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グラディウス・ヒスパニエンシス
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カルタゴ・ノウァを完全に掌握したスキピオは、時間を無駄にしなかった。ローマ兵の標準装備は片刃の長剣だが、ヒスパニアの原住民族は主に両刃の短剣を使っていた。長剣よりも短剣の方が接近戦で扱いやすく、軽量で優位性があると考えたスキピオは、早速それを改良した剣を大量生産させる。この剣はグラディウス・ヒスパニエンシスと呼ばれるようになり、ローマ軍の主力武器となっていく。他にも盾や鎧などの軽量化や強度化を実現し、装備によって兵士一人一人の戦力を向上させた。こうした武具の改良や大量生産が成功した背景には、カルタゴ・ノウァの職人たちが協力を惜しまなかったからに他ならない。ニーケー曰く、
「皆がプブリウス様のために何かをしたいと思っています。命令に嫌々従うのではなく、自らの意志で積極的に役に立とうとしています。技術革新が起こるのは必然というものです」
職人たちがせっせとローマ軍の装備を強化している間、スキピオはヒスパニアの志願兵を加えた新たな軍団を編成し、訓練を開始した。軍事訓練による単純な戦力増強だけでなく、戦いがまだ始まったばかりだと言うことを意識させ、訓練を通して彼らの団結力を高めるのが目的だった。
カルト・ハダシュトの陥落から半年間、ローマ軍はこの地で軍事訓練を続けた。これはスキピオがヒスパニアのカルタゴ軍勢力に新たに戦いを挑まなかったことと、カルタゴ側でも強固な城塞都市であるカルタゴ・ノウァの攻撃に踏み切れなかったことによる。この年のヒスパニアでのローマ軍とカルタゴ軍の戦闘は、早春のカルト・ハダシュトでのみ行われただけだった。
スキピオは秋になり、守備兵を残して職人たちも含めた全軍を率いてタラゴナに移動した。そこで再び冬を越したローマ兵は、翌年もスキピオの元で軍役を続行する。奇跡とも言える勝利に酔いしれるローマ兵は、ローマに帰還するよりも若き指揮官の下で働くことを皆が望んだ。元よりスキピオによって集められた兵士らには、ヒスパニアでカルタゴ軍を一掃するまではローマに戻れないと告げられていた。
紀元前二〇八年、春の訪れとともにスキピオは軍を動かした。ローマでの戦勝報告を終えて戻ってきたラエリウスは再び海軍を率いて、ヒスパニア南西部に位置する海港都市カディスに向かった。その周辺にいるマゴ率いるカルタゴ二軍をけん制するのが目的である。スキピオはタラゴナに守備兵を残し、残りの全軍を率いてカルタゴ・ノウァに向かった。ニーケーはタラゴナで情報取集と補給に従事する。この頃ではニーケーの才覚が兵士らの間にも浸透しており、その美貌も相まって軍の中で人気を博していた。元老院の手前、勝手にニーケーに役職を与えることはできなかったが、ヒスパニアのローマ兵は皆が進んで彼女の仕事を手伝うようになっていた。
スキピオはカルタゴ・ノウァに到着すると、
「今までありがとう。おかげで軍備は整った。給金を受け取った者から帰宅してください。あなたたちが作ってくれた武具を用いて、私たちはすぐにカルタゴ軍をヒスパニアから追い出して見せる」
と、これまで協力してきたカルタゴ・ノウァの職人たちに自由を与えた。タラゴナでの冬を過ごす間も、職人たちはよく働いた。スキピオが予想するよりも早くにローマ軍の装備は刷新された。スキピオは職人たちに感謝の気持ちを込めて約束した以上に給金を出した。
次にスキピオは、船の漕ぎ手として軍に帯同させていたカルタゴ・ノウァの男たちにも同様に帰宅を許可した。彼らはローマ軍がヒスパニアからカルタゴ勢力を一掃するまでは働かなくてはならないと思っていたため、この処置に大いに喜んだ。そして、スキピオは守備兵と協力してカルタゴ・ノウァの守りを固めて欲しいと頼んだ。ローマ派と言うよりもスキピオ派と化したカルタゴ・ノウァには、もはやカルタゴに与する者はいなかった。カルタゴ軍が攻めてくれば、全力で自己防衛に努めるに違いない。
スキピオはここで軍の再編にも着手する。カルタゴ・ノウァの住民でそのまま軍に参加したいと申し入れてきた者も多く、さらにはヒスパニアの地元部族の戦士たちがローマの若き指揮官の声望を耳にして、ローマ軍への協力を申し出てきていたからだ。カルタゴ・ノウァで人質となっていた人々への対応が確実に実りつつあった。もっとも、カルタゴ・ノウァで得た多額の資金のおかげであるのは言うまでもない。ローマからの兵の増員は期待できなかったが、スキピオはヒスパニアでの兵の増員に確かな手ごたえを感じていた。
「皆がプブリウス様のために何かをしたいと思っています。命令に嫌々従うのではなく、自らの意志で積極的に役に立とうとしています。技術革新が起こるのは必然というものです」
職人たちがせっせとローマ軍の装備を強化している間、スキピオはヒスパニアの志願兵を加えた新たな軍団を編成し、訓練を開始した。軍事訓練による単純な戦力増強だけでなく、戦いがまだ始まったばかりだと言うことを意識させ、訓練を通して彼らの団結力を高めるのが目的だった。
カルト・ハダシュトの陥落から半年間、ローマ軍はこの地で軍事訓練を続けた。これはスキピオがヒスパニアのカルタゴ軍勢力に新たに戦いを挑まなかったことと、カルタゴ側でも強固な城塞都市であるカルタゴ・ノウァの攻撃に踏み切れなかったことによる。この年のヒスパニアでのローマ軍とカルタゴ軍の戦闘は、早春のカルト・ハダシュトでのみ行われただけだった。
スキピオは秋になり、守備兵を残して職人たちも含めた全軍を率いてタラゴナに移動した。そこで再び冬を越したローマ兵は、翌年もスキピオの元で軍役を続行する。奇跡とも言える勝利に酔いしれるローマ兵は、ローマに帰還するよりも若き指揮官の下で働くことを皆が望んだ。元よりスキピオによって集められた兵士らには、ヒスパニアでカルタゴ軍を一掃するまではローマに戻れないと告げられていた。
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スキピオはカルタゴ・ノウァに到着すると、
「今までありがとう。おかげで軍備は整った。給金を受け取った者から帰宅してください。あなたたちが作ってくれた武具を用いて、私たちはすぐにカルタゴ軍をヒスパニアから追い出して見せる」
と、これまで協力してきたカルタゴ・ノウァの職人たちに自由を与えた。タラゴナでの冬を過ごす間も、職人たちはよく働いた。スキピオが予想するよりも早くにローマ軍の装備は刷新された。スキピオは職人たちに感謝の気持ちを込めて約束した以上に給金を出した。
次にスキピオは、船の漕ぎ手として軍に帯同させていたカルタゴ・ノウァの男たちにも同様に帰宅を許可した。彼らはローマ軍がヒスパニアからカルタゴ勢力を一掃するまでは働かなくてはならないと思っていたため、この処置に大いに喜んだ。そして、スキピオは守備兵と協力してカルタゴ・ノウァの守りを固めて欲しいと頼んだ。ローマ派と言うよりもスキピオ派と化したカルタゴ・ノウァには、もはやカルタゴに与する者はいなかった。カルタゴ軍が攻めてくれば、全力で自己防衛に努めるに違いない。
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