王国戦国物語

遠野 時松

文字の大きさ
135 / 148
本編前のエピソード

世の流れ 4 面倒事

しおりを挟む
 それは、麓の街に着く前に起きた。
 民家が出てきたので、大きな括りとしての街には入ったのだろう。山の裾野を下りた所にある穀物の倉庫を過ぎたところで、遠くから賊の声が聞こえてくた。
 追いかける人の声も聞こえたので、すでに対応済みなのは分かったが数が多い方が有利だ。鎧は無いが剣は所持しているため、ルシータをキタシフの護衛につけて先に下らせ、ルコロフとファトストはフォレスター家と共に倉庫に向かって道を登る。
 助太刀の姿を確認すると、賊は食べ物を抱えて逃げていった。



「ありがとうございます」
 フォレスター家のフォニフが胸に拳を当てて、挨拶をする。
 聞けば、この辺りの倉庫はフォレスター家のものが多いらしい。最近増え始めた賊に対応する為、フォレスター家が代表してこの辺を守っているとのことだ。
 街は専属の自衛兵を雇っていて、それに合わせてフォレスター家は、独自に警護を行っているみたいだ。
「途中から新たな賊が現れました。初めから倉庫の食料が狙いだったのでしょう」
 フォニフは額の汗を拭う。「こちらには目もくれず、散らばって倉庫だけを狙われてしまっては、どうすることもできませんでした」
「何よりご無事で良かった」
 馬車を安全な所に置いてから戻って来たキタシフが、馬から降りて応える。
「この後に危険が及んでいたかもしません。重ねて感謝します」
「お気になさらずに」
 二人が握手を交わすと同時に、遠くから馬が走る音が聞こえてくる。皆が身構える前に「ホロイ家です!」との声が聞こえる。
「この辺でホロイ家の名を告げてもあまり意味がない。途中で伝達人とすれ違ったのかもしれませんね」
 キタシフの言葉に皆は一旦、警戒を緩める。
「賊が現れたと聞きました」
 掛け声とともに軽い鎧に身を包んだ男を先頭にして、十人前後が馬に乗って現れる。



「行くなら騎馬と一緒にした方がいいですよ」
 ファトストは同じことを口にする。一人の男がファトストに目を向ける。
「いつもあっちに逃げていくんですよね?」
 ファトストが指差す方を見ながら、フォニフは「そうだ」と頷く。
「荷を奪った賊はそっちに逃げて、別の賊は反対に逃げて行った。その先は賊出没注意となっていたはずでした、違いますか?」
 ホロイ家がこれから通る道には印だけでなく、盗賊についての但し書きが、どの地図にも書かれている。
「日に日に、街を襲われる頻度が酷くなっているというに、今回は食料が目当て。賊が増えたというよりは、どこかに籠るために必要だったのではないでしょうか。人や家を襲い慣れたさっきの賊たちが、次の行動に移していてもおかしくないと思いませんか?」
 倉庫の襲い方で手際の良さが分かる。
「騎馬がいたら諦めるかもしれないですが、いなかったら狙ってきそうですけどね」
 街に運び込まれた荷は、塩の高級品らしい。その為、騎馬の護衛まで付いている。品は幌で覆っているために外からは見えないが、馬車の飾りは豪華に違いない。
 エルドレに住んでいれば、中の品が何なのか見なくても分かる。高いやつだ。賊としたら、奪ってから売り捌けばしばらくは楽ができる。
「一つでも奪えばいいんです。うまくいかなくて当たり前という気持ちで仕掛けられてくる、相手の賭けにわざわざ付き合う必要はないと思います」
 誰も意見を言わない。
「慌てていて逃げ道を間違えたとしたら、戻ってきた賊と出会わない保証はありません。馬に乗っていたのでわざわざ山は越えないでしょう。確実にこの先には賊がいるんです。騎馬と共に進みましょう」
 相手は怪我の一つを負ったとしても、塩を手に入れれば勝ちだ。こちらは何ひとつ負けられない。そんなのは勝負じゃない。
「それは分かった」
 ファトストに目を向けていた男が口を開く。「それではこう尋ねたらどう答える? この先は街と街が離れている、道も悪いから盗賊も出やすい。それが分かっているから賊を始末したい。守るのは荷じゃない、人だ。できるか?」
「こちらの動きは、賊に筒抜けでしょう。どこかで必ず見ています」
 ファトストは直ぐに答える。「話によれば、賊の拠点はだいたい絞れているとのこと。少しだけ騎馬を残してこの街を守らせ、残りはエジート様自ら率いて賊を討ちに出て欲しいですね。荷は先を急ぐように、道を進ませます」
「多少の違いはあるが、予定通りに進めろというのだな」
 エジートはファトストと目を合わせる。
「はい。賊の頭は、外に出るのを好むようです。賊もその先に逃げたし、拠点にはまずいないでしょう。頭はこの先にいます」
「だろうな」
「賊としても拠点を壊されても問題ありません、次に移せばいいんですから。今頃、新しいところを探しているかもしれません」
「それで?」
 エジートは首を振って次を促す。
「策は単純です。荷馬車の中に人を潜めて道を進ませます。あとは賊が出てきたら迎え撃つだけです」
「騎馬がいるいないで、襲う襲わないを決める奴らなんだろ? ああ。それについてはまだいいか、次を聞こう」
 気にするなと、エジートは手を振る。
「騎馬は荷から離れ、力のありそうな者は倉庫の修理を手伝うために残る。賊はその姿を見たらどうでしょうか。それに、体の大きさなどいくらでも隠せます」
 エジートはまだ、首を縦に振らない。
「その荷を率いるのが、弱そうな男だったとしたらどうでしょう。考えを出した責任として、喜んで囮役を務めます」
「そこまではしなくて良い」
 エジートは首を横に振る。
「賊が襲ってきたら、ただ防げば良いだけです。危険ではありません。そうやって防いでいる間に、フォニフ様が賊の頭を捕らえれば良いのです。狙いは塩です。風から奪ったとなれば名が上がります。賊の頭は必ずどこかにいます。諦めて引くにせよ、動きがあれば頭の後は追えます」
 エジートは何も応えようとしない。
「風と賊の仲が悪いことは知っています。奴らは常に、一泡吹かせてやろうと考えているのですよね?」
 エジートは、ぴくりと眉毛を動かす。
「寡兵で敵を撃退するのがお好きだとか」
 エジートは少しだけ体を起こして腕を組む。
「幌の中に人を隠せますし、いきなり騎馬が現れたらどう思うでしょうかね?」
 エジートは問うような目で、フォニフに視線を移す。
「これだけやって捕まらない奴等です。普通のことをしても捕まえられません。長が私ほど若ければ、代理なのは見え見えです。どうでしょう。楽しくはないですか?」
「そこに頭がいたら私が、賊の拠点にいた時はエジート殿が。お願いします」
 フォニフはエジートに告げる。
「さて、いきましょう」
 ファトストは支度を始める。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

処理中です...