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本編前のエピソード
雲の行き先 67 求められるもの
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「もちろん気が付いていただろ? さすった時には反対意見を出させて、叩いた時には賛成させることを。それにより、貴族の心を操作していたこともな」
どいうことだ?
「あそこにいた貴族は、帝国と仲が良い部類のやつらだ。それなのにある日突然、エルメウス家と仲良くしろと言っても、言うことを聞かないやつも出てくる。それを納得させるのが領主の仕事だ。ヘヒュニの場合は説得というより誘導だな。後ろの二人を使って話に流れを作るのが巧い。導かれた考えだというのに、貴族たちは自分の意思でそうしていると思っているだろうな。完璧な、『狸親父』だ」
何だそれは?リュゼーの眉間に皺が寄る。
ドロフは間を空けるように水を飲む。リュゼーから何もないようなので、ドロフは再び話し始める。
「横の二人は頭もキレて演技も上手い。あの二人ならぜひ家に欲しい。もっともなことを言うから、貴族も自分の意見をそれにのせやすい。それぞれに特徴があるから、民の心を代弁する幅も増える。色々な意見が飛び交う中、ヘヒュニが進む先を決める。指導者として完璧だろ?」
「それはつまり、ヘヒュニの思い描く通りに会は進められていたということなのですか?」
「どんな話し合いの場でも、あの二人がいたらヘヒュニの思いのままにできるだろうな」
「思いのまま、ですか?」
「一語一句まで、思い通りにではないだろ。そういうことじゃない。こう言われたから仕方なく従っていると、他人に弁解できる程度の理由を与えてやればよい。他の貴族も納得しているようだしここは話を合わせるか、などと考えるやつもいるかもな」
「貴族の考えは、その程度のものなのですか?」
「その程度で済むなら、そうだろうな。品の取引だけの薄い付き合いなら、すぐに変えるだろ。代えが効かなくなる前に、手を打っているだけだ。それでも納得できない者には、別の何かを与えればいい。ヘヒュニはその辺も上手い」
水面下でそんなことが行われているということは、帝国も動いていることになる。
ある日突然、剣を抜いて開戦となるわけがない。戦争は始まっている。
「さすったり叩いたりと、そんな単純なことなら気が付く者もいるのではないですか?」
「それに気が付いたとして、何の問題がある。深く探れば他にもあるだろうが、これぐらいが分かれば相手の出方が分かる。ヘヒュニの意向にいち早く対処できるようになって、有利になるだけだろ」
何も言い返せない。
「それに気付いていないなら、お前はたまたまその流れに乗れただけだ」
「余計なことを考えなかった結果がたまたま上手くいった、と考えます」
「余計なことを考えなかっただと? どうしても茶の話がしたかったみたいだけど、気のせいか。結果としては良かったが、捨てても良かった話だったがな」
「なぜそれを?」
「見てれば分かる」
「表情を読み取られていたのですか?」
「それ以外にもある。だが習い始めだとしたら、そこまで悪くない。遠くからでは気付かれないだろう」
「他の者には気付かれないように直します」
「ウィーリーは明らかに気が付いていたぞ」
「その通りです」
「もしかしてだが、ウィーリーに見抜かれたのに、ヘヒュニには見抜かれていないと思っていないよな?」
ここまで言われると、次の言葉が出てこない。
「あのようなやり方は、リチレーヌらしいといえばらしいがな。自分の意見を通すには、相手を説き伏せなければならない。それだからこそ、ヘヒュニのやり方が合っているのかもしれないな」
「いつからですか?」
やっとの思いで絞り出す。
「何について聞いている?」
「そのようなことをです」
「どれを聞いているか分からないが、それに近いことならボウエーンから始まっているに決まっているだろ」
これを言われても驚かないが、色々なことが浮かんできて言葉にまで頭が回らない。
「初めが悪い印象だと、人はそいつを好きになりやすい。間違った認識だったと感じた時に、懺悔の念が沸くからかもしれないな。お前が感じた感情はそれだ。ただしこれを言われても、心の変化はあまりないだろ? ヘヒュニが良い領主だといわれる所以だ」
「いいように使われたということですか?」
「使いやすいやつがそこにいたら、絶対に使うだろ。使えなかったお前が悪い」
リュゼーは息を吸い込むが、悔しそうに口を閉じる。
使う使われるは、利用するかしないかだ。使われながら、自分の目的を果たせばよい。全てに勝つ必要なんてない。目当てのものを手に入れさえすればいいのだから。
「それにしても、晩餐会では助けられたな」
今度は何についてだ?
色々と言われて、頭が追いつかなくなってきている。何も思い付かない。
「何のことですか?」
「あの場に居た、ヘヒュニの使用人のことだ。色々と助けられただろ」
「何を言っているのです?」
本当に何を言っているのだ?
「スープを持ってきた使用人がいただろ、あいつのことだ。お前は使わなかったみたいだがな」
「使う、のですか。もらう、ではなく」
「何のことを聞いているんだ? こうなる自信があったから、そいつから何も聞かなかったんだろ?」
思い出してみるが、言われてみると思い当たる節が無いわけではない。給仕にしては身なりが良すぎる人がいた。色々な人が、スープの種類について話し掛けていた。スープが食べたいわけではなくて、伝えてほしいことをお願いしていたのだ。
中にはそういう人もいると聞いていたが、あそこまであからさまにいるとは考えもしなかった。
「晩餐会にいるような使用人ですよ。そんなことができるのですか?」
「何の問題がある。食事だろうが会話だろうが、希望の品を届けるのがあの人の仕事だろ。お願いされたことをしただけだ、そこに深い意味はない」
「優秀な方たちですよね?」
「だからこそこちらの願いが叶えられる。不慣れな者だと、簡単に見破られてしまう。あの場では、誰にでも分かるようにしていたがな」
「どうやって知ったのですか?」
「見れば分かるだろ。教えてやろうかと思ったが、聞かれなかったからな。そのままにした」
「情報収集を怠った結果ですね」
車輪が小石に乗り上げる。ガタンと馬車が揺れると、痛そうにドロフは頭を手で押さえる。ため息を吐いて手を離し、顔を顰めたままでリュゼーに話し掛ける。
どいうことだ?
「あそこにいた貴族は、帝国と仲が良い部類のやつらだ。それなのにある日突然、エルメウス家と仲良くしろと言っても、言うことを聞かないやつも出てくる。それを納得させるのが領主の仕事だ。ヘヒュニの場合は説得というより誘導だな。後ろの二人を使って話に流れを作るのが巧い。導かれた考えだというのに、貴族たちは自分の意思でそうしていると思っているだろうな。完璧な、『狸親父』だ」
何だそれは?リュゼーの眉間に皺が寄る。
ドロフは間を空けるように水を飲む。リュゼーから何もないようなので、ドロフは再び話し始める。
「横の二人は頭もキレて演技も上手い。あの二人ならぜひ家に欲しい。もっともなことを言うから、貴族も自分の意見をそれにのせやすい。それぞれに特徴があるから、民の心を代弁する幅も増える。色々な意見が飛び交う中、ヘヒュニが進む先を決める。指導者として完璧だろ?」
「それはつまり、ヘヒュニの思い描く通りに会は進められていたということなのですか?」
「どんな話し合いの場でも、あの二人がいたらヘヒュニの思いのままにできるだろうな」
「思いのまま、ですか?」
「一語一句まで、思い通りにではないだろ。そういうことじゃない。こう言われたから仕方なく従っていると、他人に弁解できる程度の理由を与えてやればよい。他の貴族も納得しているようだしここは話を合わせるか、などと考えるやつもいるかもな」
「貴族の考えは、その程度のものなのですか?」
「その程度で済むなら、そうだろうな。品の取引だけの薄い付き合いなら、すぐに変えるだろ。代えが効かなくなる前に、手を打っているだけだ。それでも納得できない者には、別の何かを与えればいい。ヘヒュニはその辺も上手い」
水面下でそんなことが行われているということは、帝国も動いていることになる。
ある日突然、剣を抜いて開戦となるわけがない。戦争は始まっている。
「さすったり叩いたりと、そんな単純なことなら気が付く者もいるのではないですか?」
「それに気が付いたとして、何の問題がある。深く探れば他にもあるだろうが、これぐらいが分かれば相手の出方が分かる。ヘヒュニの意向にいち早く対処できるようになって、有利になるだけだろ」
何も言い返せない。
「それに気付いていないなら、お前はたまたまその流れに乗れただけだ」
「余計なことを考えなかった結果がたまたま上手くいった、と考えます」
「余計なことを考えなかっただと? どうしても茶の話がしたかったみたいだけど、気のせいか。結果としては良かったが、捨てても良かった話だったがな」
「なぜそれを?」
「見てれば分かる」
「表情を読み取られていたのですか?」
「それ以外にもある。だが習い始めだとしたら、そこまで悪くない。遠くからでは気付かれないだろう」
「他の者には気付かれないように直します」
「ウィーリーは明らかに気が付いていたぞ」
「その通りです」
「もしかしてだが、ウィーリーに見抜かれたのに、ヘヒュニには見抜かれていないと思っていないよな?」
ここまで言われると、次の言葉が出てこない。
「あのようなやり方は、リチレーヌらしいといえばらしいがな。自分の意見を通すには、相手を説き伏せなければならない。それだからこそ、ヘヒュニのやり方が合っているのかもしれないな」
「いつからですか?」
やっとの思いで絞り出す。
「何について聞いている?」
「そのようなことをです」
「どれを聞いているか分からないが、それに近いことならボウエーンから始まっているに決まっているだろ」
これを言われても驚かないが、色々なことが浮かんできて言葉にまで頭が回らない。
「初めが悪い印象だと、人はそいつを好きになりやすい。間違った認識だったと感じた時に、懺悔の念が沸くからかもしれないな。お前が感じた感情はそれだ。ただしこれを言われても、心の変化はあまりないだろ? ヘヒュニが良い領主だといわれる所以だ」
「いいように使われたということですか?」
「使いやすいやつがそこにいたら、絶対に使うだろ。使えなかったお前が悪い」
リュゼーは息を吸い込むが、悔しそうに口を閉じる。
使う使われるは、利用するかしないかだ。使われながら、自分の目的を果たせばよい。全てに勝つ必要なんてない。目当てのものを手に入れさえすればいいのだから。
「それにしても、晩餐会では助けられたな」
今度は何についてだ?
色々と言われて、頭が追いつかなくなってきている。何も思い付かない。
「何のことですか?」
「あの場に居た、ヘヒュニの使用人のことだ。色々と助けられただろ」
「何を言っているのです?」
本当に何を言っているのだ?
「スープを持ってきた使用人がいただろ、あいつのことだ。お前は使わなかったみたいだがな」
「使う、のですか。もらう、ではなく」
「何のことを聞いているんだ? こうなる自信があったから、そいつから何も聞かなかったんだろ?」
思い出してみるが、言われてみると思い当たる節が無いわけではない。給仕にしては身なりが良すぎる人がいた。色々な人が、スープの種類について話し掛けていた。スープが食べたいわけではなくて、伝えてほしいことをお願いしていたのだ。
中にはそういう人もいると聞いていたが、あそこまであからさまにいるとは考えもしなかった。
「晩餐会にいるような使用人ですよ。そんなことができるのですか?」
「何の問題がある。食事だろうが会話だろうが、希望の品を届けるのがあの人の仕事だろ。お願いされたことをしただけだ、そこに深い意味はない」
「優秀な方たちですよね?」
「だからこそこちらの願いが叶えられる。不慣れな者だと、簡単に見破られてしまう。あの場では、誰にでも分かるようにしていたがな」
「どうやって知ったのですか?」
「見れば分かるだろ。教えてやろうかと思ったが、聞かれなかったからな。そのままにした」
「情報収集を怠った結果ですね」
車輪が小石に乗り上げる。ガタンと馬車が揺れると、痛そうにドロフは頭を手で押さえる。ため息を吐いて手を離し、顔を顰めたままでリュゼーに話し掛ける。
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