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決意
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ネロは敗戦に沈んだ嫌な雰囲気を打破するため、ヒスパニアに到着するとときを置かずして標的をハスドルバルの一軍に定め、勝利に油断するハスドルバルを不利な盆地に閉じ込めることに成功する。ここまではネロが元老院の期待に見事に応えたと言えるだろう。
包囲したハスドルバル軍から、ヒスパニアからの全面撤退を約束するという講和交渉を持ち掛けられたネロは、これを承諾する。ハスドルバルが率いるカルタゴ軍から非武装の代表団が、交渉のためにネロ率いるローマ軍を訪れた。講和の詳細が話し合われたが一日では終わらず、交渉は数日間続いた。
そんなある日、ハスドルバルから宗教上の理由で明日は交渉休止との連絡を受けたネロは、この段階でも疑うことをしなかった。翌日、カルタゴ軍の姿はもうなくなっていた。ハスドルバルは講和交渉で時間を稼いでいる間に、少しずつ兵を撤退させていたのだ。つまり、ハスドルバルにはそもそも講和の意思はなかったということだ。戦術眼に優れ、勇猛果敢なネロも、若さゆえに思慮深さまでは持ち合わせていなかったと言える。
この痛恨とも言える失態に、元老院はネロにはヒスパニアを任せられないと即断する。それでは誰が適任か。元老院はヒスパニアに派遣する指揮官の人選に頭を悩ませた。
父と叔父の死に打ちひしがれた青年は、自室に閉じこもることが多くなった。コルネリウス戦死の報告を受けたスキピオ家では、母のポンポニアや兄のルキウス、多くの家人が泣き崩れた。コルネリウスは家族や家人に優しい人であった。
スキピオ家には多くの弔問客が訪れ、お悔やみの言葉を彼の家族にかけた。しかし、プブリウスはその間も自室にこもって余り顔を見せなかった。
プブリウスは父と叔父の死に確かに深く傷ついていたが、彼が自室に引き込んでいたのは気持ちを整理するためと、これからのことを考えていたからに他ならない。プブリウスは自分の進むべき道について考え、そして答えを見つけようとしていた。
悲しみに浸っている場合ではない。死んだ人間はもう帰ってこない。これが戦争なんだ。プブリウスの戦争に対する嫌悪感は膨らみ続けた。
戦争を終わらせるしかない。誰かが戦争を終わらせるしかない。プブリウスは戦争を憎んだ。戦争を始めたカルタゴを恨んだ。そして、自分がハンニバルを打倒するしかないと決意した。では、どうすればハンニバルを倒して戦争を終わらせることができるのか。プブリウスは考えた。今の自分にできることをではない。今の自分にできないことを、できるようにするためにどうするのかを考え続けた。
転機は突然訪れた。ヒスパニアに派遣されたネロが、その任を解かれるという。プブリウスはラエリウスとニーケーを自室に招き入れ、
「ヒスパニアで父上と叔父上の仇を討ちたい。協力してほしい」
と、静かに言った。これまでどこか幼さを残していた顔つきは、精悍で剛毅な壮年の男のそれへと変わっていた。同時に深い決意が感じられ、迷いのない顔だと二人は感じたに違いない。
「もちろんです。私には旦那様に感謝してもしきれないご恩がございます。敵討ちをしたいのは私も同じです。ぜひとも協力させてください」
ラエリウスの言葉は力強い。プブリウスの視線はニーケーに移る。ニーケーは安堵の表情を浮かべていた。父と叔父の死から自室にこもることの多くなったプブリウスを、ずっと心配していたのだろう。すぐに言葉がでてこないようだった。
「心配しました」
と、ニーケーはそれだけなんとか言葉にした。プブリウスは力強く頷き、
「やってもらいたいことがある」
と、彼が考え続けた末に見出したことを、二人に打ち明けた。
包囲したハスドルバル軍から、ヒスパニアからの全面撤退を約束するという講和交渉を持ち掛けられたネロは、これを承諾する。ハスドルバルが率いるカルタゴ軍から非武装の代表団が、交渉のためにネロ率いるローマ軍を訪れた。講和の詳細が話し合われたが一日では終わらず、交渉は数日間続いた。
そんなある日、ハスドルバルから宗教上の理由で明日は交渉休止との連絡を受けたネロは、この段階でも疑うことをしなかった。翌日、カルタゴ軍の姿はもうなくなっていた。ハスドルバルは講和交渉で時間を稼いでいる間に、少しずつ兵を撤退させていたのだ。つまり、ハスドルバルにはそもそも講和の意思はなかったということだ。戦術眼に優れ、勇猛果敢なネロも、若さゆえに思慮深さまでは持ち合わせていなかったと言える。
この痛恨とも言える失態に、元老院はネロにはヒスパニアを任せられないと即断する。それでは誰が適任か。元老院はヒスパニアに派遣する指揮官の人選に頭を悩ませた。
父と叔父の死に打ちひしがれた青年は、自室に閉じこもることが多くなった。コルネリウス戦死の報告を受けたスキピオ家では、母のポンポニアや兄のルキウス、多くの家人が泣き崩れた。コルネリウスは家族や家人に優しい人であった。
スキピオ家には多くの弔問客が訪れ、お悔やみの言葉を彼の家族にかけた。しかし、プブリウスはその間も自室にこもって余り顔を見せなかった。
プブリウスは父と叔父の死に確かに深く傷ついていたが、彼が自室に引き込んでいたのは気持ちを整理するためと、これからのことを考えていたからに他ならない。プブリウスは自分の進むべき道について考え、そして答えを見つけようとしていた。
悲しみに浸っている場合ではない。死んだ人間はもう帰ってこない。これが戦争なんだ。プブリウスの戦争に対する嫌悪感は膨らみ続けた。
戦争を終わらせるしかない。誰かが戦争を終わらせるしかない。プブリウスは戦争を憎んだ。戦争を始めたカルタゴを恨んだ。そして、自分がハンニバルを打倒するしかないと決意した。では、どうすればハンニバルを倒して戦争を終わらせることができるのか。プブリウスは考えた。今の自分にできることをではない。今の自分にできないことを、できるようにするためにどうするのかを考え続けた。
転機は突然訪れた。ヒスパニアに派遣されたネロが、その任を解かれるという。プブリウスはラエリウスとニーケーを自室に招き入れ、
「ヒスパニアで父上と叔父上の仇を討ちたい。協力してほしい」
と、静かに言った。これまでどこか幼さを残していた顔つきは、精悍で剛毅な壮年の男のそれへと変わっていた。同時に深い決意が感じられ、迷いのない顔だと二人は感じたに違いない。
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