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選挙
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季節は冬に入り、カルタゴ軍はアプリア地方で冬越しに入った。ローマではファビウスの独裁官の任期が終了することを受け、来年の執政官を決める選挙が始まろうとしていた。
「これまでの戦いが証明しておろう。ハンニバルとは戦うべきではないと。奴によってどれだけ多くの同胞が命を落としたことか。奴をローマ本土から追い出すには持久戦しかない。決して戦わず、防御に専念することだ。ハンニバルは補給の問題を抱えている。持久戦はもっとも有効な戦略である」
元老院でファビウスはそう演説し、
「次の執政官にはルキウス・アエミリウス・パウルスを推薦する。彼なら私の戦略を継承し、ハンニバル相手にも慎重に対応できるであろう。これまでの経験も申し分ないと思うが、皆の者はどうであろうか」
と、アエミリウスへの支援を宣言した。これに対してアエミリウスも、
「我がローマ軍がハンニバルの父ハミルカルに対しても苦戦したのは覚えているだろう。この親子はローマにとって最悪なのだ。ハミルカルに戦いを挑んだローマ軍は結局勝てなかった。だが、我々はハミルカルをシキリア島から撤退させることはできたではないか。では、なぜハミルカルを撤退させることができたのか。それはカルタゴ本国からのハミルカルへの補給を絶ったからに他ならない。ハミルカルに有効だった戦略がその子にも有効なのは明白であるばかりか、他に有効な手立てなどないと私は考える。私もファビウス殿の持久戦に賛成だ。ファビウス殿の戦略なら確実にハンニバルを追い詰めることができると信じている」
と、力説した。
しかし、元老院の大多数はファビウスが主張する持久戦に首を縦に振らなかった。このまま持久戦を続ければローマ本土はさらにカルタゴ軍に荒らされ、同盟都市の被害は増すばかりであったからだ。ローマから離反した同盟都市はないが、いつローマを見限っても不思議ではなかった。ハンニバルの狙いがローマ連合の解体なのは今では明らかで、それはなんとしても防がなくてはならなかった。民衆もこれ以上、盟主ローマの名を汚すのには耐えられなかった。
「プブリウスよ、ファビウス殿や他の有力な元老院議員から支持を受けている私の執政官当選は確実だが、市民集会では持久戦反対派が多数を占めることになるだろう。そうなれば来年、ローマ軍はカルタゴ軍に戦い挑むことになろう。その戦いにコルネリウス殿から預かっているお前さんを連れていってよいものか悩んでおる。相手はハンニバルだ。戦いはどうなるか予想できん。お前はまだ若いし将来を嘱望されておる身だ。私から離れてここに残るという選択肢もあると思うのだが……」
と、アエミリウスは親友の息子を気遣った。
「私も一緒に戦います。戦う前からそんな弱気では勝てるものも勝てません。アエミリウス殿らしくありません。今の市民感情を考えれば、会戦も仕方がありません。ファビウス殿がそれでもあなたを推薦したのは、あなたが冷静さと大胆さの両方を兼ね備え、会戦するにしてもあなたならローマの命運を任せられると考えたからです。ハンニバルとの戦いはローマ人なら望むところではありませんか。大丈夫です。きっとローマ軍は勝利します。ハンニバルの打倒はローマ人の願いです。役に立たないかもしれませんが、どうか、私もお連れください」
と、プブリウスはアエミリウスの不安を振り払い、自身の参戦を決断させた。
大丈夫。次は勝てる。ハンニバルが優れた指揮官であることは嫌というほど思い知らされた。その意識は皆が共有している。もはやローマ軍に油断はない。兵力では圧倒的にローマが有利なのだから。
市民集会は来年の兵員増強を決め、実に十三個軍団という大軍団を編成することになった。ローマはまさに総力を挙げてカルタゴ軍いやハンニバルに挑もうというのである。
来年の執政官には貴族出身で持久戦を主張するアエミリウスと、平民出身で積極会戦を主張するガイウス・テレンティウス・ヴァッロが選出され、予想通り市民の支持はヴァッロに集まった。ローマは来年、ハンニバル軍との会戦に臨むことになる。
「これまでの戦いが証明しておろう。ハンニバルとは戦うべきではないと。奴によってどれだけ多くの同胞が命を落としたことか。奴をローマ本土から追い出すには持久戦しかない。決して戦わず、防御に専念することだ。ハンニバルは補給の問題を抱えている。持久戦はもっとも有効な戦略である」
元老院でファビウスはそう演説し、
「次の執政官にはルキウス・アエミリウス・パウルスを推薦する。彼なら私の戦略を継承し、ハンニバル相手にも慎重に対応できるであろう。これまでの経験も申し分ないと思うが、皆の者はどうであろうか」
と、アエミリウスへの支援を宣言した。これに対してアエミリウスも、
「我がローマ軍がハンニバルの父ハミルカルに対しても苦戦したのは覚えているだろう。この親子はローマにとって最悪なのだ。ハミルカルに戦いを挑んだローマ軍は結局勝てなかった。だが、我々はハミルカルをシキリア島から撤退させることはできたではないか。では、なぜハミルカルを撤退させることができたのか。それはカルタゴ本国からのハミルカルへの補給を絶ったからに他ならない。ハミルカルに有効だった戦略がその子にも有効なのは明白であるばかりか、他に有効な手立てなどないと私は考える。私もファビウス殿の持久戦に賛成だ。ファビウス殿の戦略なら確実にハンニバルを追い詰めることができると信じている」
と、力説した。
しかし、元老院の大多数はファビウスが主張する持久戦に首を縦に振らなかった。このまま持久戦を続ければローマ本土はさらにカルタゴ軍に荒らされ、同盟都市の被害は増すばかりであったからだ。ローマから離反した同盟都市はないが、いつローマを見限っても不思議ではなかった。ハンニバルの狙いがローマ連合の解体なのは今では明らかで、それはなんとしても防がなくてはならなかった。民衆もこれ以上、盟主ローマの名を汚すのには耐えられなかった。
「プブリウスよ、ファビウス殿や他の有力な元老院議員から支持を受けている私の執政官当選は確実だが、市民集会では持久戦反対派が多数を占めることになるだろう。そうなれば来年、ローマ軍はカルタゴ軍に戦い挑むことになろう。その戦いにコルネリウス殿から預かっているお前さんを連れていってよいものか悩んでおる。相手はハンニバルだ。戦いはどうなるか予想できん。お前はまだ若いし将来を嘱望されておる身だ。私から離れてここに残るという選択肢もあると思うのだが……」
と、アエミリウスは親友の息子を気遣った。
「私も一緒に戦います。戦う前からそんな弱気では勝てるものも勝てません。アエミリウス殿らしくありません。今の市民感情を考えれば、会戦も仕方がありません。ファビウス殿がそれでもあなたを推薦したのは、あなたが冷静さと大胆さの両方を兼ね備え、会戦するにしてもあなたならローマの命運を任せられると考えたからです。ハンニバルとの戦いはローマ人なら望むところではありませんか。大丈夫です。きっとローマ軍は勝利します。ハンニバルの打倒はローマ人の願いです。役に立たないかもしれませんが、どうか、私もお連れください」
と、プブリウスはアエミリウスの不安を振り払い、自身の参戦を決断させた。
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