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ハスドルバル
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三つに分かれていたヒスパニアのカルタゴ軍は、バエクラでの戦いに敗北したことで、一旦合流を果たした。ここでハスドルバルとマゴ、ギスコの三者で話し合いが行われたことは容易に想像できる。勝利を重ねたとは言え、ヒスパニアの兵力はまだローマ軍が劣勢である。スキピオは勝利に浮かれる味方に最大限の警戒を呼び掛け、斥候を各方面に放って敵軍の動向を探らせた。
スキピオの元に届いた第一報は、ハスドルバルが三万の軍勢を率いてマゴとギスコの陣営を後にしたというものだった。その後、マゴとギスコの軍は連携しながら、ゆっくりとローマ軍に向かっていることがわかった。一方のハスドルバルの軍はローマ軍とは大きく距離をとり、内陸部を北に移動していた。スキピオにはハスドルバルの目的地がすぐにわかったが、軍を向けることをしなかった。下手に動けばマゴとギスコの軍に襲い掛かられることが目に見えていたからだ。
ハスドルバルが向かった先にはアルプスがあり、その目的地はローマ領に違いなかった。ハスドルバルはイタリアにいる兄への補給に向かったのだ。スキピオは急使をローマに送り、そのことを元老院に報せた。そして、自身は冬営のために全軍を率いてタラゴナに向かう。
この年、ハンニバルを執拗に追い回し、イタリア半島の南端にまで追いやったマルケルスが戦死する。シュラクサイを取り戻し、ハンニバルに対しても積極的に攻撃を繰り返した「イタリアの剣」は、六十二歳で帰らぬ人となった。ハンニバルの策略によるもので、会戦で敗れたわけではなかっただけに、ローマ人の落胆は大きかった。
ローマから奪い取った主要都市を相次いで失い、カラブリア地方に追いやられたとはいえ、カルタゴの稀代の名将は今年に対峙したローマの執政官を二人とも葬っている。彼がローマにとって危険な男であることは相も変わらなかった。
翌年の紀元前二〇七年は、イタリアに渡ったハスドルバルの軍がハンニバルの軍と合流できるかが最大の焦点となった。コルネリウス兄弟はヒスパニアからのハンニバルへの補給を完全に絶ってきた。ヒスパニアに派遣されたローマ軍の最大の目的がこの補給の阻止にあったのは言うまでもない。後任のスキピオがこの重大任務を果たせず、ハスドルバル軍のアルプス越えを許したことは、元老院で問題にならないはずがなかった。
「我々は大きな間違いを犯したが、それ以上にスキピオに責任があると言わざるを得ない」
ファビウスが元老院でそう言って怒りをぶちまけ、スキピオへの非難合戦が始まったが、全焼するまでは燃え広がらなかった。それはスキピオを支援する議員が少なからなずいたことと、ヒスパニアであげた二つの勝利という実績が忘れられたわけではなかったからだろう。元老院では今更指揮官の交代をするのも弊害が大きいとされ、引き続きスキピオの続投が決定された。
この年、執政官としてハンニバル軍に対峙していたのは、コルネリウス兄弟の後任としてヒスパニアに派遣されたものの、ハスドルバルの策略に屈したネロであった。
ネロはイタリアに侵入したハスドルバルが兄の元に向かわせた急使を捕らえ、敵の動向を掴むことに成功する。ハスドルバルを迎え撃つ味方の軍勢が三万に対し、ガリア兵で補強された敵軍は五万に達していることを知ったネロは、決断を迫られることになる。自身の軍勢はハンニバル軍に対応しなければならなかったが、このままでは味方の大敗は必至である。もっとも、ネロには違う思惑があったのかもしれない。彼は因縁の相手であるハスドルバルを討つ機会を逃したくないと考えたのかもしれない。執政官は元老院で決められた任地を勝手に離れることは許されていないが、彼はその決まりをあっさりと破った。
ネロは部下にハンニバル軍に対して積極的に攻撃を加えることを指示するが、小競り合いに終始するよう付け加えた。そうしてハンニバルの気を引くことで自分の不在を知られないようにした。そうしておいて自身は七千の精鋭を率いて、急行軍で味方の救援に向かった。
ローマ軍とハスドルバル率いるカルタゴ軍の戦いは、ネロの活躍によってローマ軍の勝利に終わった。ハスドルバルはこの戦いで戦死している。ネロは雪辱を見事に果たした。
こうしてこの年はイタリアで大きな動きがあったものの、ヒスパニアでは両軍が衝突することはなく、お互いが様子見に終始した。このハスドルバルの戦死を知ったヒスパニアのマゴとギスコは、戦況を打開するためにスキピオが率いるローマ軍との決戦の準備に入る。短期決着を目指しているスキピオにしても決戦は望むところだった。
スキピオの元に届いた第一報は、ハスドルバルが三万の軍勢を率いてマゴとギスコの陣営を後にしたというものだった。その後、マゴとギスコの軍は連携しながら、ゆっくりとローマ軍に向かっていることがわかった。一方のハスドルバルの軍はローマ軍とは大きく距離をとり、内陸部を北に移動していた。スキピオにはハスドルバルの目的地がすぐにわかったが、軍を向けることをしなかった。下手に動けばマゴとギスコの軍に襲い掛かられることが目に見えていたからだ。
ハスドルバルが向かった先にはアルプスがあり、その目的地はローマ領に違いなかった。ハスドルバルはイタリアにいる兄への補給に向かったのだ。スキピオは急使をローマに送り、そのことを元老院に報せた。そして、自身は冬営のために全軍を率いてタラゴナに向かう。
この年、ハンニバルを執拗に追い回し、イタリア半島の南端にまで追いやったマルケルスが戦死する。シュラクサイを取り戻し、ハンニバルに対しても積極的に攻撃を繰り返した「イタリアの剣」は、六十二歳で帰らぬ人となった。ハンニバルの策略によるもので、会戦で敗れたわけではなかっただけに、ローマ人の落胆は大きかった。
ローマから奪い取った主要都市を相次いで失い、カラブリア地方に追いやられたとはいえ、カルタゴの稀代の名将は今年に対峙したローマの執政官を二人とも葬っている。彼がローマにとって危険な男であることは相も変わらなかった。
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ネロはイタリアに侵入したハスドルバルが兄の元に向かわせた急使を捕らえ、敵の動向を掴むことに成功する。ハスドルバルを迎え撃つ味方の軍勢が三万に対し、ガリア兵で補強された敵軍は五万に達していることを知ったネロは、決断を迫られることになる。自身の軍勢はハンニバル軍に対応しなければならなかったが、このままでは味方の大敗は必至である。もっとも、ネロには違う思惑があったのかもしれない。彼は因縁の相手であるハスドルバルを討つ機会を逃したくないと考えたのかもしれない。執政官は元老院で決められた任地を勝手に離れることは許されていないが、彼はその決まりをあっさりと破った。
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