古代ローマの英雄スキピオの物語〜歴史上最高の戦術家カルタゴの名将ハンニバル対ローマ史上最強の男〜本物の歴史ロマンを実感して下さい

秀策

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宿営地

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 プブリウスが帰還した後も、散り散りに逃げのびたローマ軍の敗残兵が続々とプラケンティアに帰還してきた。帰還する数も次第に少なくなり、帰還する者がいない日が二日続くと、コルネリウスは全軍にプラケンティアからの移動を命じた。
 コルネリウスは戦場で指揮を振るまでには回復していなかったが、なんとか動けるまでにはなっていた。プラケンティアは平坦な場所に位置し、騎兵の能力を最大限に発揮できる。ティキヌス川の戦いで思い知らされたカルタゴ軍の圧倒的な騎兵戦力を考えれば、この地での宿営は下策であり、コルネリウスが急いでプラケンティアを出たのにも納得できる。冬期は自然休戦という常識が通用しそうにないハンニバルに対し、コルネリウスは安全な宿営地を探さなければならなかった。
 プラケンティアから西に行くとトレビア川につきあたる。アペニン山脈からパドゥス川に流れ込むこの川の南東一帯は騎兵には不利な起伏の激しい地形が広がっており、コルネリウスはこの地で最も高い丘の上に冬営するための要塞を建築する。この季節のトレビア川は渡れないほどの水量ではないが、前面にこの川を置くことで敵の足は止められる。仮に敵がトレビア川を渡ってきても、さらに高い丘の上に築かれた宿営地を攻撃しなければならないのだから、重傷を負っても、コルネリウスの判断は的確であったと言えよう。コルネリウス率いるローマ軍はこの地で守備に徹し、もうすぐ到着するであろう味方の援軍を待つことになる。
 一方のハンニバルはティキヌスの戦いで六百人の捕虜と、ローマ軍から脱走してきた二千二百人のガリア兵を得た。彼らはハンニバルの大きな情報源になるに違いなかった。コルネリウスは周辺の安全が確保できないことや騎兵戦力がこれ以上消耗するのを嫌って斥候を出さなかったため、カルタゴ軍や周辺のガリア人部族の動向を詳しく掴むことができないでいた。そのため、カルタゴ軍に集落を襲われ、ローマ陣営に逃げ伸びてきた人々からもたらさられる情報だけが唯一の頼りであった。
 カルタゴ軍がティキヌス川の南に位置するローマ軍の兵糧貯蔵地を制圧したとの情報が、コルネリウスの元に届けられた。兵糧の心配がなくなったカルタゴ軍にさらに多くのガリア人部族が味方するのは必至で、トレビア川東岸の丘で宿営するローマ軍の間で再び恐怖と不安、不満とが膨れ上がっていった。民主主義国家を貫くローマでは、いかなる情報も公開されるのが原則である。自軍にとってますます不利な状況になったことを、宿営地のローマ兵は知ったのだ。
 そんな窮地に追い込まれた中、ローマ軍宿営地が歓呼の渦に包まれた。もう一人の執政官ティベリウス・センプローニウス・ロングスが二個軍団を引き連れて到着したのである。これでローマ軍は総勢四万に膨れ上がった。
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