
と、センプローニウスは口にこそ出さなかったが、その振る舞いは日を追うごとに不満の色を濃くしていった。春が来れば執政官の任期が終わる。戦場での働きほど名声を高めるものはない。ローマ最高の官職にまで昇りついたセンプローニウスが、ここでさらなる実績を積み増したいと考えるのは無理もないことで、このまま冬営に入れば何のために執政官に立候補したのかわからなくなってしまう。
そんなセンプローニウスをあざ笑うように白昼堂々とカルタゴ軍がトレビア川の西岸に現れた。カルタゴ軍はトレビア川を挟んでいるもののローマ陣営地からわずか七・五キロほどしかない場所に陣営地を築いていた。この挑発的な態度に、
「イタリア半島の盟主である我々はいつから腰ぬけになったのか。敵がすぐ目の前にいるのですぞ、即刻討つべし」
と、センプローニウスを筆頭に即時開戦を主張する積極派はさらに声を張り上げた。さらに、宿営地に閉じこもっているローマ軍を尻目にカルタゴ軍は周辺の集落を略奪し続けたため、慎重派の声はだんだんと小さくなり、今やローマ陣営は積極派一色となりつつあった。
ローマ軍の士気が高い。今ならカルタゴ軍に勝てるのではないか。父と考えを共にするプブリウスでさえも、そんな気がしてきた。ティキヌスでの敗戦を帳消しにするような勝利を得られれば、ガリア人の動向にも大きな影響を与えられる。センプローニウス殿の言うように、ローマ軍の主戦力は重装歩兵である。ローマ軍の重装歩兵は世界最強であり、騎兵戦では太刀打ちできなかったかもしれないが……。日増しに高まる開戦への機運を、プブリウスも感じずにはいられなかった。
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